種雄牛処分へ “本丸”崩れ生みの親沈痛 

(2010年5月17日付)

 県家畜改良事業団(高鍋町)の種雄牛49頭が殺処分になることが16日明らかになり、県内畜産関係者に大きな衝撃が走った。本県の和牛生産の“本丸”が受けた打撃は計り知れず、失望や不安が暗雲のように広がっている。

 JA宮崎中央会の羽田正治会長は「宮崎畜産の中枢部分を埋却しなければならないのは非常に心外。行政の対応がまずかった」と厳しい表情をみせた。

 県産和牛が肉牛、種牛2部門を制した全国和牛能力共進会(2007年、鳥取県)に雌1頭を出品し、栄光の立役者の一人となった林秋廣さん(57)=高千穂町河内=は、事実を知り血の気が引いたという。「かなりの時間と手間、分析を重ね、幸運も手伝ってできた種雄牛たち。自分の家の牛が感染した方がまし。夢であってほしい」とあきらめきれない。

 人工授精師でつくる宮崎市家畜改良協会の川越良文会長(63)=同市田野町=は「競りを再開してもしばらくは値が下がることが予想される。実績を持つ種雄牛が残っていれば農家も『いつかは値が戻る』と期待を持てる」と、西都市に避難し紙一重で殺処分を逃れた種雄牛6頭に望みを託す。

 宮崎牛ブランドの確立に大きな役割を果たし、同事業団で余生を送る種雄牛「安平」も殺処分の憂き目に遭う。生みの親・永野正純さん(61)=宮崎市佐土原町=は「雌牛は10年間で10頭しか産めないが、種雄牛は10年間で40万頭の子供がつくれる」と、種雄牛が市場や地域経済に及ぼす影響の大きさを強調。「最後に会ったのは昨年秋。今からでは会いにも行けない」と声が沈む。

 同事業団の地元・高鍋町にも動揺が広がった。小澤浩一町長は「あれだけ防衛策を講じたのに。農家、一般の町民にも協力をお願いするしかない」と険しい表情。事業団から400メートル離れた場所で40頭を飼育する繁殖牛農家岡部一男さん(69)は「いよいよ来たかという感じ。職員の防疫対策は万全だったのだろうか。毎日が針のむしろ」と不安を募らせていた。