不倫 ～彼を想う日々～

　
あたしは 自分が出した条件を
忘れるはずがなかった。


男の子って聞いてただけで
あえて、名前は聞かなかった。

子供が産まれる数ヶ月前のある日
いつものように
車の中で話しをしていた。


さりげなぁく あたしは

『どんな名前にしたいの？』

って聞いてみた。


『S太朗さん(仮名)には
　お世話になっているから
　S太朗さんから
　一文字もらいたいんだよなぁ』


"コイツ、馬鹿だ‥(笑"

まんまと 罠にひっかかりました


『あたしの条件、覚えてるよね』

さらっと言ってみました。


『覚えてるよ‥』

‥なら、いっか‥



彼の子供が産まれて
２ヶ月が過ぎたある日、

あたしは仲のいい友達と
昼間からお茶をしていて
彼の事なども話していた。


この日、彼は休みの日


友達とお茶をしながらも
いつものように
彼ともメールをしていた。


話しの流れで

私【今、何してんの？】

何気なく聞いた事だった。


ｶﾚ【R(子供の名前)が
　風邪ひいたみたいで
　今病院に付き合ってるよ】
　
　
……………………………………



あえて名前を聞かなかったのに‥
聞きたくなんかなかったのに‥


気の効かない彼は
普通に‥　悪びれる事もなく
その子の名前を文字にして
あたしに初めて教えた。



《R》 ……………



調度、友達との会話も
その話題だった事もあって
友達と顔を見合わせる‥


私『絶対このあとR太朗って
　付くよね‥？』

友『そんな事ないんぢゃない？
　Rだけかもよ‥？』

私『ブラジル人の奥さんが
　こんな難しい漢字を
　選ぶと思う？』

友『‥選ばないかと‥怪しいね』


こんな会話が続きました。


友『気になるなら聞いちゃえば？
　聞いても聞かなくても
　また落ち込むだけなんだから』

私『‥だよね‥』



彼にメールした。

私【初めて名前言ったね‥
　聞かないようにしてたのに‥
　もしかしたらR太朗？】

ｶﾚ【うん。。ごめんね。。】



―――やっぱり―――



私【あたしとの約束‥
　守ってくれなかったんだね】

ｶﾚ【俺、名前に関わってないよ】


嘘だ‥　絶対嘘だ‥


彼は

【親が考えた】
【俺は名前に関わってないよ】

って言ってたけど‥
そんな事、有り得ない‥



《R》

だけなら 信じられたかも
知れない。


《R太朗》

普通に考えれば こんな名前
偶然になるはずもない‥



"結局、あたしの事なんか何も
気にかけてくれなかったんだ‥
その場限りの約束だったんだ‥"


あたしなんか
そんなもんだよね‥



奥さんの妊娠から
あたしは『別れよう』が、
口癖になっていた。


もちろん、この時も
あたしは彼に《別れ》を
告げていた。


あたしが 彼に《別れ》を
告げても 彼は

【別れたくないよ別れないよ
　離れないで】

と、言ってくれる。


"彼はあたしから離れて行かない"

って事がわかってるからこそ
いつも強気で その言葉を
放っていた。


この名前騒動の時も
そうだった。


別れ話しが出る度に
あたしは 捻くれて 突っぱねて
彼と２～３週間は会わない。


戒めのつもりだ‥


それでも馬鹿なあたしは
何回、裏切られても
結局、許してしまう‥


この時は３週間以上意地を張って
会いたいのを堪えていた。


自分でも 本当に呆れ果てます。

　
２月は 彼の誕生日もある。


奥さんのチェックも監視も
厳しい彼に何をプレゼントするか
結構悩んだ。


彼からペアリングを
もらった事で

あたしからはペアのネックレスを
プレゼントする事にした。


選ぶだけでも 思わず顔が
にやけてしまう。


何個かいいのを見つけたが
一番最初に "いいな" と
思ったのに決めた。


普段 アクセサリーなんか
ほとんど身につけない彼‥


"気に入ってくれるかな‥"

"つけてくれるかな‥"

不安だった。


彼の誕生日当日


彼の仕事が終わってから
いつもの場所で待ち合わせ


あたしは自分の分のネックレスも
包みを開けずに
一緒に持って行った。


彼が来て いつものように
あたしの車に乗ってきた。


『お誕生日おめでとう!!!』


プレゼントを渡すと

『開けていい？』

嬉しそうな顔の彼‥


『わーありがとう!!大切にする』


その場でつけてくれました。


ついでに あたしにもつけてくれました。


幸せだった。



付き合い始めて２年目は
お互いに(あたしだけか？)
ツライ事がいろいろありすぎた。


それでも あたしは彼から
離れられなかった。


そして あたしの化けの皮が
剥がれて わがままばっかり
言うようになっても

彼は怒りもせず
あたしから離れないで
いてくれた。



これから 今まで以上に
あたしが酷くなっていく事も‥

この時はまだ お互いに
想像もできなかったよね‥



あたしは 彼の家族が増えた事で
嫌な妄想がより一層増えてきた。


あたしの事を『愛してる』と
言いながらも、家に帰れば
『〇ちゃーん』
と言い あたしを苦しめた子を
可愛がっているんだろうな‥


あたしの事を 抱きしめた腕で
その子を抱っこして
あやしているんだろうな‥


お風呂にも入れてあげてるのかな‥

オムツを替えたりもしてるのかな‥

奥さんが母乳あげてるのを見て
微笑んでたりするのかな‥



家庭内での 彼を勝手に想像して
落ち込む事が多くなった。

　
あたしの誕生日当日。

彼は仕事が休み。


朝 おはようメールが届いてから
なんの音沙汰もなし‥


ま、昨日から 新しい家族との
生活が始まったばっかりだし
赤ちゃんだって可愛くて
仕方がないんだろう‥


あたしは 彼の事を考えるのも
来るかわからない連絡を
待っているのも馬鹿らしくなり

めずらしく
旦那が行ってたパチンコ屋へ
昼過ぎから行く事にした。


気分は最悪なまま
スロットを打ってると
何故かすごい連チャン‥


あっと言う間に
二箱いっぱいになった。


夜、９時半頃 旦那は
『飲みに行ってくるわー』
と、先にパチンコ屋を出た。


それと同時くらいに
彼からメールがきた。

【今から逢いに行く】


"は？こんな時間から何？"


嬉しいくせに 素直になれない。


少ししてから

【今、出先だから無理‥】

と返事した。


【どこにいるの？】
【誰といるの？】
【何時に帰ってくる？】
【今日も逢えないの？】


立て続けに彼からのメール‥


"人の気も知らないで
自分は家族と幸せな時間を
のんびり過ごしてたくせに‥"

"可愛い赤ちゃん、目の前に
デレデレしてたくせに‥"


スロットを打ちながらも
また 嫌な妄想が始まった。


私【一人でスロット打ちに来てる
　連チャンしてるし
　まだ帰りたくないから
　閉店時間までいると思う】
　
"諦めて。会いたくないの!!"
と 言わんばかりの返事を返す。


ｶﾚ【何時に終わるの？
　待ってるよ。。
　どこにいればいい？】

"しつこい‥ 駄目だ こりゃ‥"


私【11時閉店だよ。
　まだ１時間以上あるから
　今日は帰りなよ‥】
　
ｶﾚ【待ってるよ
　どこにいればいい？】
　
"………………………………"


私【ぢゃいつもの場所で‥】
　
ｶﾚ【わかった待ってるね
　早く来てね】


馬鹿にされてるのか
本当に鈍感なのか‥


あたしは早く切り上げるでもなく
閉店までスロットを打った。


換金してから
待ち合わせの場所まで向かう。

時刻は既に 11時半過ぎ‥


あたしが着くや否や
彼があたしの車に乗り込んできた


拒否する間もなく
強く抱きしめられ　耳元で


『辛い想いをさせてごめんね‥
　
　　　お誕生日おめでとう』


と言って 彼は小さな箱を
あたしに渡した。


プレゼントなんかもらえるとは
思ってなかったから
ビックリしてると

『開けてみて』

と 嬉しそうに彼が言った。


黙って頷き リボンを解き
丁寧に包装を剥がして行く‥


あたしが好きなピンクの
小さな可愛い箱が現れた。


その箱を開けてみると
中には指輪が‥


その指輪を彼が箱から取り出し
あたしの右手の薬指に
はめてくれた。


が‥!!!


サイズが少し小さく
第二関節のところでどうしても
止まってしまう‥


それでも
必死に指輪を入れようとしてる
彼を見て笑ってしまった。


久しぶりに彼の前で
笑えたような気がした。


悪戦苦闘して
指輪もどうにか 入り
指輪を見つめてニヤニヤしてると


『どうしても今日中に
　渡したかった‥
　逢ってくれてありがとう。
　
　子供、産まれたけど
　俺の気持ちは変わらないから‥
　今まで通り〇〇に逢いにくるし
愛してるのも〇〇だけだから‥』

と 言ってくれた。


疑いながらも
嫌味を言いながらも
突っぱねていながらも

あたしだって
彼から離れられないのも
事実だ。


素直に頷き

『ありがとう‥』

と 言葉と共に 彼にキスをした。


あたしの機嫌も直り
いつものように愛し合って
夜中の２時すぎ 笑顔で
バイバイした。


あたしにプレゼントしてくれた
指輪は彼とのペアリングだった。


"あたしとバイバイしたら
すぐに外されて どこかに
しまわれちゃうんだろうな‥"


彼と付き合い始めてから
２回目のあたしの誕生日が終わった。