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[17023] マブラヴ~青空を愛した男~(TE・現実転生)
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/06/16 00:15
諸注意
転生者はマブラヴをオルタネイティブ・アンリミテッド・エクストラのみでしか知りません。
TEなんか欠片も分らない男です。
そんな彼がTEに関わって(?)生きていくお話しです。


追記~4/30~
5月5日の岩国航空祭にアメちゃんのF-18を見に行くのと私的な用件の関係でしばらく更新出来なさそうです。
申し訳ないです。

追記その2~5/18~
リ、リアル(現実)が忙しくて俺の寿命がストレスでマッハになるぅ……エタる気は無いですが少し時間を戴ければ幸いかと思います。

追記その3~6/16~
なんか、3週間の予定だった出張が仕事がアッサリと終わったので帰国しました。(アッサリと仕事が終わりすぎだろJK…
更新を後日より再開いたします!



[17023] 【第一話】スタートライン
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/03/05 18:49
【アラスカ国連軍~ユーコン基地~】





青い空………BETAという異種起源生命体が闊歩するこの地球において人類が奪われた二つ目の領土。
レーザー
光線級なんて特級にふざけた代物が現れてあっさりと奪い去った空間だ。






[また……あの青く、全てを吸い込みそうな青空へと戻りたかった…]






元戦闘機パイロットであった父が死ぬ間際、そう言っていたのを今も覚えている。
皮肉な事に、今現在をおいてその“空”へと居る俺は父の無念を晴らす為に存在してるんでは?とでも考えてしまうのも無理は無いだろう。
とまあそんな事を考えていたら通信が入る、自分の担当オペレーターである白人女性だ。



『ホルス1、予定通りのコースを消費、これよりC-130による撮影会だ』

『アルゴス・イーダル小隊両機のチェイサー離脱を確認』

「ホルス1了解、イーダル1とアルゴス3へは?」

『担当CP士官が今伝えた、少し……なっ!?』



CPからのどよめきが聞こえる。原因は分かる、てか俺もさっきから見てる。
先程までは仲良く(?)エレメントを組んで飛んでいたのに今はガチンコのドックファイトだ。……どうしてこうなった?



「……撮影は?」

『出来るか馬鹿者!イーダル1はFCSを実戦モードにし、アルゴス3をロックしている!!』

「…………え゛!?」

『良いから止めろ!怪我をさせたら貴様のクビが飛ぶと思え!』

「いやいやいや!俺、撮影係ですからね!?」

『今現在空域に居るのはお前と遥か上空の撮影用C-130だけだ!危険すぎて他は侵入出来ん!』

「んな無茶な!」

『無茶は承知だ!お前の仕事はその猛牛二頭を大人しくさせる闘牛士だ……その、何だ、カ…カッコいいぞ?』

「ふざけんなー!!」



そんな無茶を言うオペレーターに思わずツッコミを入れる俺。
俺が此処に居るのは換装されたジェネレーターの試験運転兼頼まれた至近距離でのローアングル撮影だ。


―――――断じて、戦いの為では無い。(チェックの為に積載量最大にまで弾薬を積んではいるが)



「あの空戦に割り込む気はしねーぞ…」



無茶を言う……向うは準第三世代機、F-15・ACTVとSu-37UBだ。しかも三次元での高機動が目的とされてるような機体にそれを熟知した衛士が乗っている。
跳躍ユニットが換装されている以外は“ノーマル”のF-18Eでは若干だが辛いモノがあるだろう……いや、良い機体なんだけどね?



「あ~…もう、嫌……―――アルゴス3、イーダル1両機へ告ぐ。此方はホルス1、直ちに格闘戦機動を止めて予定通りのコースへと戻れ」

『ふっっっっざけんな!テメェ、アタシに死ねってか!?』

『………』



2機の後方300メートル辺りで通信を入れるがアルゴス3の怒声しか耳に残っていない。
そもそも、ログを見てもイーダル小隊…ツインズは反応していなかった……シカトか?シカトですか?シカトですよね?



「ハァ……あ、そういや紅の姉妹の顔って初めて見たけどイーニァって子、“本編”の霞にそっくりだったな……雰囲気が特に」



思わず現実逃避をしたくなる、いい加減にして欲しいのが本音だ。
そんな感じに俺がポケッとしていた間にあの2機の戦場は演習場を突っ切り、射爆場へと移りつつある……ってちょっと待て、そっちには定期便のルート!?



「CP!今は輸送機が来てるか!?下手したら接触か衝突だぞ!」

『こちらCP、最悪な事にもう間もなく定期便がご到着だ』

「おいおいおい、冗談じゃ無いぞ……」



俺は片手でレーダーの設定を変更して輸送機を捕らえる。11時の方角、あの2機の様子だとそのまま接近するだろう。
そう考えた俺は2機を放置する事を決め、最大出力で進路を輸送機の方角へと向けるのだった。









            ▲
            ▽







Sideヴィンセント




『あー…此方は国連軍所属のバーラット少尉だ。前方のムリーヤ、応答されたし』



俺の隣に座る男、ユウヤ・ブリッジスとの気まずい空気を消し飛ばす様な声が外部スピーカーと全通信チャンネルから聞こえて来る。
戦術機の跳躍ユニットが響かせる低く響き渡るブースト音が聞こえてきたのはその直後だった。



「何だ?戦術機…?」

「基地も直ぐそこってのにトラブルか?」



俺とユウヤは気になった為、コックピットへと駆ける。
丁度、機長が応答をしている所だ。



「此方ムリーヤ、如何された?」

『ああ、ちょいと今は戦闘中なんだ、後ろからカマ掘られないよう早めに着陸してくれるとありがたい』



戦闘中!?いや、明らかに“ちょいと”なんてレベルの事態じゃ無いと思うだがその所はどうなんだろうか?



「ホーネットか……ヴィンセント、特に変わった部分は無いよな?」

「あ、ああ…確かに、何処も変わって無い。ただのホーネットだ」



後部尾翼の装備されたカメラが後方から此方に警告をする戦術機、F-18Eを映し出す。
他と違うのはカラーリング。通常の灰色では無く、吸い込まれそうな程に青い、空色のブルーだ。



「き、機長!下方6時より高速で2機の戦術機が接近中!」

「なっ!?」

『機長。そのまま滑走路に突っ込め!俺が援護する!』

「りょ、了解!」



焦りの声がコックピットに響き渡るそんな中、ユウヤが目を閉じ、耳を澄ませたのが分かる。
今、コイツは跳躍ユニットの噴射音の音によって描かれる機動を脳内に描いているんだろう、ユウヤクラスの衛士であればそう難しくは無い。
そう思っていると輸送機の進路前方100メートル程先を下から上へ抜ける様に2機の戦術機が空へと上がる。
その圧倒的な存在感とも言える物に俺とユウヤの目が見開かれ、未だ格闘戦機動を続ける2機を見守るかの様な距離で空色のホーネットが続く。



「あのホーネット……」

「ユウヤ?ホーネットがどうしたんだ?」



ラインディングアプローチを取り始めたコックピットを出て、キャビンへと戻る。
その際にユウヤが呟いたホーネットという単語が気になった俺は聞き返す。



「あのホーネットが“何か”をしたんだ。本当ならもっと輸送機の至近距離をあの2機は抜けていた筈なんだが…」



そんな呟きは、『1機の墜落』という事態によって俺の記憶から消されたのだった。









              △
              ▼









『ち―――――っくしょう!!』



回線がオープンのままなのかACTVの衛士、タリサの悪態と疲れが分かる声が俺の耳へと響く。

「流石に限界」……俺が下した判断だ。



「イーダル1、おふざけも大概にしろ……それ以上は俺が相手になる」

『ホルス1!?貴様、模擬戦闘許可は出ていないぞ!!』

「実弾を積んでてロックしてるんだったら模擬戦じゃなくて実戦だっての!」



そうこう話す内にACTVが信じられない程に見事な失速機動を見せる。実戦的なコブラ機動、といった説明が正しい感じだ。
アレを受けたのが一般的なエースだったら一瞬で後ろを確実に取られるであろう機動だ。
本当ならソ連軍機もビックリ………何だがSu-37は児戯に等しいとでも言う様に背中に張り付く。



「なッ――――」



その瞬間、タリサの弱々しい、信じられないとでも言うかの様な呟きが届く。
俺はその時点で「終わった」と判断、120㎜を選択、Su-37の遥か上空へ三発、警告として撃ち込む。
そして、Su-37をロックオン……「次は当てるつもりで撃つ」という意思を込めて突撃砲を向ける……すると、あっさりと退いた。



「ふぃー……此方ホルス1、申し訳ない。“誤って”120㎜を3発も発射してしまった」

『―――まぁ良い、“向こう側”もトラブルが無いのを希望している……任務終了だ。戻って来い』

「了か―――……駄目だ、少し野暮用が出来た」



俺は急いでフラフラと飛ぶACTVへと接近して右腕を掴み、推力を上げる。
先程までの格闘戦機動の所為か、右背面強化スラスターと右跳躍ユニットが停止していたのだ。このままでは墜落の危険性もあるのでお節介だ。



『わ、悪ぃ!助かる!』

「気にすんな」



ゆっくりと高度を降ろして行く俺達の上空を飛ぶSu-37を思わず俺は睨みつける。
美少女は大好きだがトラブル(本格的に厄介なの)を持ち込んでくるのだったら美少女でもお断りだ。
そんな事を考えながら着地、俺達はほぼ同タイミングで官制ユニットから身を乗り出し、空を悠然とフライパスするSu-37へ向け、中指を立てて叫んだ。









『おぼえてろよッ(やがれ)!ちくしょぉぉぉー!(くそったれぇぇぇー!)』















そんな感じで始まる……俺の、マブラヴアンリミテッド・オルタネイティブしか知らない俺の物語が………日本とはかなり遠い、アラスカの地で。












――――――あ、俺か?俺はクラウス・バーラット、国連海軍少尉、今は海軍機の改修計画のテストパイロットしてる転生者だったりする。






[17023] 【第二話】始動
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/04/14 03:23


~2001年5月2日 アラスカ国連軍・第11番格納庫~



【Sideクラウス】






「終わったぁ~……」



俺はF-15・ACTVに整備班と担架車が来たのを確認してからハンガーへと機体を戻す。
誘導員の指示通り主脚歩行で何時ものハンガーへと機体を移動、各部関節ロック、主機関停止、外部電源への切り替え、機体の各部状況一つ一つをチェックしたので後は整備班の仕事になる。
顔見知りの整備兵達がタオルを準備してくれていたのでそのままシャワーでも浴びるとしよう。



「あ……報告書には何て書こう…」



まさか、

『イーダル1とアルゴス3が殺し合いを始めたので武力介入しました!』

なんて……書ける訳が無い、絶対に無い。



「んまぁ……成せばなる、か?」



そんな事を考えつつハンガーの付近に設置されている屋外シャワーでザッと汗を流し、UNブルーのBDUを着込む。
これで取り合えずは人心地が着いたものだ。



「ん~……!―――お~い!そこのジープ、止まってくれ!」



自分の上官への報告の為に基地司令部ビルへと向かおうと考えていた俺の横を一台のジープが通り抜ける。
その車内にタリサの姿を見つけた俺は慌てて手を上げ、車を止める。運転手の軍曹に目的地を確認、運良く行き先は俺と同じみたいだ。



「よう、お邪魔するぜ?」

「クラウスか、さっきは助かったよ」

「墜落したら整備で済む物が換装になるからな、無駄な金を浪費したくなかっただけだよ」



タリサの座る三列目へと腰を落とし、軽い会話のジャブを交わす。そんな恒例行事を済ませた後にしっかりと腰を据える。
そんな時に二列目のフライトバッチ付の少尉が横目に見た空色(正確にはシアン)のホーネットを見て呟いた。



「あれは……あの時のホーネット?」

「あの時?………もしかして、お前らが輸送機の中身か?」

「ああ、俺はユウヤ・ブリッジスだ。……アンタがあのホーネットの衛士か?」

「ヴィンセント・ローウェル軍曹であります、少尉」

「そうだ、クラウス・バーラット少尉だ。軍曹、もっと砕けた口調で良いぞ」

「あ、ホントっすか?んじゃ遠慮なく」



俺は盗ってきたホットドック (恐らくは整備兵の昼飯) の半分をタリサに渡し、残り半分に齧り付きながら前方の少尉と軍曹のコンビに聞く。
あの色に塗ったのはつい最近だし、“あの時”なんて事態はさっきのニアミスくらいだ。
しっかし……ユウヤが○野ボイスでヴィンセントが杉○ボイスか……豪華だなおい。



「クラウス、そいつらってネバダのグルームレイクって所の田舎もんの州兵だってさ」

「な、テメェ!」



タリサが不敵な笑みを浮かべて……と、言うよりは馬鹿にした様な笑みで俺に告げる。
だが………



「タリサ、鼻先にケチャップとレリッシュが付いてるぞ」

「んなっ!?」



―――威圧感0であった。
むしろ、袖で慌てて鼻を擦る様は幼く見え、とても可愛らしかった………って、グルームレイク!?



「おいおい、まさかまさかのエリア51か?世界最高峰の先進兵器開発研究施設じゃねーか」

「そうっ!しかもそこでユウヤは戦技研部隊でも1,2を争う腕前だったんですよ!」

「って事はラプターにも乗った事はあるだろ?ブリッジス」

「……ああ」



自慢気に語るヴィンセントに外を見たまま答えるユウヤ、対照的な二人だが良いコンビなんだろう。
…………取り合えず、一回だけ釘を刺しておくが。



「ローウェル≪ヴィンセントで良いですよ≫……なら、ヴィンセントもブリッジスも良いか?此処じゃエリートなんて肩書きは役に立たないぞ」

「………は?」



見事に呆けた顔になったヴィンセントの顔を見て噴出しそうになったが耐える。
そんな俺の言葉にユウヤも気になったのか耳だけは此方に向けている様だ。



「例えばな、ヴィンセント。『俺はボクシングの世界チャンプだ』っていうのと『自身が見ている目の前で世界チャンプになった』の違いは何だ?」

「えっと……第三者からの情報と自身の五感で得た情報の差…ですか?」

「その通り、お前も口先だけで『俺は強い!』なんて言われるより実力を目の前で証明した方が早いと思わないか?」



その言葉にヴィンセントは納得したかの様に頷く。
良くも悪くも開発衛士……テストパイロットにはエースと呼ばれる者達しか居ない、つまりだ。



「戦って、自分の力を証明しろ……か?」

「EXACTLY(その通りで御座います)………お得意だろ?対戦術機戦は」



ユウヤの呟きに返答し、大方納得したのかヴィンセントも黙り込む。それを見たタリサは嬉しそうに胸を張り、自慢げに言った。



「そうそう、そん位に畏まってるのが一番さ!」

「あ、お前もさっき負けたから人の事言えないぞ?」

「なっ――――!」



予想外の裏切りにあったかの様な顔で此方を見るタリサ。
だが、俺の理論だとタリサも大きい顔して言えないのが現実である。



「……そういやクラウスさんよ、ここってユーコン陸軍基地なのに何で海軍のアンタが居るんだ?」



会話が途切れた車内で再度ヴィンセントが話を振る。まぁ、確かに此処は陸軍基地だから海軍は存在しない筈である。



「ああ、俺は出向組みなんだ。癖で海軍とかって言ってるだけだよ」

「ほぇ~……あ!そういや、あのホーネットの改修計画って気になるんですけど聞いても良いですか!?」

「やっぱ根っからの整備兵って訳か……良いぞ?輸出も進んでる機体だ、ラプターみたいに機密たっぷりじゃ無いしな」









                   ▲
                   ▽











さてさて、此処で俺が属する国連海軍主導の海軍機改修計画についてご紹介でもするとしよう。


昨今の戦術機開発に置いて、各国は第三世代機を続々と開発を進めているのはご承知の通りだろう。
だが、現在国連軍では第三世代機という機体はほぼ配備されていない。国連軍保有機を10の割合で表したのなら第一世代機が6、第二世代機が3、第三世代機が1の割合だろう。
つまり、突き抜けて高性能な戦術機を国連は保有していないのである。


そこで企画された大掛かりな現存する戦術機の改修計画である。


だが、当然の様に問題も発生した。
国連陸軍で主に使用さているF-15は第二世代機最強と謳われており、既に完成され、安定した戦闘力である。
さらに、主に軌道降下兵団で運用されているF-15Eもハイヴ戦仕様に改修され、弄り様が無い。

かと言ってF-4等の第一世代機を一々改修するのならF-15を生産した方が結果的に言えば早いし、性能も高い。
しかも、第一世代機(特にF-4)は既に様々な国が改修を施し、運用している為に統一する為の収拾が着かないのである……それで良いのか?


………話がズレたので戻すとしよう。そこで焦点は海軍機へと移った。
陸軍等の上陸地点確保の為に運用されている海軍機。その主な機体となったF-18(ホーネット)の大まかな改修は………結果的に、アメリカのF-18E/F(スーパーホーネット)の登場で終わりに近づいた。


ぶっちゃけ、弄る部分がアメリカさんに先に改修されたのである。


―――――とまぁ、様々なトラブル(主に先に改修された、弄り様が無い)を乗り越えた中、現場でF-18E/Fを運用する衛士から多かった意見は『近接戦での格闘能力の弱さ』である。
海軍機は上陸地点の確保を目的とする為に高火力な事が多いが今回の意見が多かったのはヨーロッパ方面……つまりは、BETAの支配域への電撃作戦が多い地域である。
圧倒的な物量を誇るBETAとの乱戦を経験する事が多い欧州方面では近接戦にも力を入れている。
そんな中で欧州国連海軍によって近接格闘戦闘能力の強化を求める計画が上層部の決議に上げられ、晴れて可決である。


要求は3つ。

・BETAとの近接格闘・混戦を想定した改修。
・生産性の現状ラインを維持
・出来る限りの高性能化


                       以上である。







                    △
                    ▼









「―――そんな感じで、今は近接格闘能力の強化計画が進められてる。F-35も色々とあって開発が遅れてるからな、暫らくは海軍機の主力を張ると思うぜ?」

「……BETAとの格闘戦なんて、正気じゃ無いな」



ヴィンセントが興味深そうに聞いていた(米軍の格闘戦の概念は至近距離から弾をブチ込む、である)中、ユウヤが吐き捨てる様に言う。
だが、これが中々に馬鹿に出来ないんだがね。



「ま、射撃がお家芸なのが米軍だしな……そう思うのが普通…か?」

「―――気になったんだが良いか?そんな近接格闘戦を考慮した開発計画に何でアメリカ人のお前が?」

「あー……」



ヴィンセントの質問に俺は頭を掻き、口篭る。
えーと、えーと…………



「ああ、酒場で聞いたんだけどな、コイツって新米の米軍少尉だった頃にとある佐官を殴って国連軍へ移されたんだってさ!」

「あ、テメェ!?」

「国連軍でもダイバーズの次に死亡率が高い海軍でブレードとかナイフだけで戦う機会が多かったって、酔いながら言ってなー…実際に、強いし」

「―――アンタ、顔に似合わず過激だなぁ……」

「……うっせー」

「あ、スネた」



あ、佐官を殴った理由がほられそうになったなんてナイヨ?ぜったいに、ナイカラネ?



「―――着いたぞ」



俺のトラウマスイッチが押された中、目的地へと到着をした為に車が止まる。
見れば、タリサが無い胸を張ってユウヤに啖呵を切っている様だが………彼女の後ろから接近する1名によってそれはお開きとなった様だ。









「――――――最前線へようこそ」




そんな、俺がこの基地に着任した際にも別の上官に言われた言葉が耳に届く。
俺はその言葉を告げられた二人の横を抜き去り、ノンビリと歩き出す。













――――――あの言葉が、この『物語』の本当の始まりであったのは……俺には知るよしも無かった。







[17023] 【第三話前編】NFCA計画 ※少し修正
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/04/14 12:31
【アラスカ国連軍~日本帝国・斯衛軍専用ハンガー】






  【 Side  篁 唯依】





「ステラ・ブレーメル少尉…―――――やはり、か…」



私は彼ら…『XFJ計画』に関係する者全ての情報―――とは言っても、戦歴や出身軍・国、人間性、交友関係程度―――を閲覧し、息を吐く。
整備兵も含め把握するのにそれなりの時間は割いたが大方の者は把握した。


そんな彼ら、XFJ計画の衛士は勿論無の事、整備兵とも交友関係を広く持つ者の名前があったのだ。
国連軍による海軍機への近接格闘能力付加計画の首席開発衛士、つまりはメインテストパイロットであるクラウス・バーラット少尉だ。
聞いた話では元米軍の衛士であり、アラスカに来るまでは常に最前線での戦闘を経験してきた男だという。



『中尉、司令部より要求した情報閲覧許可が出ました……中尉?』

「―――……あ、ああ!了解した少尉。私の“機体”の搬入申請も含めご苦労だった」



思考の海に沈んでいた私に副官である少尉が声を掛ける。私も画面越しではあるが返礼し、今も使用しているPCに送信された情報ファイルを開く。
此処にかの男の情報があるのだが……――――――鬼が出るか、それとも私の気苦労なのか……。






【名前:クラウス・バーラット】 

【階級及び兵科:国連軍少尉、衛士】

【現年齢及び任官年齢:28歳、任官時16歳】

【身体情報:身長176cm、体重66キロ、視力2.5、五体満足、戦術機適性検査ランクAA+】

【出自国:アメリカ合衆国ネバダ州】

【家族構成:両祖父母及び父母共に死去】

【現所属:国連太平洋方面第3軍アメリカ合衆国アラスカ州・ユーコン陸軍基地】

【所属部隊:NFCA計画(Navy fighter adjacent combat ability addition plan)首席開発衛士、コールサインは“ホルス1”】

【前任地及び所属:国連欧州方面海軍 第二艦隊 第341戦術歩行戦隊】

【対BETA戦出撃回数:73回】

【対人戦出撃回数:1回】

【BETA総殺傷総数:凡そ2万8千弱(内に生身で3体)】

【対人殺傷数:0】







「言わば…古参のエース、とゆう訳か……」



総出撃回数にもBETA殺傷数にも驚かされるが世界全体で見ればそう珍しく―――勿論だが本当に少数である―――は無い。
だが、思わず額に手をやってしまう出来事の数々……こうして、履歴に“特別欄”で残る様な問題が同じ様に驚かされる程あったからだ。






【訓練兵時代に練習機を破壊した機数:4機(内1機は当時において最新鋭第二世代戦術機であるF-15)】

【上官に暴行を加えた回数:13回(内佐官3、将官1)】

【降格処分にされた回数:6回(中尉から少尉へ…5回、大尉から中尉へ…1回)】

【書いた始末書:………プライスレス】






「あ、頭が痛く……」



何をどうすればこうまで出来るのかが逆に聞きたくなってくる……それほど、理解に苦しむ内容であった。

『普通なのか?国連軍ではこれが普通なのか?』

そう問えば確実に『NO!』と返って来る返答を予測出来るであろう……まだ、続く。






【自身が所属する部隊の壊滅数:11回】

【戦場でのベイルアウト回数:7回】

【戦闘でスクラップにした戦術機の数:16機(ベイルアウトを除いた9機は三次元機動による強烈なGで発生したフレームの歪み・ほぼ大破…等の理由で破棄)】

【当時の整備班から『ゾンビ』『レジェンド・オブ・べイルアウター』『何で死なない』等など……】





………………。



「――――まぁ……直接、確かめれば良いのだな、うん」



――――そう考え、私は…考える事を放棄した。









                  △
                  ▼









【2001年5月10日 アラスカ国連軍ユーコン基地・NFCA計画ハンガー】






「お~……“ハンガーで”機体の装甲が無い剥き出し状態なんて初めて見たなぁ…」

「……それ以外で、見る機会なんてあるのか?」

「おう、戦場でだ。要撃級と戦車級のコンボで剥き出しになった」

「そ、そっかぁ……(普通は見る間も無く死にそうだけどなぁ)」



俺は隣で管制ユニット周辺のコードを纏めているヴィンセントとくだらない話をしながら設定を確認する。
今日、NFCA計画は第2フェイズへと移項する。今も最前線で戦う海軍衛士達や俺の意見を取り入れて設計された新装甲への換装作業中なのだ。
そしてその作業を遠巻きに眺めていたヴィンセントを呼んで手伝って貰っている。



「しっかし……良いンか?俺、計画に無関係の整備兵だぜ?」

「あー、別に大丈夫だろ。中身は只のスーパーホーネットだし、他国もこれ以上の戦術機を生み出してるから技術的価値もあんま無いし」



ヴィンセントの今更な疑問にHAHAHA!と笑いながら右から左へ受け流す。
この第2フェイズだって既存の技術のオンパレードである。特に他国がマネ出来ないものは無し、だ。特に目くじら立てる必要もあるまい。

――――それに、この作業を言葉にすれば『F-18/Eの破損した装甲を外して、新しいのに換える』と何ら変わりは無いのである。



「そういや、お前等の所は新しい責任者が来たのと小隊内でのAH(対人)戦闘訓練、昨日のソ連との合同訓練・ユウヤ反省房行き(笑)がイベントか?」

「最後が冗談になってねぇよ!?今朝に開放されたけどさぁ…」

「ま、ソ連さんとの厄介ごとはどうでも良いんだ。ユウヤ……荒れてるな?アルゴスと腕を競い合ったって聞いたから打ち解けたと思うが…」

「あ、ああ……お前の言う通りで本当に腕利きの集まりだって理解した。お陰でユウヤもそれなりに打ち解けたけど……」

「―――派遣された中尉…か?」

「そうッ!あの中尉、すっげぇ美人なんですけど無表情!お堅い!一緒に居て息苦しい!」

「熱くなるなよ………まぁ、この間だが…少しだけ話をしたぞ」



PXでメシ(何故かあった合成鯖味噌定食)を食していると相席して来たのだ。
その際に少しだけ(日本語で)話したが驚かれた上に非常に反応に困った、という顔をされた……何でだ?



「タカムラ中尉、何か気になる事でもあるンかねぇ?」

「んー……俺ってXFJ関係の人間に知り合いが一杯居るからその線で気になったんじゃねーの?」



衛士組みは勿論だが整備兵にも知り合い一杯だしね……とぉ、終わったか?
―――――――よし、内装やケーブル調整等は全て終わった。後は、この上に新たな装甲を装着するだけである。



「いやー、何時見てもワクワクする!」

「そうだな~、何故か“新型・カスタム機”って心が惹かれるよなぁ」

「俺、何時かは自分で設計した機体を作ってみたいぜ…!」



クレーンによって吊るされた新装甲が誘導に従って運ばれていくのを横目にしつつヴィンセントと駄弁り、ハンガーを出て行く。此処から先は専門家の出番だ。
そう考えながら歩いていると、XFJ計画のハンガー前に置かれている灰色と黒の地味なカラーリングの機体が目に写り……思わず、よく見える位置まで駆け出してしまった。




「おいおい…!これって日本帝国のタイプ97“吹雪”じゃねーか!」

「おい、いきなりどうし…知ってるのか?」

「ああ、日本で轡を並べて戦った事がある!初めて見たけど帝国カラーもイイなぁ…!」

「(帝国カラーの吹雪を初めて見た?一緒に戦闘したのにか?)……アンタ、日本で戦ったって事は……」

「おう、“ルシファー”に参加してたよ。でも、吹雪があるって事は……ヴィンセント、F-15・ACTVと別に開発するもう1機のベースは……不知火か?」

「ルシファー…!?―――あ、ああ…不知火だ!」

「へぇ~!良いなぁ、不知火…」



俺は…【前世名:桐生 一】は不知火・吹雪が大好きである。お次に好きなのが斯衛軍の瑞鶴、その次が武御雷だ。
何気に、俺が前の世界で死んだのは注文していた国連カラーの不知火と吹雪のフィギュアに浮れていた際に線路に落下、電車が直ぐに来て見事に即死だった。
あの時はそんな感じだったが今は実機を見れるだけでも幸せだ。
それに………この世界は毎日に楽しさを見つけなければ……俺は多分…自殺でもして死んでいたであろう。



――――こう言うと不謹慎になるが………






俺にとってはBETAすら戦術機に乗る為の口実であり、BETAとの戦争は命を料金とした一回きりのコンテニュー不可のゲームなのだ。






「(でも……本当は―――)」





“ゲーム”なんて言葉と存在で自分を誤魔化して……心を恐怖に押し潰されない様にしていただけだ。俺、12年軍人やってたけど前は学生だしね。
それに……この世界に存在する者達はしっかりと生きている、今実感している事が俺の現実なんだ…………その“俺も居る現実”を、俺はゲームと思い込んでプレイして(生きて)いる。
ゲームに恐怖心を抱く必要は無い、と思い込んで。





「(まー、その点で言えばテストパイロットはありがたい……これから使用する機体についても真っ先に熟知出来るし)」

「―――…で、ユウヤの奴、この機体に慣れる事を中尉に命じられたけどさ……練習機を充てられるなんて、とか言って不貞腐れてるんだよ」

「―――……あ、すまん。聞いてなかった」

「うぉい!?」



ヴィンセントがもう一度話し始めるが無視し、そのまま吹雪の足元まで進んでいく。あー……やっぱ、良いね!
――――え?話を聞いてたかって?――――えっと……ユウヤと、あの日本人中尉との関係が悪いと?ユウヤも名前的には日本人とのハーフだろ?



「あー……ユウヤ、日本人に嫌悪しか抱いて無いんですよ…」

「ありゃまぁ…どして?」

「俺の口からは言えんので」

「ほぉ……」



メンドくさいんだな、と思う。ユウヤに何があったか知らないが訓練された兵士であるのなら気に入らない上官だろうと従うべきである。
まぁ、ユウヤみたいなテストパイロット出の奴は機体を仕上げる事を第一にしているので付き合いが悪くても結果的には完成するだろう。てか、そうじゃないと困る。



「ま、そこは俺が首を突っ込む要件じゃ無さそうだな……んじゃ、俺はブリーフィングだから行くな」

「おう、見学の許可出たら見に行くぜ~!」



午後から始まる予定のテスト飛行、俺は久し振りに乗り込む相棒を思い浮かべながらノンビリと歩く。今日は……




「ん~……あんま、良い天気じゃねーな」














後書き的な何か

コメントありがとうございます!
今回は前後後編での投稿となりますのでよろしくお願いします。



[17023] 【第三話後編】NFCA計画 ※起床後大きく編集orz
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/03/15 16:02
【2001年5月12日 アラスカ国連軍 ユーコン陸軍基地 第二演習区画、E-102演習場】









「主電源の接続を確認、OS起動開始」






薄暗い戦術機の管制ユニット内に俺の声とパネルをタッチする音が響き、低く唸る様な起動音が響く。



「オートバランサー、チェック。アビオニクス、チェック。FCS、チェック」



灯りが灯る。網膜に機体情報が流れ、問題が無い事を俺に教えてくれる。



「コンディショングリーン、網膜投影………よし」


管制ユニットの内壁からダミービルが立ち並ぶ廃墟の光景へと変わる。
戦術機のメインカメラ、サブカメラがヘッドセットに内蔵された高解像度網膜投影機能を介して俺に戦術機の目をくれる。



「此方ホルス1、機体の起動確認」

『此方はCP、此方も機体起動を確認した。予定通り、主脚歩行での走破性能のテストを開始しろ』

「ホルス1了解」



CP士官との通信が切れ、俺は一回だけ息を大きく吸う。そして―――……



「往くぞ!」



叫び、大きく一歩目を歩みだした。








                   ▲
                   ▽






【Side ヴィンセント】





「おいユウヤ、見てみろよ!あれがホーネットなのかよ!?」

「見てるよ、ヴィンセント。……正直、アレはやり過ぎだろ…」



俺はユウヤを気晴らしとしてクラウスがテストパイロットを務めるNFCA計画の第2フェイズ、F-18/E改修型の機動実験を見に来ている。

大型のモニターが良く見える席に俺とユウヤが飲み物を片手に陣取る。この映像はホルス1のチェイサーからの直輸入モノの映像だ。
流石は国連軍主導なだけあって、ある程度の情報公開や撮影自由などの事もあってかそれなりに様子見に来た奴が多いみたいだ。



「いっやスッゲー!あれはあれでかなり空力とか考えてるぜ!」

「……あのド派手なセンサーマストと腕とか肩に着いてるブレード・ベーンか?」

「おう、あれが上手く機能すれば跳躍ユニットを使わないでも姿勢制御出来るんだよ」

「―――……ああ、そういう事か…」



ユウヤも考え、気付いたのか頷く。
序でに言やぁ今現在ユウヤが乗っている日本機の“吹雪”もその制御法なんだけど……あれだ、機嫌悪くすっから言わないでおこう。

そんな事を考えながらモニターに目を戻す。あと少しで、空地両方のドローンを標的とした三次元機動が始まる…。








                   △
                   ▼






『CPよりホルス小隊へ、もう間もなくダミービルを抜ける。お空への切符を用意しておけ』

「ホルス1よりCP了解」

『ホルス2了解ッ!大尉、ワクワクしますね!』

「こちらホルス1……あのな、俺は少尉だ!……あーゆーおーけぃ?」

『NO!……良いじゃないですか!貴方が大尉であった時からの忠臣ですよ?』



自機の後ろに続くF-18/Eの衛士であり、NFCA計画所属のホルス小隊においては俺の僚機を勤めるホルス2、エレナ・マクダビッシュが俺に微笑む。
プラチナの様に輝くブロンドのロングヘアー、その腰辺りまで届く長い髪の毛先の部分をリボンで纏めている。
一見するとまだ十代の華奢なお嬢様…な外見だが、既に10度の戦闘を乗り越えた準エースでもあり、相当な腕を誇るであろう娘だ。

そんな彼女との出会いは俺がまだ大尉だった2年前に預かっていた当時、14~15歳の少年少女で構成された新人衛士部隊の“生き残り”だ。
とある任務以来、何かと俺に引っ付いて来たが此処まで付いて来るとは………何でだろね?



「レーダー良し、推進剤残量良し、各部関節・装甲共に問題なし……ダミービル郡を抜けた瞬間から跳躍ユニットを使用した機動へと移る」



市街地戦を想定されているダミービルが複数立つコンクリートの地面を主脚で走り抜ける。第二世代機とは思えない様な軽快さを感じさせる足取りだ。
理由に整備兵達の腕が良いのもある。だが、様々な技術投入によった改修により第三世代機並の性能を得ているのだ、この時点で既にF-18/Eを超えている…そう感じれる素晴らしさだ。



「いいな、悪くない……!」



ダミービル郡を抜ける。
BETA大戦が始まる前の………自然の減少と重金属雲によって消えた本当の青空の様な空色に塗られた碧い巨人がその姿をビルに隠す事無く、その雄姿を現す。



『空中のドローン20、その後に地上のドローン数20だ。スマートにやれ』



CPに「了解」とだけ短く返答し、右手腕に保持されたGWS-9突撃砲を射撃体勢に構える。

F-18は大型戦術機であるF-14と軽量型戦術機のF-16の特徴を随所に彷彿とさせる様なデザインが特徴の機体だ。だが、今のコイツは通常のF-18のシルエットとは似ても似つかない。
その姿は何処かソ連の『Su-37』にも似ていて、嘗て所属した欧州方面軍でも見かけた『EF-2000』や『ラファール』にも似ている。そんなF-18/E改修型の仕様はこんな感じだ。




『頭部センサーマストの鋭角化&肥大化』

『揚陸拠点確保・強襲任務を請け負う海軍機の為に第二世代機の操縦系統であるOBWから即応性が高い第三世代機操縦系統のOBLへの変更』

『両前腕部外縁、肩部装甲ブロック両端、膝部装甲ブロックから下腿部前縁、前足部に着けられたスーパーカーボン製ブレードエッジ』

『肩部サイドスラスターに追加された最新型可変式ノズル』

『腰部装甲部へ増設されたスラスターモジュール』

『近接格闘戦兵装の運用を想定したハード・ソフト面での仕様変更 』

『近接戦へ耐えうる為のフレーム及び関節の材質強度や耐久力の向上、電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエータ)の緩衝張力強化』

『跳躍ユニットに加速性能と瞬間最大出力が高く、増槽も着けれる[プラッツ&ウィットニーF120型エンジン]の採用』

『最新の対レーザー蒸散塗膜加工』




以上の改修点が施されたホーネット(スズメバチ)……いや、攻撃的な外見を増した“大スズメバチ”はその名に違わぬ鋭さを持って加速、上昇する。



「うおっとぉ!――――暴れんな…今に跪かせてやるからよ……!」



肥大化した頭部のセンサーマストや増設されたブレードエッジで生まれる空力の違いや新たに換装された跳躍ユニットの高出力、シュミレーターとの違いによってバランスを崩したが一瞬でリカバー。
その面白い機動の変化の仕方に戸惑い、思わず笑みを零す。





じゃじゃ馬なコイツ……手懐け、屈服させたらどれ程の動きを見せてくれるんだろうか……?





『た、大尉が何時もの笑顔を浮かべてるぅ!?』

「……ん?ホルス2、何か言ったか?」

『言ってません言ってません言ってません!!』



網膜に写ったエレナの涙目な顔に首をかしげつつ、17個目の滞空ドローンを撃ち抜く。残り3つ、これを地上のドローンと攻撃対象を切り替える為のラインへ接触する前に落とす必要がある。
…………やってみるか。



「ちょっと、派手に行くぞ」

『えちょ、大尉?』



そうエレナに告げ、俺は可変型サイドスラスターと腰部スラスターを使用した機動を試す為、意識を集中させる。




【レーダーマップ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



             ○<対地ドローン001:6000M





───――――――───【対地標的攻撃開始予定ライン】――――――───――――――↑※進行方向


              ●<滞空ドローン:1700M


                      ●<滞空ドローン:2450M


                ●<滞空ドローン:2650M



                   △
         ▲
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

F-18/E改:ホルス1


F-18/E:ホルス2



ギリ…っと鈍い音を響かせる様に歯を食い縛り、一気に跳躍ユニットの出力を跳ね上げる。
搭乗員保護設定を一時的にカット、腕部及び脚部関節の固定化、跳躍ユニットのリミット上限開放。そして巡航速度の600キロから一気に800・850・900・950キロへと跳ね上げる。



「っぁ………!」



衛士強化装備の耐G機構と蓄積されたデータのフィードバックのキャパシティを超えたGが俺の体をシートへと押し付ける。
高Gによる影響で視界が暗くならない(ブラックアウト)様に唇を噛み切り、その痛みで精神に活を入れる。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



             ○<対地ドローン001:4350M





───――――――───【対地標的攻撃開始予定ライン】――――――───――――――↑※進行方向
              ●<滞空ドローン020:50M
                  △             
          ●<滞空ドローン019:-800M


                ●<滞空ドローン018:-1000M




                             ▲

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




そして、急減速。
暴れる機体を押さえ切り、腰部スラスターを吹かしたその一瞬、その一瞬に生まれた無重力状態とも言えるGがまったく掛からない状態で関節部固定解除、滞空ドローン020を突撃砲で撃ち落す。
そして撃ち落したのを片目で確認した瞬間、失速する。その瞬間、跳躍ユニットと肩部の可変サイドブースターに火が点る。

跳躍ユニットが機体を持ち直し、その逃げる推力をサイドブースターによって制御。180度ターン。




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



             ○<対地ドローン001:4300M





───――――――───【対地標的攻撃開始予定ライン】――――――───――――――↑※進行方向 

          ▽
      ●<滞空ドローン018:-500M




                       ▲
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機体に振られる…そう言うよりはミキサーに入れられてシェイクされる、と言った方が正しい様な高速旋回を行った直後に鳴り響く衝突回避――…いや、既に対衝撃体勢警告だ。
“予定通り”の警告を無視、回避機動を取る様に機体を滑らし………右肩に装備されたブレードエッジで滞空ドローン019を切り裂き、墜とす。

左サイドブースター再点火、そして跳躍ユニットの角度を左寄りにズラして一気に機体を横スライドさせる。




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           ○<対地ドローン001:3900M




                ●<滞空ドローン018:-150M
───――――――───【対地標的攻撃開始予定ライン】――――――───――――――↑※進行方向
                ▽

                        ▲

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




『あ、抜けた…!』

「まだぁッ!!」



半強制的に制御を戻したのちに戦術機の背面を地表に向けたままNOE、36㎜発射……滞空ドローン018に命中。
右跳躍ユニット停止、左跳躍ユニットの推力を最大出力で放射する。右サイドブースターと左サイドブースターを時計回りの方角にそれぞれを放射、グルンッと綺麗にバレルロールし、制御を戻す。

そして、何事も無かった様に対地ドローンへと攻撃を開始したが……見学者の殆どが、唖然としていた。



「んなっ……!」

「め、滅茶苦茶だぞ!?何なんだアレ!」

『流石です!大尉!』



上から、ユウヤ・ヴィンセント・エレナの順で声を上げているのだが俺には通信からエレナの賞賛の言葉のみが届いている。
うぇ…高Gで振り回したからギ ボ ヂ ワ゛ル゛イ゛ィィィィ。







―――とまあ、そんな感じで今日のテストは終わった。これからは問題点などの洗い出しを中心に進めていくのだろう。
一応、機体はハンガーで完全分解して暫らくの間はデータ採取に使用するのだとか………因みに、俺はこの機体の名称をF-18/EX「ワスプ」と名づけた。


「ワスプ」も「ホーネット」と同じでスズメバチって意味だけど、「攻撃的なスズメバチ」な意味を持っているのだから……案外、ピッタリだと思わないか?








[17023] 【閑話過去話】彼と彼女の流儀
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/03/17 15:44
【Side エレナ】






「本日より君達第307戦術歩行大隊を率いる方をご紹介する。バーラット大尉、此方へ」



―――私はとても懐かしい……とは言っても、2年前の出来事の夢を見た。



「礼ッ!」

「――――先ず、諸君等に最初に聞いておく。衛士となった以上、死する覚悟は出来ている……これに相違無いか?」

『『『はい!』』』



国連軍大尉の階級章と胸に誇るかの様に輝くフライトバッチ……その2つを付けた“本物”の衛士。
それが、私達が第一印象として最初に抱いた大尉への思いだった。



「―――よろしい…俺は国連欧州方面海軍所属、クラウス・バーラット大尉だ。因みに、元はアメリカ軍の所属だが―――」



アメリカ――――その言葉に露骨に仲間の訓練校での苦楽を共にした何人かが嫌悪感を抱いた表情をする。
この欧州戦線は表面上は米国に友好的だが内情では米国に対しての感度は余り宜しくない。アメリカ側は何かと口を出す、もっと戦力を回さないと防衛網が破られる等など。


『アメリカは欧州を大きな盾程度にしか思っていないんだろう』


それが多くの欧州方面で戦う軍人の内心であり、欧州国連も含めた各国軍も同じ思いを抱いているのだろう。
と、そんな事を考えていると大尉は皆の表情を見てやり……苦笑しながら言った。



「そのアメリカ軍だが……――とある中佐殿にケツの純潔を奪われそうになってな、思わず半殺しにしてしまったら最前線部隊へ送られたよ!」



―――――――――――――――………………………は?


け、けけけけケツってお、お尻!?そ、それって男色家っていう―――



「た、大尉殿!?何を――」

「―――どうやら、変に堅苦しくは無くなったな」

『『『―――――ッ!!』』』



思わず声を上げた私に優しく微笑み、次に皆を見回す。確かに、思わず皆が動揺して判断能力や思考が停滞していた。
そのお陰か大尉に抱いていた嫌悪感等は一瞬で忘れたかの様な空気になっているけど――――――まさか、これを狙ってあんな話を?



「さてさて、確かに俺はアメリカで生まれ、アメリカで育ち、アメリカ軍に所属していたが衛士として部隊に居たのは一週間程度だ」

『『『………』』』

「それ以上に、俺は欧州やインド、ソ連、中国、日本という地でBETA相手に10年間戦ってきた。喜べよ?出撃回数50回を超えるエース殿が部隊長だ!」


出撃回数50……つまり、50を超える対BETA戦をして来たのだ。何万、何十万のBETAを前に。

だが、そんな戦績を自慢するのでは無く、まるで悪戯をしているかの様な笑みでそう言う大尉に何人かが笑みを零す。
それに笑顔を見せた大尉は顔を引き締め、ゆっくりと言う。



「最初に言う、貴様らを預かる一年間で8割は確実に死ぬ」


――――当然だ。欧州方面、それも海兵隊と共に真っ先に敵地へと突入する海軍の所属だ……だが、我々は選んで此処に来た。


「俺はこの10年、作戦中に英霊となった部隊の仲間、小隊の部下、上官を含めた311名の命を背負っている」


――――300人分の命とその想い、どれだけの重さになるのかは私にはまだ想像できない。でも、それは押しつぶされそうになる程に苦しかっただろう。


「俺はお前達を鍛え、重荷を背負わない様にする為に来たんだ。気を抜けば訓練中に死ぬ、そして…訓練で死んだのならその想いは俺は受け取らん、無様に屍を晒せ」


――――つまり、俺に食いついて来いと……死ぬ気になって、死なない為に抗え……―――そうしろと言うのですね?


「最後に――――――――死ぬな。死に抗って、泥水を啜ってでも生き残るんだ……以上ッ!」

『『『―――了解ッ!』』』



皆が一斉に立ち上がり、敬礼する。
それをしっかりとした眼差しで見据え、ゆっくりと返礼をしてくれたのであった。







そして、三週間後。
BETAの大西進により命じられたBETAの先鋒5万への突撃を我らが大隊が務める事となる。生還者は私と大尉、それと他2名の4人だけだった。




「大尉……」

「………」



大尉はヨーロッパの空と大地に散っていった仲間達の遺品を一人で箱詰めしていく。仲間が、特に部下が死んだ際は必ず自分が整理すると聞いた。
顔は見えない。私に背を向けたまま、無言で黙々と。



「―――手伝ってくれ。一人では運び切れない」

「………はい」



そう言った大尉と共に仲間の遺品が入ったダンボールを遺品管理担当兵が待機している場所へと運ぶ。
遺品管理担当兵のトラックの荷台にダンボールを積み込み、そのままトラックが走り去るのを見送る。

そこで大尉がまだ一つのダンボールを抱えているのに気付き、中身が分かってしまったのに思わず大尉へと『そのダンボールの中身は何なんですか?』と、私は聞いてしまった。



「これか?これはな、皆の遺品から少しだけ分けてもらった想い……かな?」



――――先程、遺品管理担当兵に頼み、『何時もの様に』譲って貰ったそうだ。

何でも、『“命令された”のなら私は反論できませんよ。何せ、しがない上等兵ですので』と言ったらしい。軍規違反でも、今はその厚意が嬉しかった。


そんな大尉の寂しそうな背中を知った私は………翌日、大尉が起こした事件の現場に居ても止めようとはしなかった。







「君がバーラット大尉か!当代の一騎当千、いや…万夫不倒の英雄に逢えて嬉しいよ…!」

「どうも、准将閣下」

「うんうん、君には少佐の地位も用意してある!その腕を今後とも私の下で振るってくれたまえ!」



先の防衛戦での大尉の働きに偉く感激したらしく、興奮する我が基地の司令官である准将が勲章を授ける、と告げてきた。
同じく参戦していた王立英陸軍からの強い要望もあっての事で、それを受けた司令官も自身の株が上がって大喜びだそうだ。

確かに、先の防衛戦では大尉は単機で突出して私達の盾になる様に空を飛び、レーザーを避け、常に先頭を譲らず7時間に渡って戦い続けた。
休憩した姿なんて弾薬や推進剤の補給をした時しか見て無いし、水を飲んで吐き出した姿も、高機動によるGの影響なのか吐血した姿も私は見た。




それ程までに仲間を死なせなく無かったのに、“次の司令官の言葉”で大尉の冷めた、勲章という軍人にとって最高の名誉にも反応しなかった瞳が激しく揺れた。




「君の腕を知っていて良かった!“ワザワザ、君が所属している部隊を前線に押し上げた”かいがあるものだ…!」

「な―――!」

「―――――――――――」




―――今、この男は何と言った?大尉の部隊を前線に押し上げた?何のために?何故?その必要性は?

大尉は司令部より『前線部隊がBETAに包囲され、壊滅の危機に窮している』との理由で未だに未熟な衛士が多い私達を率いて出撃したのだ。
勿論、軍に居る以上は命令は絶対だ。でも、現場では戦線は押されて入るが維持されていたし、後から調べたが周辺には私達の307戦術歩行大隊の他にも部隊も多く存在した。

ワザワザ、第1防衛ラインに送らないでも第二防衛ラインで撃ち漏らしを相手にすれば良かったのだ。そうすれば私達は経験を積め、次の戦いに命を賭しただろう。
それを、こんな小さい男の出世の為に……大尉を戦場に上げる為に、仲間達30人の命は……失われたと言うのか!?



「准将閣下、閣下は恐らくですがこの功績によって少将へと位を上げるのでしょう」

「うむ、世辞は良いぞ?――――だが、君の部隊は“非常に残念な結果”になってしまった……前途も多い、優秀な若者達であったのになぁ」

「ええ、俺が殺したんです……望まずとも……」



その言葉と、まるで演技をするかの様な悲しい顔を作り出した准将に思わず私は拳を握り、振りかぶる。

――――しかし、その手を大尉は信じられない様な握力で握り締めて止める。それに思わず大尉の顔を睨み付けた私は――――固まった。


大尉の、まるで濁った泥水の様な色の瞳に。粘りつく灼熱のタールの奥底みたいな瞳に…。



「少将閣下、私は貴方様に一つだけ褒美を戴きたい」

「む?何だね?無理な願いで無ければ極力は叶えるつもりだ」

「いえいえ、この場でも可能な願いですよ」



大尉がギリッと拳を握り締めた音が聞こえる。そして、私が予測した大尉の次の台詞と行動が……見事に一致した。







『その、クソみてぇな下卑たツラを思いっきり殴らせて貰えれば良いんですよぉぉぉぉ!!』


「んな…ガァ!?…あ、ハあ(歯が)…!?き、貴さ…!ッ―――――!?」




大尉は口元を押さえて倒れこんだ准将の胸ぐらを掴み上げ、鼻先が擦る様な距離で睨みつける。
その何万のBETAを殺してきた『戦鬼』とも言うべき殺気を受けた准将は泡を吹き、気絶する……大尉はそれをもう、ツマラナイ物を見る視線のまま胸ぐらを離した。

ドチャッ……という鈍い音を立てて倒れる准将と叫び声を上げる秘書官。駆けつけた兵士が驚愕の目で大尉を見る。



「すまん、エレナ。他の連中と俺の形見を空が良く見える場所に埋め―――ガッ!?」



大尉は肩に縫い付けられた『大尉』の階級章を引きちぎり、倒れた准将の顔に叩きつける。
そして私に『遺言』を告げるかの様に呟いている最中、駆けつけたMPの持つ小銃の銃床で殴られ、床へ組み伏せらて連行されていく。



まあ、普通に考えれば准将相手に重症を負わせたのだ。銃殺が普通なのだが……。





「よう、クラウス・バーラット“中尉”だ。よろしく頼むよ、エレナ・マクダビッシュ少尉」

「え、え―――っ!?」




………何故か、生きていたのだった。



詳しい話は機密らしいがあの准将―――今は刑務所だが―――は反国連軍組織に大規模な横流しを行っていたのだ。
その事が判明したのが大尉が准将を殴った翌々日、勿論だがそれだけじゃ極刑は免れない。殴った際にはまだ国連軍准将なのだから。


と、そんな状況に待ったを掛ける様に登場したのが何と、イギリス王家だった。
ご存知の方も居るでしょうがイギリス王家では『ノブリス・オブリージュ』に従って王族は一度は軍に従軍するのですが……大尉が助けた1機に“お姫様”がいらっしゃったらしい。


しかも姫様を助けた際に伝わった噂話―――『自身の所属する基地の司令官の出世欲に巻き込まれ、死んだ仲間の為に命を顧みず反逆する』とかでイギリス軍じゃもう超絶な有名人らしいです。
『騎士』とか『反逆者』とか……大尉は最初にそれを聞いた際に『うわぁぁぁぁ!?スッゲー厨くせぇぇぇぇぇ!!』とか叫んで床をコロコロ転がってましたが。

そして、その助けたお姫様もかなり大尉に『アレ』みたいです。
颯爽と現れ、命の危機を救ってくれた大尉は白馬の王子様に見えたらしいです。ライバル出現ですが未だに大尉の傍には来れないみたいです、当然です!




―――えっと、大尉風に言えば『パネェ』ですね……あれ、夢なのに説明みたくなってる様な?




えーコホン……そして、止めを掛けたのが基地要員の准将派閥以外の殆どの署名でした。
私の名前や死んだ仲間達の名前も勝手に名簿に書かれていたが気にしなかったですし……此処に居ない仲間の名前を見たら、他人が書いたんだろうけど凄く嬉しかったですね。




そんな訳で、大尉に下されたのは

      『給仕金一年間カット、階級の降格、便所掃除一年間』

                            でした……今でも、それで済んだのが信じられませんね。













                    △
                    ▼








【2001年5月13日 アラスカ国連軍ユーコン陸軍基地~PX~】







「……………」

「大尉、大丈夫ですか?」

「――――…ッ」

「え?緑茶…ですね…?分かりました、取って来ます!」



擬音で表すのなら[チーン]という葬式の日に聞こえて来そうな音と共に、俺はPXの机に顔面を突っ伏していた。
……原因?――――昨日の高G機動のダメージだよバカヤロウ!

何故かエレナが朝から懐かしそうな顔をしていたが、今もこうやってフォロウしてくれているのだから有り難いものだ。



「よ!此間はド派手にやったじゃん!(バンッ!)」

「くぁw背Drftgyふじこlp!?」



後ろから鈍い衝撃、神経を焼く様な痛みの中で声の主を特定…―――――反 撃 開 始 !



「このチビガキャァー!今日こそ梅干刑に…(ズンッ)~~~~!?」



チビガキもとい、タリサの爪先蹴りが脇腹に入る。そこ、らめぇぇぇぇえぇぇええぇ!?



「―――――」

「うお、ピクピクしてるけど…大丈夫か?」



――――――大丈夫じゃねぇ。

そう叫びたかったが、内蔵、無理。



「大尉ー、お茶を…って大尉ー!?だ、誰か!助けて下さい!」



床に倒れた俺の頭を抱え、『某オーストラリアで愛を叫ぶ』のワンシーンと化すPX……まぁ、何時もの事ですけどねー。











続く?



[17023] 【第四話】特に何でもない日常が幸せだと気付くのが次回である
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/03/31 08:02


【2001年5月18日 アラスカ国連軍ユーコン陸軍基地・NFCA計画専用ハンガー】





「おめぇさんよ、馬鹿か?」

「おやっさん、来た瞬間に罵倒はどうかと思う」



エレナを引き連れてハンガーに到着した早々にNFCA計画直属の整備班長である『おやっさん』に呆れた様な目を向けられる。
その手元には数十枚の資料がファイリングされたボードを持っており、俺の額にグリグリと押し付けながらファイルを渡す。

えーと……F-18/EXの整備資料?



「許容範囲内だが基礎フレームに若干の歪み!CPUの処理能力が間に合わなかった為に発生したフリーズ6回!脚部関節の過負荷!テメェは機体を一回で殺す気か!?」

「大尉、整備班の人達に謝ってください」

「サーセン」



ドスを効かせた声と顔で睨む整備班長とジト目で見るエレナさん。そんな俺達3人の周りにはそしらぬ顔で……いや、巻き込まれない様に無視して整備を続行する整備兵達。
周囲に味方0である俺は目を逸らして吹けもしない口笛を吹きながらその存在を無視するとおやっさんは一回だけ溜め息を吐き、再度説明を続けた。



「一番の問題がCPUの処理能力を超えた機体操作だ……お前、あんな動きを続けるつもりなら死ぬぞ?」

「それって……滞空ドローン018から020までの撃墜に至った際の機動ですよね?」

「そうだ嬢ちゃん。そもそも、あの動きの情報は現行のCPUじゃ処理出来ん。最悪、機体が飛んでる最中にフリーズ、そのまま地面に真っ逆さまだ」

「う、うわぁ……」

「あー………そういや訓練校時代にそれでF-15を1機ぶっ壊したなぁ」

『ちょっと待て(待って下さい)』



二人ともその目はなんだ、文句あんのか。F-4で試してぶっ壊してF-15で試してぶっ壊れたんだよ……事故だ事故。
―――教官、ムンクの叫び状態だったけどね!


とまぁーそれはさて置き、CPUのフリーズが何故起きるのか?……簡単に言ってしまえば『衝突』である。

例えば、戦術機が倒れそうになるとする。
通常であその際にオートバランサーが働き、機体損傷状況・周辺地形を参考とした『機体に最も危険性の無い倒れ方』を機体側が取ってくれる。

しかし、俺はその状況で機体を『自動で倒れる体勢の中で』その中の『自動』を『キャンセルして』動かそうとしている。


つまり、二つ以上の作業を同時にこなそうとするから出来なくなる……そういう事だろう。



「俺は通常の着地してからロックオン・射撃っていう3つのプロセスよりもっとスムーズに、着地しながらロックオンしつつ射撃、の1つでしたいんだよ」

「―――確かに、凡庸性は大きく広がるが……先ずはそれだけの動作情報を処理出来るCPUが無いと無理だ。それとOS……はお前のデータ参考にすれば良いか」

「そんな道理、俺の無理で抉じ開ける!」

「整備班殺す気かテメェは、俺達が機体に細工して逆に殺すぞ」

「マジでスイマセン!」



即土下座、額を地面に擦り付ける。正直、XM3が欲しいです……無理か、無理だな。原作でもオルタネイティブ4での研究結果のスピンオフしたからで完成品だしね。
俺が打診するってのも手だけど流石にあの“極東の魔女”が衛士の為に作るとは思えん。



「あー……せめて、もっと高性能なCPUが手に入ればなぁー」

「……必要ってんなら欧州国連軍本部に打診して要請だけはしておくか?上手くすれば総本部まで話が通って議題になるかもしれねーぞ?」

「ん~……だな。おやっさん、俺の操作ログ付で送っておいてくれ………知り合いに提督居るし、頼んでみる」

「おう了解。俺の同期が国連本部の開発部で働いてっから俺も通して見るぜ」











「あの…二人とも食事時の会話って感じで何気に話してますけど………これまでの戦術機機動概念を全て消し去りそうな内容ですよね?」

『…………あ、ああ!』

「無意識でそんな計画練っていたんですか!?」








                         Δ
                         ▼








【2001年5月19日 アラスカ国連軍ユーコン陸軍基地 第5ブリーフィングルーム】





「――――これにて、報告会を終了する。何か意見は?…………無い様だな、では解散!」

「あー……終わった終わった」

「大尉…じゃなくて少尉!もっとしっかりして下さい!」

「俺のスタイルなんだよ、これが」



NFCA計画総責任者である中佐殿のありがたーいお話が終わった所で凝り固まった筋肉を伸ばす。5時間にも及ぶ報告会は中々に苦痛だった。
周囲の整備兵達はそんな俺たちに苦笑しているが俺からしたら娘に叱られる親父の気分だ。

………そういや、俺って前世を含めるともう50歳なんだよなー…………おっさんじゃねーか。



「やばい、主にタリサとかに対しての態度って娘に対する感覚だったかもorz」

「大尉ー、跪いて無いでPXに行きましょうよー!」

「そっとして置いてくれ、エレナ。俺って枯れてるなぁ、って思っただけさ………お前みたいな可愛い娘が居るのに色んな欲求すら持たないなんて……」



そりゃあ精神…と言うより魂?年齢は50だし、唯でさえキッツイ戦いの毎日を過ごして来たから色々と賢者状態だけど……なぁ?



「か、可愛い!?」

「ん?何慌ててんの?事実じゃないか」



―――なぁ、皆?
「こっちみんな」とか言われそうな顔でまだ資料を纏めていた整備班に向けて問うと『うんうん』と全員が頷く。

まぁ想像して見てくれ。彼女を花で表すのなら正しく『百合』だ………如何にも、想像出来そうな容姿じゃないかね?



「にゃ、にゃにゃにゃ……!」

「ハッハッハッ!ほれ、メシ行くぞー」

「はうぅ!?ま、待って下さい大尉ー!」





整備兵A「……なぁ、今のレートはどうだっけ?」

整備兵B「再来月が19人、来月が11人、今月が9人だ」

整備兵C「この様子じゃ今月も負け組みの奢りだなー……財布を空にしてやるか」

整備兵D「つか……エレナ嬢ちゃん、健気だなぁオイ」

整備兵E「バーラット少尉、ワザと無視してる気がしなくも……」

整備兵ABCD「「「「いや、アレは絶対に天然だ」」」」





整備兵達が何か言ってたが無視、俺とエレナはエレベーターへ乗り込み一階にあるPXへと足を踏み入れる。
………よし。


「俺はうどんね、きつね大盛りで」

「私はパスタセットで」

「はいはい、ちょっと待ってねー」



何気に充実してるよね、此処のPXメニュー。うどんとか蕎麦も有れば米もあるし。
気になって聞いたけど各国の国連軍基地とメニュー情報を提供しあってるらしい、食事はストレス削減の有効な手段だし……これは正解だな。

何気に日本食が食えるのが有難い………横浜のメニューかな?コレ。



「戴きます」

「大尉、何時も手を合わせてますけどどうしてです?それ」



エレナが俺の合唱ポーズに今更だがツッコンでくる………ねぇ、俺ってお前さんとメシを食う様になった1年前からやってたよね?
何で今このタイミングでツッコミ入れるの?



       ・正直に言う

       ・適当に誤魔化す



…………おい、何この選択肢?今更だけど何か脳内に浮かんでるぞこれ。
あー………



      ⇒・正直に言う

       ・適当に誤魔化す



「これか?日本で戦った時に帝国の兵士達がやってたんだ。食べられる命と作ってくれた人への感謝を表すんだよ」

「へぇー…じゃあ、私も……戴きますっ!」




「……ッ」

「おいユウヤ、どうした?」

「……何でもねーよ、VG」




………スマンなブリッジス。気付かなかった。








[17023] 【第五話】最初で最後でありたい介入
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/03/31 11:54


【2001年6月4日 アラスカ国連軍ユーコン陸軍基地】






「………おやっさん」

「………何だ?」

「申請したのってつい最近ですよね?」

「……ああ、そうだ」



俺はおやっさんと共に呆然としながら廃品輸送コンテナに入っていた品物を記された書類を確認する。

[新開発CPU]

そう、一言だけ書き殴る様に書かれていた。



「いやまさか、こんな早く届くたぁな……」

「俺、もっと嫌な言葉を見たんで気分が鬱いっす」



だってさ、コレを提供したのがあの“横浜”だぜ?
………何が狙いだ!香月博士ー!!



「んま、取り合えず中身のチェックだな」

「ウェーイ」



コンテナを開放、中身をハンガーの床に敷いたシートに並べる、並べる、並べる、並べ……



「って多いわ!?」

「色々とあるな……おい、これなんか物理的に破壊された痕があるぞ?」

「ハッキリ言うと、ジャンクの集まりって感じですねー大尉」



―――エレナ嬢、何時から居たかは知らんが……君の声質(CV:田中○恵)で“ジャンク”って言うと何か思い出すから止めてくれ。
俺は頭に浮かんだ『乳酸菌』という単語を打ち消し、CPUの山を弄りながらふと思う。


このCPUの山全てはオルタナティブ4の「試作品」なんじゃ無いか、と…。


香月博士が目指しているのは150億個の並列回路を掌サイズに開発する事、XM3もその研究の副産物で生まれたのだ。
なら、XM3というOSを処理出来る物がこの中にある可能性もある。俺はそんな考えを巡らせ、「ありえそうだな」とか思う。

コンテナに積み込まれていたCPUのサイズは別々で中には小型過ぎて性能が良くない奴や、高性能だが大型過ぎるのもあるが……どうやら、ビンゴだ。



「見た感じ、良さそうなのがある。まぁ、後で総チェックと重量を纏めておくぜ」

「おおー、そりゃ良い……んじゃあ、俺はOSの方に回りますよ」

「大尉!私も手伝います!」

「おお、助かる!じゃあお礼に新OSでの動きを手取り足取り教えてやる」



何故か頬を紅潮させてエレナが俯く、それを俺は無視してコンテナを見つめる。




あ、CPUの中には叩き付けた痕があった奴の他に銃弾が撃ち込まれた奴もありました。………苛立ってますね、博士。










                      △
                      ▼











俺、ユウヤ・ブリッジスは「どうしてこうなったのだろう」、と思った。
俺の隣では愉快そうに酒を飲むバーラット『中尉』とヴィンセント、VGやタリサにステラといったアルゴス隊のメンツも居る。
そして、驚く事にあの堅物のイブラヒム中尉ですら参加しているのだ……非常に珍しい光景だろう。



「おーうユウヤ~!飲んでるかぁ~い?」

「飲んでるさ、中尉………肩を抱くな、肩を」

「スマンスマン!―――テメーら!今日は俺の財布の中身が無くなるまでは飲み放題だぜぇー!!」

『『『『イェヤァァァァァァ!!』』』』



――――此処は基地歓楽街に在る基地要員御用達のバーだ。以前に一回だけ、VGに紹介されたのでヴィンセントと飲みに来た店だ。
何でもNFCA計画の功績で中尉へと昇進が決定したクラウスの誘いで飲みに行く、というのでご相伴に与ってる訳だが……今さっき、店に居た奴等に酒を奢りだした。

さっきから騒がし目だった店内は今は歓声と笑い声で包まれている。「流石クラウス!」や「おっしゃ、樽で持って来い!」等々……慣れてるのか、コイツら?



「マスター、ロックでくれ」

「アタシとVGはビール!」

「私はジンにしようかしら?」



上から イブラヒム・タリサ・ステラの順のオーダーを義足のマスターが素早く対応する。
何でも元国連軍大佐であったがBETA戦による負傷で司令部勤務へ、その後は退役して今の店を持ったそうだ。この店では階級は関係なし、合言葉は


『二等兵から大佐まで、飲んで騒ぐは人の常。但し将軍、テメーは自室で高級酒でも飲んでいろ』


らしい……なのでこの店は常に無礼講なのだそうだ。


俺はジョッキの底に残ったビールを飲み干し、次を注文しようとすると目の前に新たにジョッキに並々と注がれたビールが置かれる。
見れば、豊かな髭を蓄えた老マスターのウインクが一つ………なるほど、視野は広いんだな。



「うへへ~~たいいー」



ホルス02こと、エレナ・マクダビッシュは先程から半夢見心地で何かを呟き、クネクネと動いている……確か、イギリス人だったよな?一杯で駄目、なんて初めて見た。
因みに、彼女にはかなり優秀な兄が居てイギリス陸軍所属らしい。



「よぉクラウス!何時もの武勇伝は無いのか!」

「次はアジアか?ソ連?それとも欧州?」

「インドでラクダに乗ったまま遭難した話は笑えたぜ!」

「聞きてーか!んなら何話すかねぇ」



店内の兵士から一部、有り得ない様な話が聞こえた事に思わず飲むのを中断し、隣のVGへと向き直る。
大分、ご機嫌そうだが話をする事は出来るだろう。



「おいVG」

「あン?どーしたユウヤ?」

「武勇伝ってのは何だ?」



俺の質問にVGは何かを思い出したのか大爆笑する……取り合えず、酒の肴程度にはなる話らしい。
そんな風に思いながらビールを煽る。見れば、バーラット中尉は何かを考える様に黙り、ポンッと手を打ち話し出す。



「んじゃ、あれは俺がハイヴ:22の攻略作戦に参加した時の事だ」

「ブッ!?―――ゲホゲッホ!!」

「汚っ!?」



噴出した、咽た。VGの叫び声が響くが無視する。ハイヴ:22、つまりは日本の横浜ハイヴの事だったからだ。
だが、沸き立つ周囲を考え……取り合えずは静観する事にする。



「あれは作戦域に突入してからしばらく経過した終盤の頃だ。俺の中隊が補給所で補給を済まて少しした後にG弾が2発、頭の上から降って来やがったんだが……」


   『G弾』


その単語に一瞬だけ動揺の声が零れる。
過去に映像データが大々的に――宣伝の様に――公開された事もあるし、最新鋭の兵器を扱うグルームレイクでも話題はあった兵器だ。
俺は映像で見たあの黒い渦巻く様な球体を思い出し、誤魔化す様にビールを呷る。

正直言うと、とんでもない兵器だと俺は思っている。あれを対人類戦に使用する事が来る日があるのだろうか?と当時は同僚達と話したものだ。



「んで、俺の中隊の部下…つっても既に小隊規模だったけどな。順々に退避させて俺が殿を務めた際の話だ」









                △
                ▼







【回想~1999年8月7日~】




《此方は国連宇宙総軍軌道艦隊―――我が軌道艦隊は現段階を持ってH:22に対し新型ハイヴ攻略兵器の導入を決定》

『なっ!?このタイミングで新型兵器だと!?』



オープンチャンネル(全回線)で急に呼びかけられた警告に周辺部隊の衛士の一人が毒づく。
俺は目の前の要撃級と戦車級数体を沈黙させ、『前の世界』から知っては居たがHQへと通信を入れ、叫んだ。



「ジョーカー01よりHQ!その新型ハイヴ兵器とやらの破壊力は!?」

《……予想では貴隊及び周辺部隊を巻き込む。新兵器によりラザフォード波による重力波が発生する。周辺地区に展開中の部隊は速やかに退避せよ。繰り返す―――》

『ファック!お偉いさんにとっちゃ俺達は盤上の駒なのかよ!!』

「喚くなジョーカー03!ジョーカーリーダーより各機へ、背部兵装及び余剰弾薬を投棄する。重量を減らす為に最低限の兵装のみだ。そしてジョーカー08を先頭に戦域をNOE突破を決行する」

『此方クリムゾンリーダー、ジョーカーズに我が隊の随伴を求める!コッチも限界だ!』

『パール02よりジョーカーズ!私達もお供します!』



周辺で戦っていた戦術機部隊が集まり、隊列を整える。損傷多数の機体が全部で11機、それが嘗ては一個連隊(108機)として戦域へと侵入した海軍部隊の末路であった。
ジョーカー小隊とパール小隊のF-18/Eが合わせて8機にクリムゾン小隊のF-14が3機、そのF-14の内の2機が肩部のミサイルコンテナへ2発と1発づつ、長距離クラスターミサイルを装備している。

俺はその情報と周辺地図を参考にし、新型兵器――G弾――の予想効果範囲をマップへと表示。更にBETAの配置も確認する……よし。



「ジョーカー01よりHQ!ポイントE-308への支援砲撃を求める!」

《HQよりジョーカー01、2分後に着弾する。……新兵器のご到着まで、後15分だ》

「了解!各リーダー、エレメント(2機連携)を崩さずにポイントE-257へ移動する!クリムゾンリーダー、“フェニックス”を用意してくれ!」

『クリムゾンリーダー了解!撤退の時にこんなクソ重いミサイルを捨てられるなら大歓迎だぜ!』

『パール02よりジョーカーリーダーへ!私達は推進剤に余裕がある、ジョーカー08の援護へ回る!』



今までに無い位の連携を組み始める各機に思わず俺は苦笑する。死に際では流石に人は素直になるようだ。
そんな事を一瞬だけ考え、弾着まで40秒を切った瞬間、俺は叫んだ。



「クリムゾンズ!ポイントE-299へフェニックスを放て!」

『了解!クリムゾン01、FOX3!』

『クリムゾン09、FOX3!』



F-14の肩部コンテナから射出された3本のミサイルが、白煙を引きながら指定された座標へと向かっていく。
このままでは光線級に撃墜されるであろう3本のミサイル。だが、そのミサイルに向けられるであろう光は空へと……正確には、東京湾方面に展開する国連艦隊から発射された砲弾の迎撃へと向けられた。

その瞬間、ミサイルが該当空域到達。光線級の12秒のインターバルの間にフェニックスミサイルが分離、目標域にクラスターを降り注ぐ。
BETA共の今日の天気予報は晴れ時々砲弾、及びミサイルって所だ。



「オーケィ、野郎共!全機、ジョーカー08を筆頭にNOEで突破する!光線級は優先して殺せ!止まるんじゃねぇぞ!?」

『『『了解ッ!』』』

「俺とジョーカー03が最後尾を固める、兎に角海へ出るぞ!」

『了か――『ぜ、前方より友軍機が高速接近中!早いです!』ッ――!?』



先頭を行くジョーカー08から通信が入り、更に次の瞬間にはレーダーマップ上に小さな光点として出現する。
対象の予測速度は……時速600キロ!?第三世代機の戦闘最高速度だぞ!?



「んなっ!?何処の馬鹿だ!こっちはG弾の効果範囲だぞ!!」

『こ、此方ジョーカー08!機種判明、タイプ94…不知火です!所属は国連軍特別教導連隊!』

「―――――ッ!?」



一瞬、思考が停滞する。その一瞬の呆気が、巡航速度で飛行する戦術機の姿勢制御にミスを生み出す。
管制ユニットに鳴り響く衝突警告。その音に半ば無意識で跳躍ユニット停止、120ミリ6発を全て発射して邪魔になる障害物を吹き飛ばし右跳躍ユニット再噴射。



「っぉぉぉぉおおおおおお―――!?」



ガリガリガリッ…という鈍く嫌な音が丁度、俺の目の前に見える管制ユニット外壁から内壁へと響き――――――停止。
あわやビルに衝突、という直前で止まる事が出来た様だ。



『大尉!』

「無事だ!先に行け!!止まったら的になる、俺なら1機でも逃げるだけなら平気だ!」

『―――――――ッ!!…………お待ちしてます!』

「了解、後で俺の取って置きを開けてやる!」



全周囲警戒、機体ダメージチェック、BETA郡の予想進路と脱出経路の確認、G弾の予定着弾時間確認。衝突による管制ユニットへの歪み発生、脱出不可能。
そして最悪な事に破片でも当たったのか、跳躍ユニットに推進剤を供給するパイプから推進剤が洩れている様だ……あれ、死亡フラグ?



「チッ…推進剤の供給停止、走って場所が開けたら行くか……」



俺が着地した場所は旧市街地の様で廃墟と化したビル郡が建ち並び、見渡しが最高に悪い。
このビル郡に何処かにレーザーが隠れている可能性もあるので飛べないので足を使っての逃げの1手しか打てないのが痛いものだ。



「うっし………行くぞ!」



機体を前進させる。特に問題は無い、戦車級と対人級が数体居ただけだった。
それらを駆除、そのままビル街を無事に抜けた瞬間、戦闘中なのか複雑な動き方をしながら接近する不知火から男の叫びが全回線へと響き渡る。



≪死なせたく無い……俺達の街でッ!これ以上死なせたく無いんだぁぁぁぁぁあ!!≫



――――――はい、この谷○紀章ヴォイスはどう考えてもキング・オブ・ヘタレーこと、鳴海孝之君ですね?分かります。
そっかー、コイツA-01所属だったよねー……マジか。



『ッッッ――――!!?うぁああぁぁぁぁぁ……』

「レーザー!?呆けている場合じゃ無かった!!」



空へと上がる3つのレーザーが孝之の乗るであろう不知火の両脚と左腕を貫く。小爆発と悲鳴を続けさまに上げて落下していく。
それを見た俺は跳躍ユニットで一気に機体を浮上。レーザー級を排除し、墜落したUNブルーの不知火へと殺到する戦車級の群れに突撃砲を構え、撃ちまくる。



『な、味方…機!?何でまだこの戦域に居るんだ!Gだ…、新兵器が見えないのか!?』



あーハイハイ、見えてますよ。ハイヴモニュメント上部へゆっくりと降下して来る黒い玉2つだろ?
………見えてるんだよ、こんちくしょう!



「うるせぇ!!テメーも言えねぇぞ!それより機体は……聞かなくても良いな」

『……ああ、操縦系統も駄目だしイジェクト出来ない……それに、あと2分で新兵器の着弾だ』

「一応、爆発の範囲からは外れているが……この距離だと衝撃だけで撃震の装甲ですら破壊されるな……」

『………ごめんな、遥、水月…』



ポツリ、と孝之が呟く。
それに俺は溜め息一回、半壊した不知火を引き摺る様にして動き出す。



『お、おい!何をする気だお前!』

「後1分ある……隠れる所を探す。あと、俺は大尉だがお前は?」

『な……!も、申し訳ありません大尉殿!自分は、鳴海孝之少尉であります!』

「そうか、鳴海少尉……昔、とある人が言ったんだ」

『はぁ…?』

「諦めたら、そこで戦いは終了だ…ってな?ここで良いか」

『諦めたら……そこで終わり……』



呟く孝之を無視し、俺は孝之機の背部兵装担架から長刀を引き抜き、損傷の少ない要塞級の腹を開いて不知火を入れる。これで、少しは防御が良くなっただろう。
そう考え、俺も無理矢理に入るが……グロイね。



「鳴海少尉、機体を停止させろ。……生き残ったら、また会おう」

『ハッ!……あの、大尉殿!お名前は…?』

「俺か?俺はクラウス・バーラットだ、本来は存在しない…な」

『え?それっt』



孝之が聞き返した瞬間、衝撃と振動…要塞級ごと吹っ飛ばされるのが分かる。
そして大きく1回、叩き付けられ……俺は、意識を失った。












                 ▲
                 ▽






【歓楽街酒場】




「取りあえず、こんな感じだ」

「何で死んで無いんだお前」



VGの無機質な声に俺は心の中で頷き返す。まったくもって、俺も同意見だからだ。
実戦を経験していない俺でも分かる。BETA支配地域に戦術機1機のみ、装備は極僅か、跳躍ユニットの不調、G弾の接近中&巻き込まれた………普通は死んでいる絶望的な状況だ。



「お前、ゾンビかなんかじゃねーの?」

「コラ、失礼よタリサ?バーラット中尉に向かって………どっちかと言えばアンデットじゃないかしら?」

「……タリサとステラ、お前らは後で梅干な」

「ヒッ!?」

「お、オホホホホ……(汗)」



クラウスは握り拳を作り、タリサの両側面の米神で固定する。
グルカ民族の出の優秀な戦士でもあるタリサに動き出す暇さえ与えなかったのはスルーしておくが……タリサが、かなり震えている…。



「ハァーイ!ショウタイムの時間だぜぇぇぇえ!」

「みぎゃああああああああああああああああ!!!!」


グリグリ……と言うよりはゴリゴリッ!といった感じの音が鈍く響く。
後に響くのは初めて聞くタリサの悲鳴に、かなり楽しそうなクラウスの笑い声………新手の拷問方法か?



「あ゛~~~~~!!頭が痛い、脳が痛い!」

「ふー、スッキリしたー………あ、ステラも後で殺(や)るから」

「え゛………ねぇ、そんなのより“コッチ”はどう?」



床を頭を抱えた状態でゴロゴロと転がるタリサと、そんな様子を見てからクラウスにしな垂れかかり胸を強調するステラ……色仕掛けか、オイ。
そんなステラに、周囲の男達が一斉に沸き上がる。何やら囃し立てているがそう下品な物じゃなく………



「おい!予想外のダークホースが出たぞ!?」

「レート!レートを確認しろ!」

「てか誰だ!?男を対象に賭けた奴!!」



……下賎な物(金)だった。つまりは賭けだ、博打だ、ギャンブルだ。
クラウスが誰とくっつくか、という賭けだそうだ……因みにだが最有力候補はエレナであり、大穴がイブラヒム(一応言うが、男)である。
…………俺の名前なんて、無かった。そう、無かったんだ。

そうこうしている最中、クラウスがステラの肩を掴んでしっかりと椅子へ座らせる。そして、



「嫁入り前なんだから、もっと体を大事にしろ!」

「………え?」



何か、父親みたいな事を言ったのであった。










あとがき

忙しかったようぅ…orz



[17023] 【第六話】繋がる道、有り得ない歴史(微修正)
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/04/11 20:31



【2001年6月7日~アラスカ国連軍、ユーコン陸軍基地シミュレータールーム~】




「お?お?おおおおお!?」

『ろ、ロクに機動が…きゃあ!?』



シミュレーターによって生み出された市街地を2機のF-18/Eが駆け抜ける……と言うよりは一歩一歩確かめる様に歩き、転倒する。
その稚拙な…訓練兵でもしない様な間抜けな醜態を正規兵――しかも開発衛士――が晒しているのだ。下手な笑劇よりかは笑えるだろう。

――――――だが、その動きは見る者が見れば驚嘆に値する物であると気付くであろう。『異質』である、と。



「ハッ…ハハハ……!すげぇ、すげぇぞコレ!」

『い、違和感がありますけど……動き易い?』

《まだバグ取りも完全じゃねぇが大方完成してる。後はこのデータを参照して更にバグ取りだ》



管制室からおやっさんの声が聞こえるが特に気にもならず俺は機体を動かし続ける。予想以上に…いや、予想外の性能だ。
今までの機動を初代ガンダムの先行量産型○ムとするならこれは逆シャアのジェ○ンだ。今までとは明らかに高い即応性や無くなったラグ。人馬一体、二人で一人、そんな感じだ。



「おーい!エレナ、これならレーザーも完璧に避けれるぞ!」

『何を言ってるんですか!私は大尉みたいに変態さんじゃ無いんですよ!?』

《まだ完成形じゃねぇがな、即応性・機動性25%増しは保障するぜ?あとな、お前くらいだよレーザーをポンポン避けるのは…》

「失礼だなお前ら!?」



……因みにだがこのOSには“コンボ”は実装していない。理由は武がアンリミにせよ、オルタにせよ……コンボは『あの世界』の武では無いと発想すら出ないだろうからだ。
搭載したのは機体の即応性の高速化とキャンセルのみ。キャンセルなら転倒の際に制御が奪われて死に掛けたor死んだ、という実例がこの世界にはあるので大丈夫だと俺は思う。

兎も角今は、このOSを制御下に置く事が目標だ。




「〈ガクンッ!〉っお!?」


シミュレーターのF-18/Eが転倒を再現し、機体の制御が奪われる。
即座にキャンセルを発動、倒れこみながら突撃砲を発砲して網膜に写される接近中の戦車級を撃ち抜く。



「―――――良し」



起き上がり、跳躍ユニットを使用して大きくジャンプ。空色のF-18/Eが空と同化し、次の瞬間には一気に地表へと降下。
背部兵装担架からブレードを選択、目の前の要撃級を叩き潰す様に切裂き、バックステップ。

そしてそのまま突き進み、前方から迫る突撃級の群れを引き付けジャンプ。反転降下で飛び越え、加速。

そんな動作を、今までの常識では考えきれない様な機動を難なく行う。その速さに、俺は唇が歪んだ形を取るのを押さえれそうに無かった。




完成形が想像できる、未完成なOS。そのOSが見せるであろう可能性に……俺は小さく、隠す様に微笑んだ。






      ◇




【2001年7月2日~太平洋日本近海、国連軍輸送艦“スティルヴァ”】




「大尉ー!日本が見えましたよ~!」

「ああ、うん…」

「……凄い名誉ですよね!国連軍教導隊にあの機動を享受するなんて!」

「うん…」

「…………“EXAM”の実戦証明も有りますし…絶対に成功させましょう!」

「………………帰りたいよぅ、あのヨーロッパの地に…」



私の隣で膝を抱えて丸まりながらBETA地獄のヨーロッパに帰りたい、とか呟いている大尉。その物騒な発言に私は思わず溜め息を吐く。

私と大尉、それにF-18/EXと整備チームの皆は在日国連軍最大の基地である横浜基地へと向かってます。
理由はあれから様々なデータ取りを行って完成したOS、EXAM(大尉命名)の実戦証明の為とその教導の為。
教導隊への指導……かなりの名誉だけど大尉はかなりの落ち込み具合です。

なんか、「アカン、アカンのや……“読まれた”らぁぁぁ!?」と叫んでコロコロとまた転がってましたが…何なんですかね?









       Δ
       ▽







【日本帝国神奈川県横浜 第11国連極東方面軍 横浜基地】



こんにちは、こんばんは、おはよう。正門の門兵,sのチェックを受け、横浜基地の敷地へと入った俺です。
―――――皆さん………正直言って死にたいですorz(これから先に起こるであろう出来事への不安で)



「失礼します。バーラット中尉とマクダビッシュ少尉ですしょうか?」

「あ、はい。貴女は?」

「私は当横浜基地の副司令である香月大佐の秘書官、イリーナ・ピアティフと申します。当基地の案内役を勤めさせて戴きます」



orzの体勢から声が聞こえた方へと顔を向け、足から視線を上に上げていく。皆さん、生ピアティフ中尉ですよ!
…………モロ博士の関係者じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ!?



「―――これはご丁寧に。私はクラウス・バーラット中尉です、短い間ですがよろしく」

「エレナ・マクダビッシュ少尉であります!よろしくお願いします!」

「此方こそ、よろしくお願いします。―――ようこそ、横浜基地へ」



微笑み、歓迎の言葉を告げた彼女の後へと続いて各種施設の説明を受ける。
野外訓練場、PX、使用する個室、共用シャワールーム、戦術機シュミレーター施設etcetc…(因みにだが使用するPXは幸運な事に京塚のおばちゃんが担当する場所だった)

その最中で回った戦術機ハンガーを見ていた際にUNブルーの吹雪が5機格納されていた事から時期的に207A隊の機体なのかな?とか思ったくらいで、特にトラブルは無かったのが救いだ。



「アラスカほどじゃ無いですけど大きい基地ですね、大尉」

「仮にも極東最大の基地だからな……ただ、基地の空気が緩すぎる。仮にもここはソ連・インド・ヨーロッパと並ぶ最前線なのにな」

「そーですよねぇ。大尉って傍から見たらふざけてても常に一定の緊張感は持ってましたし」

「此処は日本帝国軍や付近の国連軍基地によって守られている場所ですから……そう感じるのは、無理もありませんね」



ピアティフ中尉の言葉に俺は頷く。確かに、帝国軍が常に最前線へと身を晒しているからこそのこの空気だ……俺が何時ぞやに居た基地は直接BETAが攻めてくるからなぁ。
俺の記憶が正しければ帝国軍による佐渡島からのBETA防衛線は二重に敷かれているからその間に防衛体制を完全に整えるのくらいは訳無い。
この基地の規模で大体、2~300機の戦術機ならスクランブル(緊急発進)で1時間もあれば全機出撃可能だろうしね。(1時間で瓦解する防衛ラインだったら日本は滅亡してるし)



「あの、ピアティフ中尉。国連軍特別教導隊、でしたっけ?その皆さんとの顔合わせは何時に?」

「それは明日より教導を開始する予定ですから、その際に顔合わせをすると思います」

「ああ、中尉。その中に鳴海って男は居ないか?」

「――――ッ!………確かに、鳴海孝之中尉がいらっしゃいますが…お知り合いですか?」

「ええ、明星の際に。……あの馬鹿、ちゃんと生きてたか……」



俺の問いにピアティフ中尉の表情が一瞬だけ固まり、続けた言葉で小さい笑みを零す。
いや、気になったから聞いてみたけどやっぱり生きてたのか………………





               や  べ ぇ   す  で  に  本  編  か  ら  脱  線  し  て  る





「鳴海中尉もお喜びになると思いますよ?では、本日は此処までとします。今晩はごゆっくりとお休み下さい」

「了解デス」



笑顔のピアティフ中尉と別れ、PXで蕎麦を流し込み、部屋に戻ってベットに入って―――…ちょっとだけ、枕を湿らせた。









【横浜基地~????~】




『……以上がバーラット中尉とマクダビッシュ少尉を第三者の視点で見た私の感想です』

「そ、ありがとピアティフ。下がりなさい」

『ハッ』

「さて、と……随分と面白い事になったわね~」



白衣の女性が通信をしている間に温く冷めたコーヒーを喉の奥へと流し込み、椅子へと深く腰を落とす。
机の上には二人の詳細な情報がこと細かに記されている書類が乱雑に置かれている。



「あ~んなゴミでふざけた物を作ったから調べて見たけど……面白いわね、この男。――――それで社、“読め”た?」



女性は、嗜虐的な笑みを浮かべて自身の傍に居る少女へと目をやる。
その視線を受けたウサギを連想させる少女、社霞はゆっくりと呟く。何処か、困惑した様子で。



「博士…」

「何、社?」

「距離が遠いのと、何か混乱気味なのがあるんですけど、読めました」

「へ~…内容は?」








「――――魔法少女、って……なんですか?」

「…………は?」






後書き


            魔法少女リリカル霞、始まりません。                            疲れてるのかな、俺






~なぜなに人物紹介~



【クラウス・バーラット(28歳)】
本作主人公。階級は(何時まで持つかは分からないが)中尉、兵科は衛士。コールサインはホルス01。

・現実よりマブラヴの世界へと転生した転生者であり、元々は大学生。
・本人は原作への介入を余り良くは思わないらしい(でもついつい介入しちゃう、悔しい!けどビクn)。
・地味にエースだけど本人はあまり興味無い。俺TUEEEEEEEE!は何度と死に掛けた所為か、そんな感情を持たなくなった。
・お姫様と部下に好意を抱かれてるが、ガン無視である。
・中身(精神)は既におっさん。
・レーザー避ける変態。
・結構感情で動く、特に命が掛かっている場合。


【エレナ・マクダビッシュ(17歳)】
本作のヒロイン(?)。階級は少尉、兵科は衛士。コールサインはホルス02。

・彼女がクラウスを呼ぶ際の愛称は『大尉』。
・主人公との付き合いは2年ほどだが、既に女房的位置である。
・10回を超える実戦経験を持つ準エースである。
・兄がイギリス陸軍に所属しているらしい。


【おやっさん(本名及び年齢不明)】
主人公属するNFCA計画の整備チーム主任。

・主人公曰く、「野生のアストナー○」
・OSも作れるし、機体を要求どおりに設計も出来る凄い人。


【お姫様(今だ詳細不明)】
イギリス王国の本物のお姫様。主人公に命を救われた。





[17023] 【第七話前編】横浜day,s
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/05/31 21:27

【2001年7月3日~国連軍横浜基地・シュミレータールーム~】



<Side 夕呼>




《此方ヴァルキリー00!ヴァルキリーズ各機、状況を報告せよ!繰り返します、状況を報告せよ!》

『此方ヴァルキリー02!挟撃を受けている!っっ――このやろぉぉぉぉぉぉおおお!!』

『ヴァルキリー02!無闇に突っ込むな!速瀬、手綱はしっかりと握ってろ!直ぐに援護に向かう!』

『了解!イーグルの癖に何で不知火より速いってのよぉ―――!!』

《ヴァルキリー02、胸部管制ユニット部被弾。大破判定》

『鳴海が喰われた、離脱しろ速瀬!P-B30へと再集結!デコイ(囮)を使用、捕捉されるな!?』

『わ、分かってます…ってもう捕捉された!?え~い、離れなさいったらぁ!!』




「何なの、あの機動…」

「まりも、元富士教導隊の衛士として……率直な意見をくれるかしら?」

「――――夢を見ている気分だわ」

「―――そう、少なくとも使えるって訳ね?」



私はモニターに写る猫に追われるネズミの様に撤退する3機の不知火と、獲物を追う獅子にも見える2機のイーグルを傍目にやる。
オルタネイティブ4直属部隊であるA-01…嘗ては連隊規模であった部隊も今は5名の小隊となっているが戦術機の腕は世界でもトップクラスの集まりだ。

その5人がだ、数で劣り、戦術機の性能で劣る相手に苦戦を強いられ、今も更に1機が撃墜されている。



「―――正に、笑劇ね…」



最後の1機…伊隅の乗る不知火の脚が射撃でもがれ、その一瞬の隙で接近したイーグルが長刀を振り下ろす。



《ヴァ、ヴァルキリー01…左肩部から右腰部まで長刀による斬撃により大破……状況終了、ホルスチームの勝利…です》



A-01のCP士官である涼宮 遥の呆然とした声が響き、15分の短くて、長い模擬戦が終わった。






        ◇





「皆さん、腕は良いんですが……概念が固まってますね」

「だな、通常のOSに慣れている人間なんだから仕方が無いっちゃ仕方が無いんだが……」


今日の晩御飯は何にしよかね~?しかし、かなり久し振りにイーグルに乗ったな。



「ただ、途中から確実に捉えて来ました……正直、このEXAMに慣れたあの人と戦っても勝てる気がしません…」

「確かにな……最後の不知火の一射にはかなり焦ったぞ」



やっぱ鯖味噌か?久しく食べてないし。お土産は何にするか……あの不知火、隊長機だろうな。



「兎も角大尉、この後は座学ですからドレッサールームで着替えましょう?」

「おーう、了解」




………ふぅ、やっとのんびりする事が出来た。
あ、さっきの変な言葉(鯖味噌とか)は霞対策の『マルチタスク』である。俺は魔法少女リリカルな○はで知った奴だけどね。
同時に複数個の思考を回し、霞のリーディングブロックを行う。思考の内容は様々だが下らない物ばかりだから大丈夫、多分。

これで読まれてたらもう手の打ち様が無いから半分開き直ってるけどね!
(それっぽいのを取得したい人は『日本語の文を英語で話しながら、ドイツ語で日本語文を同時に書き写す』をやってみよう)



「さーて、今日はサッバ味噌だぁ~♪」



もう、野となれ山となれ~だぜ~。







      ◇






「……以上が、EXAMの特筆すべき点であります」

「なるほど、任意によるキャンセルとCPU強化による処理能力の増大で再現不可だった機動を行える様にする、と…」

「その通りです、伊隅大尉。CPUの処理能力が強化されたのとキャンセル、この2つが大きな即応性を生み出してくれます」

「非常に興味深い……それに、その力は実体験したので此方に文句は無い。よろしく頼むぞ、バーラット中尉」

「此方こそ、伊隅大尉」



俺はブリーフィングルームでA-01メンバーとの顔合わせと新OSの説明会を行い、丁度終えた所だ。
しかし、こうして見渡して見るとやはりA-01の消耗率は半端じゃない。衛士は伊隅大尉・鳴海中尉・速瀬中尉・宗像中尉・風間少尉の5人にCP士官の涼宮中尉1人の6人だ。

A-01という特殊性からして人員の補充もやはり難しいのだろうか、はたまたオルタ5派の圧力なのか……。



「?バーラット中尉、どうかしたのか?」

「いえ、以前に鳴海中尉は“連隊”と言っていたのでそれなりの人員が居る事を予想してたんですがね……随分と少ない、と思いまして」

「……我々の部隊は新兵器や対BETA戦の情報収集も行う部隊だ。実戦への参加も多く、教導隊の役目もあるので補充要員も限られる」

「―――なるほど、理解しました」



伊隅大尉がそう告げ、俺は頷く。咄嗟に出したか以前から用意していたかは知らないが先程の言葉が嘘であるのは分かった。




…………だって、鳴海が速瀬中尉と涼宮中尉に睨まれてすっごく顔を青くしてるんだもん。(余計な事を喋ったわね…!?な感じで)



「…実機の方は既に換装作業に入ってますか?ピアティフ中尉」

「作業はシュミレーター戦が終了した時点を持って開始しています。総チェックを含めて翌日から使用可能かと」

「了解です。NFCA-01a(F-18/EX)は?」

「既に全整備を完了してます。C型装備(実弾)を装備すれば戦闘行動も可能ですが、実機教導任務の際に機体は吹雪を運用するように、と命令が」

「吹雪で?そりゃまた何で…ってああ、そう言えば不知火の直系機でしたね……え、今から慣熟ですか?」

「………テストパイロットなんだから余裕でしょ?とのお言葉です…」



……あの人(副司令)の命令だから特に何も言わないでおくが……無茶振りにも程があるだろ。
そりゃ、主機出力も低い練習機だし力ずくで制御してから手懐けるのが出来るけどさ………しかし吹雪か、乗る事になるとは思わなかったな。



「あの、私達が使用する吹雪は?」

「当基地の訓練兵が使用する吹雪がありますのでその内の2機を使用する予定です」

「え、あの…それじゃあ訓練兵の機体を奪っちゃう事になってしまいますけど…?」



エレナが小さく手を挙げ、ピアティフ中尉に質問する。帰ってきた答えにエレナは少し驚き、聞き返している。
確かに、訓練兵…恐らくは207A隊の吹雪を俺達が使用するのは些かアレである。命令ならば従うしか無いが、内心では決して良い気分ではあるまい。

例えれば、『愛車を好き勝手に乗り回される』とか『楽しみにしてたゲームを先にプレイされる』…だろうか?―――――良い気分、しないだろ?



「中尉、吹雪を借りる事になる部隊名は?」

「部隊名…ですか?207A訓練小隊ですが?」

「了解しました。では皆さん、本日はここまでとします…エレナ、行くぞ」

「りょ、了解です!」



慌てて俺の後ろに追従して来るエレナを引き連れ、ブリーフィングルームを出てその足でPXへと向かう。
もうそろそろ夕食の時間だし、もしかすると207隊の連中が居るかもしれないからね。






    ◇





【side 茜】




「あー……まだ一回も乗って無いのに~」

「ま、災難だった~としか言い様が無いよね~」

「茜ちゃんと晴子ちゃんの吹雪、有無を言わさず没収だったからねー」

「いや、没収って……何かの任務で使用するから実機演習が少しやりにくくなるだけだって神宮寺教官が言ってたでしょ?」


場所はPXのとある一角、そこに訓練兵を示す階級章をフライトジャケットに着けた少女達が座っている。
涼宮 茜・柏木 晴子・築地 多恵・高原 舞・麻倉 静香の207A隊はそれぞれが思い思いの食事を手に普段は談笑しているのだが…どうにも、空気が違っていた。



「まぁまぁ茜、そんなに落ち込んだって吹雪は帰ってこないんだから…」

「分かってる、やっと戦術機に乗れる!と思った出鼻を挫かれただけよ…」

「あれだよ、茜の吹雪を奪った奴にビシッ!と言ってやれ~!」

「静香…あのね?相手は十中八九、上官なんだから言える訳…「いや、言いたければ許可するぞ?」へ!?」

「だ、だだだ誰ですけぇ!?」



声を掛けてきたのはシニカルな笑みを向ける外人…トウモロコシの毛の様な赤茶の髪をオールバックにし、機能性に優れた筋肉質な体をピッチリとしたフライトジャケットで覆っている。
この基地では見ない部隊章だったのもあるが、彼の階級が中尉であったのもある。

慌てて起立、敬礼。皆も続いて敬礼すると外人の中尉は戸惑った顔をし、私に声を掛けてきた。



「おいおい、そんなに固くならないでくれ……英語だと、どうにも固いな……日本語で良いか?」

「ハッ!中尉殿、私共に何か御用でしょうか!(日本語話せるんだ…)」

「いや、この基地で吹雪を運用しているのは訓練小隊である君達だけ…そう聞いているが間違いないか?」

「そうですが……あの、失礼かと思いますが吹雪を借りるのは……」

「俺と、俺の部下だ……迷惑を掛けてスマン!」



そう言って頭を下げる中尉に全員が絶句する。中尉が、訓練兵(二等兵扱い)である私達に頭を下げるなんて誰が予想出来るだろうか?
少なくとも、私の常識の中ではそんな人は居ないだろう………というか。



「は、早く頭を上げてください!周囲から不思議そうな目で見られてます!」

「気にするな」

「私が気にします!!」



頭を上げた中尉はHAHAHAHAHA!とか笑いながら私達の自然な動作で空いている席に座り込み、鯖味噌定食の前でパンッと手を合わせる。

「いただきます」……目の前の外国人が笑顔でそう言う光景は、非常に不自然であったが……何故か、日本人の様に堂に入ったモノだった。







後編へ続く





後書き

一人暮らし、もやし炒めは飽きてきたブシドーです。食生活の劣化が執筆スピード減少に繋がっているんでしょーか?



[17023] 【第七話後編】横浜day,s
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/05/31 21:29
【2001年7月10日~横浜基地PX~】



「……っ!」


ごくりっ、と俺は生唾を飲み込む。いや、正確に言うなら空気を飲み込んだのだろう。
口の中は、緊張の為かカラカラに乾いている……飲み込む唾なんて傍から無い。


「よし…あと一本…!」


爆弾解体用のハサミがチョキンッ…という短い音を立て、赤い線を切る。
既に20分以上、この作業を繰り返しているが未だに馴れないのは……やっぱり、滅多に体験しないからだろう。

俺は、息を大きく吸い込み―――そして…!






          チクッ






「あ痛ぁっ!?」

「…!(ビクッ)」


――――よし、ぬいぐるみの補修完了!………最後の最後でミスしたけどねー。


「ほれ、社君。直ったぞー?」

「……ありがとう、ございます…」


俺は修復を完了した呪いウサギ人形(って名前だったけ?)を霞に渡し、序でにポンッと頭を撫でる。
ビクッと反応するが、ウサ耳をピョコピョコと動かすだけで特に抵抗もしないので撫で続ける……………やばい、癖になりそう!


「よかったねぇ、霞ちゃん。アンタ、男なのに裁縫上手いねぇ!」

「どうも、京塚さん。昔から器用貧乏でして(昔、自分の腹を縫った感覚でやった……なんて言えNEEEEEE!)」

「……お腹、痛そうです…(モフモフ)」


俺の背中をバンバン叩く京塚のおばちゃん、苦笑しつつも背中を擦る俺、人形をモフる霞……違和感しかない光景がPXに展開されている。

……地味にカオスだな。
あ、あと、何で霞と一緒に居るかは気にするなよ?ちょっとした事で知り合ったのさ。






    ◇




【2001年7月8日~横浜基地・戦術機シミュレータールーム~】



「孝之、相変わらずのイノシシだな……痛い目を見ただろうが」

「うっ…そ、それを言われるとひっじょーに俺は何も言えないんだが……」

「黙れ突撃バカ」


シミュレーターから降り、片隅に置かれたベンチに座って煙草を取り出す。左右確認、エレナも居ないので気兼ねなく吸える。
……エレナ、俺が煙草を吸うと「煙草はメッ!ですよ!」とか言って取り上げるからなぁ。


「フゥ……」

「……煙草は体に悪いぞ?」

「早死にする予定だから、健康にゃぁ気をつかってねーんだ」


煙草の煙を肺に大きく吸い込み、吐き出しながら思考を回す。
先程まで俺は孝之と1対1での対戦をしていた。孝之は俺と同じく突撃前衛長を務めているらしく、戦闘スタイルが似ていた。

そんな訳もあって孝之と俺は良くつるんでるのだ……因みにこのへたれ野郎、まだ速瀬と涼宮(姉)との三角関係に決着を着けて無いらしい。

まぁ、涼宮(妹)がA-01に所属したら四角関係だけどね!………愚かな、鳴海孝之。


「しっかし……不知火は動きも良い、捉えにくいな。極東だと、武御雷を除いたら最も高性能機なだけあるよ」

「ああ、かもな……というか、お前の機体は吹雪だってのに俺は未だに捉え切れないんだぜ?突撃前衛長の名が泣くぜ……」

「そりゃ、年季が違うからな」

「そういう問題じゃねーよ変態」


酷ぇ!?俺ってそんな扱いばっかじゃん!


「……無自覚なら、俺はアンタを尊敬するよ…」

「おう、尊敬しろ!」

「………ハァ」






【side 孝之】



クラウス・バーラット……欧州国連海軍が誇るトップエースであり、現在はNFCA計画のテストパイロットとしてユーコン基地へ出征。
NFCA計画中に発生したCPUの処理能力という問題を香月博士の気まぐれで送ったスクラップから開発し、その有効性を認められて横浜へ……。


「(経歴は分かってはいるけど……どう見ても、そんなオーラは無いよなぁ……)」


隣で幸せそうに煙草を吹かす男の顔を横目で覗き、小さく息を漏らす。
今はダレている彼だが……欧州方面の訓練校に属する海軍衛士達はクラウスを憧れと畏怖、敬意を持って様々な呼称で呼ばれているという。

『死神を欺く男』、『Mr,マジシャン』、『ホルスの目』、『一人一個大隊』等など……確かに、要塞級の腹の中に隠れる~なんて非常識な事をする奴だから不思議じゃない。


「……タバコは体に悪いぞ?」

「早死にする予定だから、健康に気をつかってねーんだ」


……衛士として戦場で死ぬのと、何らかの病気で死ぬだと……どっちが早いんだろうな。
そんなくだらない事が思い浮かび、苦笑する。

どっちでも死にそうにないな、と思ったからだ。


「なぁ、聞いていいか?」

「ん?何だ孝之」

「アンタが戦う理由、それが知りたくなった」


ふと、気になっていた事を聞いてみる。
俺は『オルタネイティブ4を成功へ導く』なんて部隊の目標以外に個人として……鳴海孝之として、『遥と水月を守りたい』……それが俺の戦う理由だ。

俺には人類を、地球を守る…なんて誇大妄想を言うつもりは無い。第一、俺は守る所か守られた人間だ。
でも、コイツは……クラウスは今までの中で守る戦いを多く経験してきた。仲間も一般人も関係なくだ。俺はそんな男の、戦う理由が気になったんだ。


「ん~……俺が戦う理由ねぇ。軍人だから…ってくだらねー理由は最初に捨てるぞ?」

「ああ」


クラウスは2本目の煙草を消し、3本目の煙草に火を着け一吸い。ゆっくりと煙を吐き出し、のんびりとした顔で言う。


「仲間の為ってのもあるな……でも、最大の理由は俺にとっての故郷を取り返す…だな」

「故郷?それってアメリカか?」

「孝之、俺は米軍から国連へ追い出されたんだぜ?愛国心なんてドブに捨てたぜ」

「そ、そうか…(何気にスゲーこと言うな…)」

「俺は故郷の無い雲みたいなモンさ……風(軍)の吹くまま(命令で)、あっち行ったりこっち行ったり……で、最後には消えるのさ」


つまらなそうに言い、煙草の煙で輪を作りだすクラウスを見て思わず生唾を飲む。
これだけ聞くと、彼には理由が無い……それは、死に場所探しをしている様にも捉えれるからだ。

クラウスは続ける。


「………しいて言えば…父親の言葉がある」

「親父さんとの約束?」

「『また……あの青く、全てを吸い込みそうな青空へと戻りたかった』……父が言った死に際の言葉だ。病気で退役したんだがね、何時も空へ戻りたいって言ってた」

「親父さん、パイロットだったのか?」

「ああ、戦闘機のな」


そう言えば……クラウス本来の乗機であるF-18/Eの改良機の塗装は青空の様な青色だったのを思い出す。
あのカラーリングは、自身の意思の表れなんだろうか…。


「ま、そんくらいさ。俺に出来る事なんてたかが知れてる……一人の人間に、出来る事は限られてるんだから」


クラウスは立ち上がり、片手を振りながら離れていく。
その背中に……何処か、寂しそうな物が俺には見えた気がした…。






     ◇



【Side クラウス】




「………ふぅ」


俺は基地裏にある丘へと居た。あの『木』も発見、そこの背中を預けて目を閉じる。

鳴海に戦う理由を聞かれた時、何故か動揺したのを思い出す。考えてみれば……


「そんな事、あんま考えた事もねーや……」


衛士として戦った1年目―――涙を流し、死にたくないと思いながらも戦った。

2年目―――部隊の仲間が全滅し…それでも諦めずに戦った。

3年目―――酷いノイローゼになり、逃げたくなっても戦った。

4年目―――初めて部下を持ち、守ろうと戦った


思い返せば12年間、戦う理由の大元は『死にたくないから』だった気がする。
………死にたくないのにBETAと戦う、これいかに?


「……矛盾してるな、俺」


ごろんっと寝転がる。今日は雲が多い空で全体的に白い空、、まるで俺の心境を表している様な気もする。


「やれやれ、何時になったら俺は―――」


居眠りでもしよう、そう考えた時には目蓋が重くて……何時の間にか、俺は寝てしまっていた。




そして2時間後、揺さぶられる様な振動に目を開く。

視界に映る、銀髪ウサギ娘………………やっべーぇ!?お、おおおお落ち着け!ドイ‥じゃない、国連軍人は慌てない!常にKOOLだ!って違げぇぇぇ!?


「………君は?」

「……社 霞です」


内心だらだらと冷や汗を流しながら小さな笑みを顔に出し、兎に角落ち着く。
『何で霞が?』とか『やっべ、聞かれた!?』とかの思考は全部破棄、複合思考開始!


「起こしてくれてありがとう。あの、社君でいいかな?何でこんな所に?」

「はい…………(じ~…)」


………あの、ジッと見つめないで?おっちゃん、心が汚いからさ、そんな純粋な目には弱いのよさ。
そんな風にアホな事を考え、気を紛らわしていると霞が再度口を開いた。


「もう、お昼です…」

「ほ、ホントだ……」

「雨、降りそうです」

「た、確かに……空がねずみ色だな…」

「風邪、引いちゃいます………」

「………」



なにこのかわゆい生物、お持ち帰りして良い?







後書き


執筆中は良く仮面ライダークウガの『青空になる』を聞くブシドーです。
さて、私が叫びたい事が一つ…







もやしの可能性、もやしの世界、究極のもやし、至高のもやしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

では、また次回で。




[17023] 【第八話】そして、物語は加速する
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/04/26 12:59
【2001年7月18日~横浜基地ハンガー~】



「ふぃー……」


額から頬へ、そして首筋へと伝わる汗を手で拭い落とし、タラップから降りる。
タオルを掴み、冷たいコンクリートの床へ倒れる様に身を投げ出し、上を見上げる。


「……ありがとな、最高の“女”だったぜ?お前はよ…」


そう物言わぬ青色の巨人『吹雪』に呟き、ゆっくりと立ち上がる。
かれこれ3時間以上、俺は吹雪を磨いていた。俺の趣味……と言うより、降りる事が決定した機体は磨くのが俺の流儀なのだ。

たったの2週間の付き合いだが……やはり、何処となく寂しさもあるものだ。


「……まさか、こんなに早くお別れとはねぇ」


三次元機動を伝授し、一定の熟練度を見せたA-01への教導任務が解かれた俺は不知火の直系である高等練習機、吹雪を返納する事となった。
ぶっちゃければ…A-01は吹雪の主機出力では既に相手できない程の技量に上がっていたのだ。流石は特殊任務を扱う精鋭部隊という訳だ。

ここでの話だが俺は吹雪を高く評価している。実際、練習機でありながら秘めたポテンシャルはどの第三世代機にも劣っていない。
それに、俺はF-4、F-15、F-14、F-18、F-18/Eと乗り継いでいったが素直だった米軍機とは違い、何処か硬派な趣を感じさせる吹雪は実に俺の日本人の部分を刺激したのもあった。


「でもまさか、1機も落とせず墜ちるとは思わなかったな…」


外へ出て、煙草を咥え、ライターを探しながらふらふらと歩き、口の中で言葉を転がす。
今日の午前中に行った実機演習において、孝之と速瀬中尉の2機連携に強襲されてエレナと分断された。

その後は伊隅大尉と宗像中尉がエレナを押さえ、風間少尉の援護射撃を回避しながらビルに囲まれた閉所で世界有数であろう突撃前衛コンビとの格闘戦だ……二度とやりたくない。


「………ん?」


とまあ、あの左右に振られる戦術機シェイカーを思い出しながら身震いし、心を静める為に煙草に火を付けていると夜のグラウンドから均一なリズムが刻まれる音が聞こえる。
俺は吹雪を磨いていたので時間を忘れていたが既に午後10時過ぎ、この時間帯は警邏部隊と待機部隊、HQ要員以外は基本的に自室待機の筈だ。

それに、この時間にグラウンドを使用する部隊は居ない筈なので恐らくは自主鍛錬をしているのだろう。
そう思い、思わず足を向けてしまう。

俺は何処かこの暗闇の先に居る人物が分かっている様な気がした。一歩ずつ足を進める度に湧き上がる……期待している様なこの感情に思わず苦笑する。



自分は原作に絡まない――そう決めたのに、何処か原作のキャラとの接触を楽しみにしている自分にだ。



「――――やっぱ、か…」


しばらく歩くと少し視界が開け、足音の正体が判明する。
月の光を受けて光る白いリボンに揺れるポニーテール、高貴さを感じさせる顔立ちに力強い意思を含めた瞳……マブラヴの主要キャラクターの一人―――御剣 冥夜。

その人が短く、リズムに乗った呼吸音を繰り返しながら発してした。


「………(幾ら基地内だからって……こんなにも簡単に出会えるモンなのかねぇ?)」


心の中で呟き、煙草を消す。
四肢の筋肉を解し、大きく背伸びしてからBDUの上着を脱ぎ、タンクトップ姿になる。

久々に、全力で走ってみるのも面白い……そんな悪戯心がくすぐられたのだ。


「ふぅ……少し、休け‥「ご苦労さん」っ!?」


一度走るのを止めてトラックから出た御剣の横を走り抜ける際に声を掛け、一気に加速する。
凡そ400mのトラックだ。ペースを配分すればそれなりに長く走っていられるが今は汗を掻くため、殆ど全力疾走の様に走り抜ける。

1周、2周‥5周、6周…10周と走り続け…―――


「―――ゲホッ!?」


―――ムセた。
しかも微妙に過呼吸になっており、思わずゴロゴロと地面へ転がってしまう醜態を晒している。


「中尉殿!大丈夫でしょうか!?」

「スマ‥水…」

「た、只今!」





       ◇




「あ゛~……死ぬかと思った!」

「御自愛下さい、中尉」

「すまん、迷惑を掛けた」


御剣が持って来た水を飲み干し、一息着いた所で今の状況はこれだ。

 
○ ●


○が俺で、●が御剣な?
ぶっちゃけ、ベンチに並んで座ってる状況(微妙に間が空いてるが)でございますとも、ええ。



どうしてこうなった。



「あー…御剣訓練兵だったか?自主鍛錬とは勤勉だな」

「はっ!一日も早く戦場へ立ち、戦う為であります」

「そうか……では、おっさんからのお話とアドバイスだ」

「は、はぁ…(お、おっさん?)」


何処か固い彼女の雰囲気に老婆心ながら助言を口に出す。
白銀が来るまで、彼女達の関係が少しでも良くなってれば……そんな淡い気持ちを抱いてだ。


「訓練兵の仲間とは仲良くしておくんだぜ?何れは部隊へと配属されるだろうが……戦友なんだからな?」

「はっ…」


御剣の声のトーンが若干だが下がる。
まー仲間割れで演習に落ちてから日も浅いんだろうからアレなんだろねー。


「俺の話をしてやるとするとだな……俺も、貴様より年下の訓練校から卒業したばかりの衛士を率いた事がある……仲の悪い、協調性が無い奴等をな」

「…」

「15~16のガキ共だ、そいつらと小隊を組んだ初めての実戦で1500のBETAに俺達は囲まれた」


御剣の顔が驚愕に染まる。
年齢の事なのか、それとも1500ものBETAに囲まれた事なのかは分からなかったが俺は話を続けた。


「弾薬も心許無し、機体状況も最悪に近い、支援砲撃も他の区画に出現したレーザーに対応している為に無し、勿論、援軍も来ない……そんな状況で、どうなったと思う?」

「―――」

「答えを言うのなら……全員、生還した。BETAの包囲網に穴を開けて、そこを何とか抜けてな」

「…!」

「そんな経験と死に掛けた事であいつらを本当の仲間にしたって訳だ」


同じ釜の飯を~という訳じゃ無いが、同じ戦場、同じ死の恐怖を共に協力して乗り切ったのだ。それで仲が更に悪くなる事はまず無い。
これは、経験則での言葉だ。


「……貴様は207A隊を知っているか?」

「……はっ、戦術機課程に進んだ207訓練隊のA分隊であります」

「そうだ、この基地には訓練部隊は1つしか無いし、207Aの涼宮には機体を借りた際で多少は関係があったので少しだが貴様等の事を聞いてな……御節介という訳だ」


手で弄んでいたボトルをゴミ箱へと投げ込み、綺麗に入ったのを見届け空を見上げる。
さて、特に何を言いたかったのかと言えばだな…。


「―――人はそれぞれ、考えも違えば信条も違う。勿論、それは当たり前の事さ」


3分程黙り、纏めた思考を口に出す。この世界で生きる前には考えもしなかった人間が、考えさせられた事だ。
それなりに説得力はある筈だろう。


「でも、隣で戦う奴の背中を守れば自分も守ってくれる。それに、信じあえる仲になればお互いの命を守る為に戦える……そういうもんだぜ?」


この助言で、どう変わるかは知らないが……後は、ミスター主人公さんにお任せするとしよう。


「うっし……風邪引くなよ~?」

「……ありがとうございました!」


御剣の声に軽く手を振り、自室へ戻りシャワーを浴び、着替える。
そして『さぁ、寝るか~』と身構えたその時、御剣との会話のチャンスが最後になるのが分かっていたかの様に……警報が、鳴り響いた。









後書き



最近、戦術機で妄想が止まらないブシドーです。


初めての相手は熟女ファントム(F-4)

めちゃめちゃに壊した普通の子、イーグル(F-15)

体の軽さと元気さが売りのスポーツ少女、ファイティングファルコン(F-16)

ザ・ガッツ、サンダーボルト(A-10)

2人相手でも大丈夫なトムキャット(F-14)

主人公の嫁、ホーネット(F-18)

パワーアップして帰ってきました!ワスプ(F-18/EX)

地味って言うなー!サイレント・イーグル(F-15SE)

寝取った異国の女、吹雪

邪魔する奴は○しちゃうヤンデレ、チュルミナートル(Su-37)

吹雪く北国の幼女、ビェールクト(Su-47)

雨に濡れる家無き子、ブラック・ウィドウII(YF-23) →( ´神`)のお告げにより、『涙に濡れる未亡人』へ変更

吹雪のお姉ちゃん、不知火

不知火とは1:7の勝率なライバル、ラプター(F-22)

剣道少女、武御雷




………………うむ。



[17023] 【第九話前編】天空の眼
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/05/31 21:36
【2001年7月19日、深夜0時12分~横浜基地~】



走る、走る、走る…―――走り抜ける。

周囲にも同じ様に駆ける人の波、その顔のどれもが緊張の色に染まっていた。
緊急事態を告げるアラートだ。それは、命が失われる危険性がある事態が発生し、自分達にもそれが降りかかる可能性を示唆するからだ。

そして、確実に戦術機部隊の出撃が要請される。
それを俺は分っているから走り続ける。


「――大尉!」

「エレナ、付いて来い!」

「了解!」

≪防衛基準体勢2発令、防衛基準体勢2発令。全基地要員は主要部署へ集合し、指示を待て。繰り返す、防衛基準体勢―――≫


アナウンスが防衛基準体勢2を知らせ、それを聞いた周辺の兵士達の顔が安堵に変わり、走る速度を緩めるのを見てつい舌打ちをしてしまう。
今なら、香月博士が捕獲したBETAに基地を強襲させた気持ちが分かる。

確かに、腑抜けているのは否定出来ないな…。


「―――おやっさん!機体状況は!?」

「着座調整と弾薬さえ積めば何時でも!」

「分かった!エレナ、10分で済ませろ!」

「了解!何時もので!」


NFCA計画チームが使用しているハンガーの更衣室に飛び込む様に入りながら既に機体へと群がり、チェックをするおやっさんに声を掛けておく。
それから欧州国連軍で正式採用されているイギリス軍仕様の衛士強化装備を着込み、最後にヘッドセットを装着、ズレが無いか確認―――


「良し…!」

「クラウス!命令書が回ってきたぞ!」

「詳細を、口頭で簡潔に!」

「新潟方面にBETAの侵攻を確認した。これにより欧州国連軍本部からの命令が受諾され、横浜基地へNFCA計画の第2フェイズ実行を支援せよ…との事だ!」

「分かった!飛んで向かうのか!?」

「そっちの方が速いだろ!司令部に光線照射を受けないルートを算出して貰った!確認しておけ!」


シートへ着座し、片手では細かな計器の確認や起動シークエンスのチェックをこなしながら聞くと叫び声の様に返答が帰ってくる。
それに俺は手を軽く振るだけで返答し、操縦桿を上下左右に動かしながら渡されたチェックリストを覗き込む。


「おやっさん、弾は装填分だけで良いぞ!ブレードと推進剤だけ確実にな!」

「分かってる!もう新潟方面に簡易補給所の敷設を開始してる!」

「そうかい!流石に腹ペコじゃぁ戦争は出来ないからな!」

「お前さんの場合、戦争ってより虐殺だがな!」


冗談を飛ばしあいながらも止まらずに手を動かしながら考える。
俺が本来、日本に来たのは一回目の対BETA戦でのF-18/EXの運用試験だ。予定では3日後、新潟方面に点在する国連軍基地で待機を開始する予定になっていたのだ。

ぶっちゃければ……EXAMの教導は『ついで』なのだ。


「で、俺らが展開する区域は?」

「予定だと旧新津ICで補給と最終点検、そこから旧新潟中央JCT付近で展開予定だ。撤退も容易い場所らしいぜ?」

「BETAの予想規模は?」

「大体、一万から一万五千だ。帝国軍が間引き作戦の為の砲戦力を集結させてたのもあったし、被害は比較的少なくなるとの予想だ」

「ま、被害が少ない事は良い事さ……出すぞ!」

「あいよっ!総員退避ー!!」


おやっさんの檄に『あらほらさっさー!』とでも聞こえてきそうな程に素早く、機体に取り付いていた整備員が離れる。
それを見届け、各関節のロック解除を実行。


「―――OK、無事を祈っててくれ」

『カッコつけてないでサッサとハンガーから出ろ!』

「へいへい」


通信で入ってくるおやっさんの声に適当に返事をし、オートバランサーの数値を最後に確認。ゆっくりと操縦桿を前に倒す。
その瞬間、戦術機という巨人は彼の腕となり、脚となり、目となり耳となった。


「…頼りにしてるぜ、相棒?」

『任せて下さい!』

「俺はワスプ(F-18/EX)に言ったんだ」

『私も相方なんですけどー!?』


ポンポンッとユニット内の側壁を叩き、呟くと通信機から自慢気な声と悲痛な叫び声が響くが無視。
エレナの自己主張をBGMに兵装チェックをする。


「36mmが2000発、120㎜が6発、ファルケイが2振りに………は?」


右腕に36mmと120㎜がフル装填されたGWS-9突撃砲、背部ブレード担架に収められたファルケイソード2振り。
まぁ、それは良いんだ。何時も使っていた装備だからね?でもさ……


「何でフォートキラーがあんだよ!?」

『プレゼントだ、アラスカの時からあったぜ?』


ワスプの隣に停車した一台の支援輸送車両のコンテナ上部が開き、一振りの大剣が姿を表す。
ぶっちゃけ、予想外な程にもある。


「誰が!?つーか持って来てたの!?」

『本部からだ、目立つからな。ソレで派手に暴れろ…との事らしい』

「や、確かに目立つが…」



【BWS-3 GreatSword】

英国軍が正式採用している大剣型近接格闘長刀。恐らく『世界で最も美しい対BETA兵装』だろう。

日本の刀の様に防御ごと切り裂く斬撃よりも防御の上から叩き潰す打突戦術を重視した設計となっている為、それなりの重量がある。
だが、その重量から生み出される攻撃力は凄まじく、"要塞級殺し"(フォートスレイヤー)の異名で呼ばれ多くの部隊章のデザインにも用いられた。正に英軍の顔とも言えるだろう。

世界各国の軍では英軍の突撃前衛の象徴として知られ、非常に高い攻撃力、耐久性と防御性を兼ね備えた傑作とも謳われている。ま、つまりは…


「宣伝か?イギリス軍兵器の優秀さの?」

『まぁそう言うな。極秘だがEF-2000を帝国へ売り込む案があるらしい……今は、自国内用の生産ラインで手一杯だろうが…』

「何で知ってるんだよアンタ」


そういや、いつぞやに助けたお姫様もEF-2000に乗ってたな。あれって先行量産型か?


『ま、旧知の間柄ってやつさ。それより、横浜基地から直援部隊が出るって聞いてるんだが……』

「この基地で、俺達の機動を把握してて直ぐに動ける精鋭部隊は限られるしな……まさか…」


そのまさか、とでも言うかの様なタイミングで後方より友軍機接近を示す青い光点がレーダー上に表示される。
所属は『UNAS(国連軍所属教導隊)』と表示され、機種を検索すれば『TSF-TYPE94』と表示される……やっぱり?


『そのまさか、という訳だ。遅くなったな、バーラット中尉』

『ヤッホー♪あんたのソレ、な~かなか派手な機体ねー』

『エレナ少尉が乗るノーマルのF-18/Eが味気なく感じるな。いや、しかし……前々から思っていたがエレナ少尉の強化装備姿には何処かそそられる物がある』

『まあ、美冴さんったら』

『随分とまぁ、デカイ剣だな~』

「ありゃ…皆さん御揃いで」


通信が入り、それを繋ぐと網膜に伊隅大尉の姿が映る。
どこか不敵な笑みを浮かべているのは、EXAMの証明の場に早々に立ち会えた事の喜びか、その他の何かか……どちらにせよ、好戦的な雰囲気を全体的に放っていた。


《ヴァルキリーマムよりヴァルキリーズ、ホルスズへと通達します。現時刻を持って作戦行動を開始、予定ルートの移動を開始せよ!繰り返す、移動を開始せよ!》

『ヴァルキリー1了解。聞いていたな、貴様ら!EXAMの性能を試すのも良いが、BETA共にホルス小隊機を傷つけさせるなよ?』

『『『『了解!』』』』

「ホルス1了解、CPはどうなってます?帝国軍が用意を?」

《私がヘリで向かいます。では、現地でお会いしましょう》

「了解……さて」


涼宮中尉からの通信が切れ、司令部より出撃許可が下りる。
俺は、ゆっくりと目を閉じてから深呼吸し……



「―――出撃(で)るぞ!」



短く声を発し、機体と共に空へと上がった。







続く



[17023] 【第九話中編】天空の眼
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:c0435dd8
Date: 2010/05/31 21:35

【日本帝国 新潟旧国道116号線  Side 名も無き帝国軍衛士】




怖い。

戦艦から放たれる砲弾の発射音が、風を切って飛来するミサイルが、BETA達の侵攻によって揺れる大地の音が……そして、自分の震える体と歯軋りの音が……とても怖かった。
ここは新潟。佐渡島を望む日本帝国絶対防衛線であり、私の初陣の場所でもあった。


『6時方向!要撃級6!戦車級70!!』

『ヴァルチャー02、ヴァルチャー04!貴様らはタンクを殺れ!ヴァルチャー03、付いて来い!!』

『『了解!』』

「りょ、了解っ!」


02とタイミング同調、自機との距離1000を切った戦車級の赤い波にも見える群れに突撃砲を向け……斉射。36㎜が次々に突撃砲より吐き出され、BETAを引き裂いていく。
赤黒い血煙、弾け飛ぶ肉片、半身を吹き飛ばされて裏返った亀の様にもがく戦車級………まだ、戦い始めて5分も経ってないのに…何処か見慣れてしまった光景だ。


「――対象、沈黙…」

『よくやった、ヴァルチャー04。良い腕だ』

「あ、ありがとうございます!」

『気を抜くなよ、まだまだ御代りはた~くさんあっからな?』

「も、もう要りませんよぉ~!」


通信機から笑い声が響く。
それは、近隣の部隊からも聞こえてくる……は、恥ずかしい!?


『はっはっは(ピー)………チッ、厄介ごとが来たな』

『通信…?隊長、例の開発部隊ですか?』

『ああ、予定区画から前線へと乱入したらしい。付近の部隊に協力要請が本部から来た』


隊長のイラついた様な声が聞こえ、仲間からも不穏な…と言うより、不歓迎なムードが漂う。
相手が国連、というのもあるのだろう。私自身は兄と姉が国連軍に所属しているのでそこまで心象は悪くはないのだが。

そんな事を思っているとレーダーに反応が7つ。
友軍マーカーが国連軍所属を示している事から件の部隊なんだろう。


『視認した……おいおい、不知火だと?』

『ふん、帝国の新鋭機を国連に使用させるとはな』

『この機体(撃震)に不満がある訳じゃ無いですけど……なんか、納得出来ませんね』


UNブルーの不知火5機に護られる様に囲まれる見た事も無い大剣を携え、明らかに試験機と分かる独自のカラーリングの戦術機にその同系機が1機。
IFF上ではF-18/Eと表示されている改修機が真っ先に低空飛行を解除して着地、突撃砲と直ぐにでも発射出来る姿勢にし、大剣を地面へ突き立てる。

良く見ると、F-18改修型には所属を表す『EUN』(欧州国連軍所属)の他に『NFCA-01a』という形式番号。
肩部装甲に描かれた古代エジプトの『太陽と天空の神』を司るホルス神の目を現代風にデザインし直したエンブレムがやけに目立っていた。


『失礼、私は欧州国連海軍所属のクラウス・バーラット中尉であります。今回はお世話になります』

『ようこそ最前線へ。今も周辺部隊から支援車両が集結中ですので支援“だけ”はご安心を』


意外と…というか、違和感すら感じない流暢な日本語が通信機越しに響き、此方に代表の開発衛士であろう赤茶色の毛の男性が網膜に映る。
ヴァルチャー小隊長の中尉が在り来たりな言葉を述べているが……その対応には明らかに『迷惑だ』という意志が篭っている。


『歓迎ムード…では無いな、やはり』

「ええ、予定地からこんな最前線に躍り出て来てしまったのでしてね?此方も対応に追われているのですよ」

『た、隊長!それ以上は不味いですって!』


ヴァルチャー02…副隊長が隊内回線で諌める様に声を上げる。
確かにこれ以上の挑発はホルス01への心象を悪くし、日本帝国という国すらも悪く見られる可能性も無きに有らずだ。

そんな私達の心配は、響き渡る警報の音によってかき消される事となった。


《………ッ――!?ヴァルキリーマムよりホルス小隊、ヴァルキリーズ、ヴァルチャーズ各機へ!地下より振動感知……BETAです!推定個体数…3000!?そんな、予測より多い!?》

『『『『『なっ!?』』』』』

《いけません!全機、後退して下さい!BETA地表到達まで………5、4、3……今!》


戦域をサーチしていた管制官の素早い反応のお陰か、一気に湧き出てきたBETAに誰も食われずに下がる事に成功する。
でも、おかしい。こんな数のBETAが、まるで狙うかの様に集中して出現するなんて……。


『ヴァルキリー00!光線属種は!』

《確認出来ません!要撃級と戦車級が大半です!》

『畜生!中隊規模で当たる数じゃねぇぞ!?』


不知火から《SOUND ONLY》と表記された通信者の質問に、答えが直ぐに返ってくる。
もう1機の不知火からも男の声で悪態を吐く声が聞こえたが、それは非常に同意出来る内容だ。

私も……足の震えが止まらない。とても、怖いのだ。


『いや――――』


突撃砲を接近してくる要撃級へと向けてトリガーを押し込もうとした瞬間、何時の間にか隣に立っていたホルス01の呟きが聞こえる。
見ると左背部兵装担架が稼動して左手に死神の鎌を連想させる様なブレードを保持させ……私の隣から一瞬で消える。


『なっ!?突っ込‥』


隊長の声がその台詞を言い切る前に私がロックオンしていた要撃級のマーカーが消失する。F-18/EX…ワスプがやったのだと、数瞬してから気付いた。
ワスプがブレードを只の肉塊と化した要撃級から血飛沫を上げて引き抜くと同時に言った台詞を……私は忘れないだろう。

このBETAとの戦争において……何人がこう言えるのかは分からない。でも、あの自信に満ちた声……あの安心感はもう味わえないだろうから。




『―――なら、互角だ』


私はこの瞬間、“死の8分”を越えたのだ。





     ◇




【Side クラウス】



ハーイ☆皆、元気に戦争してるぅ?………スマン、今の状況から精神的に逃避したかっただけなんだ。
いやさ、職業軍人の如く……と言っちゃアレだけどさ……ワザワザ最前線に来る俺ってかなりの物好き(馬鹿)だよね。


『あっはっはー♪嘘みたいだけど、らっくしょーね!』

『おい水月!突っ込みすぎるな!』

「おい、突撃前衛長が部下相手に尻に敷かれてるってのはどーなんよ?」


目の前にウジャウジャと沸き上がる戦車級の群れへと36㎜弾を撃ち込みながらのんびりと会話を続ける。
EXAMを習熟した俺達にとって、3000という数は実際は大した脅威では無い。支援砲撃も潤沢に行われている事や光線級が居ない事もあるが有利に戦況を進めている。

唯一の誤算はEXAMを搭載する為に高性能CPUを搭載した俺達の機体にBETAが興味津々なのと、俺の突撃砲の弾がもう直ぐ無くなりそうだという事か……補給しとけば良かったね!


「エレナ、エレナ~弾ぷりーず」

『だからしっかりと搭載して下さいって言ったじゃないですか!?』

「ごもっともで」


エレナのありがた~いお言葉に正直に謝りたくなるが、そうも言ってられないのが今の現状だ。
エレナのポジションは強襲掃討(ガン・スイーパー)、背面及び両碗に保持された4挺の突撃砲によって中衛及び後衛へと接近するBETAを薙ぎ払うのが仕事だ。

今の戦況…帝国軍小隊を含めた約一個中隊規模で総数3000(絶賛増大中)のBETAを防ぐ場合、彼女が抜けるのは非常に嬉しくない状況だ。
というか戦車級が多すぎる、弾が不足するってレヴェルじゃねーぞ。


「あーもう、ウジャウジャウジャウジャと!」


500‥400‥300‥200‥100‥50……0、再装填。
突撃砲に装填された2000発の弾を撃ち尽くし、補助腕による最後の弾倉を装填している隙に突撃級BETAが距離を詰める。


「コッチに来るなってぇの!」


跳躍ユニット点火。ロケットエンジンが瞬発的に機体を加速、上昇させる。
そしてそのままクルンッと前転宙返りの様に機体の向きのベクトルを強制的に変更、頭頂部が地面と垂直の状態で飛び越えた突撃級の背面部へと36㎜を叩き込み、沈黙させると同時に着地。

着地した瞬間、右肩部スラスターと左跳躍ユニットの噴射角度を調整し一回だけ最大噴射。機体を180度回転させて振り向き様に接近していた要撃級へと深く突き刺す。
元々が近接戦を考慮しない米軍機のF-18/Eでしかも片腕だ、一瞬でブレードを保持していた左腕が負荷許容値を超える。その結果、ブレードが強制的に手元から離れた。

大きくバックジャンプ。俺が手放したブレードが深々と突き刺さった要撃級は数体の戦車級を巻き込み、沈黙する。


「―――あっぶね~」

『やっぱ、アンタは変態だわ』

『お前、変態だな』

『整備班に殺されますよ?』

『人間辞めているんじゃないか?』

『いやぁ、清々しいまでの非人間振りですね?』

『あらあら』

「お前らなぁ!?」


それは武ちゃんに言えよ!アイツこそ真の変態じゃねーか!(機動的な意味で)


『此方ヴァルチャー01。支援砲撃を要請した、その区域から離れてくれ!』

「了解―――なっ、互角だろ?」

『非常に遺憾だが…事実だったな』


A-01の不知火や俺が大きくBETA郡へ突っ込んだお陰か大分進行が停滞しているBETAの一団へと支援砲撃を後衛で援護してくれていた帝国軍部隊が絶妙のタイミングで支援砲撃を要請してくれていた。
あと30秒もしない内に到着する支援砲撃が残りのBETAを殲滅してくれる……そう、思っていた俺だが油断せずにBETA郡の赤い光点が集結したマーカーから目を逸らさない。



そのお陰か、誰よりも早く声を上げる事に成功していた。


「―――っ乱数回避ぃ!!」

『『『『『――――ッ!?』』』』』


俺の叫びに、集結していた各機が一気に散開する。
その瞬間、泣き出した赤子の様に管制ユニット内に鳴り響くレーザー照射警告。それは光線級の出現を意味し……今、その瞳に自機を捉えているという証明でもあった。







【後編へ続く】


今週の土日は出張だぜぇぇぇ!  三┏( ^p^)┛  │樹海│




[17023] 【第九話後編】天空の眼
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:c0435dd8
Date: 2010/05/31 21:39
【同年同日 新潟】



暗い夜空に地上から放たれた幾重もの光が空を照らし、大きな花を咲かす。
なんて、何処かロマンチックに(ロマンチックか?)言っては見たが事実を述べるとすれば、着弾する筈だった砲弾が光線級に迎撃され、撃ち落されたのだ。

勿論、AL弾では無い通常砲弾だった為に重金属雲は殆ど発生していない。それを意味するのはレーザーが直撃すれば一瞬で屑鉄になる危険地帯。
俺にとって……いや、全世界の兵士にとっても忌むべき存在が今、この空を支配している。


「各機、無事か!?」

『ヴァルキリー01、全機無事だ!』

『ヴァルチャー01、何とかな!』

「了解!支援砲撃要請!通常弾でもAL弾でも良い!インターバル中に狩る!」

『了解した!ヴァルチャー01よりHQ!試験小隊を含むH-229に光線級を確認した!支援砲撃を要請する!』


ヴァルチャー01が帝国軍艦艇部隊へと支援砲撃を要請する中、光線級の照射インターバルである12秒を使って簡易防壁(死んだ突撃級)を作成する。
これならレーザーが直接には当たらないし、当たっても逃げる時間が作れる筈。

「モース硬度15は伊達じゃない!」と脳内にア○ロボイスで流れたのは無視の方向で。


「ヴァルキリーマム、光線級の固体数は?」

《はい、現在確認している光線級は総数59体、重光線級は確認出来ません》

「了解……ああ、クソッ……楽な戦いだと思ってたのになぁ」

『大尉、その割には余裕そうなんですが…』

「いやいや、俺ってば臆病だからなー」

『嘘だ!』


何時も通りのツッコミをありがとう……しっかし、実際問題どーすっかねぇ?
各地から集まってるのか、光線級の他にもBETAが接近している事を示す光点が多数。このままじゃ包囲殲滅されるな、BETAに。

撤退するにも光線級に背を向ける訳だから危険、かと言って即決しなければ何れは包囲網が完成し、BETA増大による密度上昇で照射の危険は減るが結果的に危険度は増す。
非常に儘鳴らない物だ。


『くそっ!何が時間が掛かる、だ!!』

『不味いぞ、そろそろ補給をしないとただの的になる!』


俺がこの包囲網を安全に抜ける方法を考えているとヴァルチャー01の悪態と、孝之の焦りの声が響く。
その台詞の一片から予想出来たのが非常に嫌になるが、支援砲撃が行えない、弾がもう無い、だろう。でなければああも怒鳴らん。

そんな事を思いつつ、周囲に目を向ける。
突撃級の隙間から弾幕を張ってBETAを退ける不知火から弾が切れたのか、背部兵装の突撃砲がパージされる。

弾の無い銃は只の重り、その判断は正しいので特に何も思わなかったが………


「………!」

『どうしたホルス01!?』

「――――伊隅大尉、光線級ってのは空中飛翔体に対して照射を行いますよね?」

『そうだが、一体何を……』

「なら、“コレ”は使えませんかね?」

「これは……なるほど」


示す先には、破棄された突撃砲。
戦術機サイズに合わされたソレは非常に巨大で、質量だけで戦車級くらいは潰せるであろう代物。

つまり、“BETAにとっての脅威たる物”だ。その事を理解したは良いが、余りにも予想外……そんな表情をしている。
ま、確かに突撃砲をブン投げて光線級の囮にするのなんて普通は考えないだろう。


『弾薬を考慮して………全部で14~5丁ほど余るな』

「ええ、伊隅大尉は帝国軍部隊の後退支援と防衛線構築をお願いします」

『了解した』

『大尉、私は…』

「エレナ、お前も一度退け。弾がもう無いだろ?」


右背部ブレード担架よりもう一本のファルケイソードを抜き、エレナへと渡す。
エレナは俺に弾を渡していたりしていた為か既に突撃砲の弾が残り少なく、近接戦に備えナイフを装備している。しかも、A-01と同じ様に推進剤の消耗も多い。
これはEXAMの悪い点でもある推進剤の消耗が多くなるという、跳ぶ事が増えた為に起こる事象なのだから仕方が無いが……これ以上の戦闘継続は不可能では無い、が厳しい。

彼女はまだ戦えると言うだろう……だが俺は、それを許す気は無い。


「―――シングルアサルト(単機突撃)だ、俺がレーザーを引き受ける」

『『『『『―――――!?』』』』』

『―――っ!?た、大尉!最小作戦行動単位はエレメント(2機編隊)です!私も…』

「却下、エレナ少尉は伊隅大尉の指揮下に入れ。これは上官命令であり……相棒としてのお願いだ」

『……了解‥です』


俺の言葉にエレナの顔が歪む。言い方はキツイかも知れないが、あれは俺の本音だ。
意外かも知れないが、彼女は勇敢だ……いや、勇敢すぎる。囮役は彼女の様なタイプが真っ先に死ぬ、故に許可しない。

それに、まだ理由はある。

俺が乗る機体は大型の肩部スラスターと腰部スラスターを追加したF-18/EX。飛行中での機体姿勢の強制変更に現状では最も優れている機体だろう。
それに、今までの戦術機機動の概念をぶっ壊すOS:EXAMに最も習熟しているのは俺……囮としては最高の人材と自負している。

故に、俺が行く。



【推奨BGM:GRANRODEO≪Once&Forever≫】




≪BETA総数は1200、目的の光線級はBETA群のほぼ中央に陣取ってます≫

「了解……フゥー…」


ゆっくりと操縦桿を握る指を開き、再度握り直す。深呼吸を一回、丹田に力を込め、心を静める。
武装を確認、装弾数約500発の突撃砲が1丁、グレートソードが一振り、ナイフが2本……無駄遣いは出来ない貧弱さだ。

だが、今までの経験ではもっと酷い戦いが何度もあった。これでも今はマシだ。


≪作戦目標は光線級の殲滅……よろしいでしょうか?≫

「レーザーを殲滅して、飛んで逃げる……それだけだろ?」

≪―――御武運を≫

『停滞していたBETA群、侵攻再開!』

『投擲用意!』

「了解……タイミング同調!」


跳躍ユニットへ点火、青白い炎を吐き出しながら出力を上げ続ける。
ワスプが鈍い音を上げながら膝を曲げ、跳躍準備が完了。光線級の位置、推進剤残量、タイミング、ついでにBGMの脳内再生も確認……良し。


《カウント、3‥2‥1…》

「Dive!」


涼宮中尉のカウントに合わせ、ダミーとなる突撃砲が各機によって空高く投げられ……レーザーがそれを撃ち落す。
その数秒前、俺はフットペダルを大きく踏み込み、機体を空へと持ち上げていた。


「いきなり大歓迎ってか!」


その瞬間から鳴り響く警報、見なくても光線級だと分かる。奴等からしたら極上の餌が飛んでやってきた……そんな認識なんだろう。


「オラオラオラ!当たったら痛ぇぞ!?」


機体が自動回避を行うのをキャンセル、光線級の射線を予測し急降下。
高度11m、小さな操縦ミスが墜落すら生む高度を最大推力で更に加速、ギリッと歯を食い縛り、Gに耐えて飛び続ける。
噴射角調整、肩部スラスターを右、左と左右ランダムに噴射して光線級の射線にBETAの盾を作り続ける。
常にBETAの波を掠る様に飛んでいる為か、機体各所に設置されたブレードベーンがすれ違い様にBETAを切裂き、まるで道を記すかの様に赤黒い血煙を上げていた。

BETAもそんな俺に合わせて道を開いて光線級の射線軸を確保しようと動くがその時には俺は別のラインを飛んでいる。
結果、BETAの足並みが乱れ、侵攻が停滞する。現状では予定していた通りの行動が出来ているだろう。


「退きやがれタコ助!!」


道を塞いだ要撃級を飛び越える。飛び越えた先には戦車級の群れ、迎撃は不可能と判断して機体を上昇。
その瞬間から再度鳴り響く光線照射警報。光線級の双眸が俺を捉える……だが、俺も同じ様に射程距離に光線級を捉えていた。


「…っ!」


回避――――いや、突っ込む。数瞬の内にグレートソードを機体前面に盾の様に構え、フルブースト。
レーザー照射。その数18…他はBETAの影に隠れ、照射出来ないのだろう。照射中の光線級へと突撃砲を向け、掃射する。

沈黙、グレートソードの肉厚なブレードを半ばまで焼いたのを無視し、残りの光線級に36㎜弾をばら撒き、殲滅していく。


涼宮中尉の声と共に、36㎜弾が切れる。


《残り9体》


なけなしの120㎜弾で纏めて吹き飛ばす。


《残り5体》


弾の切れた突撃砲を投げつけ、その質量を持ってして潰す。


《あと3体》


グレートソードを投擲し、地面を砕く。
その際に発生した大小様々な岩が飛来し、その身をミンチにする。


《あと1体》


ナイフシースからナイフを抜く。此方を覗き見、無機質な瞳を怪しく光らせる光線級へと投擲―――――命中。
切っ先が目を抉りぬき、後方の戦車級にバーベキューの串の様に突き刺さった。


「―――此方ホルス01、光線級の殲滅が完了した。離脱する」

《確認しました!支援砲撃が再開します、現場を離れて下さい!》

「了解」


グレートソードを確保、群がろうとする戦車級を振り払って飛ぶ。
ふと見ると、雲を裂くように飛来してきた砲弾の弾が光線級という迎撃部隊の居なくなったBETAを蹂躙していた。

あれでは、生きているのはもう居ないだろう。



「あ~……終わった、かぁ…」


とりあえず、眠いなぁ。






次回に続く



後書き


昨日、米国出身の同僚のと飲みに誘った際の出来事


俺「PJ、久し振りに飲まないか?」 ※決してMr死亡フラグじゃありません、愛称です

PJ「それはいいね、久し振りに食べたいし」

俺「?食べたい?」

PJ「ああ、テバサキ(手羽先)!あれがチキンでも最高に美味いのさ!バドワイザーが無いのは残念だけどね…」

俺「お前、可愛いな」

PJ「…君に背中は向けない事にする」

俺「そんな意味じゃ無い!!」


アホな二人だと思う今日この頃。



[17023] 【第十話】選択
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:c0435dd8
Date: 2010/05/31 23:33

【2001年7月19日 12時24分~国連軍横浜基地~】



どうしてこうなったんだろう……そう思わずには居られない時が人間、誰しもがあるものだ。
俺も現在進行形でそんな状況に陥っているのだから。


「大尉!私の話をちゃんと聞いているんですか!?」


新潟から戻り、機体洗浄を受け、漸く一服でもするかな~といった時に彼女…エレナに捕まった。
それ以降、既に30分はクドクドとお説教が続いている。


「イ、YES Ma'am!」

「私の上官は貴方なんです!そんな言葉を私に使わないで下さい!」


だったら、自身の上官であり隊長でもある俺に説教は良いのだろうか?―――そう問いかけたくなったが厳しい眼光に言い出せない。
普段は整備班から“白百合”とも称される儚さを持つ美少女なのだが……今の彼女はそんな白百合の面影は無く、どちらかと言えば地獄の悪鬼の様な威圧感だ。
かれこれ30分、俺はこの冷たい戦術機ハンガーの床に正座して彼女の説教を一身に受けていた。


曰く、『単身でBETAの群れに突っ込まないで』

曰く、『待たされる身にもなって欲しい』

曰く、『私は胸が張り裂けそうになる』


言葉の意味はよく分からなかったが心配していたのは事実の様だ。でなきゃ、あんなにも怒りはしないだろう。


「悪かった、反省してる、お昼食べに行かない?」

「―――正座、そのまま一時間追加で」

「ひどっ‥(ドシンッ!)ぐふぅ!?」

「私も付き合いますから、逃げないで下さいよ?」


エレナが正座していた俺の太股に腰を下ろす。小柄な彼女は俺の腕の中にスッポリと納まる形になっている。
重りのつもりなのだろうか?此処は戦術機ハンガーなのだからもっと良い物があるだろうに…。


「エレナ少尉も中々に聡いですな?(ボソボソ)」

「ええ、まるで甘える都合を作った様な…(ボソボソ)」

「クラウス、何であんなに慕われてるのに気付かないんだ…?(ボソボソ)」

「ある意味、あんたより罪作りな男よね(ボソボソ)」


遠巻きに此方の様子を伺っている他の基地要員やヴァルキリーズの面々が何やら話しているが聞こえない…が、面白い物を見るかの様な目で見ているのは間違いないだろう。
未だに怒りが収まらないのか顔を赤くしているエレナさん、誰か…誰か救いの神は居ないのか!?


「あの…バーラット中尉にマクタビッシュ少尉、この後にちょっとしたパーティーをやるのですが、お二人もどうですか?」


救いの神…いや、天使が来た。戦域管制を勤めている涼宮中尉が何処か困った様な笑顔で俺とエレナに告げてくる。
まあ、パーティーの理由は明白だ。

BETAに(若干だが危険な面があったものの)快勝―――こんな日は下手な合成食も最高の味に変わるだろう。
それが、仲間と騒いで食べる食事なら尚更だ。


「涼宮中尉……分かりました。此処は、中尉に免じて開放しましょう」


その事を理解しているのか、何処か物足りなさそう(どんだけ正座させる気だったんだろう)な顔をして、俺の上から退く。
衛士強化装備だったので痛みは無かったし、痺れも無い。


「流石は涼宮中尉。素敵です、結婚して下さい」

「え、ええぇ~!?」 「大尉!?」

「冗談だ」


だからそんなに睨むな。というか、俺に恋愛感情は皆無だっての。もうおっさんなんだよ、精神的に。


「HAHAHA!じゃあ、行きましょうか?」




   ◇




「大尉~!ハグしてくださ~い♪」

「あによぉ…あらしらってぇ~!!」

「孝之君タカユキ君たかゆき君タカユキ君孝之君たかゆき君タカユキ君孝之君タカユキ君たかゆき君タカユキ君孝之君たかゆき君タカユキ君孝之君タカユキ君たかゆき君タカユキ君孝之君たかゆき君タカユキクン‥」

「オレが全部、オレが全部……奪い、壊し、踏みにじる。他の誰でもない。オレが………オレが…………オレが全て壊したっっ!!」

「……伊隅大尉」

「言うな、中尉。私もこの状況をどうにかしようと案を模索中だ」


宴というのは酒が入ると何時の時代も、何処の世界も騒がしいものだ。俺は今の現状から判断した事実に頭を抱えてしまいたくなる。
唯一、この場で平静を保っているのが俺と伊隅大尉くらいだ。つまり、この惨状を収束できる人物が二人だけしかいない……鬱になる。
因みに、宗像中尉に風間少尉は二人して何処かへ向かったのでこの現場には居ないのであしからず。


「あー…エレナ、離れろ」

「私はまだ、許してませーん!」

「酔っ払いは面倒臭いなオイ!」

「アンタを見てると昔のバカユキを思い出すのよぉぉぉ!!」

「速瀬中尉まで来たぁぁぁ!?」


腰にエレナ、頭に速瀬のヘッドロックが直撃している状態に悲鳴しか上がらない。
エレナはこう見えて無手での戦闘は俺の知る中ではいけ好かない銀髪ブルスト野郎に次ぐ技術を誇る。ぶっちゃけ、生身ではエレナは最強である。

そして速瀬、こっちもこっちで軽く座った目で此方を睨み、先程から決めていたヘッドロックがずれて首に入り始めている。


「い、伊隅大尉!助け‥って居ねぇぇぇ!?」


最後の砦、伊隅大尉へと助けを求めるが何時の間にか消えている。逃げたの?ねぇ、逃げたの!?

そんな俺の悲痛な叫びが通じたのか、PXの入り口からピョコッと顔を出す少女が一人。言わないでも分かるかも知れんが霞だ。
何処か困った様な色を含ませた瞳が俺を見る。そんな彼女に視線で『助けて』と無言のアピール。



―――――あ、逃げた。


「……どちくしょぉぉぉぉぉ!!」


なあ!前回の戦いは何だったの!?反動でギャグパートなのかこれ!
メタい発言だが俺はそう聞いてみたい。実際、ギャグにしか思えない展開だが現在進行形で死にそうだぞ!?

クラウス・バーラット中尉、酔った女性衛士に絞め殺されて死亡……嫌すぎる。というか、末代までの恥だろそれは。
そんな俺の悲痛な願いが届いたのかどうかは分からない。しかし、何かが通じたのか再度PXの入り口から駆け足の音とどこか聞き覚えのある女性の声が聞こえてくる。この声は…


「こっちです…」

「社、一体どうし…‥え?」

「貴女は、確か神宮寺…(ぎゅっ)ぐぇっ!?」


よくやった霞!後で部屋に来て俺の髭をジョリジョリしていいぞ!!
思わずそんな事を思ってしまった程、俺は霞が呼んだ増援の存在に感謝していた。

神宮寺まりも軍曹、ヴァルキリーズの母とも言うべき人である。階級は軍曹だが、速瀬が逆らう事は出来ないであろう人だ。
まあ、名前を呼ぼうとした瞬間に首締めが本格的にぃぃぃ!?


「バ、バーラット中尉!?速瀬!何をやっている!!」

「あによ、ぐんそーがちゅーいにめいれーしよーってのぉ~!」

「お、お前…!?酒を飲んでいるのか!?まったく!」


珍しく狼狽した様子で声を上げる神宮寺さん。だが、やるべき事は分かっているのか俺の首を絞め続ける速瀬を引き剥がし次にエレナの肩を掴む。
しかし、神宮寺さんは何を思ったのかエレナを引き剥がさずに速瀬の方へと向かってしまった。


「ぐ、軍曹…?」

「いえ、既に無力化している様なので…」

「無力化って……寝てやがるし」

「無事か!バーラット中尉!?」


俺が首を擦りつつエレナを抱き上げると居なくなった筈の伊隅大尉が後方にライフルを携えた歩兵小隊を連れて戻って来た。
いや、ライフル装備の歩兵一個小隊は少し大げさ過ぎやしないか?


「何とか平気ですよ。それより伊隅大尉、鳴海中尉、涼宮中尉、速瀬中尉はお任せします、俺はエレナを連れて行きますので」

「了解した……特に速瀬にはキツく……いや、私は何もしなくても良いかもしれんな」


伊隅大尉の視線の先には腕を組んで額を押さえる神宮寺軍曹の姿。
確かに何もしなくてもいいかもしれない。


「お、そうだ。社もありがとな?神宮寺軍曹呼んできてくれてホントに助かった」

「いえ…」

「そのうち、お礼するな?」


ピョコッと反応したウサミミ(?)を了承の返事と判断し俺はPXを出る。
地下3階の士官室の一角にあるエレナの部屋を開け、そのベットにエレナを放り込む。ふぎゅっ!?とか聞こえたが無視、サッサと部屋を出る。


「あ~……」


手持ち無沙汰になった……がこのままハンガーにでも行って機体の整備状況でも見に行くか…ふとそう思い、足を格納庫方面へと向ける。
今回は無茶をした為か機体へのダメージが大なり小なりある筈だ。それを把握して置くのも開発衛士の仕事だろう。そんな事を思いつつ地上へと出る。

1Fの施設塔を抜けていると前からピアティフ中尉の姿、彼女は俺を見ると近づき、敬礼。


「バーラット中尉、此処に居ましたか」

「ピアティフ中尉?どうしました?」

「いえ、これを」


返礼し、用件を聞くと主に指令を伝える為に使用する書類ケースを渡される。
宛先人は……国連欧州方面第1軍総司令部!?


「特に機密文書では無いようですが……」

「ええ、これは……異動か?」


書類を出し、目を通す。
そこには、確かに異動命令書が含まれている。


「え~…何々?クラウス・バーラット中尉以下NFCA計画スタッフは総員……」


そこには、移動先としてこう書かれていた。



①NFCA計画を完遂とし、国連欧州方面第1軍総司令部へと帰投せよ……欧州√(オリジナル展開、姫様等々)
②近日中に行われる極東ソビエト戦線での国際合同運用試験に参加せよ……TE・オルタ本編√(武ちゃんとかと孝之の絡みに試行錯誤中)






後書き

①と②はアンケートですので、協力をお願いします。予定ではどの√もやるつもりです。
あ、あと私的な事なのですが……




ちょっと仕事で“中東”に行って来ます。3週間は更新出来なさそうなのでご了承下さいませ……何事もありませんように(真面目に)
アンバールハイヴがある国では無いのであしからず(近いですけどね)



[17023] 【書いてみたAF編その①】※主人公はAFを知りません
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:c0435dd8
Date: 2010/06/01 07:27

【2001年12月27日17時07分~御剣警護部隊航空基地・地下4F士官室棟~】




通信が鳴り響く。その瞬間、俺は手元で読んでいた小説を放り投げ受話器を取る。
何時もの通常連絡では無い、緊急連絡を意味するコール音だったからだ。スクランブルか…?


《HQよりホルス01、本家より出動要請。悠陽様、冥夜様及び白銀武様とご学友の皆様の乗る専用機の護衛です》

「ホルス01了解、離陸予定時刻を教えてくれ」

《予定では4時間後、21:00時。行先はセルシウス・リゾートSI》

「ホルス01了解、出動待機に入る」


通信を切り、フゥ…と息を吐く。久し振りに白銀の名前を聞いたからだ。


「やっぱ……EXの世界じゃねーよなぁ?」


2001年の10月22日、奇しくも白銀武が『あの世界』へ旅立った日、俺はこの世界に自我を確立させた。
あの世界での記憶は……衛士:クラウス・バーラットとして生きた記憶はそこまで憶えていない。

あの世界で俺が最後に見た光景は布団に入って、寝る前の天井だ………後は、断片的な戦いの記憶程度だ。


「ホント……どうなってるんだかねぇ?」


衛士からこの世界では御剣家警護部隊の戦闘機パイロットになっていた俺は……取り合えず、流れに身を任せる事にしている。
まぁ、下手に行動するよりは何の問題も無く過ごせるからな。


「行き先は南の島、か……」


黒い革張りのパイロットケースに適当に下着を突っ込み、フライトジャケットを羽織る。序でに、日焼け止めや水着も放り込んでおくのも忘れない。
島に着いてからは恐らくは半休状態なので少しは遊べるだろう、と思ったからだ。


「キャプテン、私は先に待機室に向かってますね?」

「了解した」


ドア越しに響く声、ホルス中隊(人員はメンドイからパス)の隊員だろう。
因みにだが……『キャプテン』ってのは俺のTACネームだ。あの世界でエレナが行っていた大尉の愛称がそのままになったみたいだ。


「うっし……OK」


灰色の耐Gスーツを着込み、しっかりと調整する。
人間の耐えれるGは5,5Gまでとされている。だが、耐Gスーツを着ればその限界を広げる事が可能になるので戦闘機乗りはしっかりとチェックをする。


―――――流石に戦術機と違って、イジェクト失敗すれば死ぬから。


「その内に引退してとうもろこしでも作りながらゆっくりと過ごしたいよ……」


ヘルメットを持ち、部屋を出て格納庫内にある待機所へと入る。
そしてブリーフィング、荷物搬入、軽食、と出来る事を済ませ再度仮眠……そんなこんなをしている内に出撃時間へとなった。


《HQよりホルス中隊各機へ、護衛対象をこれよりα-01と呼称する。以降、α-01に仮設したCPの指示に従え》

「ホルス01了解、中隊各機に伝達。これよりバカンスに向かう、これよりバカンスに向かう」

『『『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』』』


俺の乗る機体を滑走路に誘導してくれた誘導員に手を挙げ、サムズアップをする。
12機のYF-23が並び、飛び立つ時を待つ姿は開発者達が見ればどの様な思いを抱くのだろうか…?


「―――てか、旅客機にコンコルド、戦闘機にYF-23とか……マジで金持ちだなおい…」


YF-23なんてアメリカのF-22と並ぶ最新鋭機を運用している時点で御剣がとんでもねーけどな!
とか思ってる内に2台のリムジンが到着。ゾロゾロとカラフルな髪色の方々(男は白銀のみ)が降りてくるのが見えた。


「うおっ!?せ、戦闘機ぃ!?」

「み、御剣さん…やっぱりこれって私設軍にしか思えないのだけれど……」

「ご安心を、何の問題も御座いませんわ」


白銀の驚愕の声と榊の戸惑いの声が響き、続いて月詠さんの無駄に説得力のある言葉。
それに苦笑しているとHQから通信が入る。内容は「先に飛べ」…とのお言葉だ。


《エンジョイ・フライト、ホルス01》

「オーライ、幸運を祈っててくれ」


先程まで機体チェックをしていた整備員が俺に向けて両手を大きく広げる。
問題無しの合図、それを確認し、細かい計器の最終チェックを行う。エンジン出力計、燃料流量計、排気温度計……左右エンジンとも問題無し。

しっかりとヘルメットを固定し、首を一回し。


「……ん?」


ふと、白銀達の方角を見る。約150mほど離れているが普通に視力4.0(マサイ族には負けるが)を誇る俺にはこの距離なら表情も良く分かる。
此方を見ている白銀の横で浮かない顔をしている銀色の少女……霞だ。


「ふぅむ………良し」


軽く手を振り、最後にサムズアップ………隣のアホ(白銀)が反応したが隣の霞にも見えていた様だ。小さく手を振り返してくれる。
それを見届け、スロットルレバーを引き、一気に加速。


《離陸を許可す‥ホルス01!?》

「―――――!」


アフターバーナー全開。
離陸直後から一気に垂直上昇し、空へ軌跡を残す。………高度2000……これで良いかな?


「ホルス01、離陸完了」

《貴様……ふん、まあいい。基地上空で旋回待機せよ》

「ヤー」







    ◇




【Side 白銀】



「すっげぇぇぇぇ~!」

「……!」


思わず驚きの声を上げる俺と、驚愕の眼差しで上昇していく戦闘機を目で追う霞。
流石は御剣財閥、たかが旅行でもあの手の入れようだぜ!


「……って霞?どうしたんだ?」

「……飛行機、飛べるんですね…」


………は?


「安心しました……」

「いや、飛行機が飛べるのは当然だろ?」


何言ってんだ?霞の奴……。


「………」

「……おーい?」

「武様、間もなく離陸時間ですので御搭乗をお願いいたします」

「分かりました、月詠さん。霞、行くぞー」

「はい」


ジェット機に乗り込み、荷物を預け、シートに腰を下ろす。
しばらくして機長挨拶とその他の注意事項が説明され、少し経ってから離陸した。


「皆様、シートベルトをお外しになって結構です」

「へ~い……うお、高っけ~」

「タケルちゃんタケルちゃん!月が綺麗だよー!」


純夏の無邪気な笑い声の他に悠陽と冥夜の雑談の声や月詠さんがドリンクを振舞う声も聞こえる。
取り合えず、月詠さんに貰ったお茶をのんびりと啜っていたら隣に座っていた霞が息を呑む様な声が聞こえた。


「霞?外を見てどうし……戦闘機?」


俺達が乗る飛行機の隣を並走する戦闘機―――見えにくいが他の機の様な灰色とは違った青と水色を混ぜた様な色―――を見つめたまま固まる霞。
あれは所謂……専用機?というか専用カラーって奴か!いいねぇ、男なら一度は燃えるよなぁ。


「…ん?どうした、社。あの機が気になるのか?」

「…はい」

「あらあら……真那さん?」

「はい、通信を繋げます」

「良いのか?霞」

「…ちょっと、気になります」

冥夜と悠陽が霞の様子に対し、月詠さんへと声を掛ける。
しっかし……珍しいな、霞が何かに興味を持ってそれをしっかりと意見するなんて……。


「繋がりました。ホルス01、聞こえますか?」

『感度良好、日本語の方が良いですかね?』

「ええ、お願い致します」

『了解。えー、皆様!本日は御剣エアサービスをご利用戴き真にありがとう御座います。護衛戦闘飛行隊隊長、クラウス・バーラット大尉であります』

「ぶっ!?」

「!」


余りにも軽快な日本語と、軽い口調に思わず噴出す。
そもそも、『護衛戦闘飛行隊』ってのが出てくる時点でやっぱ普通じゃ無いぞ!?


『我が隊は世界各国より集められた精鋭が操る世界最強の戦闘機、YF-23によって構成されております。ご安心してお寛ぎ下さい』

「……やるね(キュピーン」


……彩峰、何が「やる」んだ?
それと霞、さっきからあの戦闘機をガン見だな。


『…それと、先程から此方を見つめられている銀髪のお嬢様』

「!」

「見えてるのかよ!?」


思わずツッコミを入れる。
いや、飛行機乗りは目が良いって聞くけどさ……。

俺がそんな事を思っていると戦闘機のパイロット…クラウスさんの声が優しさを含み、言葉を続けた。


『“この空”は自由です、ご安心してお休み下さい。―――以上、通信終了』

「―――――」

「……ん?(気のせい――か?)」


通信が切れ、更に加速し見えなくなる戦闘機。
それを見送った霞が……。


「(笑って……泣いてた…?)」




そう見えたのだ。
そんな謎は残ったが……眠気に勝てない俺は、考えるのを止めるのであった。








後書き


暇だったでござる(どれくらい暇だったかと言えば『暁、遥かなり』のフリーマップをリアル全クリくらい)



[17023] 【続きを書いちゃった】AF編その2
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:c0435dd8
Date: 2010/06/01 07:29



【2001年12月28日午前9時~セルシウスリゾート空港・簡易ブリーフィングルーム~】




「さて諸君、ご苦労だった。帰国の際にも今回の様に動いて欲しい」


ブリーフィングルームへと集まった中隊メンバー達へ労いの言葉を告げ、手元のクリップボードに目を落としてから続ける。
ざっと見た所、5時間程度の時間のフライトだった為か全員がかなり気力に満ちている様に思える。


「さてさて……諸君、此処は何処だね?」

『『『『『御剣グループが誇る一大リゾート地であります!!』』』』』

「我らが雇い主、御剣は?」

『『『『『何処よりも給料が良く、装備も最新、超優良企業!!』』』』』

「よろしい……そんな雇い主が予想通り、我等に休暇をプレゼントして下さったぞ!」

『『『『『イィィィヤッホオオオオオオ!!』』』』』

「落着け………良し、では島内で使用できるマネーカードを配布する。順番に取りに来い」


興奮冷め止まぬ隊員達一名ずつにカードを手渡し、最後に自分の分を胸ポケットに入れて全員に行き渡ったのを確認してからファイルを閉じる。
さてさて、取りあえずはOKだ。


「では、以上でデブリーフィングを終わるが……」


俺はクリップボードを片手に護衛フライトに携わった中隊メンバーの顔を見渡し、小さく溜め息を吐く。
俺は、未だにパイロットスーツなのにコイツら……



「何で既にアロハを着ている!?」

「熱帯仕様迷彩であります!サー!」

「隊長は色どーします?」

「話を聞けぇぇぇぇえ!!」



結果、青地のアロハになりましたがね!





     ◇




【同日~ヒッパーコス島~】




「あー…もう、アイツらと来たら……」


椰子の木の下、寝転がりながら俺はこれからの予定を考えていた。
だが…考えが纏まらず、唇の端で火の点いていない煙草をピョコピョコと上下に動かしながら思わず空を仰ぎ見る。

正直、かなり良い天気だし暑い……帽子が無ければ熱中症で倒れてるかもしれない。それに心もかなーり疲れてる気がする。


「暑ぃ………ん?」


チリリーン♪という何処か懐かしい感じがする音が耳に響き、首をその方角へと向ける。
見れば、『アイスキャンデー』という赤いカタカナ表記の白い旗が立っているのが見え、思わず体を起こす。

明らかに日本人向けのそのデザイン、何か臭う感じがする。てか明らかに地雷です、本当に(ry


「……無視しよ」


や、流石に『そ、そんな餌に釣られクマー!』な雰囲気をプンプン出してる様な物に誰が近づきたがりますか?―――近づかないよね?……ね?
とまあ、そんな感じでベガビーチを後にした俺なのだが……この後、とんでもないトラブルに見舞われる事になる。


「ここいらは土産物屋か……」


値段が書いてないのでパス。値段を見ないでの買い物は怖すぎる……金持ち御用達のリゾートだしね!


「橋……」


BETAとの戦いの中で培われた経験がこの先にあるコテージ方面は危険であると判断、パス。


「プール……」


何か見覚えがある挙動不審少女が居るのでパス。


「街路……」


何故か居る速瀬と涼宮(姉)、パス。



そんなこんなで色々とうろつきながら一時間後の午前11時30分。



「行き場が無ぇ…orz」


俺は項垂れていた。島が(広いけど)狭いです、先生…!
思わず膝を着いてしまったが……察してくれ、こっちも色々とあるんだよ(トラブルを避けたい的な意味で)。


「はぁ……取りあえず、日焼け止めだけ新しく買ってくか……」


ふと、そんな事を思う。島中を走り回った所為もあるし、何より日焼け止めがもう無い。
日焼けで皮がベリベリに剥けるのは嫌だからねー。


「ん~…あそこの水着屋ならありそうか?」


視線の先に大きな水着ショップを確認、ついでに見ればサーフボードのレンタルもしているみたいなので好都合だ。
そんな事を思いながら店内捜索、店の一角を曲がると……


「霞ちゃん、似合う似合うー!それ買っちゃおー!私、お会計してくるね!」

「は、恥ずかしいです、純夏さん…」

「ブッ――――!!!」


“どりるみるきぃ”を宿す少女、『鑑純夏』と銀髪のウサギ少女、『社 霞』が居た………旧スク水で(ご丁寧に「かすみ」とひらがなで書かれたネームプレートが張ってあった)


「……え」

「…………」


目が合った。

霞が固まった。

俺も固まった。


「……」

「……や、やあ…」


そのまま見詰め合う俺(麦藁帽子装備)と霞(スク水装備)…………シュールすぎるだろ。


「………(ゆっくりと自分の格好を見下ろし、頭を上げる)………~~~~~~~///!?」

「まあ待て社クン!君のその羞恥に赤らむ顔は一介の(マブラヴ)ファンとしては涙モンのレア顔なのは分かっているし、その姿も古き良き日本を思わせる大変良い物だ。異国の幼い少女と日本伝統の“貴き幻想”(ノーブル・ファンタズム)である旧スク水の組み合わせ……そしてもじもじする、という何処か背徳的な甘美さすら感じさせる仕種は非常にー(ドコォッ!)あごぱぁ!?」


先生、社君が暴力を振るいました!鑑が仕込んだのか、かなり強烈です!
……さて、アホな事はそろそろ辞めておくか。


「いてて………久し振り、か?」

「!……クラウスさんも、やっぱり記憶が……」


霞の瞳が動揺に揺れ、俺は小さく笑って頷く。
彼女も予想外だったであろう……いや、移動中の飛行機内の通信の話の内容からある程度は予測できていたのかも知れないが…まぁ、それはいい。


「HAHAHA!気がついたらこの世界さ☆」

「………何か、隠してます…」


出来るだけ陽気に言う俺と、そんな俺にジト目で呟く様に言う霞。
まあ、多少ははぐらかすつもりで話してるけどさ。


「ハハッ!気のせいだ、あの世界と俺が変わってる様に見えるか?」


そう言うと俺の周りをクルクルと回りながら全身を見回す霞。
普段から無表情気味な顔を若干だが眉を歪め、呟いた。


「変わってません…」

「そうだろう、俺は目の前の物しか信じないんでね」

「………いつもどおり、変です…」

「何気に毒舌だね、君!」

「……知りません(プイッ)」


ほ、頬を赤らめてそっぽ向き…だと…!?こ、この銀髪ロリ!少し俯き加減な所からして意外と高度なテクを使いやがるぜ!
―――因みに、未だに霞はスク水です………シュールだね、やっぱ。


「……そういや、社は携帯を持ってるか?」

「携帯…ですか…?香月博士に持たされました…『ロリコンの変態に狙われそう』って……」

「まー確かにね………よし、ならこれが俺の携帯番号だ。何かあったら電話しろよ?手助け出来るかもしれねーしな」


背負っていたバックに仕舞ってあったメモ帳を一枚破り、そこに電話番号を書いて霞に渡す。
こんな訳の分からん……と言ったら失礼だがハプニングだらけの平和な世界では色々と困る事が多いだろうしね。

そもそも、この世界って何なんだろーね?まるで、『都合の良い』様に整えられた世界なんだが……考えるだけ無駄か。


「んー…そろそろ鑑が戻って来るか……じゃ、俺はここでお別れだ」

「!」

「はいはい、そんな反応するな。今生の別れなんてこの世界じゃ滅多に無いんだからよ」


過去に霞との接点は恐らく無い…筈!
それなのに知り合いだってのも可笑しな話だし、御剣なら文字通り俺の経歴を全て把握しているだろう。

ま、しょうがないっちゃしょうがないが……そうだな…


「そうだな……になれば、問題は無いよな?」

「…え?」


俺の小さな呟きが聞こえなかったのか、霞が小さく言葉を漏らす。
俺は俺で自分で納得し、大仰にポーズを取りながら手を霞に差し出す。


「と、言う事で社君。初めまして、私はクラウス・バーラット、29歳の独身です!小さなお嬢さん、貴女のお名前は?」

「や、社 霞です……あの、クラウスさん?」


かなり困惑した様子だがハッキリと俺の目を見て名前を告げた霞に小さく頷く俺。
しかし……必死に道化を演じてる俺をまるっきり不審者を見る目で俺を見てるね、霞。


「では…霞君、と呼んで良いかな?」

「は、はぁ……」

「よし、じゃあ俺と君は友達だ!」

「……………」

「………何か言おうよ」


ススッと後ろに引いた霞に俺はツッコミを入れる。今からこんな笑劇をした訳を言うから少し待て!


「とある魔王は言いました。『友達になるのは凄く簡単。名前を呼んで……初めはそれだけで良い』ってな?だから、友達だ!」

「友達……」

「そう、友達。故に話をしてても遊んでも何の問題無し、じゃ!」


キュピーン!という効果音と共に目の端を光らせ、シュタッと片手を上げてから霞に背を向ける。
脱兎のごとく……は違うか、悠然と、会計が終わったのかこっちへ向かって来た鑑の横を抜ける形で入れ違う。

それを横目で見つつ、俺はのんびりとした足取りで店を出たのであった………最後に、こちらにまだ感じる視線に手をヒラヒラと振りながら。


「さって……どーすっかなぁ?」


店を出て、ゆっくりと背を伸ばして呟く。さてさて、今度こそトラブルもなく自由に過ごしたいモノだ……。





しかし、これより約一時間後。
昼食を済ませて満足そうな笑みを浮かべてた頃………最大の、いや……ある種の強制力すら感じさせるイベントへと介入する事を………まだ、知らないのであった。








[続く…のか…?]


後書き

ふと、アルカディアさんで読んでいたマブラヴSSの中に『EXAM』というOSが在ったので修正しようか悩んでるブシドーです。
OSといえばブルーディスティニーのEXAMかパトレイバーのASURA、AIといえばZ.O.EのADAとかナデシコのオモイカネが真っ先に思い浮かんじゃう私。

…………これ、年齢がばれる気がするな。





[17023] 登場人物&各種装備設定集※小物追加
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:c0435dd8
Date: 2010/06/02 07:16
※ちょくちょくと手を入れて修正・追加を行います。


『各種設定集』


【名前:クラウス・バーラット】

【性別:男性】

【年齢:28歳】

【階級:中尉】

【所属:国連太平洋方面第3軍アメリカ合衆国アラスカ州・ユーコン陸軍基地】

【所属部隊:NFCA計画(Navy fighter adjacent combat ability addition plan)主席開発衛士 ホルス試験小隊隊長】

【経歴:米陸軍第62戦術機甲連隊(1988~同年)→国連軍大西洋方面第1軍・ドーバー基地(1988~1990)→国連海軍地中海戦隊(1990~1993)→国連軍インド洋方面第8軍・テルクダラム海軍基地(1993~1996)→国連軍北極海方面第6軍・セベロクリリスク海軍基地(1996~1998)→国連軍大西洋方面第1軍・モン・サン・ミシェル要塞(1998~2000)→国連太平洋方面第3軍アメリカ合衆国アラスカ州・ユーコン陸軍基地(2000~)】

【所持資格:大隊指揮官 戦技教官】

【乗機:F-18/EX】

【ポジション:突撃前衛(長)】

【特筆事項】
・アメリカ合衆国陸軍より国連海軍へ転属。(理由はあれど)上官にも歯向かう態度から兵士としては扱い難い、言い換えれば命令を聞くだけの機械にならない兵士でもある。
・射撃重視である米軍の教練を受けているがブレードによる近接戦を好む傾向があり、近接戦では優秀な成績を持つ西ドイツ軍衛士や日本帝国軍衛士、ソ連軍衛士とも十二分に渡り合えるのでは?とも評価されている。
・欧州方面でもかの“七英雄”には及ばないものの名は広く広まっており、機体のパーソナルカラーを許されている数少ない衛士でもある。
・世界有数の機体姿勢制御技術と戦術眼を保有しており、“大空から戦況を見渡しているかの様だ”といった比喩をされ、それ以来エジプト神話の天空と太陽の神である“ホルス”の名を自身が率いる部隊に冠し、UNマークに重なる様に『ホルスの眼』を現代風に再デザインした物を部隊章としている。
・友軍救出率が異様に高く、救出された兵士の中にはイギリス王室の第三皇女も居り、その功績によって英国王よりメリット勲章を受勲されている。


【名前:エレナ・マクタビッシュ】

【性別:女性】

【年齢:17歳】

【階級:少尉】

【所属:国連太平洋方面第3軍アメリカ合衆国アラスカ州・ユーコン陸軍基地】

【所属部隊:NFCA計画 ホルス試験小隊】

【経歴:国連軍大西洋方面第1軍・モン・サン・ミシェル要塞(1999~2000)→国連太平洋方面第3軍アメリカ合衆国アラスカ州・ユーコン陸軍基地(2000~)】

【所持資格:小隊指揮官】

【乗機:F-18/E】

【ポジション:強襲掃討】

【特筆事項】
・イギリス王国出身。任官して3年目だが既に10回を超える対BETA戦を生き残っている準エース。
・国連軍へ仕官した理由は『世界が見てみたい』らしく、イギリス軍には仕官しなかった。
・兄がSAS所属(ただし機密の為に真偽は不明)であり、兄の教練の賜物か生身での近接戦とライフルの取り扱いにも優れる。
・見た目の幼さながら苛烈な戦いを行う様は(主に)整備班からの人気は高い。
・酔うと抱き付き癖が発生する。


【名前:おやっさん(本名不明)】

【性別:男性】

【年齢:47歳】

【階級:曹長】

【所属:国連太平洋方面第3軍アメリカ合衆国アラスカ州・ユーコン陸軍基地】

【所属部隊:NFCA計画 戦術機整備班長】

【経歴:イギリス軍・ポーツマス海軍基地(1974~1980)国連軍大西洋方面第1軍・ドーバー基地(1980~2000)→国連太平洋方面第3軍アメリカ合衆国アラスカ州・ユーコン陸軍基地(2000~)】

【所持資格:1級整備資格】

【ポジション:無し】

【特筆事項】
・1974年、全ての戦術機の母とも言うべき傑作機である『F-4』シリーズから通して様々な戦術機に触れてきた文字通り戦術機の生き字引。
・その整備技術は多くの損傷機をロールアウト仕立ての様に整備するとまで言われた。
・1980年、戦術機整備の技術を買われ国連軍へと転属。現在に至る。
・欧州連合軍が開発したEF-2000の整備スタッフとしてECTSF計画に国連軍より派遣され(正確に言えば英軍からの帰属命令)従事、その際の縁で各国に独自の情報網を持っている(らしい)。
・イギリス出身であるがコーヒーを好む。



『装備』

・国連欧州方面軍機【F-18/EX:ワスプ】
1999年11月、NFCA計画が発足。2000年4月よりアラスカ州ユーコン陸軍基地により計画は実動開始。
《概要》
・国連欧州方面海軍より欧州奪還への架け橋を掛ける第一陣としてBETA支配地域に侵攻する海軍機の改修プランによって設計・改修された機体である。
・ベースとなった機体はF-18/E。この機体選定にはF-14やF-16が候補に挙がっており、大いに議論が交わされる事となった。
・F-14は大型機である為、機体設計の段階から多くの余剰があり、改修するには最も優れていたが近接戦能力の低さと維持費の高さを理由に不採用。
・F-16は3機の中で最も安価であり、高い運動性を誇っていた事で優位に状況を進めていたが海軍衛士のF-16運用率の低さが致命的であったが為に見送られた。
・改修計画で浮上した問題は『近接戦能力の強化』が主に取り上げられた。ベース機であるF-18/EはF-18の強化改修型であったが、元が米軍機だった為か近接戦闘能力の不足が指摘、現場の衛士の希望も多かったのでその案をメインに進められる事になった。
・改修ポイントは『大型化した肩部サイドスラスター』『機体各所に設けられたブレードベーン』『OBLの採用』『各種センサー強化』『腰部スラスターの追加』『近接戦を念頭に置いたフレーム及び関節の強化&電磁伸縮炭素帯(カーボニック・アクチュエータ)の緩衝張力強化』など、総合的に近接格闘能力においてF-15Eを上回る性能となった。
・改修計画には昨年開発された先行量産型EF-2000のノウハウが非常に参考になり、多くの点で生かされる事となる。
・一部にはEF-2000とF-18/EXの類似性から“EF-2000の安価版”と言われたり、参考となったEF-2000 Tyhoon(台風)に類してか“sea breeze(海風)”の愛称が付けられている。
・尚、改修の際に参考としてイギリス軍や欧州連合軍が運用するEF-2000とフランス軍のラファールの2機がホルス試験小隊へ引き渡されている。現在もホルス小隊が保有しているが騎乗衛士は存在しない。


・国連軍正式採用ライフル【TAR-21】
国連軍で正式に採用されているブルパップ方式アサルトライフル。(門兵,sが持ってた銃である)
合成樹脂(センサテック)をストックにし、内部機関部品はアルミ合金とセンサテックが多く使用されて構成されているため、非常に軽量である。
カラーはUNブルーで統一されている。

・国連軍正式採用拳銃【H&K USP】
国連軍で正式に採用されているドイツH&K社製拳銃。
香月博士が白銀に向けていた拳銃でもある。(P8という9mm×19弾を使用するタイプ)

・クラウス個人装備その1【コルト・ガバメント】
M1911の名で知られる45ACP弾を使用する拳銃である。
アメリカ軍ではべレッタM92Fに次いで使用者が多く、また、愛用者も数多い。
クラウスの持つガバメントは彼の祖父から授けられた物であり、老朽化の為か外装の一部を残して部品交換が行われている。
普段はクラウスの懐に仕舞われている。

・クラウス個人装備その2【FN P90】
アサルトライフル並みの貫通力を誇る5.7x28mm弾を使用するサブマシンガン。
非常にコンパクトであり、装弾数も50発と多い。
クラウスが8回目のベイルアウト時、強化外骨格が使用できず兵士級相手に死に掛けた事で自腹で購入した。
普段は彼の乗る戦術機の管制ユニット内に仕舞われている。


・エレナ個人装備その1【M4カービン】
M4A1の名で知られるアメリカ軍正式採用ライフル。
多くのアクセサリーパーツを持つ事で非常に凡庸性が高く、様々な特殊部隊で使用されている。
因みにだが彼女の個人兵装であり、兄からの贈り物でもある。
普段は専用のケースに入れられて彼女の部屋の隅に置かれている。(因みにアクセサリーはフルセットである)
時折、エレナが何処か恍惚とした表情で整備をしている姿が見れるそうな…。



[17023] 【TE・オルタ√第1話】さらば横浜、また会う日まで
Name: ブシドー◆fddcbbd2 ID:c0435dd8
Date: 2010/06/17 19:25
【2001年7月20日 国連軍横浜基地野外射撃場】


青い空、白い雲、そして響き渡る銃声音。ポカポカ陽気に俺の虚ろになりつつあった意識を一気に吹っ飛ばす強烈な快音が響く。
俺の隣には伏射体勢でM4を構えるエレナの姿。今、5本目のマガジンを外し、新たなマガジンを取り出している。


「いや~、やっぱり天気の良い日は外で撃つに限りますね~」

「まーな…」


やけに元気なエレナに空返事をし、俺も台座に置いたままのM1911を手に取り、構える。
衛士といえど基本は兵士、肉体を用いた戦闘技術が錆付いては話にならない。そんな訳で衛士にも2週間に一回は射撃訓練が課せられているのだ。

パパンッ!という乾いた音が2回、響くと共に狙いを付けていた標的の心臓と腹を撃ち抜く。
俺の使うM1911の使用弾薬である45ACP弾は無理に頭を狙わずとも十分な殺傷能力を持つ。その事が染み付いた撃ち方だ。
エレナが俺の撃った銃弾の着弾地点を見て、何処か悔しそうに言った。


「大尉、拳銃の腕前だけは上手いですよね」

「それは喧嘩を売ってるのか?あぁン?」

「いえ!そんな訳じゃ‥(ゴッ!)~~~~!?」


拳骨を一発、伏射体勢から頭を上げて丁度良い高さにあったエレナの頭に落とす。昨日の復讐(※前話参照)ではないぞ?これは愛の鞭だ。
頭を押さえる彼女は取り合えず無視、弾倉に残った弾5発を撃ち尽くす。命中箇所確認―――腕は落ちていない様だ。

そんな事を思いつつ再装填をしていると頭を擦りながらエレナが立ち上がる。そして俺の標的に目を向け、また目を丸くして驚きを表す。


「どうした、何かおかしいか?」

「だ、だって50m先の目標にテニスボール一個分のサイズ内に全弾命中ですよ!?普通にスゴ腕ですって!」

「ガバメントの有効射程範囲が50mなんだ、だからその範囲内で当てれる技術を身に付けた。装弾数も兵士級の急所撃ってギリギリだしな……それに、お前も十分だろーが」


エレナが狙っていた200m先の目標を見る。見ると人型目標の頭部は蜂の巣になり原型を残していないし、心臓や手首等もピンポイントで弾が集弾している。
明らかに平均的な歩兵の能力を上回る射撃能力だ。


「ほんと、身不相応だよなぁ…」

「……大尉、それは酷くないですか?」

「いや、そういった意味じゃないんだがな…」


彼女は本来なら17歳の少女、俺の知る“あの世界”ならまだ女子高生の年代だ。そんな少女が一流クラスの射撃技術を誇る……やはり、此処は異常な世界だろう。
時折、俺はその感覚が麻痺している気がするがこの世界の軍事にどっぷりと身を浸している人間だ。その考えが根付くのが自然なのかも知れない。

そういや、教官の資格を取ったのもそんな事を考えた時だったな……。


「……あ、そうだ。唐突だが今度はソ連に出向するから」

「本当に唐突ですね!…ってソ連ですか!?」

「おう、ほら」


何の前フリも無く言った俺の言葉にツッコミを即座に入れてくれるエレナに感謝しつつ懐に入れていた命令書を渡す。
それを3分程眺めるエレナ。どんな事も見逃さないつもりで一文字一文字、確認している。まぁ、ソ連行きの事実は変わらないのだがねー。


「確かに……えっと、数日中には横浜を出るんですか?」

「ああ」

「ちょっとハイペースな気がするんですが……」

「海はそんなモンだろ?」


実際、固定戦力である陸軍と違って色んな所に向かうのが海軍の仕事だ。時と場所、そして戦場も選べないのも普通の事だ。
そんな俺に『分かってはいるんですけど…』と言いつつも不満そうなエレナ。


「…何か用事でもあるのか?」

「用事って程の事じゃ無いんですが……日本に来たのは初めてだったので少し帝都城を見てみたかったんです」

「つまりは観光か」

「そ、そうとも言います…」


ポリポリと後ろ手で頭を掻くエレナに苦笑し、今日のスケジュールを確認する。
実機は新潟防衛戦で酷使した為に今頃は完全分解整備中だろう。ソ連行きも決定しているので細かい調整も済ませるから実機は整備班に完全に任せる事になる。

かと言ってシミュレーターでの訓練はする気も起きない。つまりは暇だ。


「…よし、マクタビッシュ少尉は午後より半休とする。これは命令だ」

「……へ?」

「返事は?」

「りょ、了解しました!」

「おう、少しは楽しんで来い」


これは独断だが彼女に少しの休暇を与えるくらいは出来るだろう。俺は“命令”したから、何かあった際の責任は俺が取るしね。




   ◇




「さてさてと…」


昼食に京塚のおばちゃんが作った合成豚のしょうが焼き定食(大盛り)を平らげた俺は何をするか、と考えながら合成玉露をのんびりと啜る。
しかしこの合成玉露、高速道路にあるサービスエリアの無料で飲めるお茶みたいな味で何処か懐かしい感じがする。ラムネも飲んでみたがやはり懐かしい物が日本には多いな。

そんな事を思いつつふと周囲を見渡す。
何故か俺の座るテーブル席が避けられている気がするのは何でなんだろう……あと、何かコッチを見て話してるし。


「(まぁ良いか)京塚曹長、ご馳走様」

「お粗末様!アンタの頼んでた品、手に入れておいたよ!」

「それはどうも。お手数お掛けします」

「気にしない気にしない!」


気持ちよいくらい笑う京塚のおばちゃんに背中をパーンッ!と叩かれる。こりゃ痛い、痛いが……自然と人を笑顔にする、元気の出る痛さだ。
俺が前世で学生をしてた頃にもこんなおばちゃんが居た事を思い出し、思わず苦笑してしまう。


「では、俺はこれで」

「あいよ、午後からもしっかりと働くんだよ!」

「ははは…本当は兵隊が働かない方が良いんですけどね」

「そりゃ違いないねぇ!」


紙袋を片手にPXを出る。
目的地を目指しながら中身を確認。酒、煙草、チョコバー、キャンディー、花……注文していた物が全て入っている。
それなりに散財したが……まあ、それもいいだろう。


「此処で良いか…」


基地正面門を抜け、桜並木の中の一本の木の前に立つ。
酒を一口だけ飲み、残りを木に振り掛ける。それから袋の中に入れられたチョコバーやキャンディー、花に煙草を木の幹に立てかける様に置いていく。


「………」


1999年8月5日から始まったH22:横浜ハイヴ攻略作戦、【明星作戦(オペレーション・ルシファー)】から約2年…少し早いが戦友達の命日だ。
何かと教導任務や対BETA戦試験の事でスケジュールが圧迫されていたので後回しになってしまっていたのだ。


「こりゃ、怒られるな」


苦笑しながら煙草を取り出す。
煙草を咥えたは良いが……火が無い。


「ありゃま…部屋に忘れたか?」

「どうぞ」

「ん?ああ、こりゃどうも」


差し出された火で煙草に火をつける。
大きくゆっくりと一吸いし、これまたゆっくりと煙を吐き出す。


「―――火、ありがとう御座います。神宮寺軍曹」

「いえ、中尉は…」

「お墓参り…ですかね?」


お墓はありませんけど―――そう付け足す様に呟く。
見れば、神宮寺軍曹の手には花束と線香。恐らくは同じ様な目的なんだろう。軍曹が花を置き、線香に火をつける横で俺は黙々と煙草を燻らせる。

1分か2分か…極僅かな短い時間が経ち、手を合わせていた軍曹が立ち上がる。
あの短い時間に何を思ったかは分からない。だが、語らずとも皆、似た様な経験をしてきているのだ。自然と理解出来る。


「……教え子、ですか?」

「はい……中尉も?」

「ええ、ルシファーの際にソビエト戦線から部下ごと引き抜かれましてね」


国連軍所属の指揮官として新人のソ連海軍部隊を訓練していた頃、“切り札”であるジョーカーの名を付けて挑んだ明星作戦。
孝之と要塞級の腹の中で過ごすまでに指揮していた中隊が小隊にまで減ってしまった。居なくなった中にはまだ14歳の少年少女達だった。


「ソビエトじゃ13歳で兵士として徴兵です。皆、ガキだったですよ」


何回も衝突しあった何処までも子供だった部下の顔を思い出す。誰が言ったかは忘れたが『大人になるという事は自分で生き方を決める事』だったろうか?
生まれながらにして既に兵士としての生き方を強制されていたアイツらは……一生、子供なんだろう。


「俺は教官としてはまだ未熟だったのか、息子娘を持つ気分になってしまいましてね……一人目が死んだ時、簡易休憩所で泣き叫びました」

「…もう結構です」

「次の出撃で更に3人、その次には4人です。しかも、一人は腕の中で冷たくなっていくんですよ?俺の名前をか細く言いなが‥」

「もう結構です!」


神宮寺軍曹の強い声にハッと気付く。イカン、鬱な方に記憶が入ってしまったみたいだ。
今のは、明らかに余計だ。


「すみません、軍曹」

「いえ、私も理解出来ます…」

「そう、ですか………うっし!」


煙草をもみ消し、短く呼気を発する。これでソ連に行く前に十分に気合は入った。
もう一度、墓参りに来るまで死ねないのも自らに刻み付けて。




「じゃあな、戦友。また来るぞ」





続く


後書き

何とか出張前に更新出来ました。
そして皆さん、アンケートにご協力ありがとうございます。ルートは②をメインに進めて行きたいと思います。

あ、あと中東と言っても基本的にトルコでの活動になりますので大丈夫ですよ!




  ( ゚д゚)  『国‥援船団が…エル軍に攻撃を受ける……トルコ人に死者…』※時事ネタ(?)な為にぼかし入り
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_ 
  \/    /
     ̄ ̄ ̄


  ( ゚д゚ )
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_ 
  \/    /
     ̄ ̄ ̄



[17023] 【TE・オルタ√第2話】北の国から
Name: ブシドー◆00e38a93 ID:c0435dd8
Date: 2010/06/18 18:43
【2001年7月28日 アヴァチャ湾沖】


「大尉、ソビエトの大地が見えて来ましたね~」


遥か遠くにうっすらとだが巨大な大地が見え始める。
国連軍輸送艦の上部甲板、そこの一角にある係留用のロープを巻きつけるビットに腰を下ろして俺とエレナは談笑を続けていた。

横浜基地から出立して早くも7日が経過、北海道の方で一回だけ寄航したがそれ以外はそのまま船の上だ。
衛士である俺とエレナは輸送艦内では“お荷物”扱いらしく、特にする事も無いので甲板で日課の様に風を感じに来ている。


「ああ、カムチャッキーは冷えるから身体を冷やすなよ?」

「詳しいですね…私達の教官になる前はソ連の国連軍基地で教官をしていたんですよね?」

「そうだ、基礎教練を済ませたばっかのガキ共を2年間で216人な」

「……多くないですか?2個連隊規模じゃないですか」


エレナがコップに入れられた紅茶(勿論だが合成品)を差し出しつつ俺に呆れた顔で問う。
俺はをコップを受け取って紅茶を喉に流し込む。胃の中に熱いものが降りてくる感覚が身体に馴染んだ所で言葉を続けた。


「補佐は居たさ、典型的なソビエト軍人の補佐がな」

「うわぁ…」

「まあ、俺が鍛え上げた新米の腕でソイツは黙らせたんだけどな」


俺が鍛えた一期生の中でも最も優秀だった奴は補佐官の奴を戦術機戦で文字通り瞬殺。
十分な腕を持った衛士が教育されるのなら補佐官も文句は言えなくなったのが非常に爽快な気分だったのは記憶に新しい。

いやいや、座学を簡易的にして3ヶ月間ミッチリと戦術機の操縦技術を仕込んだのは正解だったかも知れない。


「あ~……私も似た様なのを受けましたねー」

「顔が死んでるぞ、エレナ」

「大丈夫です、大丈夫ですよ大尉。PTSD(トラウマ)が再発しただけですから……」

「?」


どうしたんだ?俺の教官振りはハート○ン軍曹並みと自負してるんだが……何か不満でもあったのかね?
アレはアレでひっじょーにノリノリであったのは今も懐かしい事だ。

俺はそんな事を思いつつ煙草を出そうと懐に手を入れた瞬間、エレナの目が光ったのに気付いて手持ち無沙汰気味に煙草のパッケージから手を放す。
とりあえずコップの中に残った紅茶を一気に飲み、一息ついてから言葉を続けた。


「しっかし、アホみたいに飛ばなきゃ光線級が脅威じゃない戦場ってのは新米にとっても、試験小隊にとっても最高の戦場だ」

「新米って…ブリッジス少尉の事ですか?彼は大尉と同じ米軍の…」

「ああ、俺と違って本物のエリートだけどな。で、話を戻すが…目の前のBETAにだけ集中できる、光線級に割くべき注意は最低限でいいしな」

「まぁ、確かにそうですが……」

「ある意味、対BETA戦の実戦経験を積むんだったら最高の場所さ」


うんうん、と一人勝手に頷く俺。「山脈」という天然要塞が光線級から戦場一帯を覆っている。そのお陰か爆撃機が未だ最高クラスの運用率を誇る場所だ。
それに加えて、BETAの物量は多いがソ連戦線はBETAの侵攻時期を過去のデータから大まかに予想しているのでそれなりにしっかりとした事前準備が出来る。この事前準備ってのは非常に大事だ。

エレナ曰く「お茶を飲んで落着く時間くらいは作れます」だ。慌てずに戦闘へ推移できる…これは世界の各戦場では最高の環境だろう。

そういや、個人的に一番キツかったのは地中海戦隊に配属していた時だったな……砲弾がビュンビュン飛んで来るし、空母から陸地に着く間に光線級に撃たれるのはザラだし。
昔、出撃した瞬間に撃ち落されたのは今でも夢に見る最悪な思い出だ。……気圧でな、「ミシッ」とか「ピキッ」とかの異音が断続的に響いてきたんだヨ?

そんな俺のトラウマが再発動している中、隣で幸せそうに紅茶を啜っていたエレナは小さく溜め息を吐き、俺に顔を向けた。


「大尉って変人だと昔から思ってましたけど…やっぱり変ですよね」

「まあ、変ってのは自負してるが」

「……そっか、大尉が変態さんって聞いた事があるけど、やっぱりアブノーマル的な意味だったんだ…」

「待てゐ」


エレナが半音下げた声質で呟くのを俺は聞き逃さずにツッコミを入れる。
何か、俺とエレナの間に『変』という言葉の持つ意味の致命的な違いが出ている気がする。てか、絶対そうだろ!


「……マクタビッシュ少尉、貴様の言い訳を聞こうか?」


俺が珍しく苗字に階級を付けてエレナの名前を呼ぶと一瞬で背筋を伸ばす。反応からして俺が本当に怒っているのを察知したんだろう。
そんな彼女に発言を許可し、俺は腕を組もうとして…


「宗像中尉が…」

「………」


頭を無言で抱えた。予想通りっちゃあ予想通りだが……あの人はホント~にもう…。


「OK、分かった。あの人が言った事は全て信じるな」

「え、でも霞ちゃんとはいっつも一緒だったじゃないですか?」

「それについては弁明できん」


確かに、何かと霞とは行動を共にしてた気がするな……朝飯とか昼飯とか夜飯とか、日中に散歩してた時とかな。

これは俺の予想であるが……多分だが、多分だがな!やけに霞と会ったのは香月博士の仕業だと思うんだ。リーディングとかで探りでも入れてるのかは知らないけどね。
いや、もしかすると純粋に俺を慕って……ねーな、俺ってばモテないし、白銀みたいに主人公!ってガラでもねーし。霞が俺に興味を持つ?無い無い。


「ん~…あれだ、社を見てると保護欲が沸かないか?」

「あ、分かります!」

「だよな?俺が何かと甘やかしたから懐いたんじゃねーの?」

「…まるで小動物みたいな扱いですね、霞ちゃん」

「どっちかと言えば娘かもな」


正直、霞は精神年齢50歳を誇る俺にとっちゃ娘みたいな感覚だ。
ま、俺に隠す情報なんてこの世界の未来の出来事とか00ユニットの事、それに各オルタネイティブ計画の事くらいだし、大した事じゃ無い。
………あれ?俺、狙われる理由が多くない?つか、俺の知る情報って今更だけどバレたら確実に消されるか自白剤コースだよね?


「………」


思わずゴクリッと音を立てて生唾を飲み込む。あの人ならやりかねない……いや、決断したら必ずやるだろうし、その権限もあるんだが。
……てか汗、流れ出るのを止めてくれ。あと背中が薄ら寒いんだが……そっか、ソビエトの大地が近いんだったな!!というか、そうであってくれよマジで。


「…大尉、顔色が悪いですけど……そろそろ中に戻りませんか?」

「……ああ」


ま、まぁ、色々と問題はあるがもう横浜からは離れる事が出来たし、とりあえずはこの運用試験を無事に終わらせてサッサとアラスカに帰ろう…。



  ◇



【2001年8月3日 SIDE ユウヤ】


「……」


戦艦から発せられる砲音と船が波を切る音、そして周囲で入港作業をする乗組員の声が混ざり合って響き合う。
それは俺の頭上に広がるグレーをベースにしたマーブルカラーな大空と同じようにも思える。統一性の無い不協和音みたいな感じだ。


「(これが…最前線…)」


まるで墓場だ、周囲の誰かが言ったのが聞こえたが間違いでは無いだろう。
朽ちた船の残骸、まるで空を掴むかの様に海中から突き出た戦術機の腕、最低限の機能しか備えていない艦船の係留所……この世の地獄とはこんな事なのかも知れない。
そして、今も戦いは続けられているのだ。BETAと、人類の終わりの見えない戦いが…。


『進路そのまま、現在0,5ノット』


艦内要員の全てに聞こえるように外部スピーカーが起動しているのか、船橋と港の通信内容が耳に届く。
俺がそのやり取りに耳を傾けている間に入港が完了、船から放られた係留ロープが船と港を繋ぎ止めていく。


『入港完了、誘導に感謝する』

『貴官らの入港を歓迎します――――地獄へようこそ』

「地獄、ね…」


確かにそうだな、と思う。各試験小隊機や装備を船から降ろしているのにも常に気を張っている者ばかりだ。
『最前線の重み』って奴なのかも知れない。


「(上等じゃねぇか…!)」


そう思いながら佇んでいるとVGやタリサ、ヴィンセントが俺の周囲に集まっている。皆、普段と同じ様な態度だが何処か俺とヴィンセントには無い「慣れ」を感じさせていた。


「……(ヴィー、ヴィー、ヴィー)…っ!?」

「何だ?敵襲か…ッ!?」

「いや、これは……」

「“アレ”だよ」


タリサが顎で差すようにしゃくり、俺とヴィンセントは釣られる様に視線を向ける。
2個中隊規模のMi-24…ハインドの名で知られる戦闘ヘリコプターの編隊とそれに続く5機の戦術機、それに目を凝らして見ていたヴィンセントが声を上げて指さす。


「ありゃ多分MiG-27……っておい、後続にも……っ!?」

「な……っ!!」

「おいおい、先頭の2機はホルスだぜ!」


ヴィンセント、俺、VGの順で驚きの声が上がる。隠れていて見えなかったが後続に6機、まさに満身創痍といった体の機体がフラフラと黒煙を上げて続いて来ている。
その動きからして明らかに姿勢制御が困難な状況であるのは明白だった。
そしてホルス隊、あの何を考えてるか分からない男が乗るワスプは普段の空色塗装ではなく、BETAの紫色の体液と同じ色に染まっていた。


「………」


ごくり、と生唾を俺は飲み込む。隣でタリサが予想した元々の部隊規模を呟いているがそれに割く思考も無かった。
あれが実戦で傷ついた機体、BETAとの実戦をした代償……そして、自分がこれから直面する未来の姿……かも知れない。


「ちょ、嘘だろ!?」

「おいおいおいっ!?」

「わわわ!あ、ああああの馬鹿、何をやってんだ!?」


そんな事を考え、俯いていると3人の滅多に聞かない様な声に俺も顔を上げ、その視線を追う。
見ると、黒煙を噴いていた戦術機2機の間にクラウスが乗るF-18/EXが挟まる様な形でゆっくりと下降しているのが見える。

……俺は肝心な所を見ていなかった為に後から聞いたのだがバランスを崩して接触しかけた2機の間に失速機動で割り込んで墜ちない様に支えてたらしい。
一歩間違えば自分も即、墜落だったろう筈だ。
あのタリサがこんなにも慌てている所や、普段は飄々としてVGですら息を呑んでいるが……


「……化けモンかよ」


何故か、俺は呆れが先に来てしまっていたのだった。



 ◇



「少尉、無事か!?」

「は、はい!中尉殿、ありがとうございます!」


俺はナイフで墜落しかけたMiG-27の管制ユニットをこじ開け、中に乗っていた衛士の少女を救出する。
隣では同じ様にエレナも要撃級に殴られて変形し、開かなくなった管制ユニットを無理矢理にこじ開けて衛士の救助をしている。


「手酷くやられたもんだ…」


半壊したMiG-27を見て俺は呟く。本来は何事も無く無事に戻れる筈だったのにどうしてこうなったのか?それは今、担架で運ばれていく4人の衛士達が原因だったりする。
俺とエレナはソ連軍戦術機中隊の支援を受けながらアフリカ連合のドゥーマ小隊と同じ区画で試験をしていたのだが……奴ら、シェルショックになりやがったのだ。
確かにあの小隊は実戦の経験が無い部隊だった、それに俺も初陣の際には涙流して怯えてたから責め様が無いさ……だがしかし、そっから先のドゥーマ小隊のCP仕官の対応が問題だった。

いやさ、唯でさえパニックを起こして使い物にならないってのに後催眠暗示も掛けないと来たもんだ。ふざけんな、と叫んだよ。

確かに、後催眠暗示は状況判断能力が低下するがパニックで友軍誤射するかも分からない奴よりはマシだ。そこに加えて撤退支援を受け持つので結果的に俺とエレナも巻き込まれる。
死者こそ出なかったが……これはかなりの運の良さだろう。状況的には全滅も有り得た。


「ったく、支援が間に合わなかったら今頃全員、BETAの腹の中だぞ…?」


俺達の救援に来てくれたハインドがBETAを押し留めてくれていた一瞬を使って何とか逃げてこれたのだ。
更に言えば他のエリアの防衛を担当していてくれたジャール大隊からSu-27が一個中隊規模で援護に来てくれたのだ。HQから聞いた限りでは犠牲者は出なかったそうだ。
これは後で礼を言わねばならないだろう。


《ホルス小隊、BETA群の侵攻の停滞を確認した。機体洗浄を受けた後、指定のハンガーへ帰頭せよ》

「ホルス01了解……」


さてさて……いきなり波乱に満ちた始まり方だなぁオイ(汗)




続く


後書き

トルコって凄い国でした。(色んな意味で)
一杯のコーヒーにスティックシュガーが5~6本セットが当たり前、お菓子=甘さの塊……「あんぱん、食べたいなぁ」とか思ってた私は日本人だと痛感です。


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