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人とは何か考えた9年 人気マンガ「鋼の錬金術師」完結

2010年6月18日

表紙鋼の錬金術師 25巻

 「月刊少年ガンガン」で連載され、単行本の発行部数が計4200万部に達している人気マンガ「鋼の錬金術師」(スクウェア・エニックス)が、同誌7月号で最終話を迎えた。生命倫理や紛争の問題を描いたと評価される作品だ。作者の荒川弘さんは9年にわたる連載で、「生きるとは何か」を考えてきたという。結末は「自分なりに見つけた答え」になった。

 「何かを得るためには、応分の代価が必要になる」。“錬金術”は、そんな「等価交換」の原則から成り立つ。主人公は錬金術師の少年エドと、彼の弟アル。2人は母を錬金術でよみがえらせようとし、結果、エドは右腕と左足を、アルは体全部を失う。

 機械の義肢になったエドと、空っぽの鎧(よろい)に魂を宿すアル。2人は元の体に戻るため国軍に加わり、旅を続ける。

 物語の冒頭に荒川さんは、人とは何かという問いを置いた。利己心のため娘を実験台にする錬金術師・タッカー。主人公であるエドとアルも、娘の命を救えない。

 「人間の罪を提示したかった」と荒川さん。「人は性善、性悪のどちらでもなく、両方が交じる。力の使い方を誤ればこうなる、と」

 軍に制圧された民族の男・スカー。そして、スカーに両親を殺されたウィンリィ。力の行使による「復讐(ふくしゅう)の連鎖」は、イスラエルとパレスチナの民族対立も連想させる。

 迫害や復讐の連鎖は断ち切れるか。荒川さんはスカーの師にこう語らせた。「理不尽な出来事を許してはいかん。だが、堪えねばならぬ」

 同志を殺害された軍の大佐・マスタングも、復讐心に燃える登場人物だった。「最初は彼が復讐を成し遂げ、敵をすごいやり方で殺すと構想していました」。だが下書きを進めるうち、「周りの登場人物たちが止めに入ってきた」という。「作者がキャラクターに動かされました」

 「鋼の錬金術師」は、以前作られたアニメ版が独自の展開で物語をしめくくったことから、原作マンガのラストはどうなるのかと話題を呼んでいた。

 最終話。荒川さんは「何を代価に体を取り戻すのかを決めかねていた」と話す。体の代価は「命」という設定。ならば、2人の父を犠牲にするのか、人命から作られる「賢者の石」を使うのか……。だが他者の命を利用する解決法は、2人の生き方が許さなくなっていた。

 「主人公が得たものは何かから考えていったとき、要らないものがあることに気付いた」と荒川さん。「主人公のアイデンティティーと呼べるものでした。存在意義を代価にしたということです」

 仲間から10を得たら、それを11にして誰かに渡す。「等価交換を否定する新しい法則」と呼ばれるもう一つの生き方が、結末に提示された。

 タッカーの娘を救えなかった冒頭のエピソードについて、荒川さんは最終話でアルに「その子をずっと忘れる事ができません」と語らせている。「何年かけても、命の問題は解決しないからです」(高津祐典)

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