「おーい、完成したぞ〜」
へっ、何が?
百十八話 体育祭 後編
声に振り向くと、そこにはあまりにも
不自然すぎる物質が。
こ、これは。
「よつばと」の
ダンボーというキャラが見事に再現されている。
昨日、徹夜して作ったらしい。
この人、アホだ。
ん、なにか頭の側面に
スイッチのような物があるけど。
押してみる。
なんと、
ダンボーの目が光ったぞ。
何このクオリティの高さ。
この人、真性のアホだ。
設計上、このダンボー姿になると
座ることが出来ないらしい。
グッさん、今日は立ちっぱなしですかぃ?
次の競技、借り物競争。
ダンボー、発進!!
不安定な歩き方で、指令の入った封筒を取りに向かう。
もちろん、
ものすごく遅い。
当然と言えば当然だ。
ダンボーは
ヒザを曲げることが出来ない。そして
視野が異常に狭い。
走るどころか、歩くことさえ困難だ。
見ているこっちも、今にもコケそうで気が気でない。
ウケを狙った我らは、当然ながら競技として得られたポイントは少なかった。
しかし、観客はダンボーに惜しみない拍手で称えた。
そう、
我らは勝利したのだ。
いや、きっと何かに……。
俺達にとっては最終競技、ボールリレー。
俺が選手として出るのはこの競技だけなんだよね。
ボールリレーは、その名のごとくボールをリレーしていくのだが、
始めから順番に、
バケツでボールを順番にリレー。
二人三脚でボールを運び、
二人で胸にボールを挟んで運び、
最後に四人で騎馬を作りボールを運ぶというものである。
俺は最後の騎馬の馬の役である。
馬役の面々は全員馬の面をつけてっと。
風の騎士(ゴスロリver)馬の面装備形態。
さてボールリレーが始まったようだ。
他のクラスは既に騎馬を組んでいるようだが、
俺達はその場に仁王立ちしている。
「さあ、君たちも早く騎馬を作りなさい」
審判の先生が我らに指示する。
「いえ、僕らはまだいいんです」
その言葉どおり、ウチのクラスは見事に出遅れている。
他のクラスがボールを二人三脚組に渡している時も、
まだのんびりとバケツでボールを運んでいる。
理由は分かっている。
ウチのバケツリレー班には、
ダンボーが選手登録されているのだ。
そりゃ遅いさ。
というより、ダンボーのあの手でどうやってバケツを渡すというのだ。
他クラスが全員ゴールした辺りで、ようやくボールが騎馬隊に届いた。
「では、いきますか」
俺達は騎馬を組み、ボールを受け取り、
一歩一歩、ゆっくり確実に進んでいく。
仮にも速さを競う競技とは思えない速度で前進していく。
騎馬の上で冥土兄さんは、ボールを小脇に抱えながら観客に手を振っている。
これはもはや、競争ではなく
凱旋である。
俺達は見事に優秀の美を飾った。
最終競技、四百メートルリレー決勝。
なのだが、予選で負けた俺達には関係なし。
というよりここら辺一体は、すでに
ダンボー撮影会と化している。
他クラスの巫女さんなども集まっており、なんかコスプレパーティーみたいだ。
「あの、そちらのメイドさんとゴスロリの人も、一緒に写してもらってもよろしいですか?」
ああ、俺達もか。
俺と冥土兄さんでダンボーを挟み、決めポーズ。
デジカメと携帯のシャッター音が周りに小気味よく鳴り響いていった。
「あの、この写真、私のブログに乗っけてもよろしいですか?」
「構わないかぃ。グッさん」
ダンボーことグッさんはコクリとうなずいた。
「ええ、構わないそうですよ」
ん、待てよ。
この写真ってことは俺も誰かのブログに乗っけられるってことかぃ。
うっ、正直憂鬱だ。
しばらくしてリレーの決勝も終わり、撮影会も同時に終了した。
最後に表彰式。
上位順位にはカスリもせず、表彰式はしめやかに終わっていった。
と思いきや。
「さて、ここで
特別賞の発表です。特別賞受賞者は、
ダンボー君です」
特別賞!?
そんなものは午前の部ではなかったはず。
ダンボーは奇跡を起こしたのだ。
ありがとうダンボー。
君の勇姿を僕らは忘れない。
「よーし、じゃあ俺達のクラスで打ち上げにでも行くか」
おー、と皆が盛り上がる。
「あ、ちょい待った少年ら」
俺、挙手。
「ん、どうした。何かこれから用事でもあるのか?」
「打ち上げはいいのだが、アレ持って店に入るのかぃ?」
俺はダンボーの部品を指差す。
……。
全員、解散!
そんな秋の夕暮れなのでした。

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