3月までに裁判員裁判で判決を受けた被告の保釈許可率(保釈請求を裁判所が認めた割合)が75.4%に上り、裁判員制度導入前より高くなっていることが最高裁のまとめで分かった。公判前整理手続きで弁護側が主張を示し争点や証拠が明確化するため、裁判官が「証拠隠滅の恐れは低い」と判断しているとみられる。日本弁護士連合会は「保釈の運用が改善されつつある」と評価している。【北村和巳】
最高裁によると、判決を受けた444人のうち57人が保釈請求し、43人が許可された。いずれも初公判前とみられ、43人中18人はその後実刑判決を受けた。制度開始前、刑事事件全体の1審判決前の保釈許可率は▽05年53.0%▽06年51.8%▽07年55.4%▽08年56.3%--だった。
交際女性の首を絞めたとして殺人未遂罪で09年6月、松山地裁に起訴された20代の男の被告は殺意を否認したが、公判前整理手続き中の9月に保釈を認められた。争点を「殺意の有無」などとほぼ固めた直後だった。
弁護人の藤原諭弁護士は「裁判所は証拠隠滅の恐れがないとの判断に加え、弁護人と被告の打ち合わせの必要性を理解してくれたようだ」と話す。被告は2月、殺意を認定されたが執行猶予つき判決を受け確定した。
自宅への現住建造物等放火罪に問われ、起訴内容を認めた30代の男の被告は、09年8月の起訴の約1週間後、和歌山地裁に保釈を許可された。公判前整理手続きの第1回期日前で、検察側が主張を提出していない段階だった。1月に実刑判決を受け控訴し、再保釈された。弁護人の山本彰宏弁護士は保釈の必要性について「じっくり証拠開示を求められるうえ、更生に向けた活動や就職先探しなど生活準備ができる」と語る。
裁判員制度の対象となる殺人や傷害致死などの重大事件は、証拠隠滅や逃亡の恐れなどを理由に保釈が認められにくく、拘置された被告の保釈割合は▽05年2.6%▽06年4.1%▽07年4.6%▽08年4.4%--にとどまっていた。一方、裁判員裁判で判決を受けた被告は9.7%が保釈を認められた。
保釈許可増加について、ある刑事裁判官は「裁判員制度が始まり、裁判官の考え方も柔軟に変わってきた」と話す。ある弁護士は「従来は初公判で被告側が主張を示すか、検察側立証終了後の保釈が目立った。それらが公判前整理手続きで行われるため保釈が早まっている」と指摘する。
毎日新聞 2010年6月18日 11時11分(最終更新 6月18日 11時36分)