2010年6月17日 11時48分 更新:6月17日 11時57分
劇的な地球帰還を果たした小惑星探査機「はやぶさ」のカプセルが17日深夜、日本に到着する。地球と火星の間にある小惑星イトカワの物質が入っていると期待され、他天体から直接持ち帰った物質としては米ソの「月の石」以来だ。「人類の宝」となるかもしれないだけに、細心の注意が払われる。【ウーメラ(オーストラリア南部)永山悦子】
13日深夜。南十字星が輝くオーストラリアの夜空に突然花火のような光がはじけ、中から小さな点がスーッと飛び出して消えた。「花火」は燃え尽きたはやぶさ、飛び出した光がカプセルだった。
はやぶさは、小惑星との間を往復し、その表面から物質を持ち帰る技術の実証が目的だ。帰還によって所期の目的は達成したが、小惑星表面からの試料採取は、宇宙先進国の米国も尻込みした難しい作業。カプセルに何かが入っていれば、人類初の偉大な成果となる。
カプセルは14日午後、砂漠で回収された。火薬などを取り除いた後、日本への輸送に耐えるよう、厳重に梱包(こんぽう)された。(1)カプセルを窒素で満たした風船内に収め(2)小さな風船を詰めた内箱に入れ(3)さらにその四隅を衝撃吸収用のボールで保護して外箱に入れる--という念の入れようだ。
耐熱カバーを外したカプセルは直径30センチ、高さ15センチ。専用機で日本に到着する。宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(宇宙研、相模原市中央区)へ運ばれ、すぐに東京都調布市にあるJAXA航空宇宙センターでCT(コンピューター断層撮影)で中身を確認する。これで0.2ミリ以上の物質の有無が確認できる。
はやぶさはイトカワで採取装置がうまく働かず、岩石が採れた保証はないが、着陸の衝撃で舞い上がった砂や微粒子が入っている可能性はあるという。
カプセルの開封作業は宇宙研内の専用施設で行う。ガス状のものが入っていたり、空気に触れて変質する可能性があるため、外気にいっさい触れずに作業ができる特製の装置を新設した。カプセルの内部は複雑な構造で、分解には時間がかかる。イトカワの物質が入っている可能性のある容器を開けるのは、到着の約2週間後になる。
いよいよ容器を開き、中身が微粒子だった場合は、顕微鏡でのぞきながら静電気を帯びさせたガラス針に引き寄せて拾う。拾えないほど小さな粒子も、溶液を使って一粒残らず集める。
粒子があったとしても、すぐには喜べない。カプセルの製造過程や打ち上げ前に地球上の物質が紛れ込んだ可能性が捨てきれないからだ。本当にイトカワのものかどうかを確認する作業が、ここから始まる。正式な結論が出るまでに半年程度かかる可能性もあるという。「(試料は)非常に貴重なものだから、慌てて作業してなくしたら大変。慎重に進めたい」と、藤村彰夫・JAXA教授。
カプセル開封後の一連の作業は高度な技術を必要とするため、昨年暮れから研究者らが実際の装置で訓練を重ねてきた。容器のふたを開ける担当の野口高明・茨城大教授(鉱物学)は「カプセルの画像を見る限り、破損や変形がなくほっとした。これまで何回も繰り返した練習が生きると思う」と意欲を見せる。