すごいぞ!ドライジーネ式自転車練習法  |  K.Kusumi

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
はじめて自転車に乗れた日のことを覚えていますか?
最初から自転車に乗れた人はいません。
みんな誰かに教わって、いっしょに練習したはずです。

かつて自転車の乗り方を誰かに教わり、これから別の誰かに教えようとしているあなたに、この本を贈ります。

はじめに

自転車の練習は大変じゃない

「自転車の練習は大変だ」
 そう思い込んでいる人がいたとしたら、まずはその考え方をあらためてください。
「でも、子どものころ何度も転んで、つらい思いをしながら練習したよ」
 確かにケガは大変です。でも、もし転ばないで上達できる練習方法があったとしたら?
「自転車って何度も転んで、体で覚えるもんでしょう」
 いいえ。その思い込みが大きな間違いなんです。

 右の写真は自転車を買ってもらってわずか4日目の練習風景です。こうして乗れるようになるまで、この子はほとんど転ばず、おかげで練習を嫌がることもありませんでした。

「ええっ、どうしてそんなことができるの?」
 そう思ったあなたに、その練習方法を教えましょう。

 4歳になったばかりのこの子、じつは私の娘なんです。

絵本に学ぶ

ペダルをはずして練習する方法

 さて、どこから話を始めましょう。
 ある日、私は偶然立ち寄った古書店の軒先で一冊の絵本を偶然手に取っていました。
 『じてんしゃにのろうよ』という題名のその絵本は、主人公の男の子がお父さんに補助輪をはずしてもらって練習する一部始終を描いたものですが、ありきたりの題名とは裏腹に(失礼)、その練習方法がユニークなのです。
 絵本のなかのお父さんはなんと補助輪といっしょにペダルもはずしてしまいます。そして、足で地面をけって進んでごらん、と言うのです。

 こういう練習方法があること自体は以前、別の本でも読んだ覚えがありました。でもここまで実践的に書かれている本は初めて見ました。
 いつかこの方法を試してみたいと思いながらも時が経ち、やがて子どもの4歳の誕生日が近づいたとき、そうだ!自転車を買おう、と思いつきました。
 われながら名案です。ワクワクが止まりません。

月刊「かがくのとも」通巻391号『じてんしゃにのろうよ』、横溝英一(文・絵)、福音館書店、2001年

自転車の歴史

科学技術館(東京・北の丸公園)には自転車の歴史に関する展示がある。ここでドライジーネの実車を見ることができる

ドライジーネを知っていますか?

 その一風変わった練習方法に私が心を動かされたのは、ペダルを外した自転車が、自転車の始祖といわれるドライジーネを連想させたからです。
 ドライジーネは1817年にドイツのドライス伯爵によって発明されました。自転車にペダルやチェーンといったメカニズムが装備されるのはもっと後の時代で、発明当初は2つの車輪の付いた木馬にまたがって走る曲芸的な──今で言うならきっとスケートボードのような──乗り物でした。
 車輪が二つしかないのにどうして倒れないのかしら……ドライジーネの走る姿を初めて見た人たちはさぞかし不思議に思ったに違いありません。そして、それは今も自転車の練習前にみんなが抱く疑問や不安と同じです。

 自転車を習うには自転車の歴史に倣うのがいい。これはおそらく理にかなっています。
 絵本で見た練習方法には名称がありませんでしたが、私はそれを、ひとりで勝手にですが「ドライジーネ式練習法」と呼ぶことに決めました。

世界初の婦人用自転車(1819)もドライジーネだった。スカートで乗るための低床フレーム設計。科学技術館内・自転車文化センター情報室

どんな自転車が練習しやすいか

写真出典:Ridgeback▶www.ridgeback.co.uk/ ルイガノ▶www.louis
garneausports.com/bike/ ブリヂストン▶http://www.bscycle.co.jp/

 「ドライジーネ式練習法」で子どもに自転車を教えるためにはまず自転車選びが肝心。そう思って調べてみると、意外にも最初からペダルを外して使うことを想定したキッズ車がありました。
 やってる人はもうやってるのです。
 リッジバックのスクート[写真上]のように最初からペダルのない現代版ドライジーネもありますがこれは2、3歳用で、もうじき4歳になろうとする子に買い与えるにはちょっと遅すぎです。
 ルイガノにはペダルだけでなくチェーンまで外せるタイプLGS-SK Jr[写真中]もあります。フレームの形は昔の女性用ドライジーネと似てエレガントなのですが、キックボードにペダルとチェーンを装着した感じでもあり段差に弱そうです。
 国産ではブリヂストンのスマートキッズ[写真下]は、ペダルや補助輪の脱着が工具不要、子供ラクラクブレーキなど至れり尽くせりの幼児用高級車なのですが、こちらは車径14インチからで5歳児以上でないと足が付きません。

自転車選び

購入

     子どもは成長が早いからなるべく長く乗るには
    あらかじめ大きめのがいい、とお考えの方もいる
    かもしれません。私も長女のときはそうでした。
     でも、その長女は5歳のときにプレゼントされた
    16インチが体格に合わず、結局1年間そのままで6
    歳になってからようやく練習を始めました。
     その経験から、子どもの乗り物は靴と同様に体
    格に合ったものがいい、しかも少し小さめくらい
    が不安も少ない、というのが今の私の持論です。
    小さくなったら欲しい人に譲る──サイクルはリ
    サイクル──そう考えれば無駄ではありません。
 
     最終的にルイガノのキッズ車の12インチのもの
    を選びました。これなら足も付くでしょう。
     12インチのキッズ車はあまり店頭では見かけま
    せんが、注文したら3日で届きました。

    ──さあ、今日からこれがきみの自転車だよ
 
     まず、その場で子どもを座らせてサドルの高
    さを調節してもらいます。
     ペダルや補助輪は梱包時には付いていないは
    ずですから、事前に取り付け不要と言っておけ
    ばそのまま引き渡してくれます。

自転車屋さんに行く

 これがその自転車です。
 12インチと聞いてもピンと
こない人もいると思いますが、
車径12インチは標準的なキッ
ズ自転車の最小クラスで、以
後14、16……と、2インチご
とに大きくなっていきます。

 自転車のペダルの脱着は、
レンチを使えば大人なら誰で
もできます。専用のペダルレ
ンチがあればなお楽々です。
 ただしペダルのボルトは左
右逆ネジで、それぞれ上方か
ら車両の後ろ方向に回すとゆ
るんで外せるようになってい
るので注意してください。

自転車の整備

ペダルを外す