高額医療をどうする? 限度額はあるけれど…
■適用にならず、重い治療費
効果も高く、値段も高い薬が続々と登場している。3割負担でも年100万円近い治療費が延々と続くケースもあり、患者からは「続かない」と悲鳴が上がる。公的保険には「お金がないから治療できない」ことを防ぐため、「高額療養費制度」がある。しかし、適用になるか否かで負担に天と地ほども違いが生じている。(佐藤好美)
神奈川県に住む主婦、佐々木初子さん(68)=仮名=は60歳の秋、多発性骨髄腫と診断された。眠れないほど頸椎(けいつい)が痛み、検査の末に大学病院で病名が分かった。
4カ月の入院中に抗がん剤など何種類かの薬を試したが、効かない。結局、当時まだ未承認だった治療薬「サリドマイド」にたどり着いた。
医師から「これが効かなければ、もう治療法はありません」と言われ、覚悟した。だが、飲み始めてすぐに効果が現れた。病気の指標になる数値は桁(けた)単位で下がり、正常に近い値に落ち着いた。
以来、1日1カプセルを服用。骨折しやすく、薬の副作用か、ひざから下にしびれる感じがあり、スリッパなどを履いても感覚がない。だが、病名は家族だけに明かし、なるべく今まで同様の日々を送る。
2年前、サリドマイドが承認され、それまで大学の研究費で提供されていた薬は、健康保険で処方されるようになった。驚いたのはその費用。3割負担の薬代だけで月に約6万円。検査や診察費などを加えると、月に約7万5千円がかかるようになった。
夫(72)と2人の年金収入は合わせて約300万円。平均に比べれば多い方だが、ここから100万円弱が治療費に。「治療費だけで年に100万円という額は恐ろしいほどです。貯金を取り崩してやっていますが、いつまでやっていけるか分かりません」と佐々木さんは不安を漏らす。
かつて深刻な薬害を生んだサリドマイドだが、日本では2年前、難治性骨髄腫の治療薬として認可された。慶応大学で長年、患者を治療してきた服部豊教授は「骨髄腫は、抗がん剤や造血幹細胞移植などの治療で救命しきれない難しい病気。サリドマイドやベルケイドのようなまったく新しいメカニズムの治療薬が出て、生存期間の延長が期待できるようになった」と話す。
患者には不可欠な薬とあって、承認前は個人輸入などが主流だった。しかし、承認後は費用負担が問題になっている。サリドマイドは、3割負担の薬代だけで月に最低でも約6万円かかるからだ。服部教授は「認可前に患者さんが個人輸入していたときの方が値段が安かったため、患者さんには『なんのための認可だったのか』という怒りがある」と指摘する。
佐々木さんは5月、検査数値の悪化で、サリドマイドを1日2カプセルに増やした。ところが、薬の量は増えたのに治療費は逆に減る見通し。毎月の負担が高額療養費制度の負担限度額(8万円強)に達するようになったからだ。
しかも、頻回の対象者だから、4回目からは限度額が月4万4400円に下がる。年間治療費は約60万円程度に下がる見通しだ。佐々木さんは「薬が増えるのは悲しいですが、経済的にはずいぶん楽になります。でも、改善して薬が減ることもある。ほかの病気でも限度額に届かず、高い治療費を払っている人がいることを思うと、複雑な気持ちです」と話している。
■薬少ない方が負担大きい“逆転現象”も
高額療養費の負担限度額は年齢や所得で異なる。佐々木さんは68歳で、夫婦合わせた年金収入が約300万円だから、高額療養費制度では「70歳未満」の「一般所得者」に当たる。制度が適用になる治療費の目安は月8万円強だ。さらに、高額療養費制度には過去1年間に3回、制度が適用になった場合、限度額をもう1段階下げる仕組みがある。治療が長引き、治療費が延々と続く患者への配慮だ。
ところが、佐々木さんのように治療が長引いても、治療費が高額療養費の限度額にわずかに届かない場合は、制度の恩恵を受けられない。薬が少ない方が負担が重い“逆転現象”さえ生じる。
厚生労働省は今春、サリドマイドの処方を最長12週間まで認めるようにした。長期処方が可能になれば通院の負担が減るだけでなく、薬代をまとめられるので高額療養費の対象になりやすくなる。
しかし、根本的な解決にはならない。慶大の服部教授は「現制度の下では名案ですが、よほど状態が安定していないと長期処方は難しい。やはり、医療費の根本的な見直しが必要。難病や特定疾患と同様に、国ががんの治療費すべてをカバーするのは難しいが、命に直接かかわらない疾患とは治療費の仕組みを分けて考えないと患者さんは対応できない」と指摘している。
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