宮崎県の家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」問題で、農林水産省は16日、ワクチン接種した家畜の殺処分と埋却が遅れているため、殺処分した家畜を同県都城市内の処理場に運び、加熱、加圧した上で、残った肉骨粉などを焼却処分する方向で検討に入った。埋却用地不足に加え、梅雨で作業が滞る懸念があるための措置。ただ家畜搬入による感染拡大を心配する処理場周辺の農家の反発も予想される。
検討されているのは、ワクチン接種した家畜を農場で殺処分し、処理場に運んだ上で、油と肉骨粉などに分離する方法。肉骨粉を焼却すれば埋却の必要がなく、ウイルスも死滅するという。この処理場は、食肉加工後に出るくず肉や骨、内臓、を飼料などにする施設として現在も稼働中。
処理場に運ぶのは発症していない家畜。同省は「密閉した容器で搬送し消毒ポイントを通過するなど万全の対策を取る。実施には地元同意が必要だ」としている。
同県内では15日現在、感染疑いがある約2万7700頭の殺処分と埋却が済んでおらず、ワクチンを接種した約6万4千頭も未処分で、早期処分が求められている。
一方、同県川南町など発生集中地域の周辺に設けた搬出制限区域(発生地から半径10-20キロ圏内)で、早期に食肉処理して家畜がいない「緩衝地帯」をつくるとした防疫方針について、政府現地対策本部の篠原孝・農水副大臣は16日、断念する考えを記者団に示した。
その理由として(1)早期殺処分と埋却で抑える「えびの方式」とワクチン接種が効果を挙げつつある(2)食肉工場の稼働能力が低い(3)家畜を工場に移動させると感染拡大のリスクがある(4)風評被害で食肉価格が下がっている‐ことなどを挙げた。
緩衝地帯設置と、移動制限区域(同10キロ圏内)のワクチン接種を組み合わせるとの当初方針について、篠原副大臣は「変更されたと言っていい」と明言。同省は15日に早期出荷時の助成金額を公表したばかりだが、今後は出荷は強制せず、生産者の判断に委ねる。
■国富町でも感染疑い牛
宮崎県は16日、国富町の農場1カ所で新たに口蹄疫に感染した疑いのある牛が見つかったと発表した。同町の疑い例は初めて。既に終息したえびの市を含め被害は5市6町に拡大した。県は遺伝子検査の結果を待たず、この農場の肉牛全234頭を殺処分する。累計290カ所、殺処分対象は約19万9千頭となった。
発表によると、農場からの連絡に基づき、県が立ち入り検査を行い、3頭に特有の症状がみられた。この農場は、今月10日に感染疑いが判明した宮崎市の養豚農場の北西約4・5キロにあり、家畜移動制限区域内でワクチン接種は対象外。県は17日にも農場を中心に移動制限区域、搬出制限区域を設定する。
また県は16日、感染疑いが確認された宮崎、日向両市の農場から半径1キロ圏の家畜全頭を目視調査し、異常は確認されなかった。一方、西都市は処分した家畜の埋却地に市内の防衛省用地を使うことを決めた。約1ヘクタールに牛千頭を埋却予定。同省が無償利用を許可した。
=2010/06/17付 西日本新聞朝刊=