ここまでくると「うみを出し切る」というレベルではない。相撲界は全身に転移した悪性腫瘍に対し、生死をかけた手術に踏み切るしかなくなった。相次ぐ不祥事にも後手後手の対応で批判され続けたのに、自浄能力を発揮できない日本相撲協会は、こんどは野球賭博問題で対応の甘さを露呈した。
協会を所管する文科省から「公益法人で、これだけ不祥事を重ねているところがあるか?」と突っ込まれるとグーの音も出なかった。親方、力士のほか行司、呼出、床山など約1000人の協会員のうち、会社員なら懲戒解雇は免れない野球賭博に29人が手を染めていた。こんなハチャメチャな公益法人はほかにあるまい。
相撲協会が税制の優遇を受け続けたいのなら、平成25年11月末までに新公益法人制度への移行認定を受ける必要がある。しかし力士暴行死、大麻、暴力団観戦、賭博と不祥事続発で“無法集団”のようなイメージが植え付けられて、移行にNOが出て路頭に迷うことになっても文句はいえない。
自民党政権下では相撲の海外公演を外交利用し、大物議員が各部屋の後援会に名をつらねた。問題が起きても「まあ、お相撲さんだから」と“盆中”(ぼんなか=相撲用語で気をきかす)がきいたが、政権交代で蜜月時代は終わった。民主党政権は相撲に無関心で、むしろ“仕分け”の対象として蓮舫大臣が手ぐすねひいているかもしれない。
今回の件ではまずトップの武蔵川理事長が文科省を訪ねて頭を下げ、本気で立て直す姿勢を見せるべきだったろう。「事の重大さがまだわかっていない」と見られても仕方ない。理事長には一刻も早く大手術のメスを握ってもらうしかないようだ。(今村忠)