アクセシビリティ

Adobe MAX Japan 2009 : Event Report by Students

「"Le Roi Est Mort, Vive Le Roi!”

はじめに

はじめまして。首都大学東京3年の梅田哲矢といいます。今回学生レポーターとしてAdobe MAX Japan 2009に参加しました。

私は大学2年時より、様々な媒体を通じて、人とのコミュニケーションをデザインするというサークルをつくり活動してきました。格好つけた言い方になってますけど、要するに「相手にいかに伝えるか」を考えるサークルということです。様々な媒体というのは、ポスター、フライヤーなどのグラフィックからウェブサイト、雑誌、YouTube、イベント、など何でもありで、中には友人の誕生日のためだけに表参道に3日並んだなんてアナログちっくなのもありました。

何だか就職活動の自己PRみたいになってしまってますけど、まとめると単なる広告好き学生です(笑)。なので、ネットの将来や可能性にはかなり興味があります。今回はそういう観点からAdobe MAX Japan 2009で語られたことを見ていこうと思います。

デザイナー、artlessの川上俊氏

サークルで企画したイベントのポスター


2007年に続き2回目となるAdobe MAX 2009、今回は東京お台場に位置するホテルグランパシフィック LE DAIBAにて1月29日、30日の2日間にわたって開催されました。会場内は大きく分けて、基調講演や各種セッションを行う講演スペースと、企業ブースやドリンクコーナーがある交流スペースとに分かれ、前者では常に長い列が、後者ではディベロッパーとデザイナーの交流が数多く見受けられました。参加者のべ約3,300人を数えた2日間の熱狂を、基調講演を中心に「ネットの将来」という目線で紹介していきます。

 

基調講演

基調講演。スピーカーはCTO、ケビン・リンチ氏。日本語で最高技術責任者ということです。アドビといえば技術で勝負している企業ですから、その責任者といえば相当なものです。しかも登場の演出がかなり凝っていて、MCの方が氏を紹介するといきなり大きな風船が現れ、その中から登場というサプライズでした。この日は大きく分けて以下3つのポイントでインターネットの未来、可能性について語ってくれました。一つずつ整理してみます。

・Client+Cloud

クラウドとは世界中に広がっているインターネット、クライアントとはそれに接続している私たち個人のPC(=ローカル)のことを指します。このネーミングもおもしろいですよね。クラウドは本来、「雲」を意味する単語ですが、雲が世界中に見境も無く広がっているようにインターネットという巨大なネットワークも世界中に広がっているので、こう呼ばれるようです。 本題に入りますが、ケビン・リンチ氏が述べているのは、「これからはクライアントとクラウドの関係がより緊密になっていく」という一点につきます。そのためには、クライアントとクラウドのやりとりをなるべく減らすということが求められるのだそうです。これは逆説的な話で、普通、双方が緊密にするんだったらやりとりを増やした方が良いんじゃない?となりますよね。Googleマップを使用したことがある人だとわかると思うのですが、画面外にスクロールする際、砂時計マークは出てきません。これはわざわざクライアントとクラウドがやり取りを必要最小限にとどめ、待ち時間が減ることで、ユーザの利便性が格段に向上しています。この技術を使用しているアプリのことをRIA(Rich Internet Application)と言うそうで、アドビのFlash® なら得意でっせという話になるわけです。意識してみるとここ最近たしかに多いことに驚きます。

基調講演でのケビン・リンチ氏

基調講演でのケビン・リンチ氏

ニコニコ動画で自らの動画にコメントするK・リンチ氏

ニコニコ動画で自らの動画にコメントするK・リンチ氏


・Social Computing

インターネットの特徴はマスメディアのように一方通行的にブロードキャストするのではなく、インタラクティブにやり取りができるということは言うまでもないと思います。特にここ3年ぐらいでYouTubeやmixiなどの出現で、そのプラットフォームが整えられてきています。以前であれば、ある程度専門技術(例えばHTMLなど)の知識がなければネット上に発信できないという状況だったことを考えるとすごい進歩です。

ケビン・リンチ氏はさらに新しい技術を紹介して畳み掛けます。もっとソーシャルになると。中でもこれから広がりそうだなと思ったのが、アラート機能的なアプリケーションでした。あらかじめ登録しておいたSNSやブログなどに、書き込みなど何かしら更新があったときに画面にでてきて教えてくれるというものです。過去に糸井重里氏がネットの特徴として時差という不便さがあるということをおっしゃっていましたが、それも解消されていきます。なるほどネットはもっとソーシャルになるわけだなと。反面、正直にいってしまえばこの分野でアドビの存在感はいまいち。今後どういった存在感を示すことができるのかということにも注目したいです。

・Device+Desktop(Open screen)

ニコニコ動画で自らの動画にコメントするケビン・リンチ氏

異なるスクリーンで同じゲームの対戦を行う模様

ケータイとPCで同じフォトアルバムを同期するアプリ

ケータイとPCで同じフォトアルバムを同期するアプリ

今、あなたの部屋にはスクリーン、画面はいくつありますか?という話です。

つい最近まで「ダブル・スクリーン(テレビ+PC)」とか言われていましたが、たしかに考えてみるとそれももう古いように思います。ここ数年ばかりの間に、ニンテンドーDSもミニノートもiPhoneも登場し(しかもこの全部がネットもテレビも見られる)、部屋に画面は無数にある状況になっています。このハードを生かさない手はありません。会場ではNTTドコモ執行役員である永田清人氏が登場し、こう述べます。「どのスクリーンでも、ユーザがそれを意識せずにサービスを利用し、同じユーザエクスペリエンスを共有できる」と。それを体現するような画期的なデモが披露されました。

まず、ドコモのケータイにアドビの「AIR®」というランタイムを導入し、PCやその他のメディアと同期できるフォトアルバムのアプリが紹介されました。ケータイでフォトアルバムに写真を追加すると、PCにも同期され、その逆も同じように同期されるというものです(写真参照)。当日はドコモの永田氏がケータイで、アドビのリンチ氏がPCで、フォトアルバムを利用し、会場は拍手につつまれていました。これはあくまでもデモ用のアプリですが、ハードの環境がある程度整備されつつある現在、ソフト面に可能性を感じずにはいられません。


セッション

・映像とプログラミング、スピーカー:中村勇吾氏(tha ltd.)

今回のテーマは、ずばり「アニメーション」。興味深かったのが、ここでいう「アニメーション」とは一般的に私たちが使う映像アニメーションとは少しニュアンスが異なり、パラパラ漫画のような動作原理を使用しません。では、別の新しい動作原理とは一体どのようなものがあるのでしょうか。中村氏は独自に3つに分類しています。

中村氏が分類する3つの動作原理

  1. アルゴリズム駆動 JACOTORE
  2. DB駆動 UT LOOP
  3. 人力駆動 FONTPARK

過去の作品を振り返りながらの説明だったのですが、どれも知っている作品だったので、「そういう考え方だったんだ」という驚きがありました。上記3つのどの駆動にしても、共通しているのはワクワクするような現実世界志向ということだと思います。

アートディレクター佐藤可士和氏のサイトを背景に
アートディレクター佐藤可士和氏のサイトを背景に

現実世界の感覚がウェブ上で取り入れられていて、ほとんどのウェブはまだまだ現実にはほど遠い分、それに近づいたものには自然とワクワクしてしまうということです。そういう意味ではiPhoneのタッチパネルなども現実世界志向です。

それが何故重要なのかというのが、基調講演の内容と関連してきます。ウェブの将来というのは現実世界の埋め立て地、フロンティア的な存在を志向しています。Googleが世界地図をより現実世界に近い形でウェブに取り入れたように。そういう志向と中村勇吾氏の志向はほとんど同じだと思います。だから、彼の進化はウェブの進化にも近いものがあるわけです。個人がウェブのある一面の限界点と一致しているわけです。彼が前に進めば、限界点も前に進む。これほど格好良いことはありませんね。僕たち学生も負けていられません。


MAX Japan 2009に参加して

インターネットの可能性とか、闇とか、凋落とか、未来に対して色々語れることはあると思います。ひとつ重要なことは、ここにいる僕たちはその未来をいかようにもつくっていくことができるということだと思います。思い出してみるとYouTubeもGoogleマップもつい3年前にはなかったのですから。走っている電車の中を見ようと思ったら、それに合わせて首を横に振って眼球で追うようにしないと見えないように、二者のスピードが違い過ぎると互いに見えないものです。加速するインターネットに置いていかれないように、僕たちも走っていかなければいけません。「おいてかないでよー、まってよー」と言いながらもそれはそれで楽しいに決まっています。

梅田哲矢

梅田哲矢
首都大学東京 経営学コース3年

勉強はサイコーの「遊び」と捉え、金融からデザインまで幅広く学んでいる。将来の夢は日本をおもしろくすることだといって止まない。
尊敬する人物:勝海舟、スティーブジョブズ、糸井重里、佐藤雅彦、堀江貴文