きょうの社説 2010年6月17日

◎国会が閉幕 党利優先の「選挙至上主義」
 ふたを開けてみたら、意外なほど支持率が高い。これなら早めに選挙をした方が有利に なる。菅直人首相の就任後初めての国会論戦がたった2日間で打ち切られてしまったのは、そんな身勝手な計算からだろう。野党の追及が避けられない国会審議から逃げ、あからさまに党利党略を優先する手法は、決別したはずの「小沢流」そのものではないか。

 本来なら新政権ができたのだから、会期を延長して、衆参両院の予算委員会を開催する のが筋である。実際、一時は延長論も出ていたのに、国会の論戦を軽んじて、参院選を有利に戦う道を選んだのは残念というほかない。「選挙至上主義」の体質もさることながら、数の力で押し切るごう慢な国会運営にも苦言を呈したい。

 国会の閉会により、6月24日公示、7月11日投開票の参院選が実質的にスタートし た。野党から要求のあった衆参予算委員会審議などを拒否し続けたのは、政治団体の事務所費問題が浮上した荒井聡国家戦略担当相への追及などで、V字回復した支持率が落ちるのを恐れたからだろう。「刷新」「クリーン」といった新政権のイメージがはげ落ちる前に、さっさと選挙を終わらせてしまいたい思惑が露骨に見て取れる。

 国会閉会により、「政治とカネ」の問題で、小沢一郎前幹事長や鳩山由紀夫前首相らの 説明責任は果たされずに終わった。多くの重要法案も廃案や継続審議となった。

 わずか1日の実質審議で強行採決された郵政改革法案、見通しの立たぬ無謀な削減目標 を掲げた地球温暖化対策基本法案など、廃案になった方が望ましい法案が目立つのは皮肉な現象である。

 それでも国会日程が窮屈になったのは、鳩山前首相の唐突な辞任に伴う政治空白が原因 だろう。民主党は国会会期を延長して、必要十分な審議時間を確保する責任があったはずである。

 菅首相の所信表明演説に対する衆参予算委員会の論戦や党首討論などは、国民が参院選 の投票先を考える格好の機会だった。菅政権の逃げ切り戦略は、国民に丁寧に説明し、理解を得る努力を自ら放棄したに等しいのではないか。

◎米軍の奉仕活動 「良き隣人」の努力さらに
 航空自衛隊小松基地をベースにした日米共同訓練に参加する米軍部隊の隊員が小松市内 の児童施設や身体障害者授産施設を訪れ、窓ふきや花の苗植えなどの奉仕活動に取り組んだ。在日米軍は地域住民との信頼関係を築くため、「良き隣人となるための活動」を長年行っている。小松市内での奉仕活動もその一環であるが、政府が強調する日米同盟の深化も、米軍と地域住民の信頼、融和が根底にあってこそなり立つのであり、こうした地域貢献活動を通じて良き隣人になる努力をさらに積み重ねてもらいたい。

 米政府が在日米軍の良き隣人活動を強化したのは、1995年に沖縄県で起きた海兵隊 員による小学生暴行事件がきっかけである。反米感情の高まりが日米同盟だけでなく、米軍の世界戦略をも揺るがしかねないという危機感の表れともいえ、米軍基地のある自治体を中心に兵士の奉仕活動や住民交流会、基地施設の開放などが積極的に行われるようになった。米軍と災害援助協定を締結し、協力関係を強める自治体が増えてきたのも好ましい動きである。

 沖縄などに駐留する米軍人や軍属らによる刑法犯は減少傾向をたどっている。それでも なお犯罪が絶えないため、米軍の存在そのものを危険視する風潮が地域社会にあるのは残念である。米軍は兵士の綱紀粛正に力を入れているが、兵士はローテーションで部隊配属が替わるだけに、隊員教育や地域との融和活動をたゆまず続ける必要がある。地域住民も米軍の良き隣人活動を「宣撫(せんぶ)工作」などと受け流さず、積極的に応じたい。

 普天間飛行場移設で日米が合意した96年、当時の橋本龍太郎首相とクリントン大統領 が署名した日米安保共同宣言に、こんな文言がある。「総理大臣と大統領は、この同盟関係を支えている人々、とりわけ米軍を受け入れている日本の地域社会および、故郷を遠く離れて平和と自由を守るために身を捧げている米国の人々に対し、深い感謝の気持ちを表明した」。このような気持ちを広く国民の間に醸成していくことが日米同盟の維持に不可欠である。