男性の訴えは、レコーダーに残っていました。去年、痴漢の疑いで警視庁に任意の事情聴取を受けた直後に自殺した男性。男性はその後、被疑者死亡のため不起訴となりましたが、男性が残したレコーダーには任意聴取でのやりとりが生々しく記録されていました。
「それは私は関係ありません」
レコーダーに残った無実を訴える声。レコーダーの持ち主、原田信助さん(当時25)は、痴漢の疑いで警視庁の任意の事情聴取を受けた直後、自ら命を絶ちました。
「息子がレコーダーを残したのは、私への伝言だと思っています」(原田信助さんの母親・尚美さん)
母親の尚美さんは、信助さんの無念を晴らすために今も新宿駅でビラを配るなどして情報を求めています。
「何か思い出したことがあったら、ぜひ、ご連絡をお願いします」(尚美さん)
事件は去年12月10日、午後11時過ぎ、新宿駅のホームに続く階段で起きました。尚美さんの証言によりますと、同僚と酒を飲んだ後、自宅へ向かっていた原田さんは階段で女子学生と男子学生2人の3人組にすれちがい、「腹を触られた」とその女子学生に突然、痴漢の被害を訴えられたといいます。その後、一緒にいた男子学生は原田さんを階段から引き下ろし、双方はもみ合いになりました。
駅員や警察官も駆けつけ、原田さんは新宿警察署に任意同行されました。
「今、あなたはですね、痴漢の被疑者ということで・・・」(警察官)
「ちょっと待って下さい。被疑者というのはどういうことですか」(原田さん)
「自分は関係ない」。原田さんは警察官とのやりとりを、英会話の勉強のためいつも持ち歩いていたレコーダーに録音しました。
「女性の方に対して、お腹を触った事実はあるんですか?」(警察官)
「意味がわかりません。私はたたきつけられただけなのに」(原田さん)
「たたきつけられる前にお腹を触った?」(警察官)
「触ったっていう意味が分からない。私はまったく関係ありません」(原田さん)
平行線をたどる双方の言い分。原田さんは「呼び出しがあれば再び出頭する」との確約書を書いて、早朝、新宿署を後にしました。原田さんは警察の取り調べを受けた後、早稲田駅を訪れ、ホームから身を投げました。
その後、新宿署は今年1月、原田さんを迷惑防止条例違反(痴漢)の疑いで書類送検、被疑者死亡のため原田さんは不起訴となりました。「息子の無念を晴らしたい」。尚美さんはビラ巻きを続ける一方、原田さんともみ合った男子学生を暴行の疑いで告訴、東京地検は告訴を受理しました。
「(息子は)人生で挑戦したいことがたくさんありましたし、夢や希望もありました。あの夜、新宿駅で何が起きたのか、私はそれが知りたいのです」(尚美さん)
事件について新宿署は、「亡くなったことは気の毒だが、必要な捜査を行ったうえで書類送検した」とコメントしています。(15日16:51)