井上ひさしさん作の文楽が幻に　新作を咲大夫さんに約束

　４月に亡くなった劇作家の井上ひさしさんが、文楽太夫の豊竹咲大夫さん（６６）に対し、井原西鶴作品などを基にした新作文楽を書き下ろす約束をしていたことが１６日、分かった。咲大夫さんは幻となった新作を思い「残念です」と死を悼んでいる。

　咲大夫さんによると、井上さんとは昨年６月１５日、日本芸術院賞の授賞式で初めて会った。井上さんが１９７２年に発表した義太夫「金壺親父恋達引」がテレビで放送された際、咲大夫さんが出演していたことを明かし、意気投合した。

　咲大夫さんが「文楽の新作を書いてください」と頼むと、井上さんは「２年ぐらい先なら書きます」。文楽に西鶴の作品がないことが話題となり、井上さんは「西鶴を勉強し直してみましょう」と語っていたという。

　翌１６日、咲大夫さんが「約束をお忘れなく」とファクスを送り、井上さんは１７日に返信。「笑って笑って、しまいには泣くような物語に」などと意欲を示していた。咲大夫さんは国立劇場と相談を始めていたが、井上さんの急逝で約束は果たされなかった。