第174通常国会は16日、150日間の会期を終え閉会する。鳩山由紀夫前首相の退陣による中断に加え、早期の参院選日程を組みたい政府・民主党の意向で会期を延長しないため、政府提出法案は63件(新規)中35件の成立にとどまる。成立率は55・6%で、大学紛争などに揺れた68年12月召集の通常国会(佐藤栄作内閣、55・8%)を抜き、通常国会としては戦後最低となる。
今国会で法案成立率が戦後最低の6割弱にとどまるのは、首相交代でV字回復した内閣支持率が高いうちに参院選に突入したい政府・民主党の思惑を最優先したためだ。昨年の政権交代後、最初の通常国会にもかかわらず、政治主導確立法案など政権の骨格を形作る多くの重要法案の成立を、民主党は自ら放棄した形だ。評価は参院選で問われる。
会期通りの閉会で政府・民主党は、菅内閣発足直後に浮上した荒井聡国家戦略担当相の事務所費問題や、小沢一郎前幹事長の衆院政治倫理審査会(政倫審)出席で、野党側の攻勢にさらされることを回避した。改選を迎える同党参院議員のあいだでは「一刻も早く国会を閉じて、参院選に専念すべきだ」との声が大勢だ。
しかし、その代償は大きい。政治主導を目指し国家戦略室の局格上げを盛り込んだ政治主導確立法案や、鳩山内閣が「一丁目一番地」に掲げた地域主権改革関連法案などは継続審議に。官邸主導で省庁横断的な幹部人事を実現するため内閣人事局の設置などを盛り込んだ国家公務員法改正案や、郵政改革法案、地球温暖化対策基本法案などが廃案になる。
重要法案で成立にこぎつけたのは子ども手当や高校無償化など「選挙向け」の予算関連法案が目立つ。重要法案を衆院で強行採決して参院に送った党幹部からは「我々は一体何をやっていたのか」との嘆きも漏れている。
政治主導確立法案の不成立で戦略室の法的位置づけはあいまいなままだ。平岡秀夫国家戦略室長は、荒井聡国家戦略担当相の私的諮問機関として「国家戦略調査委員会」(仮称)を設ける方針だが、機能強化につながるかは未知数だ。
調査委は平岡氏を委員長に、民主党の国会議員6人が参加。財政運営戦略や中期財政フレーム▽社会保障と税の共通番号制度などをテーマに、政務三役や有識者と協議する。局昇格前に、民主党が復活させる政策委員会(政調)との連携を強める狙いだ。
ただ、諮問機関を設けても戦略室の担務が不透明な側面は残る。初代国家戦略担当相を務めた菅首相も、米軍普天間飛行場移設問題を巡り、鳩山由紀夫前首相から「普天間問題まで、菅さんにお願いできない」として、普天間問題から外れた経緯がある。
仙谷由人官房長官は15日の記者会見で、戦略室について「試行錯誤が続くだろう。政権の担い手によって性格付けも変わるし、トップの意向で使い方も変わってくる」と指摘している。【坂口裕彦】
国家公務員法改正案の廃案で、7月の幹部人事は従来方式で行われる可能性が高く、民主党が目指す「政治主導」は先送りされる公算だ。公務員制度改革全体の遅れにもつながり、09年マニフェストで掲げた「(4年間で)国家公務員の総人件費2割削減」の実現にも影を落としそうだ。
改正案によると、内閣人事局で部長級以上の「幹部候補者名簿」を作成し、首相が名簿上の幹部候補ならば、どの省庁幹部にも登用できる。部長級から次官級を「同一の職制」とみなし、次官から局長への事実上の「降格」を通常の異動で可能にしたのも特徴だ。
廃案により、公務員制度改革全体のスケジュールも遅れかねない。08年に自民・民主などの賛成で成立した国家公務員制度改革基本法では「内閣人事局の設置」を1年以内と規定した。既に遅れているが、さらにずれ込み、このあとに控える公務員への労働基本権付与が前提の総人件費2割削減も後ろにずれ込む可能性が大きい。
全体の制度改革が遅れる一方、天下りあっせんの禁止は予定通り行ったため、霞が関には混乱も広がる。早期勧奨退職者が減り、11年度は新規採用を4割抑制する事態に。霞が関からは「新卒者にとって活気がない職場になる。真意を示してほしい」(法務局若手職員)といった懸念も出ている。【小山由宇】
議員立法では、夏の参院選からインターネットの選挙利用を解禁することで与野党が合意していた公職選挙法改正案が提出できなかった。第二次大戦後にシベリアやモンゴルに強制抑留された日本人に特別給付金を支給するシベリア抑留者支援特措法案は、16日の衆院本会議で成立する見込み。【大場伸也】
毎日新聞 2010年6月16日 東京朝刊