※1次リーグは6月11日から。日本の対戦日時と相手は、第1戦が対カメルーン6月14日午後4時(日本時間同午後11時)、第2戦が対オランダ19日午後1時半(同午後8時半)、第3戦が対デンマーク24日午後8時半(同25日午前3時半)
いよいよ日本は押し込まれていた。本田を除き、全員が自陣にこもった状態。カメルーン戦の後半37分。矢野貴章(26)はベンチ前で岡田監督に呼び出された。「横パスとバックパスは絶対にするな。とにかく前へ。守備でも前から相手を追い回せ」
代表から離れていた時期も長く、W杯メンバー入りに驚きをもってみられた一人だ。5月30日のイングランド戦、今月4日のコートジボワール戦も出番はなかった。それでも「準備はできていた」と本人。自陣コーナー近くまで球を奪いに駆け戻った。出場時間は短くても、間違いなく殊勲者の一人だった。「勝つって、うれしいですね」
FWでありながら、今季は新潟の公式戦で無得点。長身を使ったポストプレーより、運動量を生かした守備を買われてW杯メンバーに滑り込んだ。どんな時も惜しみなく走る。「なぜ、つらい状況でも必死にがんばろうとするのか? 誰だってそうでしょう」
11年前に父を胃がんで亡くした時もそうだった。
通夜の日に、周囲の反対を押し切って試合に出た。「家にいても自分ができることはなかった」。やるべきことは、小学時にチームの遠征の車の手配役を買ってでるなど、サッカーをする環境を作ってくれた父に報いること。ヘディングシュートを決めた。当時の15歳以下日本代表の監督が観戦しており、代表入りのきっかけになった。
2006年から所属する新潟の神田勝夫・強化育成本部長は代弁する。「自分が犠牲になって相手を引きつけ、味方の決定機を作る。最後まで手を抜かない。一言で言うと、頼りになるヤツ」
不器用に見えるのは訳がある。生まれ育った静岡県はサッカーどころだが、サッカーの町として知られる静岡市清水区ではなく、県西部の浜松市の出身だ。初冬には「遠州の空っ風」が吹く。球が流されてしまう中で効率よく勝つため、FWも相手守備陣に勢いよくプレッシャーをかけ、最短距離でゴールを目指すのが母校の浜名高サッカー部・池谷守之監督の考えだった。
1年生でFWの先発で使われた。「なんであんな下手くそを使うんだ」というOBの声もあったが、その年の全国高校選手権静岡県大会準々決勝で打点の高いヘディングシュートを決めた。20歳以下日本代表に入った。周囲の批判は一切なくなった。
カメルーン戦。通常は電光掲示板に設置されている時計を見つけることができず、試合時間を把握できなかったという。「残り何分か、全くわからなかった。まあ、そういうことはあまり考えず、とにかく走り続けました」
なんて矢野らしい言葉だろう。(中川文如、渡辺芳枝、有田憲一)
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