望 〜都の空から
東京の魅力や四季の彩り、さらに課題も空撮で紹介します
【国際】ロシア軍の“処罰” 海賊より手荒2010年6月16日 朝刊 ソマリア沖の海賊行為が国際社会の脅威となっている中、ロシア海軍が五月初め、拘束した海賊をゴムボートで海上に置き去りにし、死亡させたとして問題になっている。ロシア側は海賊を裁く国際法の不備を盾に“漂流刑”を正当化するが、この措置を人権軽視として批判する声も少なくない。人道問題はさておき、海賊たちも肝に銘じたことだろう。ロシア軍は怖い−と。 (モスクワ・酒井和人) 問題となったのは先月五日、ソマリア沖の公海上で乗っ取られたロシアの船会社所有のタンカー「モスクワ大学」(リベリア船籍)の救出作戦。ロシア海軍の対潜哨戒艦が六日、同船を急襲し、海賊一人を射殺。十人を拘束した。ロシア人船員二十三人は全員が無事だった。 ◆釈放後“遭難状態”に海軍はその後、拘束した十人と遺体をゴムボートに乗せ、海上で「釈放」。食料と飲料水、信号発信機は与えたが、備え付けの衛星利用測位システム(GPS)を取り外したため、海賊らは“遭難”状態になった。 ロシア国防省によると、ボートからの信号は一時間後、沿岸から約六百キロの地点で途絶。全員死亡したとみられるという。 ロイター通信によると、ソマリア暫定政府は「海賊であろうと公正な裁判を受けなければならない」とロシアの対応を批判し、詳しい事情説明を求めた。ある海賊リーダーは「ロシア人の人質は他国と違う扱いをする」と復讐(ふくしゅう)を誓ったという。 ◆自国での訴追可能日本を含め、ソマリア沖で取り締まり中の各国が公海上で海賊を拘束した場合、国連海洋法条約は自国で訴追できると定めている。ただ、実際の判断は各国に委ねられるため、対応はまちまちなのが現状だ。 欧州連合(EU)は拘束した海賊をアフリカ沿岸国に引き渡してきたが、最大の受け入れ先のケニアが負担の大きさに難色を示し始め、見直しを迫られている。日本は、日本人が被害にあった場合は海賊を自国へ移送し、訴追する方針。他の場合はケースごとに判断するが、海上での放置は「人権上、あり得ない」(海上保安庁海賊対策室)という。 ◆責任はないと断言ロシアのイワノフ副首相は、今回の措置をめぐり、自国への移送と訴追には多額の費用と手間が必要と説明。海上での釈放は海賊の希望を受け入れた措置だった事情も示唆し、「ロシアに責任はない」と断言した。 また、政府機関紙「ロシア新聞」は、沿岸国への引き渡しも長期の交渉などが必要で、海軍の判断は妥当だったとする専門家の見方を伝えている。 一方、海賊を急襲した部隊が所属するロシア太平洋艦隊高官は本紙に対し、海賊対策の内規には拘束後の処置に関する記述がなく、事実上、現場で判断できる実態を明らかにした。内規に明記されている取り締まり目的は海賊行為の「発見と確認」、そして「壊滅」だという。 昨夏、ロシア人運航の貨物船の武器密輸疑惑を訴えたため脅迫を相次いで受け、タイに移住したという海事専門家ボイテンコ氏は、ロシアのインターネット新聞「ガゼータ・ルー」で、ロシア海軍が海賊取り締まりという「人間狩り」を続けていると批判。海上への置き去りは「実際は海賊を殺害したが、問題化を恐れ、虚偽のストーリーを作ったのではないか」と語っている。 <ソマリアの海賊被害> 国際海事局(IMB)によると、ソマリアの海賊による被害件数はここ数年、増加傾向が続き、2009年は217件と、前年(111件)から倍増した。取り締まり強化の結果、今年の第1四半期は減少に転じたが、半面、自動小銃やロケット砲などを使った凶悪事件や、被害海域の拡大が指摘されている。
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