中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし・健康 > 暮らし一覧 > 記事

ここから本文

【暮らし】

ストップ アルコールの有害使用 WHOが世界戦略

2010年6月3日

写真

 酒類による健康や社会への害を減らしていこうと、世界保健機関(WHO)は、五月の総会で「アルコールの有害な使用を減らす世界戦略」を採択した。生産、広告、販売、消費にまたがる総合対策で、分野ごとに選択肢を設け、加盟国の国情に応じた取り組みを求めている。若者層の問題飲酒の防止に力点を置いているのが特徴だ。 (安藤明夫)

 WHOの調査では、二〇〇四年に世界中で約二百五十万人がアルコール関連の原因で死亡した。うち一割強の三十二万人は、十五〜二十九歳の若者だった。

 有害な飲酒は、精神疾患のほか、心血管疾患、肝硬変、各種のがんの危険因子。交通事故、暴力、自殺などの原因にもなっている。

 WHOは、これまでにも勧告などの形で加盟国に取り組みを求めてきたが、今回は具体的な選択肢=別項=を示すことで、本腰を上げるように促している。未成年飲酒防止の地域づくり、若者への販売、消費への「障壁」づくり、若者に受けるアルコール飲料への特別課税など、若者・未成年者に向けた取り組みが多いのが特徴。拘束力はないが、三年後の総会で取り組み状況の報告を求める。

 規制強化の流れを受けて、大手ビールメーカー五社でつくるビール酒造組合(東京)は、昨年十二月にテレビ広告についての自主基準を発表。未成年飲酒防止のためにCM自粛の時間帯を拡大し、今秋以降は、午前五時〜午後六時のテレビCMを自粛することにした。

 酒造、卸、小売りなど酒類業界八団体で構成する酒類業中央団体連絡協議会も、▽未成年対象のテレビ・ラジオ番組、雑誌などには広告をしない▽イッキ飲みなど飲酒の無理強いにつながる表現をしない▽未成年にアピールするタレントなどを広告のモデルに使わない−などの自主基準を四月から施行している。

 ただ、国の対応が決まるには、まだまだ時間がかかりそう。厚生労働省の担当者は「健康被害などの実態調査を実施することは決まっているが、その後は調査結果を見てから」と話す。担当省庁も未定だ。

 三重県でアルコールの保健医療の連携に尽力してきた猪野亜朗医師(かすみがうらクリニック)は「アルコール関連問題基本法の制定が不可欠」として、次のように指摘する。

 「日本では、これまで公衆保健医療の一部として対策が行われてきたが、法的な枠組みがなく、専用の予算もなかった。都道府県ごとの対応のばらつきも大きい。WHOの戦略は、国や各省庁、地方自治体、保健医療などの役割を定めており、実現させるには、法的な裏付けが欠かせない」

 市民団体のNPO法人「アルコール薬物問題全国市民協会」(東京)の今成知美代表も「飲酒運転対策は、内閣府が中心となって各省庁の連携が進み、成果を挙げた。今回も内閣府を中心に進めてほしい。業界団体の自主基準などで解決できる問題ではない」と話している。

◆具体的な選択肢掲げる

 WHOの世界戦略で示された主な選択肢の要旨は、次の通り。

 【保健医療の対応】アルコール関連疾患の家族の支援、自助グループへの支援▽有害な飲酒の早期発見と介入▽妊婦、出産適齢期女性への対応▽薬物、うつ病、自殺などと関連づけた予防法、治療、ケアの戦略▽貧困層が利用しやすい医療サービスの提供

 【地域社会の活動】アルコールに関連する地域の損害について自覚を促す▽未成年者の飲酒を防ぐ環境づくり▽患者や家族へのケアの提供

 【アルコールの入手】小売店の数や場所の規制▽小売りする日、時間の規制▽若者の飲酒を防ぐ「障壁」づくり▽酩酊(めいてい)した人への販売防止

 【販売活動】広告内容や広告量の規制▽スポーツ・文化イベントでのスポンサー規制▽若者対象の販売促進の制限・禁止▽公的機関などの監督システム

 【価格政策】大量飲酒、若者の飲酒を抑制する効果的な課税▽値引き販売、居酒屋の飲み放題などの禁止・制限▽アルコールの最低価格の設定

 【悪影響の低減】大規模イベントでの飲酒規制▽飲食店で酩酊するまで酒類を提供しないように法的責任を持たせる▽酩酊者への必要なケアやシェルターの提供▽酒害への消費者情報の提供

 

この記事を印刷する

中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ