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きょうの社説 2010年6月16日
◎W杯で歴史的ゴール 本田選手から元気もらった
まさに値千金だった。星稜高出身のサッカー日本代表、本田圭佑がW杯カメルーン戦で
挙げた1点は、日本のサッカー史に残る歴史的ゴールになった。その重みと注目度は、大リーグの松井秀喜がワールドシリーズMVPを獲得した快挙に匹敵するのではないか。明るいニュースが少ないなか、遠く南アフリカから元気と勇気をもらった気がする。サッカーと野球の「世界一」を決める大会で、輝きを放った日本人選手はそう多くはな い。「お国自慢」が過ぎると笑われるかもしれないが、北陸に住む者として鼻が高い。予選リーグ残り2試合はカメルーン同様、日本より格上の相手とはいえ、本田の獅子奮迅の働きがあれば、2度目の番狂わせも夢ではないだろう。24歳になったばかりの若武者のさらなる活躍にエールを送りたい。 本紙ロサンゼルス支局の松井番記者によれば、松井は後輩の活躍について「彼は何か持 っている」と語ったという。素晴らしい才能があっても、ここ一番で実力を発揮できるとは限らない。厳しい勝負の世界に生きる松井は、勝利の女神に愛されるプラスアルファーの力を、身を持って体験したのかもしれない。 「不言実行」の優等生タイプの松井と、「有言実行」の冗舌で、やんちゃな本田は、正 反対の性格のようにも見える。髪を金髪に染め、ビッグマウス(大口をたたく)とやゆされながらも、まっすぐに我が道を行く本田の素顔は、本当に見た目通りなのか。 カメルーン戦でのゴールの後、本田が真っ先に駆け寄ったのは、控えの選手たちの輪の 中だった。「試合に出る出ないは勝負の世界だからしょうがない。でも、みんなで戦ってるんだと示したかった」。控え選手の悔しさを引き取って戦うという強い決意と責任感があればこそ、あの局面で百点満点の仕事ができた。松井とは全く違うタイプでも、本田もまた特別な何かを持った選手なのだろう。 次のオランダに勝つか引き分ければ、2002年日韓大会以来の決勝トーナメント進出 が見えてくる。その夢を正夢にするには、もう一度、本田のゴールが必要だ。
◎日中ホットライン 中国の戦略を見極めたい
菅直人首相と中国の温家宝首相が電話で会談し、東シナ海のガス田共同開発に関する条
約締結交渉を早期に開始することを確認した。日中両政府は今回の電話会談を、先の首脳会談で合意した首脳間「ホットライン」の正式スタートと位置づけており、海上危機管理のメカニズムの構築などでも一致した。これにより、東シナ海を舞台にした日中の懸案解決に向けて一歩前進したと評価できる が、先行きはなお不透明であり、手放しで喜ぶわけにもいかない。東シナ海のガス田開発問題も海上危機の問題も中国側が多くの責めを負うべきことを確認し、特に示威的な行動を強めている中国海軍の戦略や意図を見極める必要がある。 先の首脳会談では温首相の口からも、東シナ海を「平和友好の海にする」ということが 語られた。両国の経済的な相互依存関係は極めて深く、東シナ海での軍事的衝突の可能性は現実には考えにくいとしても、日中中間線海域などにおける中国海軍の威嚇的な行動は看過できないものがある。 中国海軍の戦略は、従来の沖縄から台湾、フィリピンに至る「第1列島線」内の沿岸防 衛にとどまらず、小笠原諸島からグアム、サイパンに至る「第2列島線」内の制海権をめざすこととされる。中国海軍ヘリが今年4月、沖縄南方海域で警戒中の海自護衛艦に異常接近した「事件」などは、そうした中国の戦略を裏付けるものとみることができよう。 東シナ海における日中の排他的経済水域(EEZ)の境界線画定は当面困難である。こ のため、主権意識に基づいて、自国の海洋権益の侵害を許さない強い意思と行動が求められる。 政府は、次期駐中国大使に大物経済人の丹羽宇一郎氏の起用を決定した。経済の連携強 化に主眼を置いた人事とみられるが、駐中国大使の要件として重要な点は、経済外交の能力だけでなく、安全保障の観点から中国の動向を冷静に観察し、国益を守る気構えで対中外交の前線に立てる人物であるかどうかであることを、政府も丹羽氏も認識してほしい。
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