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口蹄疫:戦争のようだ 見えない敵におののく宮崎

 <追跡>

 未曽有の口蹄疫(こうていえき)禍に揺れる宮崎県。4月20日に1例目の感染牛が見つかってから約2カ月。今月9日には鹿児島県境の国内最大級の畜産地・都城市などにも飛び火した。「次はどこだ?」。生産者たちは失意と疲労のどん底で、ウイルスという見えない敵と闘っている。現場を訪ねた。

 「申し訳ないけど、取材はここで」

 巨大なサイロや飼料倉庫が並ぶ都城市の「はざま牧場」。敷地入り口の道幅いっぱいにまかれた消石灰の手前にパイプ椅子を置くと、会長の間和輝さん(66)は記者に勧めた。ここから先は従業員や消毒済みのトラック以外、立ち入り禁止だ。

 間さんは都城を中心に31農場を展開し、牛・豚約9万頭を飼育する。41年前、わずか豚2頭から創業し、エサにきなこを配合した「きなこ豚」で一躍、国内屈指の出荷数を誇る企業へと育て上げた立志伝中の人物だ。

 その間さんが疲れ切った表情で言う。「今まで何度も壁にぶつかった。けど、今度ばかりはその怖さたるや例えようがない。戦争が始まったようだ」

 市内の農場で感染が疑われる牛が見つかったのは9日午後。発生農場の川向かいには、はざま牧場の農場が二つあり、きなこ豚約5500頭が飼育されている。間さんは急きょ社員を集め、風によるウイルス飛来を防ぐため畜舎をカーテンで覆う。この2農場を含む系列28農場が10日から家畜の移動・搬出制限区域に入った。「月約6億の売り上げが今月は5%程度になりそうだ」。月約5億円のコストが積み上がっていく。

 市内で制限区域に入った畜産農家は1776戸。出入り口を石灰で白く染めた民家が目につく。誰もが、県央部で続く「地獄絵」の再現におののいている。

      □

 都城市から北東へ約60キロ。川南町は田畑も商店街も人影がまばらだ。4月21日に2例目の感染牛が見つかり、感染の連鎖で13万頭以上が殺処分となった。

 町内の酪農業、川上昇さん(57)宅の庭の片隅には、こんもりと土が盛られた場所がある。白い石灰で覆われたその下に16頭の乳牛が眠る。大雨の日だった。鎮静剤を注射し、13、14、15秒……。巨体が「ドスン」と崩れる音は耳奥に今もこびりつく。倒れた牛は薬殺後、重機でつり上げ、穴に沈めた。

 妻(53)と2人、牛舎の掃除、搾乳、給餌が朝の日課だった。「今も5時過ぎに目が覚める。何もすることがないのに」

 10年前、宮崎と北海道で口蹄疫が起き、今年に入って韓国や中国などでも多発した。川上さんは言う。「農家も行政も住民もきちんと対策を取ってきたか? 今回の教訓を役立てないと犠牲が無駄になる」【阿部周一】

毎日新聞 2010年6月16日 東京朝刊

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