クリスマス、年末年始が近づいてくると、診察室で「私だけがひとりぼっち」と訴える人が増える。
街を歩いていても、恋人同士、家族づれがやたらと目につく。デパートに入っても、大切な誰かのためにプレゼントを選ぶ人たちでいっぱい。こんな時期にたったひとりで暮らし、仕事もできないままうつ病で治療中だなんて、私だけなのではないか……。こういう思いにとらわれてしまうのだ。
たしかにこの時期、病を抱えていたり、心許せる家族もないままひとりで暮らしていたりするのは、しんどいことだろう。仕事が忙しすぎるのもつらいが、仕事がないというのはもっと不安だ。今年、離婚したとか“婚活”がうまくいかなかった、という人も寂しい気持ちでいっぱいだろう。「来年になればいいことがあるさ」と自分に言い聞かせようとしても、世の中の暗いムードがそれを許してくれない。
「どうして私だけがこんな暗い気持ちで年末を迎えなければならないのでしょう?」とうなだれる人に、「つらいのはあなただけではないですよ」と声をかけようとして、言葉をのみ込むことがある。「苦しいのは自分だけじゃない」と思ったとしても、その苦しさを誰かとすぐに分けあうことはできない。苦しいのは、あくまで自分。だとしたら、「あなただけではない」というのは、単なる気やすめの言葉にしかすぎないのではないか。そう思うと、とても「ほかの人だって大変なんですよ」などと安易に口にする気にはなれなくなる。
「でも」と、私はここで言いたい。「こんなに寂しいのは私だけ」「クリスマスは私以外はみんな楽しい」というのは、やっぱり正しい考えではない。病気、失業、お金の問題や家族の問題。いろいろなことで悩み、傷つき、孤独や不安のうちに年末を迎えている人は、あなたが思っている以上にたくさんいる。その人たちは外に出てきづらいので、楽しげに街を歩く人たちが目につくだけなのだ。
そして、来年こそは、暗い気持ちの中で年の瀬を迎えている人も、ほっとした気持ちですごせる年になってほしいと願う。精神科医として私ができることはごく限られているが、それでも何かはできるはず、と自分で自分に言い聞かせる。その前に、私自身が「こんなにつまらないクリスマスを迎えるのは、私だけ」などという“不幸モード”に入らないように、気をつけなければ。
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次回は新年1月12日掲載予定です。
毎日新聞 2009年12月22日 地方版