【アイドル音楽評~私を生まれ変わらせてくれるアイドルを求めて~ 第10回】
テクノポップが死んでも......Aira Mitsuki is not Dead!!
5月5日に開催された恵比寿LIQUIDROOMでのAira Mitsukiのワンマンライヴは凄かった。普段「テクノポップ」や「エレクトロポップ」と形容される音楽性の彼女が、いきなりほぼ全編生演奏という予想外のステージを見せたのだ。意表を突くにもほどがある。こちらもテンションが上がりすぎて疲れたほどだ。
バックを務めたのは元i-depの高井亮士のバンドとSawagiの2バンド。特に高井亮士バンドとの共演時は、高井亮士がチョッパーでファンキーなベースを鳴らしまくった。さらにAira Mitsuki自身がドラムを叩き、それにベースとキーボードが合わせるので、異形のファンクネスを生み出す事態となっていた。興奮した。
ハイライトは、レニー・クラヴィッツのカヴァーである「Rock'n Roll is Dead」。いきなり生演奏に塗り替えられたこのライヴでは、さながら「Technopop is Dead」に聴こえた。テクノポップは死んだ。誰が殺した? Airaが殺した!
それに比べると、Sawagiとのステージはそれほど強い印象を残さなかった。しかし、そのコラボレーションが重要なものであったと気付かされるのが『6 FORCE』だ。このアルバムは、従来のプロデューサーであるTerukadoによる「Terukado track」を4曲、インストダンスミュージックバンドのSawagiのプロデュースによる「Sawagi track」を3曲収録。以前この連載で紹介したSaori@destinyの「WORLD WILD 2010」が傑作だったように、Terukadoのプロデュースによる楽曲の完成度はすでに高い水準に至っており、気を抜くとマンネリに陥りかねないのだが、そこにSawagiが見事に新風を吹き込んでいる。オリコンでは週間ランキングで34位を記録した。
Sawagiが作曲、Aira Mitsukiが作詞した3曲は、メロディーがTerukadoプロデュース楽曲に比べると異質だ。たとえば冒頭を飾る「HEAT MY LOVE」や、通常盤にのみ収録されている「display toy」ほど強烈にキャッチーではない。しかし、エレクトロな感触も維持しつつ、生バンドならではのロック感がAira Mitsukiの新たなダイナミズムを伝えることに成功している。
前述した5月5日のライヴは終演と同時にファンから様々な反響を呼んだ。「テクノポップじゃない」と怒る人もいれば、「ディーヴォみたいだ」「(事務所の先輩の)80★PAN!みたいだった」と感想を述べる人もいた。印象は人それぞれだ。ただ、確かなことがひとつだけある。Aira Mitsukiが変わった、ということだ。アイドルを出自とするアーティストにとっては難易度が高いこの行為をAira Mitsukiは成し遂げたのだ。
物は壊れる、人は死ぬ。そのままでいることができる事物などそうはない。だったらどんどん変化して面白いほうがいいじゃないか、と『6 FORCE』は確信させる。この変化は肯定されるべきだ。
と、この原稿を書いている今夜、Aira MitsukiはTwitterのフォローからファンを一気に外したために、大騒動が起きている。外野の声はうるさいだろうし、彼女は葛藤の中にいるのだろうが、とにかくファンは大切にしたほうがいい。「Aira Mitsuki is Dead」にならずに活動を続けるために、それが今のAira Mitsukiにとって一番重要なことのはずだ。
◆宗像明将
1972年生まれ。音楽評論家として、日本のロックやポップス、英米のポップス、ワールドミュージックを中心に執筆。その一方、2002年からソニンのヲタに。彼女の歌手活動停止後は、魂の救済を求めてPerfumeとtoutouのヲタになり地下へ。現在は地下から地上までのアイドル・シーンを見守る。http://www.outdex.net/diary/
新生Aira
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