2010.5.25 05:00
1989年のサンフランシスコ地震。橋の崩壊場面が何度も放映され、街が壊滅したかのような印象を与えた。実態は死者270人。もちろん大きな被害だが、阪神淡路大震災の死者が6000人以上であることを考えると、報道内容で受け取る人の印象は大きく左右される。
派遣切り報道から始まり、年越し派遣村などに発展した一連の派遣バッシング。派遣は悪であり、あたかも派遣制度をつぶせば万事解決するかのような報道がなされてきた。しかし、果たしてそれは正しかったのか。総務省が集計した労働力調査(2009年7~9月平均)によると雇用者総数は5488万人。このうちパート・契約社員・派遣などの非正規層が31.8%の1743万人。では派遣社員の数はというと102万人で雇用者総数の1.9%、非正規層の内の5.9%にすぎない。
一連の不安定雇用の問題は、非正規雇用全体の問題であるはず。なのになぜ、非正規層の10分の1にも満たない派遣だけを取り上げるのか。派遣制度がなくなっても、非正規の問題はなくならない。むしろ派遣だけを取り上げてむやみに規制強化することは、その雇用流動化機能を阻害し雇用創出停滞を招く懸念がある。
派遣は本当に悪なのか。世間は正しい認識を持っているのか。「頑張る人のために、頑張りたいんです」。ある派遣会社の営業が発した言葉がむなしく耳に残る。(人材ビジネス評論家 37歳 男性)