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【社説】

はやぶさ帰還 新時代切り開く成果だ

2010年6月15日

 小惑星探査機「はやぶさ」が幾多の危機を乗り越え、地球へ帰還したのは快挙だ。日本が誇る無人探査技術は決して海外の有人探査にひけをとらない。この技術を将来の宇宙開発に生かしたい。

 日本が近年かかわった宇宙開発の中で「はやぶさ」ほど注目を集めたものはないだろう。「はやぶさ君」と擬人化し無事帰還を願うファンクラブまでできたほどだ。それほどドラマに満ちた七年間の宇宙の旅だった。

 二〇〇三年五月に打ち上げられ、〇五年九月、目標の小惑星「イトカワ」に到着。二回着陸し、砂などのサンプル採取を試みた。

 その後「はやぶさ」は、燃料漏れに伴う姿勢制御不能、地上との通信途絶などトラブルが発生し、地球帰還が三年遅れた。通信回復後も、バッテリーやエンジンの故障などに見舞われ、万事休すと思われたが、そのたびに開発に携わった研究者たちが予備機能を駆使したり、設計時には想定外だった“裏技”“奇策”ともいうべき指示を臨機応変に次々と与え、地球への帰還を成功させた。

 これまで米国と旧ソ連が「月の石」を持ち帰り、米国は彗星(すいせい)の塵(ちり)の採取にも成功したが、小惑星に直接着陸しサンプル採取を試みたのは「はやぶさ」が初めてだ。

 カプセルからわずかな塵でも確認されれば、国際チームによる分析で、太陽系誕生の初期の状態を解明する貴重な情報が得られるのは間違いない。惑星探査の先頭を走ってきた米国、ロシアさえも及ばない成果を挙げることになる。

 「はやぶさ」成功の意義はこれにとどまらない。もともと工学実験探査機で、従来の液体酸素や水素を使う化学エンジンよりも燃費が良くて長期間飛行が可能なイオンエンジン、電波でさえ往復するのに数十分要する宇宙で自分で判断しながら姿勢制御する自律航法など、五種類の最新技術の実証が狙いだったが、そのすべてを達成した。これらは有人、無人を問わず将来の惑星探査に欠かせない技術だけに今回の成功で自信を持って本格的な開発に着手できるだろう。

 「はやぶさ」の開発費用は百三十億円で、国際宇宙ステーション参加の毎年の負担金四百億円よりもずっと安い。それでも世界に誇る成果を挙げた。

 だが、政府は後継機の開発費を本年度予算では概算要求額から大幅削減した。「はやぶさ」の成果を引き継ぎ世界をリードするためにも、政府は来年度予算で後継機の開発を支援すべきだ。

 

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