きょうの社説 2010年6月15日

◎「はやぶさ」帰還 2号機の製造に予算措置を
 小惑星探査機「はやぶさ」が60億キロの長旅を終え、地球に帰還した。月よりも遠く の天体に着陸し、地球に戻ってきたのは世界初の快挙である。豪州の砂漠に着地したカプセルに小惑星「イトカワ」の砂は入っているだろうか。いくつもの奇跡を生んだドラマの結末が待ち遠しい。

 はやぶさは、エンジンの故障や通信途絶など多くのトラブルに遭遇し、一時は地球への 帰還が絶望視された。「日本から南米にいるハエを撃ち落とす」と評された難易度の高い任務に挑み、試練を乗り越えた技術者たちの粘りと日本の科学技術の底力は、私たちに勇気と感動を与えてくれた。

 重要なのは、今や世界をリードするといわれる日本の惑星探査を断絶させないことだ。 特に来年度に後継機「はやぶさ2」の開発を始めるための予算を付ける必要がある。2号機は小惑星の位置などから、2015年までに打ち上げないと間に合わない。タイムリミットが迫るなか、政権交代による予算削減と「事業仕分け」で17億円の予算が大幅に削られ、今年度中に開発に着手できなかったのは残念だ。はやぶさで得た技術的優位を保ち、さらに進化した2号機の開発につなげてほしい。

 先月、金星探査機「あかつき」とともに打ち上げられた宇宙ヨット技術の実証機「イカ ロス」には、金大宇宙物理学研究室が開発した装置が搭載されている。はやぶさと同様、有人飛行のような派手さは無いが、日本の惑星探査には、ローコスト、省エネ、小型化、無人化といった日本が最も得意とする技術の粋が詰まっている。

 例えば、太陽光発電のエネルギーで動くはやぶさのイオンエンジンは日本の独自技術で 、7年間で延べ4万時間の稼働実績を示した。既に商業化が決定しており、開発した企業は3年間で20億円規模の売り上げを目指すという。

 探査機の関連技術はすそ野が広く、金大はじめ、多数の大学や企業が開発に参加してい る。宇宙を舞台にした壮大なプロジェクトは、学生や若い技術者に目標を持ってもらう教育的な意義もある。子どもたちの「理系離れ」の防止にも、大きな効果があるだろう。

◎小林議員辞職 党の体質が問われている
 北海道教組の政治資金規正法違反事件で、民主党の小林千代美衆院議員がようやく辞職 を表明したが、労組丸抱えの選挙手法の不信感はまったく解消されていない。それどころか、教組幹部の公判では、小林氏側に渡った資金の原資は明らかにされず、検察側は直近の会計帳簿が見当たらないことから組織的な証拠隠滅と指摘した。鳩山由紀夫前首相や小沢一郎前幹事長と同様、民主党がこれで一定のケジメをつけたと考えるなら思い違いも甚だしい。

 北教組に限らず、国民は他の労組でも同様の事例があるのではないかと疑念混じりの視 線を注いでいる。労組を支持母体にする民主党にとって、党の体質そのものが問われる深刻な事態である。こうした問題を放置していては、マニフェストで掲げた企業・団体献金の廃止も実現できるはずがない。民主党は提供資金の実態を徹底的に調査し、公表する必要がある。

 政治資金規正法は、企業や団体の政治家個人への献金を禁じているが、政党や政治資金 団体は認められている。北教組が正規の手続きを踏まず、小林氏陣営に計1600万円を渡したのは、それが収支報告に記載できない「裏金」だったからだろう。

 教組幹部に有罪が言い渡された14日の札幌地裁判決では、両罰規定で団体の北教組も 罰金刑を受けた。当選のためなら違法な手段にも目をつむる組織の悪質性が認定された事実は重い。事件の背景には、教育公務員特例法で政治活動や選挙活動が制限されていながら、法令を顧みない組合活動が常態化していることがある。

 鳩山前首相から辞職を求められても職にとどまっていた小林氏は国会閉会後に辞職する とした。会期中に辞めれば補選は参院選と同日になるが、それでは選挙準備が整わないとの理由らしい。いくら謝罪の言葉を並べても選挙の思惑が先行しては心には響かない。

 支持率が急回復しても、民主党が抱える「政治とカネ」の根本的な問題は何も解決して いない。国会を早く閉め、臭いものにフタをするようなやり方は首相が掲げた「クリーンな政治」には程遠い。