7年の長旅を終え、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰ってきた。数々のトラブルに見舞われながら、その都度、プロジェクトチームの創意とチャレンジ精神で乗り越えての帰還である。
地球に届けたカプセルには小惑星イトカワの砂が入っていると期待される。その分析も楽しみだが、小惑星往復だけでも世界初の快挙である。60億キロの旅に拍手を送りたい。
地球から遠く、重力が小さい小惑星からの試料持ち帰りは容易ではない。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発したはやぶさには、難度の高い複数の課題が課せられた。
独自に開発したイオンエンジンは、力は弱いが効率が高く、宇宙の長距離航行に適している。トラブルがあったとはいえ、長い運用に耐えることが確かめられた意義は大きい。改良を進め、宇宙帆船の技術などと組み合わせれば、新たな惑星間航行の時代を築けるのではないか。
日本からの指令が間に合わない宇宙空間で、自ら判断して小惑星に着陸する「自律航法」も実証できた。最後に、大気圏突入による高温を経てのカプセル回収という難題もクリアした。ほぼすべての課題を達成したといっていいだろう。
惑星科学の成果も重要だ。はやぶさの写真からイトカワの起源の手がかりが得られた。砂が分析できれば太陽系初期の知識が深まるはずだ。
はやぶさは社会現象にもなった。ネットには、けなげに故郷をめざす「はやぶさ君」への応援の言葉があふれた。背景には、満身創痍(そうい)の探査機が絶体絶命の状況から何度も再起したねばり強さがある。それを支えたチームの底力は大したものだ。
プロジェクトを率いたJAXAの川口淳一郎教授は「ある時からは神頼み」と話したが、一人一人の熱意と能力が幸運を引き寄せたのだろう。JAXAだけでなく、メーカーの提案も採用してきたチームワークの良さも鍵を握ったに違いない。
後継機「はやぶさ2」の計画にも注目したい。はやぶさの経験を生かし、イトカワとは異なるタイプの小惑星をめざす。問題は、来年度に開発を始めないと打ち上げ目標に間に合わないことだ。そうなれば、技術が継承できず、人材も失われる。
はやぶさの開発費は127億円。低コストでできる無人探査の魅力を再認識した人は多いだろう。米国が小惑星探査に意欲を見せていることも念頭に、ぜひ予算をつけたい。
日本の縮み志向が懸念される今、はやぶさは、あきらめずに挑戦することの素晴らしさも印象づけた。宇宙開発はもちろん、さまざまな分野で若者が自信と意欲を持つきっかけにもなってほしい。
毎日新聞 2010年6月15日 2時31分