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[19377] 【習作】Take me higher!(リリなの オリデバイス物)【ネタ】
Name: 葉川柚介◆9ddbfd91 ID:cae9ab50
Date: 2010/06/08 10:48
 ほぼすべての人にはじめまして。

 身の程知らずにもなのは系の誰得SSを書いてしまいました。

 元来私はとても遅筆なため、本来もっと書き溜めて完結の目処が立ってから投稿するつもりだったのですが、娘-TYPEの第四期マンガを立ち読みしたところ、そんな悠長なことを言っていたらことごとくネタが喰われそうな展開になっていましたので、取り急ぎ序章を投稿してみます。
 投稿ペースは亀の如しになると思われますが、お楽しみいただければ幸いです。



 以下、このSSの注意事項です。
・物語の時間軸は「StS後」
・オリ主、オリキャラ有り
・オリジナルデバイス……というかオリジナルのデバイスカテゴリーが登場します
・作中に登場する名前の元ネタとしてウルトラマンやら仮面ライダーやらから色々と拝借しております
・なのでどっかで見たような話・展開目白押し……かも
・第一話の説明臭さは異常


 それでは、以上の地雷原を突破して読んでやろうと思ってくださった方に感謝を捧げて。



[19377] 第一話「出撃」
Name: 葉川柚介◆9ddbfd91 ID:cae9ab50
Date: 2010/06/13 16:53
 月が輝き、星が瞬く夜の空。
 ミッドチルダの中枢である大都市、クラナガンの郊外に広がる森林地帯の、その上空。
 常ならば風のほかは飛び交うものもないはずのその空を今、一機のヘリがローター音も激しく一直線に、森の奥へと飛んでいた。
 管理局地上部隊制式採用の、人員輸送を目的としたそのヘリのキャビンには現在、一人の男と一つの物が収められている。
 男はキャビンの壁から飛び出た座席に腰掛け、自分の待機状態のデバイスなのだろう、手の中にあるカードをくるくると回して弄ぶ。


 年の頃は二十代の始めごろ。
 着込んだ制服は地上本部に所属していることを示し、胸に見える階級章は三等陸尉。
 まだまだ若手と言っていい年頃の、ごくごく普通の管理局職員のようではあるが、見るものにわずかの違和感を抱かせる空気をまとっている。
 それは例えば、隙なくピシリと伸びた背筋が漂わせる生真面目な雰囲気と、手の中でくるくると回るカードの動きがどこか焦りを感じさせるものであることのちぐはぐさ。
 例えば、その身を包む丁寧に手入れをされた制服と、その腰に巻かれている大仰な機械で作られた奇妙なベルトのミスマッチ。
 それらのアンバランスが、この青年に不可思議な雰囲気をまとわせている。


 そんな青年とヘリのキャビンに相乗りしているものは、扁平な銀色の板。
 くの字に曲がった、人の背丈ほどもある巨大なブーメランを思わせるそれは、鈍く輝きながら未だ役目を果たす時を迎えず、ヘリの振動に合わせてカタカタと立てかけられた壁を叩いていた。


 青年はちらりと視線を上げてその銀板の様子を見ると、またすぐに手の中のカードに視線を落として、中央に宝石の埋め込まれたそれをくるくると弄ぶ。




 この青年の名は、シャーロック・カマロ。
 管理局地上本部直属新デバイス開発室、通称アーマードデバイス隊に所属する、テストパイロット。
 わざわざ彼一人を運ぶためにヘリが飛ばされた理由は、数十機に及ぶガジェット群を、単独で撃破せよという命令が下ったからである。




 事の起こりはこの日、陸士部隊が長年追いかけていたロストロギア密輸組織の支部へと強襲を掛けたことによる。
 綿密な捜査が実を結び、シャーロックを乗せたヘリが今まさに向かっている地点に、組織が物資の集積などに使っているアジトが存在していることが発覚した。
 そのため、強襲任務の得意な部隊である陸士78部隊が周辺を包囲し、突入を行うこととなったのだ。




 作戦開始から数十分、施設内部の掃討と組織構成員の捕縛など、終始順調に進んでいたその作戦はしかし、あるときを境に状況を一変させられる。
 そう、施設内部から突如現れた、大量のガジェットによって。


 一年前に起きたJS事件によって、ガジェット及びそれが放つAMFの驚異は管理局の魔導師に広く知れ渡り、対応策の開発も進められている。
 だが未だ、実戦配備に足り、なおかつ前線に十分行き渡らせることのできる方法は皆無と言っていい。


 隊員のランクが決して高くないこの部隊の隊員では、AMFが発生してすぐに魔力弾による射撃はそのほとんどが無効化され、苦戦を余儀なくされた。
 それでも必死にガジェットを撃破しようとするものの、隊員の多くがミッド式の魔導師であるこの部隊の戦力では難しい。


 施設内での戦闘を続ければ突入した隊員が各個撃破されかねない。
 それをもって陸士78部隊の指揮官はガジェットを施設内にとどめておくことが不可能と判断し、施設を包囲してガジェットと組織の構成員を逃がさぬように封じ込めるように方針を転換。
 同時に、地上本部へと支援を要請した。


 ガジェット出現の報を受けた地上本部は事態を重く受け止め、直ちに本件をJS事件の周辺事態と認定。
 対AMF戦闘が可能な人員の派遣を決定する。


 現在、管理局がAMF環境下での戦闘が必要な状況に対して、取りうる手段は三つ存在する。


 一つは、AMFの影響を受けにくい戦闘スタイルを持つ魔導士の派遣。
 だが、管理局に所属する魔導師の多くは現在もガジェットと戦っている陸士78部隊の隊員と同様にミッド式の魔法を修めており、戦闘においては魔法による射撃やサポートを前提としているために、ベルカ式の魔導師のようにAMF環境下でもガジェットの装甲を貫きうるスキルを持った魔導師は数が少ない。


 もう一つは、たとえAMFが発動していようとも自分の戦い方をすることができる大魔力を持った魔導師の派遣。
 しかしこれは言うまでも無く、そもそもそこまでの魔力量を持った魔導師の数が少ないうえに、もし万が一のことがあれば重大な戦力の損失となるために、対象となる大魔力魔導師が所属する原隊の許可が降り辛い。



 そして、それゆえに今回は最後の方法が選ばれた。


 近年になって開発が始まり、実用化まであと一歩と言うところまでこぎつけた、インテリジェントデバイスともストレージデバイスともアームドデバイスとも違う、新たなカテゴリーのデバイス。
 AMFにも対抗しうると目されるそれこそが、シャーロックの持つデバイスである。



――ピッ


 ヘリの中、シャーロックの手の中でくるくると回っていたデバイスに通信が入ったことを示すシグナルが灯る。
 その瞬間、薄暗くキャビンの中を照らす明かりに映るシャーロックの表情はわずかに強張るが、すぐにその表情を消して回線を開く。


 ぼんやりと輝く空間ディスプレイがデバイスの中心に埋め込まれた宝石から投影され、画面に髪の長い少女の姿が映し出される。
 見た目は13、4歳程度の、幼さが残る少女であるが、今回の作戦でシャーロックの管制を担当する有能な人物であり、彼の同僚でもある。
 そして同時に、彼が扱うデバイスの開発を行った新デバイス開発室の室長の肩書をも持っている。
 彼女の名は、アコードベルマン。


『シャーロック・カマロ三等陸尉、まもなく作戦領域に到達する。……準備はいいか、ロック』

「……は、はい確認しました、アコード・ベルマン技術主任。準備はできてるよ、アコ」


 落ち着いた声で作戦オペレーターとしての任を全うするアコードの声はゆるぎなく、最後に付け加えた言葉にはシャーロックを普段の、幼いころに知り合って以来の親しい呼び方で呼んで気遣う余裕すらあった。
 一方シャーロックの返答は震え、浮かべる笑みもどこか弱々しい。


『……本当に、大丈夫なんだな。私が作ったアーマードデバイスの出来には無論自信があるが、それでもAMFを使ってくる相手との本格的な実戦は初めてだ。臆病なお前では不安も多いだろう。色々と理由をつければ、今からでも陸士部隊に合流して包囲に加わるという形でも……』

「大丈夫だよ」


 どうにも頼りないシャーロックの様子を見て続けられたアコードの気遣う言葉に、しかし彼は断固として断りを入れた。
 はじめ、管理局の魔導師とは思えないほどに頼りなさげな様子で、瞳には怯えの色さえあったシャーロックはしかし、アコードの言葉を聞くたびに瞳へ光が灯り、アコードの言葉をさえぎる時には強い強い輝きが宿っていた。


「今は僕以外にAMFに対抗できる手段がないのなら、僕以外に陸士の人たちの助けになれる人がいないなら、僕が行く」

『……そうだな。お前なら、そう言ってくれると思っていたよ』


 揺るがぬ意思で言い切ったシャーロックに、アコードは任務のために引き締めた表情を緩めて笑みを浮かべる。
 彼女が今までの人生で何度も目にしてきたシャーロックの強さが今もここに変わらずあることに、抑え難いうれしさが湧いてくるのを感じていた。


「それじゃあ……シャーロック・カマロ三等陸尉、作戦開始します!」

『了解。幸運を祈る!』




 キャビンの後部ハッチが開かれる。
 観音開きの形で開いた扉の向こうには、月明かりにうっすらと闇の濃淡のみが見える夜の森がはるか下方をゆっくりと流れていく。


 キャビン内の手すりにつかまったシャーロックはしばしその闇を見つめる。
 ごうごうと吹きすさぶ強い風と、外とつながったことで今まで以上に大きく聞こえるヘリのローター音。
 わずかに足が竦む思いと、これから向かう戦いへの高揚を同時に抱き、手の中のデバイスを握りしめ、シャーロックは決意と共に夜の空へと飛び込んだ。


――ゴオォォォッ


 重力に引かれて落下を続けるシャーロックの耳には音ともつかない空気の流れがまとわり着いている。
 風に煽られた制服の裾がバタバタと跳ねまわり、顔に当たる風に目を開けるのも辛い。
 地表との距離はみるみる縮まっているはずなのに、闇に沈んだ森を前にしていてはそれを五感で感じ取ることができない。
 一瞬感じた、この世のあらゆるものから切り離されたような恐怖をかなぐり捨てるため、ロックは高らかに相棒の、デバイスの名を叫んだ。


「テイク・ミー・ハイヤー!」

<<All right!>>


 掲げた手の中で、カード中央の宝石をきらめかせて答えるデバイス。
 シャーロックはそのまま待機状態でカード型になっているデバイスを、腰につけたベルトの中へと差し込んだ。


「変身!」

<<Standing by!>>


 叫びと共にテイク・ミー・ハイヤーが輝きを増し、自分に与えられた真の力、アーマードデバイスを紡ぎ出す。


 ベルトへと挿入されたテイク・ミー・ハイヤーは、即座に通信魔法を展開し、アコードのいる開発室へと転送シグナルを送る。
 開発室内の転送オペレーターは、そのとき送られてきた座標データを受け取り、迅速に処理を実行。
 アーマードデバイスの“本体”が安置されているメンテナンスコフィンのカートリッジが排莢され、シャーロックとテイク・ミー・ハイヤーの元へとアーマードデバイスの分割された装甲を、転送魔法によって送り出す。


 魔法的な手段によってクラナガン中枢の地上本部内にある開発室から数十キロを飛翔した装甲群は、今もって落下を続けるシャーロックの周囲で実体化し、共に自由落下を開始する。
 その後、テイク・ミー・ハイヤーから送られる命令に従って自らの落下機動を修正し、ロックの体の周囲を取り巻くように配置。
 さらに装甲間の距離を縮めていく。


 そしてそれぞれの装甲の距離が0になると同時、装甲に内蔵されていた結合機構が作動。
 胸部、腕部、脚部、背部と次々に装甲どうしが接続され、頭部の保護と各種センサーからの情報を映し出すバイザーの役目を果たすヘルメットがシャーロックの顔を覆い、全身をくまなく鋼の鎧が包み込んだ。


 それがなされた直後、さらに結合部のロックが行われ、物理的な固定とともに、魔力を通すことによって魔法の力も使い、物理、魔法の両面で強固に結び付ける。
 そのことを確認したテイク・ミー・ハイヤーは、自身の演算機能を装甲内部に存在する加速演算領域へとアクセスさせ、自身の処理能力を飛躍的に向上させる。


 そうして強化された演算能力で一瞬のうちに装甲各部へと魔力を走査して異常の有無を確認。
 問題なしの結果を得る。


<<Complete!>>


 最後に装着の完了を宣言し、ロックの顔を覆うヘルメットの中のディスプレイにも同様の情報画面を表示する。この間、約五秒のことである。



 そこに現れたのは、白い戦士。
 全身を覆う装甲は無骨な鎧の荒々しさと精密機器の繊細さを見るものに思わせ、鋭いバイザーが凛々しさを漂わせる、白い甲冑の戦士であった。



 これこそがアーマードデバイス。
 管理局が現在対AMF装備として大きな注目を寄せる、ストレージデバイス、インテリジェントデバイス、アームドデバイス、ユニゾンデバイスに次ぐ新たなデバイスの形である。



 アーマードデバイスは、魔導師の身を守るバリアジャケットの在り方において、既存のどのデバイスとも異なる特徴を持っている。


 通常、バリアジャケットはデバイスの中に格納されたデータをもとに、魔導師自身の魔力を編んで作られた、魔法の鎧ともいうべきものである。
 そのため展開が用意であり、デバイスさえ持っていればいつでも起動できるという利点を持つとともに、あくまで魔導師の魔力によって編まれるものである以上、その強度や能力は魔導師自身のスキルによって決まり、AMFのような魔法を使用し辛い環境ではその力を十全に発揮できないという欠点も存在する。



 その問題点を解決するために開発されたアーマードデバイスは、魔導師の体を覆う装甲とすら呼べる強固なバリアジャケットを魔力で編むことはせず、実体を持った本物の鎧として作り上げ、展開時に転送魔法で魔導師の元へと送り出すという手段を用いている。
 そのため、装甲強度は純粋な物理的強度に依存し、AMFが発生している状況でも一定の防御力を常に保つことができるようになっているのだ。



 そして、アーマードデバイスにはさらなる力がある。



 装着を完了したアーマードデバイスの装甲表面全体に、幾何学的な模様をした魔力光の光が走る。
 くっきりと見える黄色、淡く光る青、ぼんやりと血管のように浮かぶ赤、と三色の魔力光。
 入局以来数々の発明で管理局の戦力増強と隊員の安全向上に貢献し続けている稀代の天才、アコード・ベルマンが開発した積層魔導装甲の証である。
 装甲内部に張り巡らされた、魔法発動時のテンプレートのような魔力回路に魔力を通すだけで様々な効果を発揮することができるという技術であり、アーマードデバイスはそれを装甲表面から三層に渡って積み重ねている。


 装甲の最も外側に位置する第一層には、回路を走る魔力光が黄色く光る「反発」。
 装甲強度の底上げを行い、出力を上げれば魔力弾程度ならシールドを展開するまでもなく弾くことができるようになる、防御の力。


 そのひとつ内側の第二層には、魔力光が青く走るのが特徴の「軽量」。
 装甲全体に影響を及ぼすこの回路は、反重力に似た作用を発揮して装着者にアーマードデバイスの装甲重量による負担を軽減させる役目があり、実際の重量で50Kgを超えるアーマードデバイスを装着しながら、機敏な動作を約束させる。


 そして最も装着者自身の肉体に近い第三層に存在し、どこか攻撃的な模様を描いて赤い魔力光をほとばしらせるのが、「強力」。
 その名の通り装着者の筋力を増強させる機能を持ち、乗用車程度ならば両手で持ち上げて放り投げることができるほどの怪力を発揮することができるようになる、攻撃の要。


 これら三つの異なる力を同時に合わせもつことこそが、アーマードデバイスをしてただの頑丈なバリアジャケットの域から逸脱させる最大の特徴である。




 アーマードデバイスの装着を完了したシャーロックであるが、彼は未だに落下を続けている。
 アーマードデバイスは、装着者であるシャーロックが陸戦魔導師であり、空戦魔導師としてのスキルがないことと、デバイスの重量がかなりの重さであることにより、飛行魔法を使うことが出来ない。
 このままではただ落下を続け、地面と激突する結末が待っている。


 だがそれを避ける術も、当然既に用意されている。


――ゴオッ


 シャーロックの背後に、ゆらりと白い影が現れる。
 くの字に曲がった形をした、扁平な銀色の板。
 ブーメランを思わせるその巨大な銀板は、先ほどシャーロックと共にヘリのキャビンにあったものである。


 これの名は、「アーマードデバイス飛翔用追加装備・ウィンダム」。
 さまざまな状況に対処するために作られた、アーマードデバイス用追加装備のうちの一つであり、単身では空を飛べないアーマードデバイスが、空挺降下や事件現場への急行する際に使用するため開発された翼である。


 テイク・ミー・ハイヤーがベルトに装着されると同時に誘導され、シャーロックの元へと呼び寄せられていたウィンダムは、まるで自らに意思があるかのようにその背に寄り添い、アーマードデバイスの背部に存在する多目的ハードポイントに自らの接続機構をドッキング。
 デバイスの中枢部で演算処理を行っているテイク・ミー・ハイヤーの制御下に入り、アーマードデバイス各部に存在する関節を稼動させて最適飛行姿勢にしてロック。
 さらに装甲内の積層魔道装甲第二層「軽量」への魔力供給を増し、機体全体の重量を軽くして飛行に適した状態を作り出す。


 これより、シャーロックの意思の元、鋼鉄に覆われたアーマードデバイスは自由に空を翔けることが可能となる。




 シャーロックはウィンダムとの接続が完了するとすぐに加速し、高度を上げることを指示する。
 アーマードデバイスの装着中は、デバイスと装着者の間に念話のような思考リンクが常に形成されている。
 そのため、ただ思うだけでその命令を伝えることができる。
 シャーロックのその意思を受けたテイク・ミー・ハイヤーはウィンダムの推力を上げ、背部に口を開けた長方形の魔力噴出孔から魔力を吐き出し、加速力に変えてさらに機首転換。
 ついさっき降下したばかりのヘリへとすぐさま並ぶ。


 それを見届けたヘリのパイロットは自分の任を果たしたことを確認し、親指を立ててシャーロックの健闘を祈り、ゆっくりとロールして針路を変更。
 自らの基地へと帰っていった。




――ピピッ


 ヘリと別れ、一人で夜空を飛ぶシャーロックのヘルメット越しの視界に、通信を知らせるシグナルが入る。
 ヘルメット越しとはいえ、アーマードデバイスを装着し、テイク・ミー・ハイヤーと思考リンクを形成したシャーロックの認識の上では、アーマードデバイスの各種センサーから得られた情報を複合した、昼間と変わらない鮮明な外界の映像が映っている。
 その視界の片隅に、通信ウィンドウが開き、アコードが声をかけてくる。


『調子はどうだ、ロック』

「いい調子だよ、アコ。装甲回路内の魔力減衰係数も低いし、ウィンダムの出力も安定している」

『よろしい。ならば、今回の作戦を確認するぞ』

「了解」


 現場へ到着し、AMFの影響で通信が効かなくなるまでの予想時刻は数分。
 その間に、最新の情報を確認しなければならない。


『まず、戦況についてだが出撃時とほとんど変化は無い。施設内から出現したガジェットは施設周辺に密集し、それを陸士部隊が何重にも取り囲んでいる。何度かガジェットが突破を試みてはいるが、AMF範囲外からの飽和射撃でそのたびに阻止に成功している。……とはいえ、長時間の作戦からくる隊員の疲労を考えればいずれ突破されることは間違いないだろうというのが、陸士隊の偽らざる本音だそうだ』

「やっぱりAMF相手にミッド式は相性が悪いか……」

『だからこそ、私達にお鉢が回ってきたということだ。アーマードデバイスならば戦闘に支障が出ないほどにAMFの影響を取り除くことが出来るからな。だからこそ、お前に単独でのガジェット撃破などという任務が回ってしまったのだが……』


 アコードの言葉に誇張は無い。
 アーマードデバイスは自身の持つ機能の恩恵として、AMF環境下でもほとんど影響を感じることなく活動することが出来る。
 無論、多少性能が低下することは避けられないが、それでも通常のバリアジャケットのみをまとった魔導師以上に力を発揮できるということが、それと知らずにアーマードデバイスを開発している最中に発見された。
 それこそが、今回シャーロックにこの任務が任された理由である。


「大丈夫だよ。アコが作ってくれたアーマードデバイスがあれば、ガジェットの相手くらいわけないから」

『……まったく、本当に気楽なやつだな』


 ついさっきまで、ヘリのキャビンでは刻一刻と近づく戦場の空気にわずかな怯えさえ見せていたというのに、いざ一人で戦いに赴くとなれば一転して楽観さえしてみせるシャーロック。


 だが、アコードはそれが本当に楽観しているからではないことを知っている。
 シャーロックは今でも内心では戦いに赴く恐怖に怯え、逃げ出したいほどの恐れを感じているのを知っている。
 しかしそれでもシャーロックはその心に打ち勝ち、戦えるということもまた、知っている。


 臆病にして、勇敢。
 それこそが、管理世界を見渡しても並ぶものがほとんどいない天才、アコード・ベルマンの認めたシャーロック・カマロという人間なのだから。


『もうじきガジェットのAMF影響圏内に入る。そうなればガジェットを撃ち減らしてAMFが弱まるまではこちらの通信が届かない。本当に一人の戦いになる』

「うん、わかってる」

『……健闘を、祈るぞ』

「了解、通信終了」


 通信を切り、シャーロックは意識を前方へと向ける。
 アーマードデバイスのセンサーを通して昼間と変わらぬほどに遠くまで見通せる視界の中、どこまでも続く森の中にぽつりと白い建物が見えた。
 それこそが目標の施設。
 戦場までは、あとわずかだ。


 シャーロックは飛行姿勢の最中でも自由に動かせる拳を握りしめ、覚悟を決めた。



[19377] 第二話「奮戦 機兵の戦場」
Name: 葉川柚介◆9ddbfd91 ID:cae9ab50
Date: 2010/06/13 16:51
 目標の施設を視界に収めて数秒、施設の周りにある広場にうごめくガジェットを目視できる距離にまで近づき、テイク・ミー・ハイヤーがガジェットをロックオンし始めたころ、一瞬ガクリと、急激にアーマードデバイス全身の出力が低下した。
 AMFの有効圏内に入ったのだ。


<<Power recovery. No problem>>


 しかしそれは予測されたこと。
 シャーロックの指示を待つまでもなく、テイク・ミー・ハイヤーは積層魔導装甲第一層「反発」への魔力供給量を増加させることによってAMFの影響を打ち消し、内部機構へのAMFを遮断した。

 これこそが、アーマードデバイスの持つ対AMF特性。
 AMF影響圏内に入ると、装甲内に三層に渡って張りめぐらされた魔力回路のうち最も外側に位置し、「反発」の機能を持った回路がAMFによってその能力を打ち消され、その代わりにそこよりも内側の「軽量」と「強力」の回路と装着者の魔力行使を守る作用が、アーマードデバイスには確認されている。
 今回、実戦の場においても「反発」の性能は大幅に落ち込んでいるがそれより下の回路への影響はなく、ウィンダムによる飛行も、わずかに出力を上げることで十分に可能であった。


「よし、これならいける!」

<<Rocked on>>


 シャーロックがアーマードデバイスの有効さを確認するのと同時、広場にいるガジェットの内数機が空から接近するシャーロックを発見して振り向き、射撃を開始した。
 機械であるがゆえに、AMFの中でもその狙いは正確であり、空中戦に不向きな輸送目的の装備であるウィンダムを装着したままでは回避が難しいほどの密度の射撃が展開される。


「ウィンダム、パージ!」

<<Cast off>>


 そのため、シャーロックは迷わずウィンダムを分離することを選択した。
 テイク・ミー・ハイヤーからの信号によって即座にアーマードデバイスとウィンダムの連結が解除され、ウィンダムは自動操縦で機首を翻し、ガジェットの射程範囲外へと離脱する。

 ウィンダムを切り離したシャーロックは、当然飛行を続けることができない。
 それまでに得た速度による慣性と重力にしたがって、ガジェット群へと向かって落下を開始する。

 落下中のシャーロックにも当然ガジェットからの射撃が薄暗い闇の中から次々と飛来するが、シャーロックはアーマードデバイスのセンサーによる補正で昼間以上にその軌道が良く見えるため、慌てることなく回避行動に移る。


「はっ、よ、とぉっ!」


 まず、アーマードデバイスの背部に存在するブースター。
 これはアーマードデバイスのメインとなる推進機関であり、長時間の飛行こそできないものの、移動速度の向上や長距離の跳躍等の際に使用され、短時間ならば滞空することもできる。

 そしてもう一つが、装甲に存在する継ぎ目。
 多数のパーツからなるアーマードデバイスの装甲に存在する継ぎ目には、関節が駆動するときのための余剰空間としての役目以外に、積層魔導装甲の回路内を流れる魔力を噴出するという役目も担っている。
 全身あらゆる部位に存在するその継ぎ目から魔力を噴き出すことにより、出力こそ背部のブースターに劣るものの、空中での姿勢制御や瞬間的に前後左右に高速で移動することが可能となる。

 シャーロックは背のブースターでガジェット群へと向かって加速し、全身の継ぎ目からの魔力噴射で姿勢の制御と左右への回避を行ってガジェットの弾幕をかいくぐり、瞬く間にガジェットとの距離を詰めていく。


<<In the attack range>>


 そして、テイク・ミー・ハイヤーが攻撃可能圏内に入ったことを告げる。

 シャーロックはその声を聞くと同時、ブースターの出力を切って完全に慣性と重力に任せた落下に移行。
 空中で体を小さく丸め、その勢いで緩やかに全身を一回転。
 頭からガジェットへ向かっていた状態から、ガジェットへと足を向けるように。

 そのまま足を伸ばし、脚部の関節をロック。
 目の前にいる多数のガジェットの中からめぼしい物を選んで、再びブースターに最大出力での稼動を命じ……。


 加速!

ドゴンっ!!

 ガジェットの光弾が残光の尾を引いて飛び交う夜空にひときわ明るい魔力光を残し、次の瞬間にはシャーロックの足がガジェットの一体に突き刺さっていた。

 アーマードデバイスは重厚かつ多機能な積層魔導装甲を持つために単体での飛翔はできないが、魔導装甲の内部を走る魔力にも使用されている、装甲内に搭載された小型魔力炉が貯蔵する魔力を使えば、わずかな時間ながら高機動戦闘を得意とする魔導師並みの速度を発揮することも可能である。
 シャーロックは、その力を利用して射程距離に入ってすぐに最大速度で加速し、まず一撃を叩きこんだ。


 シャーロックの視界には、突然の加速に反応できず、空を見上げたままシャーロックの姿を見失ったガジェットが幾重にも居並んでいる。
 圧倒的な数のガジェットが視界一杯にひしめき合い、テイク・ミー・ハイヤーが補足しただけでも数十機のガジェットが、すぐにもシャーロックの存在に再び気付き、攻撃を再開するだろう。


 これからこのガジェットたちを倒し、AMFの影響を取り除くこと。
 それがシャーロックの役目である。


「さあ、戦闘開始だ!」

<<Yes sir>>


 身にまとう相棒に声をかけ、踏みしめたままのガジェットを更なる力で踏みつぶし、シャーロックはガジェット群に向かって飛び出した。



 JS事件前後の分析と解析結果から判明したガジェットの基本戦術は、AMFによって魔導師の魔法を封じ、光弾による射撃で一方的に攻撃すること。
 完全機械化された兵器であるため、戦況判断などは人間と比べるべくもなく未熟であり、乱戦になれば誤射などを引き起こすこともあることが、これまでの戦闘記録から確認されている。


「はぁっ!」

<<Rocked on by six o’clock>>

「了解っ!」


 シャーロックはそれを利用して、ガジェットとの戦闘を有利に運んだ。
 周囲全方向にいるガジェットの行動を探るのはテイク・ミー・ハイヤーに任せ、目に付く端からアーマードデバイスの豪腕で殴りつけ、攻撃の兆候を知らされれば即座に移動し、射撃の回避と誤射の誘発を狙うという、一時たりとも動きを止めない一撃離脱を何度となく繰り返す戦法。

 近づいてくるガジェットは拳の一撃で粉砕し、距離を取って光弾を撃ってくるガジェットはブースターと装甲継ぎ目からの魔力噴射で回避したあと一瞬にして距離を詰め蹴り飛ばす。

 そうして倒したガジェットの数は、地上に降り立って戦闘を開始してから数分程度しかたっていないにもかかわらず既に十数機に登る。
 アーマードデバイスは通常のバリアジャケットと異なり、魔力で生成された強化服ではなく、現実に存在する物質を加工して作られた本物の鎧であるため、AMF環境下でも十分に防御力を保てている。
 そのため、ガジェットの光弾はたとえ直撃したとしてもダメージは小さく、わずかなりと働いている「反発」の効力もあり、油断なく周囲のガジェットの様子を窺っているテイク・ミー・ハイヤーに攻撃の兆候を知らされ、あらかじめ防御の体勢を整えていられればその衝撃を完全に受け流すことすら可能となる。

 さらに、AMFの影響を受けない最も内側の層にある「強力」の効果がある。
 この回路の機能は名前の通り、装着者に巨大な腕力を与えることであり、その拳は文字通り岩をも砕く。
 第二層「軽量」の機能と相まって、総重量50kgを越えるアーマードデバイスを装着していても通常以上の運動能力を発揮し、居並ぶガジェットを一撃の下に粉砕することが可能となる。


 シャーロックの正面、5mほどの距離に大型のガジェットⅢ型を発見。
 次の標的とさだめたそのガジェットへと接近するため、脚部の「強力」に魔力を集中。
 装甲内部の魔力回路を走る魔力が発光し、装甲表面にうっすらと回路の模様を描き出す。

 シャーロックは、それによって力を増した脚力で地面と水平に跳躍。
 見る者の目に「強力」を走る赤い魔力光の残像を残して飛び、すぐさま目の前に迫るガジェットに、全力の拳を叩きつけて装甲と内部機構をまとめてぶち破る反動で強引に停止。
 地に足を着くなり上半身を翻して、その勢いで腕に刺さったままのガジェットを放り投げ、背後で射撃体勢に入っていたガジェットを何体か巻き込んで吹き飛ばした。

 その様子を確認することなく、上半身を逸らして跳躍。
 地に手を着いて連続でバク転をしてその場を離れると、ついさっきまでロックのいた空間を複数の光弾が飛び抜けていく。
 ガジェットの応戦はむなしく空を切り、その向こうでシャーロックにアームケーブルを延ばそうとしていたガジェットを貫いた。


 ガジェットを、魔力に頼らない純粋な格闘で確実に倒しうる攻撃力と、ダメージを心配する必要のない防御力。
 そして周囲の状況は逐一正確に把握する管制デバイス、テイク・ミー・ハイヤー。
 それらが合わさって生まれる戦力はガジェットの持つ数の優位を覆してあまりあり、一方的な戦闘が繰り広げられていった。


 繰り出される光弾を腕の装甲ではじき、空高く跳躍し、落下の勢いを乗せたキックでシャーロックをその巨体で押さえ込もうと近づいてきたガジェットⅢ型を貫く。
 機能停止したⅢ型を横から殴りつけ、Ⅰ型のガジェットが密集している地点へと転がすと逃げ遅れた数機を押しつぶした。
 背後から襲い掛かるアームケーブルは振り向くと同時にまとめてつかみ、上半身の「強力」の出力を増し、思い切り振り回して近づいていたほかのガジェットごとなぎ払う。


「あとどのくらいだ!?」

<<Enemy,about 60%. Please using a weapon>>

「了解!」


 シャーロックの問いに対し答えたのはテイク・ミー・ハイヤーの声と迫り来る無数の光弾。
 装甲継ぎ目からの魔力噴出で地面を滑るように水平に移動して回避し、叫ぶように返事を返す。

 このまま徒手格闘の戦闘を続けても勝利はつかめるだろうが、テイク・ミー・ハイヤーはさらに確実を期すために、武器の使用を提案する。

 アーマードデバイスはその多機能な装甲こそが最大の武器ではあるが、同時にデバイスと一体化した構造を生かし、様々なオプションパーツを使うことも可能となっている。
 例えば、飛行補助翼ウィンダムのように。
 そして、それ以外にも武器はある。


「せぇやあ!」


 ザンッ!

 高速で体当たりを仕掛けてきた数機のガジェットを、シャーロックは腰の後ろにマウントされた斧を取り、横一文字になぎ払いまとめて両断した。
 アーマードデバイスに標準装備されている武器、フラッシュアックスである。
 元々はアーマードデバイスが救助活動を行う際、瓦礫を撤去することを目的として開発されたこの斧は、「強力」で強化された腕力で振るっても壊れないようにかなり頑丈にできている。
 だが安全のため普段は切れ味がほぼ0であり、物を切ることができるのは斬撃魔法を使った場合のみ。
 そして、この斧はアーマードデバイスが持ち、管制デバイスによって制御されたとき最高の力を引き出される。

 振り下ろされた斧がガジェットに触れる瞬間、魔力をほんのわずかな時間だけ通し、AMFによって魔法が打ち消されるよりも早く相手の装甲を切り裂く。
 アーマードデバイスの装甲内にある加速演算領域で演算能力を強化されたデバイスがあるからこそできる、これもまたアーマードデバイスの力である。

 さらに、飛び道具も存在する。


「テイク・ミー・ハイヤー!」

<<Shooting mode>>


 ロックの視界ぎりぎりのところで、数機のガジェットがおかしな動きをしていた。
 自分達の陣営に切り込み、一方的に破壊を振りまくロックを最大の脅威とみなして排除を試みていたガジェットたちではあったが、もはやそれすら困難という結論に至ったのだろう一群が、無理矢理に武装隊の包囲を突破しようとはかったらしい。
 ガジェットⅢ型を6機のⅠ型が取り囲むようにして包囲の外を向き、今まさに飛び出そうとしていた。

 テイク・ミー・ハイヤーからの警告でそれを察知したロックは、目の前のガジェットを右手に持った斧で切り裂きながら、他とは違う動きをするガジェットへと左手を向けた。
 まっすぐ伸ばされた左腕は、ガジェットへと向けられるや否や変形。
 手首のすぐ手前の装甲が跳ね上がり、その中から太い砲身が伸び出した。


<<Charge up>>

「ヴァリアブルバレット!」


 シャーロックの叫びと共に、砲身から光弾が飛び出した。
 AMFが支配する空間を、その光弾はうごめくガジェットの隙間を飛びぬけ、狙い通りに例のⅢ型を撃ち抜き、過去のデータから予測された制御中枢があるだろうと思われる部位を破壊。
 まさしくそこには制御中枢が存在し、そこを魔力弾に破壊され、脳を失ったに等しいⅢ型は宙に浮く力を失ってドスンと地面に落ちる。
 Ⅲ型の周りを取り囲んでいたⅠ型は別のⅢ型の指揮下に入ったらしく、シャーロックを包囲するガジェットの列に再び加わってきたところを、近くにいたⅢ型とともにシャーロックに蹴り砕かれた。

 これが、アーマードデバイスに装備された射撃兵装。
 アーマードデバイス内に存在する、積層魔導装甲に包まれて魔法的に中立な空間となったチャンバ内でAMFに干渉されることなく魔力弾を生成するシステムである。
 そのため、デバイスのサポートとあわせれば、決して射撃魔法が特異ではないシャーロック程度のスキルであってもAMF影響圏内でヴァリアブルバレットの使用が可能となり、しかもアーマードデバイスの射撃管制機能と合わせれば、それは即座に必中の魔弾へと変わる。
 ヴァリアブルバレットの弾体を生成するには多少の時間が掛かるために連射は出来ないが、一発必中の精度と必殺の威力を持った、頼れる武装であることは違いない。

 ガジェットを圧倒する攻防の力と、近接武器と、射撃兵装。
 そしてそれら全てを自在に操るシャーロックの鍛錬からくるスキルと管制デバイスへの信頼が絡み合い、暴風のように吹き荒れる力によってガジェットは次々に機能を停止してその数を減らしていった。


 だが、それでも未だ数は多い。
 残りのガジェットが三割を切る頃になると、さすがにこれ以上の被害を抑えるべきと判断したか、シャーロックから距離を取るガジェットが増え始めてきた。
 いかにアーマードデバイスがガジェットに対して有効であることが実戦の場で照明されたとはいえ、シャーロック一人ではこれだけの数のガジェットにいっせいに逃げ出されればその全てを捕らえることは不可能だ。

 数機のガジェットが強引にシャーロックへと近づき、視界と動きを遮ったその瞬間、無理やりにでも包囲を突破しようと、残りのガジェットの大半ががシャーロックから離れて森へと突き進んだ。


「しまった!?」


 追いかけようとするシャーロックと、その道をふさぐように立ちはだかる数機のガジェット。
 ヴァリアブルバレットはチャージが終わっておらず、駆けつけようにも目の前のガジェットを倒さねばそれすら叶わない。

 どんなに急いでも、ガジェットを倒してからでは間に合わない。
 シャーロックもテイク・ミー・ハイヤーもそう思った。

 しかし。

 この場で戦っているのは、ロック一人ではない。


ヒュガガガガッ!


 森の中へと駆け込もうとしたガジェットに、無数の光弾が突き刺さる。
 AMFで威力を弱められているただの魔力弾ではあったが、一機につき数十発の魔力弾に殺到されればいかにガジェットであろうとなすすべはなく、装甲のあちこちをへこませて煙を上げて地に落ちる。


『――こちら、陸士87部隊。貴官の奮闘のおかげで援護射撃程度ならば問題なく行える程度にAMFが弱まった。逃げようとするガジェットはこちらに任せ、殲滅に専念してくれ。……舐めるなよ、ガジェットのポンコツ共ぉ!』

「了解! 助かります!」

『こちらアコード・ベルマン。こちらからの通信機能も回復した。以降、アーマードデバイスのステータスチェックはこちらで行う。テイク・ミー・ハイヤー、状況を知らせてくれ』

<<OK. Enemy about 25%>>


 シャーロックへ届いたのは、周辺の武装隊と、本部にて待つアコからのクリアな通信。
 これまでガジェットの数を減らしてきたことで通信が回復し、さらに周囲を取り囲む陸士部隊の隊員でも援護が可能な程度までAMFが弱まってきたらしい。
 周囲に視線をめぐらせれば、シャーロックから距離を取って他のガジェットからも離れている個体には、次々と魔力弾が殺到し始めている。

 それまで一人で戦っていた奮闘がようやく実を結び始めたことに、シャーロックは内心快哉を上げて残りのガジェットへと斧を、拳を、魔力弾を叩きこんだ。

 シャーロックに立ち向かっても、AMFの影響が弱まったことで「反発」の効果も回復したアーマードデバイスには敵わず、光弾程度はすぐさま弾かれてダメージを与えられずに打ち倒される。
 逃げようとしても、もはや迎撃にあたる陸士部隊の魔力弾を完全に無効化することは出来ず、物量の前に倒される。
 この場のガジェットが全て撃破されテロリスト集団が検挙されるのも、こうなれば時間の問題である。


 誰もがそう思っていた。

 あのガジェットが、姿を現すその瞬間までは。



[19377] 第三話「強襲 魔導の敵」
Name: 葉川柚介◆9ddbfd91 ID:cae9ab50
Date: 2010/06/12 22:25
<<Abnormal vibration from below!>>


 シャーロックと陸士部隊がほとんどすべてのガジェットを倒し終えたころ、テイク・ミー・ハイヤーが告げる下方からの異常振動の感知。
 はじめその場の管理局員は、シャーロックを含めて体で振動を感じることは出来なかったが、すぐに突き上げるような振動があたり一帯を襲った。

 シャーロックの視界に、テイク・ミー・ハイヤーが周辺のレーダー画面を呼び出す。
 いくつもの直線が規則的に配置され、交差する中央、シャーロックがいる位置に向かって、前方地中から何か巨大な長い光点が迫ってきているのが分かる。
 それを見て、シャーロックは身を屈め、下半身の第三層「強力」に魔力を最大充填。
 光点がシャーロックと重なろうとする瞬間、全力で空へと跳び上がった。

 シャーロックの跳躍に数瞬遅れて地面を貫き出てきたのは、二本の刃。
 シャーロックの左右から挟みこむように、大人の身長ほどの長さを持ち、内側に向けて反った刃が伸び上がり、交差する。
 もしもあの場に留まっていれば、シャーロックの体はあの二本の刃に両断されていただろう。

 シャーロックへの奇襲に失敗したものの、正体不明の敵はそのまま姿を現した。

 周りの土とガジェットの残骸を跳ね飛ばして土の下から伸び上がってきたのは、巨大な蛇のような形をした機械。
 円形の頭部から先ほどシャーロックを狙った刃を牙のごとく伸ばし、無数の節に分かれた長い胴体を持つが、頭部の意匠にはガジェットに通じるものがある。
 これまでに見たことがないほどに巨大なガジェットだ。

 胴体の太さは2mほどもあり、まだ土の中に埋もれた部分があるために全長は分からないが、アーマードデバイスの力もあって十数メートルは飛びあがったシャーロックを追って空中へと飛び出した部分だけでも10mはある。
 土の中を移動することのできるパワーとこれだけの巨体を持ったガジェットがAMFを展開し、周囲の魔法を封じた上で暴れたらどうなるか。

 その場に居合わせた陸士隊員はそろって血の気の引く思いがした。


『ロック、新たな敵の出現をこちらでも確認した。この通信は届いているか?』

「感度良好。あのガジェット、AMFは使えないと見ていいのかな?」

『油断は禁物だが、少なくとも現在陸士部隊を含めて魔力を使用する各種機能にも障害は出ていない。十分警戒しつつ迎撃に当たれ』

「了解」


 だが、巨体から想像される高出力のAMFは検出されない。
 魔法の使用も通信機能にも阻害は発生しなかった。
 とはいえ、この状況で現れたガジェットがただのこけおどしであるとは思えない。

 シャーロックをはじめとした陸士隊員たちは密接に連絡を取りつつ、辺りの様子を窺うように頭部を左右に巡らせるガジェットを中心に包囲体制を組みなおした。

 シャーロックは背部のブースターを吹かし、体の各部にある装甲の継ぎ目からも魔力を噴出してガジェットの目の前を通って地面に降り立ち、ガジェットの目をひきつける。
 それに気付いたガジェットは身をよじって牙をふるい、顔の中央にあるカメラのような部分から光弾を放ってはくるが、どれも単純な動きでありアーマードデバイスを装備したシャーロックならば避けきれないものではない。
 「強力」で強化した脚力で跳躍し、「反発」でガジェットの光弾を弾き、「軽量」で身軽になって地面を高速で駆け抜け、その間に、真っ二つにちぎれたガジェットⅠ型の残骸を一つ掴み取る。
 装甲の表面が滑ってつかみにくいので、手の「強力」を強めて装甲に指をめり込ませてむりやり手の中に収めた。

 牙が届くぎりぎりの距離で一人、攻撃を避け続けるシャーロックを最大の敵と認識しているらしいこのガジェットは、周囲の武装隊員に見向きもせず執拗にシャーロックを狙い続けた。

 そして、取り囲む陸士78部隊の指揮官はそんな隙を逃すようなことはしない。


『総員、撃ち方用意!』


 無線を通して指揮官の号令が聞こえてくる。
 シャーロックの視界の片隅にテイク・ミー・ハイヤーが映し出した拡大画像には、ガジェットに向けてデバイスの穂先を揃えたたくさんの陸士隊員の姿が見える。
 このままシャーロックがひきつけている間に陸士隊の態勢が整えば、すぐにでも魔力弾の集中砲火がガジェットの頭部を粉砕するだろう。
 シャーロックは、ガジェットが大きく動いて陸士部隊の狙いがつけられなくならないように注意しつつ、下方から跳ね上げられた刃を跳躍に合わせた脚部からの魔力噴射で体を180°上下反転させ、身をそらして避けた。


『――シャーロック三尉、回避しろ!』

「はい!」

<<Full boost>>


 武装隊員全員のチャージが終わり、シャーロックに指揮官の通信が飛ぶ。
 シャーロックはさっきから手に持ったままだった残骸をガジェットの目の前に放り投げ、左腕のヴァリアブルバレットをそれに向けて発射。
 魔力弾の命中した残骸はすぐにはじけ飛び、小さなかけらがガジェットの頭部に降り注いだ。
 そうして発生した煙と魔力の残滓でわずかな時間ながらガジェットの索敵性能を奪い、シャーロックは背部ブースターの出力を最大にし、瞬時に離脱した。


 そしてそれと同時、動きの止まったガジェットの頭部へ無数の魔力弾が殺到した。


 すぐに地面に着地し、ざりざりと地面に着いた両足で砂利を跳ね飛ばしながら慣性を殺し、ガジェットの頭部を見上げるシャーロック。
 シャーロックが放った牽制のときとは比べるべくもない量の噴煙と魔力がガジェットの上半身を覆い、その姿を隠す。


『撃ち方止め、次弾準備!』


 広域通信で周辺の隊員へと指示を飛ばす指揮官の声がシャーロックにも届く。
 あれだけの量の魔力弾を一度に浴びていれば、たとえこれだけの巨体でもただではすまないはずだが、相手はガジェットである上にテロリストがここまで温存していた新型だ。
 誰もが油断なく、次の一手を用意する。


 そのとき、風が吹いた。
 アーマードデバイスに全身を覆われたロックは気づかなかったが、季節に似合わぬ妙に冷たい風であったと、当時その場にいた陸士隊員は後に述懐する。

 すうっ、と。
 決して強くはない、触れた頬をなでるような風が一陣吹き抜けて、ガジェットを包む煙を薄めていった。
 中を見通せぬほどに濃かった煙がうっすらと月の光に照らされ、ガジェットの影を映す。

 そう、アンテナ一本欠けていない、元とまったく変わらぬ無傷な姿を。


『……! 総員ッ、第二射……ッ!!』


 その光景を確認してすぐ、動揺しながらもさらなる攻撃を命じた指揮官は紛れもなく有能であった。
 だが惜しむらくは、この敵が、彼の今までの知識や経験では抗い難い力を持っていたことだ。


<<GISYAAAAAAAAAAAA!!!>>

『う、うわあああ!?』

『ひるむな、撃て!』

『固まってシールドを張れ! ここを通すわけには……なっ、シールドが!?』

『攻撃、防御は危険だ! 散開して回避ッ!』


 頭部のセンサーアイに光をともしたガジェットは即座にその身を横たえ、誰もが想像したとおり蛇のごとく体をくねらせて、誰もが想像しなかったほどの俊敏さで陸士隊員に襲い掛かった。

 広場を囲む森の中に位置取っていた陸士隊員は迎撃を試みるも、先ほどの集中砲火にも耐えたガジェットはその散発的な攻撃に対してわずかばかりの躊躇も見せずに突き進み、その巨体で周りの木ごと、隊員たちをなぎ払った。

 密集隊形を組み、シールドでその進行を止めようとした一団もいた。
 しかし速度を上げて迫り来るガジェットの体がシールドに触れた瞬間、驚くほど簡単にシールドが霧散し、武装隊員は虚を突かれたような表情をしたまま跳ね飛ばされた。

 その後もガジェットは止まることなく広場の外周の森の中を突き進み、時に牙で大木を切り裂き、自分の体で突き倒しながら陸士隊員を巻き添えにして被害を増やしていった。
 木が邪魔なのか光弾こそほとんど撃たないものの、陸士隊員が繰り返す射撃もまたガジェットを傷つけることは出来ず、回避しようとした隊員も森の木々に退路を阻まれ、少なくない人数が被害を受けた。

 わずかの間に、形勢は逆転した。
 AMFは確認されず、通信や魔法の発動は通常通りできるというのに攻撃も防御も効かず、陸士隊は正体不明の脅威に蹂躙され続けていた。


『ひぃ!? くるな、くるなぁ!』

『下がれ! 正面から立ち会うな! 下がって別の部隊とごうりゅ……がはっ!?』

『うわぁっ、木、木が邪魔で……うおぉぉぉ!?』


『――周辺の全隊員はただちに後退し、あのガジェットから距離を取れ! あのガジェットは見境なしだ!』


 いや、むしろ通信が滞りなく行えることこそが悲劇だったのかもしれない。
 ガジェットに接触する寸前の隊員の声が通信越しに鳴り響き、恐慌状態になりかねない部隊をまとめようとする指揮官の怒号が耳をつんざいた。


 ガジェットの移動速度は速い。
 このままでは重厚な包囲網が食い荒らされるのにものの数分も掛からないだろう。


 シャーロックも手をこまねいていたわけではない。
 ガジェットに追いすがって注意を引きつけようと魔力弾を放ち、胴体を断ち割らんばかりの勢いで斧を叩きつけ、また負傷して動けないままガジェットに踏み潰されそうになっている隊員を助けるなど、それまでの小型ガジェット相手に一人で奮戦していたときに劣らぬ働きを見せていた。

 だが、アーマードデバイスをもってしてもその侵攻を止めることはできなかった。
 魔力弾はヴァリアブルバレットであっても弾かれ、AMF環境下でさえ斬撃の間程度の短い時間は持つはずであった斬撃魔法がガジェットの装甲に届く前に解除される。
 しかも、回避が遅れてアーマードデバイスの装甲が直接ガジェットに触れてしまうほどに近づきすぎれば、AMFの効果を打ち消す役目も併せ持つ積層魔導装甲の第一層「反発」のみならず第二層「軽量」までもが侵食を受け、アーマードデバイスの体感重量が増すという現象まで起きた。

 こちらの攻撃は通用しないどころか、魔法という戦うためのあらゆる手段が封じられたに等しい状況。
 被害状況から考えれば、すぐにでも部隊を撤退させなければならない状況である。
 だが、今まさに部隊を蹂躙するガジェットの存在がそれを許さない。


 小型ガジェット集団のAMF以上に強力な魔法除去能力を持ったこのガジェットを野放しにすることは、決してできないのだ。

 このガジェットの脅威は直接対峙している陸士隊員全員が最もよく理解している。
 JS事件の際のガジェット大量発生時ですら多少の魔法は使うことができ、またガジェットに対しても通用したというのに、このガジェットには一切の攻撃が届かずシールドも用をなさずに破壊されている。
 現管理局の体制を根本から覆しかねないこのガジェットをテロリストが所有し、また自由に解き放ってしまうことは、まぎれもない全管理世界の危機なのである。

 ゆえに、陸士隊員は引かない。
 たとえ全ての隊員が倒れようとも、このガジェットだけはここで倒さなければならないのだ。


 通信を使うまでもなく全員がその決意を共有し、陸士78部隊の隊員は未だかつてない不利な戦いへと臨んでいった。



[19377] 第四話「反撃 決着の一撃」
Name: 葉川柚介◆9ddbfd91 ID:cae9ab50
Date: 2010/06/13 16:57
 圧倒的に劣勢な巨大ガジェットとの戦いではあったが、その途中で倒れた隊員達が成した必死の試行錯誤は、決して無駄ではない。
 それを証明するものが、ここにいる。


<<Important information>>

「っ! アコ、これって!」

『ああ、送られてくる映像とアーマードデバイスの状態を分析した結果だ。おそらく間違いない』


 陸士78部隊の指揮官からの指示で、魔力を温存するためにガジェットへの攻撃を中断し、負傷者の救助に当たっていたシャーロックの下へと、アコードからの通信が入る。
 ディスプレイに映し出されたのは目の前で今も蹂躙を続けるガジェットの外観図であり、その周囲を覆うように薄く霞のようなものが漂っている。

 そして、その霞につけられた名は「Enforced AMF」。

 通常のガジェットが作り出すAMFと比べて範囲は狭く、ガジェットの表面から数センチ程度の距離までしか有効範囲はないものの、その出力は優に20倍を越える、という分析結果が示されていた。


『通信も魔法も使える割に、魔力弾もシールドも無力化するわけだ。あのガジェットは、効果範囲を犠牲にする代わりに極限まで効力を高めたAMFで機体を覆っている』

『――その情報、こちらでも確認した』


 アコードと開発室の分析班が見極めたガジェットの正体を同時に受け取っていた陸士78部隊の指揮官からも通信が入る。
 ディスプレイに映し出されたその顔には、今まで講じたあらゆる手段が通じないガジェットへの敵愾心と、やっと見つけた反撃の端緒にぎらつく希望の色が見えた。


『――このAMF出力なら、そりゃうちの戦力じゃ傷ひとつつけられないはずだ。この防御を貫くにも体当たりを受け止めるにも、それこそAAAクラスの魔導師がいるぞ』

『純粋な魔力攻撃ならば、そうなる。あるいは、ベルカ式を修めた魔導師ならなんとかなるかもしれない。だが、今現場にいる魔導師は全てミッド式な上、このAMFを突破しうる魔法を使えるスキルと魔力量を持った魔導師はいない』

「……」


 この通信はアコードとシャーロック、そして戦場の指揮を担当する陸士部隊の指揮官との間にしかつながっていない。
 その中で交わされる会話には決して楽観できる要素はなく、ともすれば重苦しい沈黙に包まれそうなほど悲観的な情報ばかりがあった。

 しかし。


「なら、手は一つだね」

『ああ、あのガジェットを倒せるのは……』

『――お前だけってことか、シャーロック三尉』


 それを打ち砕く術もまた、ここに生まれたのだった。



『では、作戦通りに。戦況の分析などのデータ処理はこちらでも請け負おう』

『――ありがたい。よろしく頼むぞ、アコード技術主任、シャーロック三尉』

「了解しました。ガジェットへの牽制をお願いします!」


 その後のわずかなやり取りでガジェット打倒のための作戦が決まり、それぞれの果たすべき役割のために、動き始めた。


 アコードたち地上本部のアーマードデバイス開発室は、これから始まる作戦のためにアーマードデバイスのサポートと、現場から送られてくる情報処理の補助を開始。
 アコードをはじめとした通信担当の職員がめまぐるしい速度でキーボードを叩き、アーマードデバイス各部の状態をチェックし、わずかな不具合も見逃さず修正を行い、最高の状態へと整えていく。


 指揮官の口から直接事態を打開しうる策を告げられた78部隊の前線指揮所はそれまでにもまして慌しくなった。
 部隊の現状を報告する者、それを基に再編成の指示を出す者、部隊を配置する場所を決めつつ、ガジェットの動きを制限するためにまだ動ける隊員に移動の指示を出す者など、矢継ぎ早に繰り出される念話と肉声の怒号が飛び交い、まさしくここも戦場の一端なのであるということをその場にいる全ての人間に感じさせていた。


 シャーロックは一人、ガジェットの移動によって既に戦場の隅へと移った広場の中央に佇んでいた。
 あたりにⅠ型やⅢ型のガジェットの残骸がころがり、戦闘の余波でちぎれた木の葉や木片が風に揺られて右へ左へと滑っていく中、両腕と両足を広げて立ち、アーマードデバイス各部の装甲が光に包まれるままにしていく。

 先ほどまでの小型ガジェットとの戦闘で破損したパーツの交換である。
 アーマードデバイスは細かく分けられた各部のパーツがユニット化されているため、破損部分のみを着装時と同じ要領で交換すればすぐに元通りの状態に戻ることができる。

 ガジェットとの戦闘でわずかながら破損した部分や、装甲内の魔力回路に不具合を生じた部分などを転送魔法で次々に交換していく。
 シャーロックは体の各部分で一瞬装甲の重みが消え、次の瞬間また装甲に覆われる感触を感じていた。


<<……>>

「……」


 相棒たるテイク・ミー・ハイヤーもまた無言。
 指揮所と地上本部のアコードの元から送りこまれるデータを処理し、ガジェットの現在の状況を常に確認し、一方でアーマードデバイスのステータスをチェックしてパーツの交換を統制する。

 遠くからはガジェットの暴れる騒音と、それに立ち向かう陸士隊の喊声が響いてくるが、それでもシャーロックはその場へ駆けつけることをしなかった。

 たとえAMFに対して有効な戦力であるアーマードデバイスがあり、強力なAMFを破る手段が見つかったとはいえ、検証も不十分なその作戦に万全を期すためにはせめて出来る限りの準備をしなければならない。
 シャーロックは身に纏うアーマードデバイスを完全な状態に戻し、陸士隊が奮戦してガジェットを押さえ、指揮官とアコードが必勝の期を計る。


 ゆえに、シャーロックは動かない。

 今はまだ、そのときではないのだ。

 だが、すぐに来る。

 あのガジェットを倒す、その瞬間が。

 その思いを全ての仲間と共有し、シャーロックは静かに闘志を高めていった。


<<Complete>>

『装備の換装完了。……陸士部隊の準備も終わったようだぞ、ロック』

「了解っ」


 テイク・ミー・ハイヤーとアコードの声に、シャーロックは目を開く。
 ディスプレイに示されたレーダーには、陸士隊の必死の戦闘でガジェットが自分の現在位置へとおびき出されている様子が映る。
 強力なAMFのせいで魔力による攻撃が効かないと分かってから、魔力弾で周囲の地面をえぐって穴を開けたり、木を倒したりすることによって進路を塞ぎ、再びこちらへと向かわせたらしい。

 テイク・ミー・ハイヤーが視界の隅に写したデータの中には、その際にまた何人かの重軽傷者が出たとある。
 これまでの損害を合わせて考えれば、同じような誘導が次も出来るとは思えない。
 これが、最後のチャンスだ。


『――誘導は完了した。……始末は頼むぞ』

「はい、必ず」


 その推測を裏付けるように、憔悴した様子を滲ませる陸士部隊の指揮官が通信を送ってきた。
 その目に宿る期待と羨望。
 開発中のアーマードデバイスとこのガジェットを倒す役を任された身として、裏切るわけには行かない。


 ドドドドドドド、ドォンッ!!!


 シャーロックから見て正面の森が轟音を響かせ、木を跳ね飛ばして爆発した。
 舞い上がった砂塵と木の葉の中から姿を現したのは、つい先ほどまでは打つ手を持たなかったガジェット。
 装甲はところどころにへこみが見られ、陸士隊の奮戦のあとを物語っている。
 だがその動きにダメージは感じられず、最後の一手が足りなかったこともまた見て取れた。


 シャーロックは自分がその最後の一手となるために、体をたわめ、魔力を溜めて、ガジェットへと向かって飛び出した。


「はぁっ!」

ドゴンっ!


 迫り来るガジェットへと真正面から飛び込んだシャーロックは空中で身を捻ってガジェットの長い牙を掻い潜り、そのまま全力で殴りつけた。
 斧で切りつけたときとは違い、一切の加減も容赦もないただ単純な拳の一撃。
 質量差からくる反動で自分自身かなり後ろへ飛ばされたが、ガジェットのほうも頭を跳ね上げられ、その進攻を、止めた。


「よしっ、効いた!」

『強力なAMFがあるために魔力弾はほぼ無効となるが、あのガジェットの積極的な防御手段は「それだけ」だ。魔力に頼らない格闘戦でダメージを与えられる威力があれば有効なはずだ』

『――その点、アーマードデバイスならAMFの影響も内側の肉体強化部分までは届かない、って寸法か。これならいけるぞ!』


 アコードと指揮官からの通信越しに、ようやくガジェットに有効打を打ち込んだことへの喜びの声が聞こえてくる。
 シャーロックの視界には、今の攻撃時の分析結果がテイク・ミー・ハイヤーから上げられた。


 Status(Moment at Attack)
 Damage:Little
 「Reflect」power:2%
 「Light weight」power:13%
 「Max up」power:98%。


 攻撃の反動による損傷はほぼなし。
 強力なAMFの影響によって「反発」と「軽量」の効果は打ち消されているが、最も内側にある「強力」は健在であり、打撃力に影響は無い。


「これならいける!」

<<Yes.Full drive!>>


 もちろん、防御力は低下するために危険度は増す。
 既に一度自分達の攻撃が通用することも見せてしまっているので、次はそう上手くいかないだろう。

 だが、シャーロックに不安は無い。

 陸士部隊の奮闘が作り上げたこの状況で、最も信頼するアコードが立てた作戦の通りに自分が動けば、あと一撃だけで十分なのだから。


「テイク・ミー・ハイヤー!」

<<Full charge!>>


 先ほどの攻撃でガジェットがノックバックしている間に、シャーロックはテイク・ミー・ハイヤーに命じて脚部の「強力」に最大まで魔力を通す。
 装甲内部にある魔力回路のうち、最も内側にあるはずの「強力」を走った赤い魔力光がはっきりと装甲表面に赤く浮かび上がり、刺青のような模様が描き出される。

 そのまま筋力の強化された足で後ろへ飛んで、ガジェットから距離を取る。
 急速に小さくなるガジェットを視界の中央から逸らさず足をつき、上半身を倒して地面に手もついて、ざりざりと砂利を跳ね飛ばしながら減速する。


<<Re-charge>>


 その間、空中を飛翔し、地について減速している間にも再び脚部に魔力をチャージすると共に今度は背部のブースターへも魔力を回す。


 わずかながらガジェットの動きを止め、十分な距離を取り、足とブースターに魔力を蓄積する。


 これにて、策は成れり。


『――今だ! 総員魔力弾斉射! ッテェ――――――ッ!』


 体勢を立て直し、シャーロックを自分にとっての脅威と見なしたらしいガジェットが頭部のセンサーアイでシャーロックを捕らえ、再び突撃しようとしたまさにその瞬間、ガジェットの眼前で無数の魔力弾が爆裂した。

 ガジェットの周囲を取り囲むように移動した、まだ戦闘可能な残りの陸士隊員である。

 無論、AMFがあるために武装隊の魔導士では魔力弾をいくらつぎ込んだところでガジェットにダメージを与えることは出来ない。


 だが、ダメージを与えることが目的でないならば。
 魔力弾をAMFに触れさせることなくガジェットの眼前で爆裂させれば。
 それを十数人の武装隊が一糸乱れぬ連携で同時に行えば。


 破裂した魔力弾の残滓はさきほどシャーロックが小型ガジェットの残骸で行った時とは比べ物にならない。
 残留魔力が目に見えるほどの霧となり、ガジェットの光学、魔力センサーを一時的にではあるが、ほぼ完全に無効にすることができる。


 とはいっても、ガジェットの視界を塞いでいるのは結局のところ魔力に過ぎない。
 ガジェット自身があの霧の中に飛び込んでしまえば、機体を覆うAMFがすぐにも吹き散らしてしまうだろう。

 ゆえに、好機は今しかない。


「はぁっ!」

<<Maximum drive!>>


 シャーロックはチャージした魔力をつぎ込んで強化した脚力で、今度は垂直に跳躍する。
 地面に穴が開くほどの力で蹴り上げた体はブースターの噴射と合わさって、アーマードデバイスの装甲重量があっても高く飛びあがり、地表から30mほどの地点で頂点に達した。

 その場で体を翻し、地上に目を向けるとちょうどガジェットが魔力の残滓を突き抜けたところだった。
 一瞬、目の前から消えたシャーロックの姿を探したようではあったが、すぐにセンサーを再起動したのか、機体を持ち上げシャーロックのいる空へと頭部を向けてくる。

 だが、遅い。


 そのとき既にシャーロックは空中で自分の体勢を整えている。
 装甲の継ぎ目から噴出した魔力によって姿勢を変え、ガジェットに自分の足先を向けて脚部の関節をロック。
 上半身を起こしてガジェットを見据え、同時に背部のブースターとガジェットへ向けた足が一直線になるように。

 その姿をカメラで捉え、シャーロックの意図に気付いたのだろう。
 ガジェットがあわてて頭部を引き戻そうとしているが、それが成るよりもシャーロックの一撃が届くほうが早い。


「カートリッジ、ロード!」

<<Exceed charge!>>


 アーマードデバイスの両腕と両足に一発ずつ埋め込まれている、緊急用のカートリッジのうち両腕の二発を使用。
 爆発的に膨れ上がる魔力の全てをブースターに注ぎ込む。

 魔力回路をスパークさせながらブースターに殺到した魔力はその圧力を保ったままに噴き出して、シャーロックを加速させた。


「はあああああああああ!!!!!!!!」


――キィイイィィィィ……ッキュドン!!!!


 満月のかかるミッドチルダの夜空に、まばゆく光る魔力光の尾を引いて、一瞬にして音速近くまで加速したシャーロックのキックが、ガジェットの頭部を貫いた。



 ガジェット頭部を突き抜けたシャーロックが、地面に両足をめり込ませながら着地する。

 一拍遅れてガジェットが全身から力を失い、重い地響きを立てながら倒れるのを見て、陸士78部隊の歓声が、月光降り注ぐ夜の空に爆発した。



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※書き溜めがあるのはここまでです。
 次回はいつになるかわかりませんが、一応ストーリーの流れは一通り決まっているので、次の次あたりから原作キャラとも絡ませつつ、完結まで持っていきたいです。
 ともあれひと段落までのお付き合い、ありがとうございました。


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