くじら(メルマガから転載)
今から30年ほど前、食べ盛りの小学生の私の好きな給食メニューの一つに鯨のケチャップ煮がありました。あの独特の食感を懐かしく感じることもありますが、最近では、なかなか鯨肉を口にする機会もないものです。というわけで、今回は、わが国が(以前と比べれば)細々と行っている捕鯨について考えてみたいと思います。
現在、通常の商業捕鯨は全面的に禁止されており、例外的に調査などを理由とした捕鯨が認められています。日本が行っているのはこの調査捕鯨で、「調査のため」という名目で1年に千頭程度の鯨を捕獲してきました。そして調査が済んだ肉は「捕獲調査副産物」として流通し食卓に並ぶ、これが今のわが国の捕鯨の姿なのです。
このような形で「調査」捕鯨を行うわが国に対して、海外のメディアからの風当たりは想像以上に強いです。単にかわいそうというだけではなく、日本の捕鯨は「調査」の範囲を逸脱しているというのが主たる批判です。また一部の反対派が調査船に対し過激な抗議行動とっていることは、国内の報道などでもご存知だと思います。
海外からの批判に接し、なぜ日本ばかりが槍玉にあがるのかと理不尽に思う方も多いのではないでしょうか。「捕鯨は日本の伝統だ」、「そもそも乱獲してきたのは欧米だ」など、さまざまな意見もあろうかと思います。これらの論に一理あるのはたしかですが、しかし国際法的に見るとそう簡単に割り切れない問題があるのです。
ことの起こりは1982年のIWC、そこで1986年以降の商業捕鯨を全面停止することが決まりました。もっとも、参加国は条約に対して異議申し立てをしさえすれば、商業捕鯨を行うことが可能になっていました。そして、捕鯨国日本は、当然に異議申し立てをしていたので、大威張りで商業捕鯨を行える立場にありました。
ところがアメリカから「商業捕鯨を続けるなら米近海でスケトウダラ漁を認めない」と圧力がかかりました。当時、スケトウダラの漁獲高が鯨のそれよりも圧倒的に多かったので、日本は泣く泣く捕鯨を切り捨てました。そして、(単に捕鯨を自粛するという方法もあったのに)なんと異議申し立てまでも撤回してしまったのです。
関係者は、「捕鯨はともかく、スケトウダラ漁だけはなんとか守ることができた」と安堵したことでしょう。ところが数年後アメリカは、理由をつけて日本を米近海でのスケトウダラ漁からも締め出してしまったのです。すでに異議申し立てを撤回していた日本は、結局、商業捕鯨とスケトウダラ漁の両方を失うことになりました。
その後わが国は、商業捕鯨まがいの調査捕鯨を行い世界中の非難を集めるという道を選び、現在に至ります。外交上のミスというものは、それがたとえ小さな事であったとしても、大きなツケを将来に残してしまいます。政権をとったときには同様の過ちを犯さぬよう、今後もしっかりと過去の事例を勉強していきたいと思います。