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[19547] 【習作短編・東方】スカーレット家の奇子
Name: KYO◆55de688e HOME ID:f4ff1fd1
Date: 2010/06/13 18:11
 吸血鬼の一族にて最強と名高いスカーレット家に二人目の子が生まれると判明した時、家族は大いに喜んだ。
 良く言えば強く気高く、悪く言えば傲慢でプライドが高い種族。それが吸血鬼なのだが、さしもの吸血鬼も我が子が生まれるという時には他の人妖と変わらない。
 勿論スカーレット家長女のレミリアも、妹が生まれると聞いて飛び上がる程に喜んだものだ。いや、妹が出来るという話を聞いてからずっと機嫌が良いままだ。
 もっと落ち着きを持てとレミリアを窘める両親も、しかしやはり喜びは隠せぬ様で、スカーレット家に仕えるメイド達も影ながら微笑ましく思いつつそれぞれの仕事をこなしていた。

 時は早朝。レミリアは既に布団の中で眠りについている頃、出産の時が来た。
 吸血鬼の出産は人間等と同じものであり、しかし生まれてくる子供は始めからある程度の知性を宿している。
 しかし知性を宿すまで母親の胎内に居る為に妊娠期間は長めになり、それに比例して出産は辛く険しいものになる。
 とはいえ吸血鬼の体力や生命力のお陰で死ぬ事は無い。もし妊婦が死ぬとすれば、それは想定外の出来事が起きた時のみ。

 しかし、その想定外が発生してしまった。

 始めは順調だった。しかし、暫くして突如母親が急激に尋常ではない様子を見せ始めた。
 苦しい、痛い、待って、殺され---そんな悲鳴を上げていた妻を何とか助けようと夫は駆け寄るが、成す術は無い。
 能力を使おうにも夫も妻も戦闘くらいにしか使えない能力であり、こんな想定外の事態に何とか出来る様なものではない。
 一体何が起きているのか---混乱した頭で妻を励ましていた夫のその考えは、すぐに答えを得る事になる。
 ---何の前触れも無く、肉片や臓物を全方位に撒き散らしながら爆散した妻の姿を認識し、妻が居た場所で眠る幼い吸血鬼を見た事によって。

「何だ、これは・・・」

 血に濡れているがかろうじて見える母親譲りの金色の髪。吸血鬼である事を示す可愛らしい牙。
 そして・・・吸血鬼どころか、他の生物はおろか妖怪ですら見たことの無い、宝石の様な奇形の羽。
 ---もしこの赤子が普通の羽を持っていたなら、父親は気持ちの整理に時間がかかるとはいえ我が子と認めたかもしれない。
 しかし父親はこの奇形の子を我が事は認める事は出来なかった。しかし、殺す事も出来なかった。---我が妻を殺した能力の片鱗、それがあまりにも恐ろしかったから。
 父親の心情は複雑だった。妻を殺された怒り、我が子が奇形だった事が認められない嘆き、そして、生まれたばかりの赤子に抱いてしまった恐怖と、それによってプライドを傷つけてしまった悔しさ。
 ---この後、母親は急病によって死んでしまった事にされ、二人目の娘は生まれなかった事にされ、館の地下室にて幽閉される事になる。

 母と妹の死を知って悲しみに沈み込んでいたレミリアがたまたま発見した、人の出入りの無い地下室への扉。
 使用していない故に普段ならば固く閉ざされているその扉が、僅かに開いていたことに気付き踏み込んでみる事にした。
 何があるのかわからない。怒られるのかもしれない。でも、せめてこの悲しみを誤魔化せるようなものが見つかったならいいのに。
 そんな思いで進んだ先にある暗闇に包まれた扉を開け放った先に、彼女は居た。

「・・・だれ?」
「・・・っ!?」

 母親譲りの金色の髪。吸血鬼である事を示す可愛らしい牙。そして、宝石の様にキラキラとした羽。
 レミリアは瞬時に悟った。この子は、自分の妹だ、と。

「フランっ!!」
「え、きゃっ!?」

 母親が「娘ならこの名前にしましょう」と言っていた名前を叫びながら抱きつく。
 フランと呼ばれた少女は何が何だか分からない様子のまま、抱きつきながら泣いている年上の少女を抱きしめ返していた。

 ---暖かい。初めて、誰かに抱きしめられてる。暖かいな・・・

 フランと呼ばれた少女は気が付けばこの地下室に居た。そして、見た事があるのは固い表情のまま一言も言葉を発さずに食事を置いて行くメイドだけ。
 ここは何処なのか。自分は吸血鬼だとは知っているが、それ以外は知らない。ご飯を持ってきてくれる人に聞いても答えてくれない。
 そんな孤独な生活のなかで突如現れ、自分の名前と思わしき言葉を発しながら抱きしめ泣いている少女を見て、何故か少女は喜びを感じ---初めて、涙を流して泣いた。

「奴は、忌み子だ」

 レミリアが父親に妹・・・フランドールの事を聞くと、そういった言葉が帰ってきた。
 確かにフランのせいで母親が死んだ事はショックだ。でも、なぜそれでフランはあの暗い地下室に閉じ込められなければならないのだろうか?
 レミリアには忌み子の理由が分からない。館からあまり出た事が無く、吸血鬼も自分と両親しか知らなかったレミリアは、フランドールの羽が本来存在する筈の無い形をしている事など理解できていなかった。

 それから、レミリアは父親の制止やメイドの制止を振り切ってフランドールに会おうとする様になった。
 しかしまだ子供のレミリアは簡単に誰かに見つかってしまい、フランドールの部屋にたどり着けた事など数えるほどしかない。
 それでもレミリアはその僅かな時間をフランドールと過ごす為に頑張り続けた。一度部屋に入れば、他の人達は恐れて入って来れないから。
 フランとは様々な事をした。魔法を一緒に勉強したり、笑いあったり、時々口げんかして、そして仲直りしたり。
 自らの能力にあやかって作り上げた魔法の槍『グングニル』を見せた時には、フランはとても目を輝かせて凄い凄いと言っていた。楽しい一時だった。
 しかしレミリアは気付いていた。少しずつフランドールの様子が変わっていっているのを。それでも、その時はあまり難しく考えていなかった。

 レミリアが300歳の時、父親が亡くなってレミリアがスカーレット家の党首の座を継いだ。
 レミリアが最初にやろうとした事はフランドールの開放だった。前回会ってから100年間会うことは出来なかったが、覚えてくれているだろうか。元気で居てくれるだろうか。
 これからはコソコソしなくても会うことが出来る。そう意気揚々と地下のフランドールの部屋の扉を開き---

 ---そして、状況が変わっていた事を知った。

「アハハハハ!!!・・・あ、お姉様、久しぶりだね・・・ふふふふフフフ!!」
「え・・・?フラン・・・?」

 破壊されつくして瓦礫だらけとなった地下の部屋。最近見かけないと思っていたメイドのものと思わしき骨。その中で狂った様な笑いをあげている妹。

 いくら吸血鬼といえども、フランドールは幼い少女だった。そんな少女が生まれた時から幽閉され続け、ずっと孤独に生活をしていたのだ。
 時たまやってくるレミリアとの一時は確かに孤独に苛まれていたフランドールの心を癒したが、レミリアが去った後はそれ以上の孤独に襲われていた。
 ---孤独による精神汚濁からの狂気。フランドールは、それにやられてしまっていたのだ。

「フフフ・・・ねぇお姉様、わたし、能力が使えるようになったんだよ。こうやって---」
「っ!?」

 レミリアの『運命を操る程度の能力』が告げた、最大限に危険な運命。それを回避する為に、数多の分岐をする運命の中から最も安全なものを選択し選び取る。
 『運命を操る程度の能力』は、存在している運命の選択肢の中から好きなものを選び取る事が出来るという、いわば『未来を選び取る』というもの。
 その結果レミリアはフランドールの能力から外れ・・・代わりに横にあった瓦礫が破壊された。

「な、何、それ・・・」
「えっとね、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』だよ。まだ上手く使えないけど、凄いでしょ?アハハハハ!!」

 狂い笑うフランドールを見て、レミリアは父親の言葉を思い出した。

『奴は、忌み子だ』

(ようやく理解出来た。この能力でお母様は死んだ。このとんでもない能力故に、お父様は忌み子として地価に幽閉したんだ。危険すぎるから)

 父親の思惑など知らないレミリアはそう理解した。実質、フランドールがここまで狂ってしまったのには能力の影響もあるのかもしれない。
 レミリアはフランを助けたい。しかし、どうすればいいのかわからない。運命を見ても、全てが破壊に満ちたものばかりだ。未だ見えぬ遥か未来の選択肢には救いがあるのかもしれないが、いまここではフランを狂気から救い出す事は出来ない。

「そうだ、お姉様のグングニルを真似して私も面白いの作ってみたんだよ!」
「面白いもの・・・っ!?それ、まさか・・・」
「レーヴァテインっていうの!私の羽で作ったんだよ?アハハハハ!・・・これとグングニルで遊ぼう?」

 ぐにゃりと曲がった妙な形をした杖。その曲がり方は、見た目は、フランの羽の骨格と酷似していた。
 まさしく狂気。再生できるとはいえ自らの羽をもぎ取り、それで杖を作り出すという行動。それほどまでにフランドールは狂ってしまっていたのか。

「・・・一度大人しくさせるには、気絶させないとダメね」
「アッハハハハハ!!!そうだよ!ソウダヨ!!さあ、アソビマショウ?フフフフヒャハハハハ!!」

 この日より幾度と無く、壮絶な姉妹の殺し合いとも言える『遊び』は続けられる事となる。フランドールの狂気を発散させるために、いつか来てくれるだろう希望の未来を迎える為に。

 狂気を抑える為の魔法を学んでいる時に出会った魔法使いと親友になり、その魔法使いの情報でようやく妹の羽が奇形であると理解するまで、あと50年。
 気を扱う妖怪と出会い、僅かながら狂気を押さえる事に成功し、その妖怪がレミリアに仕える事になるまで、さらに50年。
 自分・妹・家族・他人と数多の運命を読み解き、最も不確定要素の高い未来を示す運命を選択肢、幻想郷と呼ばれる場所への移転を決行するまで、さらに50年。

 そして、自分達だけでは癒しきれぬフランドールの孤独を埋める多くの友人達。それを得るきっかけとなる紅白の巫女と白黒の魔法使いに出会うまで---さらに50年。



---あとがき---
タイトルから何となく分かる人もいるでしょうが、あんきもことUnlucky Morpheusの奇子 ~ Unknown Childに思いっきり影響されて書きました。
歌詞とか妄想とか色々織り交ぜて、こんな感じじゃないかなぁと。

投稿してから気付いた。レヴァンテインじゃなくてレーヴァテインだったねorz


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