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[19537] 【習作】新本格魔法少年ネギま【能力クロス】
Name: カタタタ危険◆65847d3e ID:5e2eda24
Date: 2010/06/13 19:30
新本格魔法少女りすかとの能力クロス物。
ナギは本当に千魔法を持っています。
ネギがりすかと同じ魔法を父から貰っています。
魔法使いは海を渡れます。
オリジナルのキャラクタも何人か出ます。大丈夫な方はどうぞです。
りすかを読んだ事がない人にとっては、もしかしたら主人公の能力のネタバレになるので注意です。


りすか作品の魔法は、あまり人々には知られていない設定です。

最初の魔法を渡すシーン。原作で神檎がりすかに魔法を渡したシーンがあったか思い出せなかったので、イメージです。



[19537] やさしい魔法は使えない その0「プロローグ」
Name: カタタタ危険◆65847d3e ID:5e2eda24
Date: 2010/06/13 14:20
「そうか、お前がネギか……そうだ、お前に一つ魔法を送ろう。これから先生きていけるように、お前と相性の良い魔法を一つ。まあ、何になるかわからんし嫌いなのを引き当てるかもしれないが許せ」そう言って微笑んだナギは、自分の胸にそっと手を当て呪文を呟く。するとナギからほわりと光が出てきてネギへと入り込んだ。ナギはその光を見て、今度は豪快に笑い出した。
「いや……すまんな、そうかそれを引くか……じゃあ今度は俺からの我侭だ。魔法をもうひとつ」そこで区切ったナギは、微笑みながら次の言葉を口にした。
「お前を呪うことにするよ。庇護でエゴだ」



 魔法と呪いと杖を置いて飛んでいってしまった父を見ながら。ネギには状況が理解できていなかった。当然だ、本来ならば悲劇で終るはずだったところを、父は『全てを治して』帰っていったのだ。石化した村人も、燃えた村も、全てが元通りだ。ただ、もう安全な事がわかったネギは、喜びからか恐怖からか、大声で泣き出した。



 ナギ・スプリングフィールド。ネギの父親。千の魔法を使う男。魔法使いの頂点。独特な魔法を使用していたが、未だに解明されていない。公式の発表では、死亡。





 ネギは、日本行きの飛行機の中で何故この飛行機に乗る事になったのかを思い出していた。客観的に見て、ネギは座学では文句なしの天才だった。他の同年代、いや他の学生や教員と比べてもネギの才能は高かった。1を教えるだけで100を知って1000を自ら積極的に学び取る。授業では教える事が無い。しかし実習がずば抜けて良いというわけではないのだが……。
 このままこの魔法学校に居ても周りは年上ばかりで、勉強は身についても友達が出来ない、それよりも早めに卒業させて修行の地で同年代の子供たちと関わらせたほうがいいという学校長の考えから飛び級で卒業することとなり、その際に決められた修行の地が、日本の麻帆良学園という場所だった。というのが、今日本に向かっている理由だった。
 肝心の修行内容は『日本の学校の初等部を魔法生徒として無事に卒業する事』というもので、年齢からネギは4年生に転入する事となった。何故わざわざ日本を修行の地にしなければならないのかがよく分からないネギであったが、日本には色々とナギ・スプリングフィールドの知り合いが居ると聞いて嬉々として向かう事を決めたのだった。


「それにしても、友達か……」
 飛行機を降りて電車に乗ったネギは、うつらうつらと考え事をしていた。「友達をたくさん作ってきなさい」と学校長は言っていた。
 友達といわれて真っ先に思い出したのは、真っ白い記憶。雪原にポツリと立つネギと少年。少年の髪も周りの景色と同じくらい真っ白でとても幻想的な光景となっていたのを覚えている。少年は自分のことを『フェイト』と名乗っていた。フェイトはネギに向かって突然「友達にならないか」と言ってネギを混乱させていた。そこまで思い出したネギはそのままふと眠りに落ちていった。


 少年の周りに浮かぶ小さな石ころ。真っ赤な光景。倒れる人々。来ない父親。魔法。出血多量。未来の自分。崩れる少年。断片的な記憶。浮上していく意識。目覚めたときには夢の内容などまるで覚えていない。ネギはこの感覚が嫌いだった。とても怖い夢を見た、という事だけが残り内容が思い出せない気持悪さ。夢を見た後は毎回のように、夢を見たことすら綺麗さっぱり忘れられたらいいのにと思ってしまう。
 と、そこで何時の間にか自分の周りに女性しか居ない事に気が付いた。寝過ごしてしまったらしい。しまった、とネギは自分の行動に後悔した。ここにはネギの知り合いなんて一人しか居ないのに、その人がどこに居るのかも分からないのに、こんな迷子になるなんて、大失態だ。

 とりあえず次の駅で降りたネギは誰かに聞こうとしたが、皆全速力で走っていてとても道を聞ける雰囲気などではない。誰に聞くべきか迷っていると、後ろから大声で「高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生高畑先生わん!」と聞こえてきた。大声で何を叫んでいるのだろうかと思ったが、聞こえてきたのがここでの唯一の知り合いの名前だったので、藁にも縋る思いでその人物の方へむかった。
「あの……すいません。タカミチを知っていらっしゃいますか?」若干丁寧すぎるかもしれないが、ネギの日本語はほぼ完璧のはずだったので、彼女が驚いている理由はこんな女子ばかりのところに自分のような男子が居る事かな、と考えていたネギに向かって。
「あんた、何? 突然。高畑先生に何か用?初等部はこっちじゃないわよ。今は用事があるから案内できないけど」と、突然好きな人の下の名前を呼び捨てにした少年に驚いていた少女は答えた。

 少女の名前は神楽坂明日菜。新任の先生を学園長の孫娘である近衛木乃香と共に迎えに行く事になっていたのだが、その間に木之香と占いをしていたときにネギと遭遇したという状況だった。
 アスナとネギの間でニコニコ微笑む木之香という少し間抜けな光景に向かって声を掛けたのは、話題の中心の高畑・T・タカミチだった。

「やあ、ネギ君、ここに居たのか。迎えの人が電車から降りてこなかったって心配していたよ?」
「あ、タカミチ!ごめん寝過ごしちゃって……」
「そうかなるほど、無事でよかった。じゃあ初等部まで連れて行くから、着いてきてもらえるかい?」
「わかった!」
「よし、じゃあ行こうか。それじゃあ二人とも、先生の事をよろしく頼むよ」
「はい!わかりました!」とても良い笑顔でアスナは答えた。
アスナの笑顔の見送り(主にタカミチに対して)を背中に、タカミチとネギは初等部へと向かっていった。


「そういえば、さっき新任の先生って言ってたけど、こんな時期に先生って来るんだね」ネギはタカミチに聞いた。
「そうだね。正確には教育実習生らしいけどね」
「ん?教育実習生?」ネギがまだ覚えていない単語だった。(ネギは日本語で日常会話はこなせるが、単語全てを覚えているわけではないので、意味の分からないものは多い)
「ああ、先生見習いみたいなものかな。将来先生になる先生の卵」
「なるほど」
「さて、魔法生徒としてと修行内容には書かれていたと思うけれど、その辺についてはここでの生活に慣れてから僕から話すから、それまでは普通の小学生として生活していてくれるかい?」
「うん、わかった。少し緊張してる……かな」
「大丈夫、みんな良い子さ」タカミチは微笑んだ。
「そっか、楽しみだなあ」ネギも微笑んだ。二人は初等部に着くまで世間話をしながら歩いた。



 たどり着いた教室の前でネギが立っていると、中から先生の呼ぶ声がしたのでゆっくりと入っていく。
「イギリスから来ました。ネギ・スプリングフィールドといいます。日本にはまだまだ不慣れですが、よろしくお願いします!」そうしてネギの小学生生活が始まった。


 背中には長い杖、腰にはホルスター状のベルト、ホルスターにはカッターナイフが入れられている。そんな格好が標準な少年、ネギ・スプリングフィールドがこの物語の主人公。
 職業は魔法使い見習い兼小学生。学校で習った得意な魔法の属性は、風とかだったのだが、父から渡された魔法のパターンは『水』だったことを常々不思議に思っているネギだった。



[19537] その1「悪しきおとずれ」
Name: カタタタ危険◆65847d3e ID:5e2eda24
Date: 2010/06/13 19:34
 ネギが麻帆良学園に転校してきて数ヶ月がたった。それなりに話せる人も増えてきて、順調に小学校生活を過ごしていた日々。春休みもあけて、5年生となり、新しいクラスでの生活がスタートしたそんなある日。ネギはクラスメイトから『桜通の吸血鬼』の噂を聞いた。実際に倒れていた人間も何人かいたようだが、あくまでも怪談話として広まっていたようだ。
 ネギはこの噂話が若干気になったが、タカミチがいるから自分が何かしなくても大丈夫という安心感、そして何よりも桜通の場所が分からなかったのが原因で、この噂話を調査しようなどという無謀に出る事は無かった。

 はずだった。なのに今ネギは桜通に居る。ああ、何故……と思い出す。新しいクラスの中で、親睦を深めるために肝試しをする事になったのだ。しかし、大半はもう逃げ出したのだったが、ネギのほかに4人残ってしまい、彼らを残してネギだけ帰るわけには行かないので、そのまま桜通まで来てしまった。という流れだった。
 賀川先郎、矢那春雨、真辺早紀、田井中羽美の4人は、もともと4年生の頃からネギのクラスメイトだったので、別に「もう帰ろうよ」と言えないような関係ではないのだが、仲がいいので、逆にプライドが邪魔をして自分からもう帰ろうと言えない雰囲気を5人の間で作り出していた。


「ほ、本当に居るのかな……」
「バカ、いるわけねーだろ?」
「そうだよ、吸血鬼なんて、い、いないよ!」
「声が震えてるわ、大丈夫?」
「僕にはなんで田井中さんがそんなに余裕そうなのかが不思議だな」
「あら、ネギ君だって余裕そうじゃない」
 上から順に先郎、春雨、早紀、羽美、ネギだ。


「ほら、良く言うだろ? 幽霊の正体見たり影オバマってよ」
「何言ってるの矢那、言うわけないじゃない、馬鹿じゃないの? アメリカの大統領の影って何よ、影武者?」
「正しくは、幽霊の正体見たり枯れ尾花。だったよね?」
「ええそうよネギ君。やっぱりそこの馬鹿とは出来が違うわね」
「ちょっと待てよ羽美、今のはどう考えてもただのボケだろ!ツッコミが辛すぎるんだよ!さっきから人を馬鹿馬鹿言いやがって、それしか言えないのか馬鹿!」

「ねえ先郎君……幽霊の正体見たり影何とかってなあに?」
「えっと……わかんない。ごめんね?」
「ううん、私も分からないもの。すごいよね3人とも、そんな難しい会話して」
「そうだね……」
 若干の疎外感を感じる二人であった。

 もう桜通も後半まで来ていた。
「あー、やっぱり何も無いっぽいわね。つまらないじゃない」すこしガッカリしたような顔をする羽美に対して春雨が、
「お前、そういう風に言うやつに限って何か出たら悲鳴を上げながら一目散に逃げるんだろうね」と笑いながら答える。
「変な事言わないでよね。この私にそんなイメージが付いたら私のファンが困るでしょう?」
「何それ、ファンなんか居るの?」
「予定よ予定」
「馬鹿らしい」
 などと会話をしながら二人はさくさくと進んでいってしまう。会話に入り逃した残りの3人で、追いかけて行った。そのまま桜通を抜けてしまい、とくに何もなかったので、さっさと寮へと帰る事となった。




 桜通を見下ろしながら。エヴァンジェリンは溜息をついた。あれは確かにナギの息子だろう、本当にそっくりだった。あれの血さえあれば、この呪いは解けるだろう、今すぐに襲っても良かったのだが、一般生徒、それも子供が4人もいる状況では、さすがのエヴァンジェリンでも襲えなかった。
 確かにあの男の言うとおりだった。数ヶ月前にエヴァンジェリンのクラスの副担任になった男、教育実習生だったらしいが、そのままここで働く事になっていた男。気持ちの悪い男だった。視線が気持ち悪い、明らかに生徒を欲情した目で見ている。何故あの学園長があんな男を雇用しているのかは分からなかったが、何か理由があるのだろう。とても強いとも言っていた。しかしあの男、他にも有益な情報を持っているようだが、生理的に受け付けない。どうするべきか……まあいい、あの男の事はナギの息子の事を片付けたあとにしよう。呪いさえ解いてしまえばどうとでもなる。
 そう決めて、エヴァンジェリンはネギが吸血鬼に興味を持つようにこの日の分の血を吸ってから自宅へと帰っていった。




 翌朝、登校したネギの耳に飛び込んできたのは、桜通でまたしても人が倒れていたという話だった。
 ここまで続くとやはり本当なのだろうか。吸血鬼かどうかは分からないが、何かあるらしい。何かするべきだろうか、しかし魔法先生たちが行動を起こしてない以上、何か別な原因があるのではないか、それとも大人は気づいていないだけ?ネギにはわからない。
「おい!聞いたかネギ!桜通の話!」
「え? あ、うん」春雨の大声にビックリしながらネギは答えた。
「そうか……じゃあ後で見舞い行こうぜ」
「知り合いなの?」
「なんだやっぱり聞いてねえじゃねえか、早紀だよ、倒れてたのは」
「は?」
 いったいいつの間に? 部屋に戻るまでは皆一緒だったはずだ、ということはその後で? 何故わざわざ早紀さんだったんだろうか……桜通を通っていた人間は他にもいたはず。それをわざわざ部屋まで来てから桜通に連れて行った。つまり早紀さん狙い?それとも僕たちの中の誰かに見せ付けるため?たまたま気になったから? わからない……とりあえずは放課後か。そこまで考えてネギは春雨に聞いた。

「大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だってさ、なんで桜通に居たんだろうなーほんと」
 それはきっと、目撃者が桜通の吸血鬼と関連付けるため。



 放課後、早紀の部屋を訪れていたネギたちは、早紀のぐっすりと眠る姿にとりあえず一安心した。そのときネギは、首に魔力が残っているのを発見した。
 魔力。魔法使いがこれを? 何のために。 ああ、わからない。ネギは好奇心に負け、桜通を調査する事にした。このときネギがすっかりと忘れていたことわざ。「好奇心は猫をも殺す」




 夜。桜通。ネギの目の前には、マントを羽織った少女が一人立っている。
「こんばんは、いい夜だな、ネギ・スプリングフィールド」
「あなたが、桜通の吸血鬼ですか?」
「ああ、そうだよ。『闇の福音』エヴァンジェリンといえば、さすがに今のガキでも知っているのだろう?」
 当然、知っている。常識だ。昔フェイトから聞いた覚えもある、ネカネお姉ちゃんも言っていた。『闇の福音』や『悪しき音信』など様々な異名で恐れられる吸血鬼。しかし……
「それにしては、魔力が弱い?」偽者だろうか……そう考えていたネギに向かって
「それは貴様の父のせいだ!」とエヴァンジェリンは叫ぶ。

 ネギにとっては聞き逃せない単語だった。

「父さんを知っているんですか!?」
「ああ知っているさ、それがどうした」
「教えてください!」
「あ? 何を言っているんだお前は、私はこれからお前の血を吸うんだ。なのに何故お前にそんなことを教えなければならないんだ? まあいい、お前がもしも私に勝てたら教えてやろう」
「……それは本当ですね?」
「ああ、本当だ」
 とは言ったものの、ネギはどうするべきか決められなかった。もしも目の前の存在が本物の『闇の福音』だったとしたら?勝てるのか? 自信など一気になくなった。しかし、相手は自分と同じような外見。魔力も低い。もしかしたらとも思う。行くべきか引くべきか……腰のホルスターに入っているカッターをさらりと撫で、ここは攻めるべきだと決断する。
「行きます!」と背中の杖を取り出し、『ラステル・マスキル・マギステル!』と唱え始めるネギに対して。
「戦闘でそんなことを言う馬鹿がどこに居る!」とマントの中からフラスコを取り出した。『リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!』
 ネギから放たれる魔法の射手は、しかしエヴァンジェリンの氷爆によって防がれる。
 触媒を使って魔法を出したエヴァンジェリンを見て余裕を取り戻したネギは一気に攻めようとして、すばやく後退していくエヴァンジェリンを追いかけるために、勢い良く杖に飛び乗り加速する。上空での攻防、しかしそれも長くは続かない、ネギの放った武装解除の呪文がエヴァに当たり、エヴァンジェリンは触媒を失った。
 近くの屋根に落ちていくエヴァンジェリンと、それを追いかけるネギ、屋根の上に立ち対峙する二人の決着はすでに付いたと少なくともネギは考えていた。


「約束です。父さんのことを教えてください」と言うネギに対し
「ハッ!それで勝ったつもりか」と嘲るように笑うエヴァンジェリン。

 こんな状況になっても余裕なエヴァンジェリンを若干不思議に思ったが、父のこととなり、気持ちが焦っていたネギは、その違和感を気にしなかった。

「さあ、教えてください」
「ふん、必死だな、まあ良いか、ご褒美だ。少し話してやろう」ちらと上を見ながらエヴァンジェリンは答えた。
「まずは何が聞きたい?」両腕を広げながら尋ねてきたエヴァンジェリンにネギは
「あなたと父の関係を」と答えた。

「ふん、さっき貴様は私の魔力が弱いと言っていたな。それの理由があの男だよ。あの男に掛けられた呪いのせいで、私の力は極限まで落ちて、ここから逃げられなくなった。本当なら貴様にここまで話す必要など無いのだが、もうすぐそれも恥ずかしいだけの過去の話になるのだから話すのも悪くない」
「過去の話?」先ほど父のせいだと叫んでいた理由がやっとわかったネギであったが、また疑問が表れた。
「そう、過去の話だ。貴様の血を使い、私はこの世界に再び解き放たれるのさ!」
 その叫びと同時に目の前に落ちてきた人影はネギを突き飛ばしエヴァンジェリンの横に並んだ。
「紹介しよう。私の『魔法使いの従者(ミニステル・マギ)』絡繰茶々丸だ。形勢逆転、だな。ネギ・スプリングフィールド」
 余裕の表情の理由はこれか、と頭の片隅で納得する。しかしこれは……完全に失態だ。2対1。杖を握り締めて考える。

 僕がここに来た理由は? 何故早紀さんが襲われたのかが気になったから。
 結果は? 僕の血を使って呪いを解くために、僕をおびき出そうとして。
 父との関係は? 昔この地に縛り付ける呪いを掛けられた。他は良くわからないが今聞くのはいけない。
 このあと僕はどうなる? 彼女がミニステル・マギなら2対1、非常に不利。
 ならばどうするべきか、一時退却。その後でタカミチに報告するのがベスト。ならば!
 そう考えて跨ろうとしたネギの杖が何時の間にか茶々丸に握られていた。
「逃げようとするのは良い判断だが、無理だ。茶々丸は速くて強いぞ?」
 杖はびくともしない。そのままボディを蹴り飛ばされたネギは、杖から手を離して転がっていった。
「ふふん、残念だったな。貴様格闘はてんで駄目だろう? ミニステル・マギもいない。その時点で私に挑んでくるなど、最初から負けが決まっていたようなものだ」
 機嫌が良いのだろうか、実にサディスティックな笑みを浮かべながら近づいてくるエヴァンジェリンに、やはり甘かったとネギは今更ながら後悔した。
 さっきお腹に食らった一撃のおかげで、すっかり満身創痍である、非常に硬くて重い蹴りだった。まるで鉄で腹をフルスイングされたような鈍痛だ。
「ゲホッ……ハァハァハァ……」呼吸を整える事さえ難しい。

 ここまで来たらこれ以上遅れを取るわけには行かないと立ち上がったネギは、ホルスターからカッターナイフを取り出しながらエヴァンジェリンに話しかける。
「ハァ……その杖、大事に取っておいてくださいね」父の杖を置いて逃げるのは嫌だったが、しかし今を逃せば逃げられないだろう。ネギは『きちきちきちきちきち…………』とカッターの刃を取り出した。
「は? 貴様、そんなカッターナイフでどうするつもりだ?」と怪訝な顔で尋ねてくるエヴァンジェリンに対しネギは微笑んで指先を少し傷つけた。
 そしてそのままネギ・スプリングフィールドは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの前から完全に姿を消した。

 どういうことだ!?今の動き、瞬動などではない、本当に消えた。なんだあれは。転移の魔法か? あの歳で?
 すぐに落ち着きを取り戻したエヴァンジェリンは、茶々丸に尋ねた。
「おい、茶々丸! 今の動き映像で取っているか!?」
「はい、あります」茶々丸は恭しく答えた。
「機械は良くわからないから後で見せろ。ふふん、ただのガキかと思ったら、なかなかどうして、面白いじゃないか」
 逃げられたにも関わらず、エヴァンジェリンは上機嫌だ。
「さて、しかし報告されたら面倒だな……どうするか……ふふん、茶々丸、大至急あのガキの部屋を調べろ、これを一番最初にやれ」
「了解しました」
 魔女と従者は、悠々と自宅へと帰っていった。




「ハァ、ハァハァ……怖かったあー」
 自室の布団の上まで『省略』したネギは、無事自室までたどり着いた事に安心した。今すぐにでもタカミチの所へ向かいたかったが、ネギの『省略』は、知っている場所にしか行く事ができない。今タカミチが居る場所を知らないネギは、この方法で向かう事は出来なかった。ならば他の魔法先生の所とも考えたが、ネギは今までタカミチの言いつけ通り一般の生徒として学校に通っていたので、他の魔法関係者がどこに居るのかということも知らなかったのだ。 
 疲れきっていたネギは、もう夜も遅かったので、明日探す事を決意してとりあえず眠ることにした。




 ここで一つネギが先ほど行なった魔法について説明しておこう。
 これは、あの冬の日ナギによって渡された魔法を使った技の一つで、あの屋上から自室までの『時間』を文字通り『省略』した、ということだ。


 そう、ネギがナギに与えられた魔法は、属性(パターン)『水』、種類(カテゴリ)『時間』とする、運命干渉系の能力だ。ネギのこの魔法は自分の内の運命にしか向いていない。わかりやすく言えば、自分の中の時間を操作できる能力、である。『省略』は自分の中の帰宅までの時間を省略したのだ。あの光景を見れば、省略したのは時間ではなく空間のようにも感じるが、時間と空間は本質的には似たようなものである。無論ネギは空間を伴わず、『時間』『だけ』を省略する事もできる。例えば、先ほど傷つけた指先は治癒に三日かかるとして、ネギはその三日を省略できるのだ。『運命干渉』

 実際、ネギが『時間』を省略する事で、未来は変わってしまうのだから。普通払わなければならない交通費を払わなくて済むということから、実に大きなことまで。

 まさに『未来を変革する能力』である。
 

 しかしこの魔法、自分の内側にしか向いていない。時間を省略したところでそこに記憶が伴わないのだ(例えば学校丸一日時間を飛ばしたら、その日の授業の記憶は手に入らないのでその分授業に遅れてしまう)。つまりごくほとんどの場合で、本人にしか意味を成さない魔法なのだ。単純なテレポートなどといった能力と大差ない、しかも『省略』であれ『早送り』であれ、二時間飛ばせば二時間分だけ寿命を消費する。本来ならば(ああいった逃げる場面などを除けば)無駄な『時間』の消費なのだ。
 また、今の、10歳のネギ・スプリングフィールドでは時間を『前』にしか進められないので、消費した時間は取り戻す事ができない。ちなみにネギが消費できる時間は十日を限度としている。十日ずつとは言え、積み重ねていけば結構な寿命を消費してしまうのだが……

 今この時点でのネギの魔法は、攻撃の魔法が数個に、ほうきに乗って飛ぶ魔法、それからこの魔法だけであった。
 人々を助ける立派な魔法使いとしては微妙な魔法のラインナップだが、記憶を消す魔法や傷を癒す魔法を他人に掛けて失敗したら困る、という理由から、実習はほぼ無かったことと、座学がよかったこと、それから自分の傷はすぐに治せたので無事に卒業が出来たのだった。



 朝起きたネギの部屋には、一通の手紙が投げ入れられていた。内容は『貴様の大事な杖は預かった。折られたくなければ、誰にも私の事は報告するなよ? 別にこれは脅しではないが、報告されてしまったら怒りのあまりついうっかりと杖を粉々にしてしまいそうな私からの親切な忠告だ』

 さっそく杖を置いて逃げてきたことを後悔したネギであった。


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