その日の朝は実にいい天気だった。
別にこれまで雨が続いていたとか曇りばかりだったとかそういうことはなかったが、その日は雲ひとつないいい天気だった。
そんな気持ちのいい朝、ピンクの髪をした背の小さな彼女……甘粕真与(あまかす まよ)は目を覚ます。
時間はまだ真与ぐらいの年齢の起きている者が少ない朝の6時。
なぜそんな時間に起きるのかというと家族の朝食を作るためだ。
別に彼女に朝食を作ってくれる親がいないわけではない。
両親は二人共元気だし、少々やんちゃすぎる弟も二人いる。
ただ、真与の家は世間一般の基準でみると貧乏といわれる位置にあり、
そのため両親は毎日一生懸命生活のため働いていたりする。
そんな両親を助けるために真与は家事全般を進んでやっているのだ。
真与は先に顔を洗うために洗面所へと向かう。
その後二年前に水洗式に変えたトイレを通り過ぎ玄関へと向かう。
新聞を取りにいったのだ。
家の外に出た真与はいい天気だと、ぐ~っと背伸びをする。
それから新聞をポストから引き抜き―――固まった。
目をまん丸にして固まった。
真与が見る視線の先には常識では考えられないことが起きていたのだ。
真与は自分の目を擦り改めて確認するが変わらずそれはあり、今度は頬をちょっと強めに抓ってみるが悲しいことに痛みがあった。
夢ではない……。
そう確信した途端真与の顔は真っ青になる。
それは仕方のないことだろう。なざなら――
自分家の玄関先の地面に人が足を空に突き出しながら頭から刺さっていたのだから。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!?」
真与は人生初と言えるほどの大きな叫び声を上げた。
30分後、甘粕家全員が玄関先に集まっていた。
真与の叫び声を聞き慌てて駆けつけてきたのだ。
家族全員の第一声が真与の無事を確認するものだった辺り、この家族は相当に仲がいいのだろう。
そして真与の無事を確認した後、家族は目の前の光景に頭を悩ませていた。
「人……だよな?」
「人……だと思うけど」
「だ、大丈夫かな?救急車呼んだほうがいいかな?」
「うわーすっげぇ!本当に刺さってる~」
「触ってみようぜ!つんつんっ。つんつんっ」
下の弟二人以外困惑を隠せないでいた。
こんな場面に遭遇したことなど今まであるはずも無く、救急車なり呼べばいいのだろうと思ってはいるのだが、なぜかそんなことをしなくても大丈夫に思えていたのだ。
「あっお姉ちゃん!今これ動いたぜ!」
「本当だ!ちょっと動いたよ!」
「ええっ!?ふ、二人ともこっちに来てください!」
その言葉を聞いて慌てて真与は二人を呼び戻し地面から出ている両足を見る。
と、確かに動いていた。ぴくぴくと動いていた。
その光景に冷や汗を流しながら緊張した面持ちでいると今度は激しく足をバタバタさせ始める。
思わず抱き合う家族を他所に動きはどんどん激しくなっていきそして――
「っぷはー!死ぬかと思ったーー!!」
「「「「「生きてたー!!?」」」」」
赤いバンダナを巻いた一人の男が出てきたのであった。
「こらうまいっ!こらうまいっ!」
「あっ横島兄ちゃん!俺の卵焼きとるなよ!!」
「だからって僕のをとらないでよ!兄さん!」
「わわっ、そんなに慌てなくてもまだありますよっ!」
「はは、いい食いっぷりだな~横島くん」
「はい、お茶も飲んで。喉を詰まらせるわよ」
「ありがとうございます、紗江さん。
お礼に今夜僕と熱い夜を過ごしませんか?」
「あらあらお父さん、私ナンパされちゃったわ。
まだまだ捨てたもんじゃないのかしらね」
「当たり前だよ母さん。母さんは世界で一番綺麗なんだから」
「まっ、お父さんったら」
「姉ちゃん、卵焼き早く~」
「こっちも~」
「は~い、ちょっと待って下さい~っ」
慌しい朝食風景が甘粕家の今では起こっていた。
地面から這い出て来た男、横島忠夫に事情を聞こうとしたところで横島がバタンと地面に倒れこみ、
「は、腹減った~」
と言ったことで一家は横島をこのままにしておくことなど出来ず、彼を朝食に誘ったのだ。
ちなみに互いに名前だけは交換を済ましている。
甘粕家の家族の名前はこの通り。
一家の大黒柱の甘粕大吾(だいご)。
その柱を支える妻、甘粕紗江(紗江)。
長女である真与。
その弟で長男である大樹(だいき)。
次男の武(たける)。
の五人家族である。
「ふひ~腹いっぱいだ……ども、ご馳走様でした」
「いやいや、困ったときは助け合うものだからね」
朝食と言っていいのか分からないぐらいの量を食べた横島が甘粕家に頭を下げ、大吾はそれを優しく笑い答える。
「あの横島さん、もう一杯お茶どうですか?」
「おお、お願いするな。それとメシすっげぇ旨かったぜ真与ちゃん」
「本当ですか?それなら良かったです」
お礼の言葉を言いながら横島は真与の頭を撫でる(ちなみにまだ真与の年齢を横島は知らない)、
それを真与はどこかくすぐったそうにしながら嬉しそうな声で返した。
初めは出会い方が出会い方のせいで横島に対し少し恐怖心を抱いていたものの、実際に話てみて恐怖心は無くなった。
それは真与だけではなく家族もそうだったようで、小学生の弟二人なんて横島にじゃれ付きながら甘えている。
「それで……横島くん、どうして君はウチの玄関先に刺さっていたんだい?」
「地面に刺さるなんてそう起こることないわよね?」
朝食を終え、落ち着いたところで大吾と紗江が横島に聞く。
警戒心を解いたとはいえ、一体どういうことなのか知らなければいけないのは代わりない。
ただ、
「いやぁ、地面に刺さるなんてことは結構あるもんすよ」
と横島が言っていたのは無視したが。
「う~ん、なんというか俺も良く分かってないんスよね。
多分事故でこの家の前に刺さったんだとは思うんすけど……」
「事故?」
「うっす、仕事の時にちょっと……あ、俺一応GSなんですよ。
まぁまだ見習いなんすけどね」
そう言って照れ笑いを浮かべ頭をかく横島は、次に大吾が発した言葉に固まることになる。
「ごーすとすいーぱー?……何かなそれは?」
「………え?」
GSといえば横島だけではなく世間一般の人が知らない人がいないぐらい知名度の高い職業のことだ。
それを大吾は知らないと言う。
横島はここに来て初めて嫌な予感を感じ冷や汗を流しだす。
「じ、GSっすよ?本当に知らないんすか!?」
「すまないが……母さんは?」
「私も知らないわね」
「私も知らないです」
「「しらな~いっ!」」
「う、ウソだろ……っ!そ、そうだっちょっと電話借りてもいいっすか?」
「え?ああ、構わないけど。ホラ、あそこにあるのを使っていいよ」
大吾の了承をへた横島は少し足早になりながらダイヤル式の電話へと向かい。
恐る恐る事務所へと電話をかけた。
そして――
『おかけになった電話番号は現在使われておりません』
嫌な予感は的中した。
「(な、なんでやっ!?昨日今日で電話番号変えるなんて話聞いてないし……そうだっ!他にもかけてみるかっ!)」
そう思い他にも覚えている電話番号を押しかけてみるが、どれもこれも『現在使用されておりません』のセリフが流れてくるだけだった。
まさかまさか……と、横島が現状に一つの仮説をたてた時、それが視線に飛び込んで来た。
「…………真与ちゃん、きょ、今年って平成何年だっけ?」
横島は震える声で、心配そうにこっちを見ていた真与に尋ねる。
真与はいきなり何でそんな質問を?とは思ったものの答える。
「平成21年ですが?」
「は、はは、はははははははは」
「よ、横島さん?」
「兄ちゃんが壊れたー!」
「だ、大丈夫かい?横島くん?」
心配して声をかけてくる甘粕家を他所に横島は一頻り乾いた笑いを続けた後、
「ワイが何したっちゅーんじゃこんちくしょーーーー!!!!」
そう叫び声を上げた。
きっと続かない。
あとがき
マジ恋に横島をクロスさせたくて描いてしまった。
でも続けられそうにないから一話だけネタとして投稿してみました。
多分後、二、三話ぐらいは描くかもしれませんがその後はわかりません。
では、ここまで見てくれてありがとうございました。