伊予鉄の路面電車は、松山城址の周囲を一周しているほか、松山至近郊外の名温泉、道後温泉まで延びている。結構多くの人が利用しており、バスとも上手く共存している気配だ。
しかし、岡山の市電に比べるとかなり年代物の車両で、揺れが激しいうえに賑やかな音を立てる。まあ、それがまた一種の雰囲気になっているのだろう。しかし、乗降時のドア開閉ブザーが、実に耳障りで気狂いじみた音を出すのには閉口した。ニワトリとカエルの合成生物が絞められている断末魔の声とでも形容したら良いだろうか。
そうこうしているうち、道後温泉に到着。道後温泉駅は、明治時代の建物を再建した洋館風の駅舎だ。
駅から出た正面には、道後温泉商店街のアーケード入口、そして「放生園」といわれる小公園がある。園内には、大きなからくり時計が立ち、8時から21時までの各正時に、坊ちゃんのキャラクターが登場するからくりが披露される。
正直言って、予想以上に商業チックな温泉場なので、少し驚いた。こういう場所では、往々にして高飛車な温泉地商売がまかりとおるケースが多いので、少し不安を感じる。最近の「しまなみ海道」と四国ブームの先端をいく道後温泉なだけに、心の通った商売が行われているか、気になるところである。
商店街アーケードを抜けた場所に、華やかな装飾と人混みが目に付いた。ついに目の当たりにした「道後温泉本館」である。
温泉施設として初めて国の重要文化財に指定された木造三層楼は、明治27年の建築で、100年を越えてなおバリバリの現役。そもそも道後温泉は、聖徳太子も入ったという話もあり、日本でも最古とされる温泉の一つである。
ところで、今回は3月18〜21日の「道後温泉まつり」の期間中であったので、上写真のように煌びやかに装飾されていた。重厚沈毅な歴史的建造物もいいが、これはこれで華やかな雰囲気がしてよろしい。
さて、ひと休みの後、早々に温泉街にくり出す。第1の目的は、もちろん道後温泉本館である。
本館は、後述するコースによって多少異なるが、概ね6時半から21時までなら確実に入浴できる。
泉質は、アルカリ単純泉で、微かに薄濁りしている。古来から、香り・湯ざわり・湯上がりの爽快感など、どれをとっても素晴らしく、天下の名湯として数えられてきた。
個人的に、温泉らしい強烈な個性が感じられないのは寂しいが、確かに湯上がりが爽快だと思った。熱が身体に長く溜まらず、抜けが早い。強い温泉に入るとヘトヘトになってしまうところでも、道後温泉ではスッキリとさめていく。しかし、決して温まらない訳ではなく、芯はしっかりと温まっているのである。
本館で入浴するには、入浴コースを次の4種類から選択する必要がある。
@神の湯階下(300円) A神の湯2階席(620円) B霊の湯2階席(980円) C霊の湯3階個室(1240円)
「神の湯」は、広々とした石造の大風呂である。天井が高く、採光豊かな素通しガラスになっているため、開放的な雰囲気だ。
「霊の湯」は、やや小さめの風呂で、大理石壁に囲まれて密閉感を強く感じる。濛々と湯気がこもり、より湯治場的な雰囲気だ。「霊の湯」コースを選択した場合には、「神の湯」にも入ることができる。
さらに「2階席」というのは、町を見下ろす畳敷きの広間で休むことができ、湯上がりには茶と煎餅でもてなされる。
「3階個室」というのは、落ち着いた客間で休むことができ、湯上がりには茶と坊ちゃん団子でもてなされる。
・・・ということで我々は、せっかくの雰囲気を満喫するため、「霊の湯2階席」コースを選択した。
2階の広間は、休日だけあって客で埋まっている。とても情緒たっぷりに坊ちゃんを気取る訳にはいかない。茶と煎餅には特段の意味は感じられず、無くても良いからもう少し料金を安くしてほしいところだ。しかしまあ、歴史的建築の維持にはお金がかかるだろうし、一応形だけでも茶菓を供する体裁をとるあたり良心的なのかもしれない。
「神の湯2階席」コースの広間を覗いてみたが、こちらの方が広々としていて雰囲気が良い。釈然としないところであるが、霊の湯に入ることが出来ないのが難点で、結局「霊の湯2階席」コースが観光客相手の売れ筋なのであろう。地元客は銭湯感覚で神の湯に入っているようだ。
温泉から出ると、ちょうど本館前にものすごい人だかりが出来ていた。温泉祭りのメインイベントのひとつ、女みこしかきくらべだそうである。なるほど、確かに女衆が甲高い叫び声を上げながら御輿を担いでいる。しかしまあ、これは一概に威勢がいいと表現しにくい面もあるのではないか。ある意味では、ある種女子プロレス的な見苦しさを感じないでもない(ごめんなさい)。でも、当事者の皆さんはとても楽しそうなので、見ている方も気持ちが良いところだ。
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