牛や豚に感染する口蹄疫(こうていえき)の拡大が止まらない。宮崎県都農町で感染が確認されてから50日余。一時は感染拡大が収まりつつあるかと思われたが、新たな地域で感染が疑われる家畜が見つかっている。
都城市のように、これまでの感染地域から離れた場所でも疑い例が出た。家畜の移動・搬出制限にワクチン接種を組み合わせた封じ込め策をかいくぐっての「飛び火」だ。
もはや、限られた地域の問題ではなく、国の危機管理の問題である。さらに感染が広がる可能性を念頭に置いて防疫策を再チェックし、徹底させる必要がある。地元農家への支援も欠かせない。
感染が飛び火した原因を突き止めるのは難しい。口蹄疫のウイルスは極めて感染力が強い。感染家畜の排せつ物や体液などに含まれ、体外でも感染力を保つ。このため、排せつ物に接した人の靴や服、車などに付着して、知らないうちに遠くまで運ばれることがある。
口蹄疫が発生した農家から半径10キロの移動制限区域では、未感染の家畜にワクチンを接種し、後に殺処分する方策をとってきた。感染拡大を防ぐ有効な手だてと考えられるが、接種した家畜は感染しても病状が出にくい。ワクチン接種に安心し、うっかり接触した人がウイルスを運んだり、消毒がおろそかになった恐れもある。
感染が集中した県央部で家畜の殺処分が追いつかないことも感染拡大の誘因だったかもしれない。環境からウイルスをなくすため、すみやかに処分を進めなくてはならない。その際には、埋却地周辺の住民の不安に答える説明も欠かせない。
感染経路として鳥や風を指摘する声さえあることを考えると、すべての地域で発生に備える必要がある。大事なのは家畜に疑われる症状が見つかった場合の迅速な処分と徹底した消毒だ。埋却場所の確保も考えておくことが大事だろう。
公示を控えた参院選の影響も気にかかる。選挙戦で人々が移動すれば、感染拡大のリスクが高まる。地元宮崎県などでは、このままでは選挙などできないのではないかという声も出始めている。
00年に宮崎県で92年ぶりに口蹄疫が発生した時には、一定期間で抑え込むことができた。ウイルスの感染力に違いがあったとしても、今回、初期対応に問題があったことは否めない。当初は、農家への補償が素早く示されなかったり、家畜の埋却地が見つからないなど、制度上の問題もあった。
これだけ国際的に人や物が移動している現代では、感染症はいつ国内に侵入してもおかしくない。抜本的な対策の見直しも今後の課題だ。
毎日新聞 2010年6月14日 2時31分