掲載日: 2006年 04月 22日

排他的経済水域・基礎知識

文章:辻 雅之(All About「よくわかる政治」旧ガイド)

(2006.04.22)

大陸棚とならんで重要な国際海洋法の知識が排他的経済水域というものです。排他的経済水域とはいったいどんな水域なのか、国際法で認められていること、いないことは何か……一問一答形式で。

1ページ目 【排他的経済水域ってどんな水域?】
2ページ目 【排他的経済水域沿岸国の権利と義務とは?】

【排他的経済水域ってどんな水域?】

排他的経済水域とはなんですか?

排他的経済水域
排他的経済水域においては、沿岸国は「経済的主権」に限定した権利を持つことができる。主権すべてが及ぶ領海・領空とは区別される
海を持つ沿岸国が、天然資源など「経済的」なことに対して、「主権的行為」をとることができる、つまり自国の支配下におくことができるという海域のことです。

ですから、海中の水産資源や海底の天然資源は、排他的経済水域を持つ沿岸国のものであり、よその国の人が勝手に取っていくことはできません。……こういう権利が、「経済的主権」というものの一例です。

また、沿岸国は人工島などの施設を作ることもできます(ただしこれらは領土にはなりません)し、海流や風を利用した発電などを行うこともできます。そしてそれらについて国内法で定めを設けることができます。

この水域は、国連海洋法条約によって、沿岸から最大200カイリ(1カイリ=およそ1.8km)まで設定することが認められています(第57条)。半径200カイリの円には、九州・四国・本州の半分を収めることができます。

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いつから、このような制度が設けられたのですか?

第2次世界大戦まで、国際政治というのはもっぱら欧米諸国の政治のことでした。

したがって、北海やバルト海、地中海といった比較的小さな海洋における国家の境界=領海の境界には関心があっても、それ以外の海域利用や法制度についてはあまり関心が高まりませんでした。

しかし第2次大戦後、ラテンアメリカやアフリカなど、太平洋・大西洋・インド洋という大きな海を沿岸に持つ途上国は、この海域の資源利用を主張するようになり、なかには沿岸から200カイリまでを領海と主張する国々が現れるようにもなりました。

(この主張はラテンアメリカで早く、1947年チリがいち早く主張し、1952年にチリ・エクアドル・ペルー(太平洋の沿岸国ですね)が200カイリ領海を主張する「サンチャゴ宣言」を採択しました)

そこで先進国と途上国の話し合いのため「国連海洋法会議(国連海洋法条約発効はこの会議の成果です)」が設立され、この問題など、条約としては未確定だった海域利用の国際法ルール作りが行われはじめました。

この会議は長きに渡りましたが、なんとか決着しました。ここで先進国と途上国が妥協したのは「あくまで『経済的権利に限定した権利』のある大きな水域を沿岸国に認める」というものでした。

先進国は、長年の会議中、著しく発展した海洋技術によって、自国から割合に遠い沿岸海底などから資源をある程度利用できることがわかってきていたことで、主権的権利を主張する海域を全否定することは得策ではないと考えるようになっていました。

また、漁業先進国は、水域設定によって途上国沖合いの良漁場の管理義務を沿岸国に負わせることも必要だと考えるようになっていました。

こうして、排他的経済水域の規定を設けた国連海洋法条約が1982年に採択され、1994年に発効、現在に至っているのです。

排他的経済水域は領海ですか?公海ですか?

公海
排他的経済水域は戦後になって生まれた概念であり、公海・領海以外の「第3の水域」である
領海は領土と同様、主権のすべてが及ぶ水域であり、国連海洋法条約の規定によって最大12カイリまで設定することができるものです(第3条)。

一方、公海は「どこの国のものでもない海域」のことで、何世紀にもにわたって国際慣習法で「公海自由の原則」、つまり自由に航行・漁業などを行っていいというルールのもとにありました。

もっとも、公海について、現在では国連海洋法条約によってその原則が明文化されています(第87条)。公海に主権を主張することができないことも明文化されました(第89条)。

しかし、公海だから誰が何をやってもいいというものではなく、公海の平和的利用(第88条)、奴隷運送の禁止(第99条)、海賊行為の抑止(第100条)などが定められています。

さて、排他的経済水域はどちらにあたるのでしょうか。「経済的主権」が及ぶのであれば領海的水域と考えられますが、その他については公海に準じているともいえます。ゆえに、議論は分かれるところです。

今のところ、一般的には「公海ではない(スイ・ゲネリス)区域」と考えられています。しかし領海とも異なるわけですから、どちらでもない、と考えるのが自然と考えられています。

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