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悪魔的ビジネスモデル

下流喰い―消費者金融の実態

須田慎一郎

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本書で描かれる、サラ金の「悪魔的ビジネスモデル」はおもしろい(といっては怒られるかもしれないが)。住宅ローンでは長期的な返済計画を立てて元利を返済するが、サラ金は短期資金なので、そういう計画を立てない。貸金業者も「利子さえ入れてもらえばいいですよ」といい、完済の期限を示さない。これは一見、債務者に「やさしい」商売に見える。100万円借りた場合、出資法の上限金利29%でも、月々の金利は2.4万円でよい。それも滞ったら、「**さんで借りて返してくださいよ」と他の貸金業者を紹介する。その金利も返せなくなったら・・・という繰り返しで、気づいたら莫大な借金を抱えてしまうのである。元金を返さないで、いつまでも「ベタ貸し」できる債務者が上客なのだという。

このトリックのポイントは、元金というストックの大きさを隠し、金利というフローだけを見せるところにある。行動経済学的にいえば、近視眼バイアスをうまく利用しているわけだが、ストックとフローの関係を混乱させて消費者を欺く悪魔的ビジネスモデルは、サラ金だけではない。携帯電話の端末が0円で買えるのは、その価格(ストック)が通話料(フロー)に上乗せされるからだし、ゲーム機の価格が安いのもゲームソフトのライセンス料で回収するからだ。プリンタは安いがインクカートリッジが高いとか、エレベーターは安いが修理費用が高いなど、ストックの価格をフローに分散して安く見せかけるトリックは多い。

このように消費者のバイアスにつけこむビジネスは、一種の不公正競争である(エレベーターの場合は公取委が排除勧告を出した)。規制が必要なのは金利ではなく、このトリックだろう。上限金利を引き下げると、高リスクの(バイアスの大きい)債務者が借りられなくなるという効果はあるが、悪魔的ビジネスモデルがある限り、被害は根絶できない。たとえば元利の返済計画を義務づけるとか、多重債務を制限するなど、バイアスを中立化する規制が必要ではないか。

追記:この問題について、大竹文雄氏のブログで、大竹氏と池尾和人氏(金融庁の懇談会の委員)が議論している。大竹氏のいう「双曲割引」というのは近視眼バイアスの一種で、池尾氏のいう「プレディター」というのは消費者の無知につけこむビジネスという意味だから、事実認識は両者ともこの記事とあまり違いはない。ただ大竹氏が上限金利の引き下げに批判的であるのに対して、池尾氏は引き下げれば債務者が早めに資金的に行き詰まって歯止めになると考えているようだ。
コメント ( 11 ) | Trackback ( 5 )
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コメント
 
 
 
Unknown (fuji)
2006-10-29 08:04:24
そもそも金利が異常に高いから返せなくなるのに「元利の返済を義務づけるとか、金利返済のための借り入れを禁止するなど」といった規制は本末転倒なような気がします。金利規制をまず実施して、闇金自体を強力に取締ることが重要と思います。
 
 
 
補足 (池田信夫)
2006-10-29 10:17:31
私は、取引を規制することが望ましいとは思っていません。法技術的にも、むずかしいでしょう。しかし問題の本質は金利ではなく、消費者保護であって、適切な情報開示を強制することが重要だと思います。このビジネスモデルが変わらない限り、上限金利を20%にしても、サラ金に「はめられる」債務者は後を絶たないでしょう。
 
 
 
Unknown (とおりすがり)
2006-10-29 12:08:47
 やっぱ教育でしょうか、お金というものがどういうものかリアルに教育を受けていないからこうなるんでしょう。

 義務教育でナミワ金融道のようなものを読ませるべきでしょう。

 サラ金たたきして、責任転嫁する前に何故ヤミ金や金利の高い業者からそういうとこからお金を借りざるをえなかったのか?

 ここをもう少し考えないと、ただ金利を下げてお金を逆に借りやすくしても、いるだけでも消費者自身が変わらなければ意味ないでしょう。
 
 
 
無料でホームページ作ります (山たっくん)
2006-10-29 19:01:02
最近、無料でWEBサイト作りますって電話が多いですが、最後まで聞き出すとサーバーレンタル代が、と。(笑)
 
 
 
金利ではなく (simokawa)
2006-10-29 21:26:55
貸し手は利息が欲しい=預けられた金融機関は利息を生まねばならない。
20数パーセントで運用できる環境は限られているのに気まぐれに20数パーセントで借りてみようかという一般人は多い。
借り手は貸し手側の「何故貸したがっているか」を理解しなくてはいけません。
この温度差が解消されなくてはみんななんとなく借りるでしょう。
 
 
 
Unknown (PON)
2006-10-30 00:19:45
問題はもっと単純だと思われる。

1.高金利でも借りたい人は、すでに破綻している。(つまり、返せる状態にはないので、貸すべきでないし、借りるべきでない。救済するなら、方法はひとつ。お金をあげるしかない。)

2.高金利で貸したい業者は、既に、正常に返せる相手に貸そうとは考えていない。(つまり、保険金や、多重借金でむしゃぶりつくすことが目的である。)

3.正常な社会生活を実現しようと思うのなら、金利は、計画的に返せる範囲に正常化すべき。

4.話を難しくするのは、そこから利益を得ている面々である。
 
 
 
蛇足 (池田信夫)
2006-10-30 13:17:42
「金利29%」という数字だけ見ると、借りる奴がバカだと思うかもしれないが、債務者の立場になってみると、そうともいえません。たとえば月給20万円の人が、交通事故で50万円の医療費が必要になった場合、貯金がなければサラ金に借りるしかない。その債務は、金利29%としても、月々5.4万円ずつ返せば1年で完済できます。現実の資金需要の原因も、こうした「ライフ・イベント」が多く、それが一時的なものであれば、問題はない。上限金利の引き下げで、こうした資金調達を不可能にすると、被害を受けるのは「下流」の人々です。

問題は、ギャンブルなどに使って返すあてのない借金をする常習者と、資金需要のない人をだまして「貸し込む」サラ金です。だから必要なのは、価格統制ではなく行為規制だと思います。具体的にどう規制するかはむずかしいが、行動経済学の応用問題としてはおもしろいかもしれない。
 
 
 
元本返済について (moon)
2006-11-01 20:52:20
月収20万の人が5.4万円を月々返済した場合、生活費は14.6万円となります。
この人が借り入れ時点で貯金が無いということは、概ね20万円が生活費として消費されている状況を想像できますので、元本を含む5.4万円の返済はかなり厳しいのだと考えられます。
その結果、月々の金利の1〜2万円だけを支払うという選択を『せざるを得ない』のではないかと思います。
そして、金利だけでは元本返済はできませんので、返済期間中に新たな『ライフイベント』が発生した場合はほぼ生活が破綻することが想像されますし、元本返済が出来ない状態は恒常的に続きますのでその確立は非常に高くなります。
 
 
 
Unknown (まじめたろう)
2006-11-03 19:28:36
ストックの価格をフローに分散するのは本当に消費者を欺くものだといえるんでしょうか。
消費者にとって製品の性能は買うまでわからないという情報の非対称を考慮すると、フローに分散されている場合は低品質なら他に買い換えればフローの部分を払わされることはなく、製品本体が高い場合は性能が悪いとわかった時の損害が大きいので、フローに分散しないほうが消費者を欺きやすくなるのではないでしょうか。使い続けてもらえないような悪い製品なら、フローの部分で利益を得ることができないはずです。サラ金の場合は借りれば返済しないといけないので当てはまらないかもしれませんが、携帯電話やゲーム機やプリンタの場合はそれだけ性能に自信があるからこそ、赤字覚悟で製品を売り、試用して消費者がいいと思えば使い続けてもらい、そのときに利益を回収するという良心的なビジネスモデルを採用できるということだと思います。
 
 
 
意味不明ですね (池田信夫)
2006-11-03 21:16:35
「低品質なら他に買い換えれば」って、プリンタをそんなに簡単に買い換えられません。いったんハードウェアを買うとロックインされるから、こういう「抱き合わせ」が成り立つのです。「性能に自信がある」のなら、安値に見せかけなくても売れるでしょう。

こういう無内容なコメントは読者の迷惑なので、今後は載せません。コメントする前に、よく考えてください。
 
 
 
お邪魔します (ブロガー(志望))
2006-11-12 18:47:35
お邪魔します。
 問題は「消費者のバイアス」というよりも「債務を
債務者以外から回収できる連帯保証人制度」ではない
でしょうか。「債務者からしか回収できない」なら業
者も「回収できる相手」にしか貸さないでしょうか
ら。
 
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