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2010.06.14

 国連安保理 哨戒艦事件 北にも発言機会 全体会合 韓国と分けて開催 

カテゴリ国連 国際機関出典 読売新聞 6月14日 朝刊 
記事の概要
国連安保理筋によれば、韓国の海軍哨戒艦沈没事件で、国連安保理会が14日に韓国と同様に北朝鮮にも発言の機会を与える全体会合を開くことがわかった。

全体会合を2部に分け、韓国軍・民間合同調査団の代表から事件の調査結果を聞いた後、北朝鮮との会合に切り替える。北朝鮮は魚雷攻撃を否定し、韓国や米国を非難するとみられる。

北朝鮮は、韓国政府が今月4日に事件を提起した後、安保理に書簡を送り、韓国の調査結果は「一方的に捏造された」として、安保理での議論に反対した。

その後、別の書簡を送り、北朝鮮の主張も聞く会合を開くように要請、安保理はこれを受けて会合の開催を決めた。

北朝鮮側の出席者は不明だが、韓国側の調査結果を否定し、事件の本格討議に難色を示している中国やロシアの介入を期待しているとみられる。
コメント
この決定は北朝鮮に有利と思うかも知れないが、私は逆に北朝鮮に極めて不利にする決定だと思った。

何でわざわざ安保理で北朝鮮の弁明を聞く必要があるのか。中国やロシアも魚雷攻撃は北朝鮮の仕業と確信している。しかし北朝鮮を追いつめないようにするため、「決定的な証拠に欠ける」という法廷戦術で擁護しているだけである。

しかし韓国が「ほぼ決定的と思われる証拠」の”隠し球”を安保理で示せば、中国やロシアの北朝鮮擁護は難しくなる。その上、北朝鮮がいくら弁明しても”ウソつき国家”を実証するだけの話だ。

本来なら中国やロシアは、それでも「決定的な証拠がない」という政治的な言葉で、採決を棄権する可能性を残したいと思ったはずだ。

それが安保理の全体会合で北朝鮮が発言すれば、中国やロシアは白黒をつけることを求められる。韓国と北朝鮮のどちらがウソをつき、説得力のない反論をしているかである。

さらに安保理が北朝鮮の犯行を認めて、制裁(非難声明)を行った場合でも、北朝鮮の要請を受けて弁明を聞く機会(全体会合)を開いたとして、安保理は公平的であったとの立場は守れる。

すなわち北朝鮮の全体会合出席は、北朝鮮に厳しい採決が行われるための事前準備のような気がした。

その巧妙な罠を北朝鮮は見抜くことが出来なかった。もう北朝鮮を普通の国家として、国連のどの国も見ていないのだ。

金正日が健全な判断をしていれば、安保理を脅す書簡(1回目)を出したり、今回の安保理に説明のための出席を求める書簡(2回目)は出さなかったと思う。金正日のいつものやり方とは異質のような気がする。

例えば、大韓航空機爆破事件のとき、韓国から国連安保理にあの事件が提起された場合、北朝鮮は安保理の全体会合に出席を求めて”韓国の捏造を説明”しただろうか。一方的に北朝鮮から”韓国の捏造として非難する”だけのことだった。それが金正日のやり方である。

果たして、今日の全体会合に北朝鮮からだれが出て、どのような発言を行うか、そのことに注目したい。
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