きょうの社説 2010年6月14日

◎郵政法案先送り 選挙目当てが過ぎないか
 民主党が郵政改革法案の今国会処理を先送りし、これに反発した国民新党代表の亀井静 香氏が金融・郵政改革担当相を辞任するという「騒動」は、選挙目当ての政党のご都合主義があまりにも露骨に感じられ、見苦しいと言わざるを得ない。

 郵政事業の民営化路線を転換する郵政法案は、国民経済への影響が大きい重要法案であ る。いわゆる官製金融の肥大化による民業の圧迫といった種々の問題を含み、民主党内も意見が一致しているわけでない。現在の郵政法案は参院で廃案となるため、民主、国民新両党は参院選後の臨時国会に現法案と同一の新法案を出し、成立を図ることにしているが、法案審議が仕切り直しになったからには、郵政民営化路線を見直すことの是非を参院選の一大争点とし、もう一度民意を問うほかない。

 与党は全国郵便局長会などに約束した郵政法案の今国会成立のため、衆院では強行採決 を行った。慎重な判断を要する法案を実質1日の審議で採決するのは、いかにも乱暴で身勝手だ。野党時代の民主党は、こうしたやり方をさんざん批判してきたはずである。

 ところが、参院では「菅政権の支持率の高いうちに参院選を」という声に押されて会期 延長論は消え去り、一転先送りとなった。ごり押しで法案を成立させる印象を与えるのは得策ではないとの判断もあったというから、強行採決も先送りも、選挙対策を最優先した結果であるのは明らかだ。

 今国会成立という公党間の約束をほごにされた亀井氏の抗議は当然としても、自ら閣僚 を辞任しながら、後任を自党から出して連立政権も維持するというのは筋が通らず、分かりにくい。国の大計にかかわる法案審議を二の次にした政党の姿は、国民の政治不信を増幅させるばかりである。

 そもそも、民主党と国民新党は政策に大きな違いある。民主党が主張する永住外国人の 地方参政権や選択的夫婦別姓に、国民新党は強く反対している。憲法解釈や家族観で深い溝があるのであり、それにふたをかぶせた連立は「選挙のための野合」と批判されてもやむを得ないのではないか。

◎愛本刎橋の遺構発見 市民に分かりやすく発信を
 黒部市が復元を目指している愛本刎橋の遺構が、職藝学院(富山市)の現地調査で初め て確認された。黒部川の「暴れ川」ぶりに悩まされていた付近の住民や旅人らを見かねた加賀藩5代藩主前田綱紀の命を受け、当時の技術者たちが最高水準の技を駆使して整備した名橋の、正確な位置を示す貴重な発見である。黒部市には、説明会などを通じてこの成果を分かりやすく発信し、失われた「郷土の宝」に関心を持って復元の応援団になってくれる市民をさらに増やしていく努力を求めたい。

 愛本刎橋の遺構は、現在の愛本橋より約60メートル上流の、川幅が狭くなっている場 所で見つかった。周辺の地形を考えれば、説明会で遺構そのものを市民に見せるのは難しいかもしれないが、現場の写真とともに、付近にあるうなづき友学館に常設展示されている2分の1サイズの刎橋の模型なども「教材」として上手に活用すれば、ありし日の刎橋のスケールや、遺構発見の意義などを十分に伝えることができるだろう。

 愛本刎橋には橋脚がなく、山口県岩国市の錦帯橋、山梨県大月市の猿橋と並んで日本三 奇橋と称されるほど特徴的な外観を有していただけに、復元が実現すれば、観光誘客などの面で大きな効果が見込めよう。北陸新幹線の開業が迫っていることを考えれば、夢で終わらせてしまうのは惜しいプランである。

 ただ、これからより詳細な調査などを進めるためにはまだまだ時間と費用がかかるだろ うし、実際に工事に着手するとなれば、さらに費用がかさむ。仮に、国や県などの支援が得られたとしても、黒部市も応分の負担を覚悟しなければなるまい。こうした課題を一つずつ乗り越えていくためには、市民の熱意のさらなる高まりと持続が欠かせない。

 黒部市教委は今夏、地中に残る愛本刎橋の遺構をレーダーで把握する調査も予定してい る。これらの調査でも、節目ごとに進捗状況や成果などを説明し、清流に映える刎橋の姿を想像する機会を市民に提供してほしい。