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2010.06.03

港区がシンドラーエレベータ他に損害賠償請求訴訟を起こす

読売新聞より「高2死亡、港区がシ社などに13億円請求へ

東京都港区の公共住宅で2006年6月3日、都立高2年(当時16歳)がエレベーターに挟まれて死亡した事故を巡り、住宅を管理する港区は3日、エレベーター製造元の「シンドラーエレベータ」(江東区)や保守点検業者など4社に、エレベーターの交換費用など計約13億8400万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こすと発表した。

9日に開会する区議会に関係議案を提出、今月中にも提訴する。

議案書などによると、訴えられるのは、シンドラー社と同社のスイスの親会社、事故当時の保守点検会社「エス・イー・シーエレベーター」(台東区)、事故の3か月前まで管理していた「日本電力サービス」(多摩市)の計4社。

同区は、事故後に建物内にあった同社製の5基を別の機械に交換した費用や事故調査費などについて、「エレベーターには欠陥があり、適切な保守点検も行われなかった」として負担を求める。

シンドラー社は「コメントできない」としている。

(2010年6月3日19時04分 読売新聞)

これはどうなんだろう?
けっこう無理筋の訴訟ではないだろうか?

そもそも、エレベーターを他社製に交換する必要がある欠陥品である、という証明を港区ができるものなのだろうか?

さらに、

事故当時の保守点検会社「エス・イー・シーエレベーター」(台東区)、事故の3か月前まで管理していた「日本電力サービス」

この二社の関係は、競争入札によってメンテナンス会社を交代したわけだから、それ自体は港区の責任において交代を決めたわけで、交代前の会社に責任があると主張するのは、業務の引き継ぎについてだろう。

業務を引き継いだ際に潜在的に存在するリスクに対しては、交代を決定した港区の負うべきものなのではないのか?

結局、14億円に近い損害が生じたことについて、港区には全く責任が無いということのように見えるが、もしこういうレベルで買い手に責任が無いとすると、価格と品質は無関係だということになってしまうわけで、逆に購入の選択が出来なくなってしまう。

簡単に言えば、欠陥品を購入しても購入者には全く責任が無い、ということで良いのか?
それで競争入札は成立するのだろうか?

メンテナンスサービスの競争入札において、サービスの質と価格は比例するだろうから、質と価格を切り離した議論にすると、結局は「可能な限り高品質のサービス」という測りがたいモノについて「無料も含む可能な限りの低価格での提供」が正しいとなってしまって、確実に最低限を割り込む質のサービスになっていくだろう。
要するに、港区の主張が「サービスの品質と対価の間には関係がない」ということになるから、こんな主張が成立するのであれば港区とは商売が出来ない、となるだろう。

この構造は、競争入札において、サービスの質というあいまいなものをどれほどキチンと測れるのか?ということに尽きるわけで、港区の主張が正当であることを証明するのには、サービスの質と価格の関係をキチンと説明するべきだ、となるように思うがそんな証明を港区ができるものなのか?

【追記】

サンケイ新聞に少し詳しい記事がありました。「エレベーター欠陥で交換迫られ損害 港区がシンドラー社など提訴へ

2010.6.3 18:41

東京都港区のマンションで平成18年、住民の男子高校生=当時(16)=がエレベーターに挟まれて死亡した事故で、マンションを管理する区は3日、エレベーターの製造、保守管理をしていた「シンドラーエレベータ」(江東区)など4社に計約13億8400万円の損害賠償請求訴訟を起こすことを明らかにした。9日に区議会に関連議案を上程し、可決され次第、東京地裁に提訴する方針。

議案書などによると、事故の原因はエレベーターの電磁ブレーキのブレーキコイルの欠陥など。
区は欠陥のためにマンションのエレベーター計5台を交換することになり損害を被ったとしている。

この事故をめぐっては、シンドラー社幹部ら計5人が21年、業務上過失致死罪で起訴されたほか、男子高校生の遺族が20年、区やシンドラー社などに計2億5000万円の損害賠償を求める訴訟を起こしている。

損害賠償請求訴訟で、シンドラー社はブレーキコイルの欠陥を否認している。

報道では、高校生が死亡した事故では、電磁ブレーキのコイルは通電するとブレーキが緩み、電力が切れるとブレーキが掛かる仕組みになっていたのですが、ブレーキが完全に緩まない状態で運転したために、定期点検の間隔の間でブレーキシューが摩滅してしまい、ブレーキが利かなくなった。とされています。

この現象をコイルの欠陥と言えるのか?となると、難しいように思います。
機械である限りは、完璧に作動し続けることは有り得ないわけで、コイルの欠陥のように一つの原因が唯一無二である、ということ自体がほぼ有り得ない。

ブレーキが完全に緩んでいるのかをチェックする回路がなかったのであれば、それ自体は設計としてはリスクが高いといえるが、十分なメンテナンスで事故を回避しうるという見解をくつがえせるか?というのは客観的事故調査で設計を評価しない限り判断のしようがないだろう。

シンドラー社のエレベータが起こした事故では、どうも設計上の余裕が少ないのではないのか?と思えるところが多々あって、簡単に言えば「質が怪しいのではないのか?」と思うわけです。

その結果として、低価格であるから競争入札に勝って納入される、というのであれば品質と価格のバランスを購入者が判断していることが前提になりますが、港区が事故後すぐにエレベータ自体を取り替えてしまったのは、どういう意味なのか?によって、この訴訟が妥当なものなのか?となりそうです。

明らかに、住人にとっては「死者を出したエレベーターには乗りたくない」でしょうから、エレベーターを取り替えるというのは、サービスを提供する港区の営業的なの判断でしょう。

しかし、その全てが港区以外の事業者の責任に帰すると証明するのはかなり大変でしょう。
普通に考えると「イメージ上の損失」ですよね。

朝日新聞より「失った命 無駄にしない

◆港区エレベーター事故から4年

遺族ら 調査機関の必要性訴え
あす、柳田邦男さん招き講演会

港区のマンションでエレベーターが急上昇し、高校2年(当時16)が挟まれて死亡する事故が起きてから4年となる3日、遺族と支援者が作家の柳田邦男さんを招いて講演会を開く。母親は「失った命を無駄にしないよう、講演会を通じて事故調査機関の必要性を訴えたい」と話す。(茂木克信)

2006年6月3日。被害者は12階でエレベーターを降りようとしたときだった。エレベーターは扉が開いたまま急上昇し、被害者は床と建物の天井の間に挟まれ、命を落とした。事故機はシンドラーエレベータ社製だった。

設計や製造に問題はなかったのか。保守点検は十分だったのか。母親ら遺族が説明を求めても、シンドラー社や管理会社は「警察に協力しているから言えない」、警察は「捜査上の秘密」、国土交通省は「警察が事故機を押収しているので原因究明できない」を繰り返した。

どこからも説明がない状態は3年間続いた。くじけそうになる心を支えてくれたのは、被害者の同級生やその保護者たちだった。事故原因の究明を求める署名を街頭で募り、08年6月と11月、計46万人分を警察庁や国交省などに提出した。母親は「支援者がいたからやってこられた」と言う。

すでに二十歳になった同級生たちは、今回の講演会の運営も手伝ってくれる。同級生の一人はチラシ入りのポケットティッシュを約1500個用意し、JR田町駅前で何日も配った。

東京地検は昨年7月、シンドラー社などの社員5人を業務上過失致死罪で在宅起訴した。同地検からはようやく、同社と管理会社の事故防止策が不十分だったとの説明が遺族にあった。国交省が設けた有識者らの事故対策委員会も同年9月、設計上の問題を指摘した。

だが、母親は事故対策委員会は権限が弱く、関係者から十分な資料を集められないため決定的な原因解明ができていない、との思いを深めている。「警察が刑事責任を追及するのとは別に、再発防止のための原因解明にあたる強い権限をもった事故調査機関が必要だ」と話す。

柳田さんの講演は「生きる力」がテーマ。母親は柳田さんと、事故調査の勉強会などを通じて交流してきた。

「社会を変えるには声を上げ続けることが大切だと教わった。柳田さんの訴え続けるエネルギーを学びたい」

講演会は3日午後6時半から港区芝1丁目の区立障害保健福祉センター(ヒューマンぷらざ)で。被害者や支援者の活動の写真展示もある。入場無料で事前の申し込みは不要。

結局、原因解明よりも刑事捜査が優先と相変わらずやっている日本の事故調査のあり方が、こんなところにも影響したというべきでしょう。

現時点でも事故調査委員会は「設計上の問題を指摘した」とありますし、わたしもブレーキシューが完全に離れたかが分からないのは設計上の大問題だと思いますが、それがどれほど重大な問題なのか?という点については、しっかりとした事故調査委員会が刑事捜査よりも優先して、調査し判定するしかないでしょう。

このような権能がある事故調査委員会は、非常に権威があるものとなるはずですが、刑事免責とセットでなければ事故調査は進みません。

こういう点からは、行政が事後原因をよく分からないけどメーカーの責任にしておけばよい、といった動きをしがちだということなのでしょうか?

6月 3, 2010 at 11:23 午後 もの作り |

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コメント

これは、さすがに港区のやりすぎでしょう。

もし、製品に設計上の問題や整備不良があったのでしたら、その改修や直接の被害(高校生死亡の補償)までは、メーカや管理会社に責任があるでしょうが、「シンドラーのエレベータは使い物にならない」みたいな感じて、買い換えられたのでしたら、シンドラー側が「風評被害」の損害賠償で反訴できると思います。
例えば、交通事故に遭って、相手が100%悪くて、自分の自動車が全損した場合、支払われる損害賠償は、全損した車の残余価値に見合った額になります。ですから、年式の古い車だと、スズメの涙くらいになったりします。新車を購入できるだけの金額は、賠償されません。
火災保険も同様で、焼けて無くなった価値を補償してくれますが、跡地に豪邸を建て直すのは、無理です。

港区は、わがままというか、ほとんどヤクザまがいの訴えをしているように感じられます。

投稿: mimon | 2010/06/06 23:20:53

トヨタ車を買ったら、ブレーキに欠陥があった。
トヨタ車では不安なので、他のメーカーの車に買い替える費用を要求した。

みたいな話ですね。

投稿: zorori | 2010/06/07 21:19:00

航空会社によく似ているように思うのですよ。

航空会社の中には、中古の機体を集めてきて運行している格安航空会社もあります。

そして現実に整備や点検の不良などで事故になった例もありますが、会社にとってはビジネス上のリスクであって、航空会社の倒産になったりしています。

港区の場合、ビジネス上のリスクをどう負担するのか?という問題になるのが当然で、民事訴訟としては、「このリスクは原告(港区)が負担する範囲では無いことはが明白だ」といった証明が必要であるように思います。

基本的には「気に入らないから取り替えた。費用を負担しろ」とどこが違うのか?ということですよね。

わたしは、港区が「ビジネスではないのだから、リスクがあること自体を容認しない」という観点で訴訟を選択したのではないのか?という気がしています。

もしここに踏み込むとすると、入札の意味がどのようなものかを定義することになるのかもしれません。

ちょっと傍聴したい裁判ですね。

投稿: 酔うぞ | 2010/06/07 21:32:36

私は、製造業に勤めているものですから、どうしても、メーカの立場に立ちますけれども、責任の範囲を明確にしていませんと、ユーザの買い替え要求などに安易に応え始めましたら、キリが無いのです。
例えば、今回、「人が死んだのだから」という感情論に押し流されて、港区の要求に応じましたら、世界中でシンドラーのエレベータを使っているユーザの品物も、同じ要求に応えるようになるかもしれません。

事故の話ではありませんが、ガス会社が都市ガスのガス質を転換することがあります。今年の3月で日本中の低カロリーガスは、ぜんぶ天然ガス系に切り変わりましたので、今後は、めったにないことではありますが。
それは、ガス会社の都合ですので、そのガス質に合うように、ユーザのガス器具を改造するのも、ガス会社の責任です。普通は、メーカからノズルなどの改造用の部品を買って、ガス会社がつけ換えるのですが、まれにメーカが倒産していたりしますと、その部品が入手できないことがあります。それでも、ガス会社は、意地でもガス器具を取り替えようとはしません。
場合によっては、ガス会社の研究所の職員が改造用部品を新規に設計して、改造後の燃焼性やガス消費量などの確認までして、むしろ本体を取り替えたほうが安くつく事だってあるのですが、筋を通さなければいけないのです。
ガス質転換は、地域で一斉に行いますから、どこかの家庭で、古い器具を新品に取り替えてもらったなんていう話が広まりますと、みんな、それを期待して、収拾がつかなくなるからです。

投稿: mimon | 2010/06/07 23:53:10

>「ビジネスではないのだから、リスクがあること自体を容認しない」

これは、ゼロリスクという有りえないことを求めているわけですね。
まず、出来るだけ安全なエレベーターを求めるのは当然ですが、全く事故を起こさないことはあり得ません。
そこで、事故を起こした場合の港区の損害を全くゼロにする要求をしていることになります。
ポイントは、港区がゼロリスクになるだけであって、住民はゼロリスクにならないということではないでしょうか。
なぜなら、死んだ人は生き返りませんから、住民の損害は完全には補償されません。一方、港区の損害は金銭的なものですから、完全に補償されるわけですね。このような補償が有りうるとすると、港区は別に安全なエレベータを選ばなくったて困りません。調達部門職員は安全な調達をしようというインセンティブを失うかもしれません。住民は困りますが。

もちろん、他社の製品に買い替える補償、つまり自社の製品が売れなくても良いという補償なんてしたら、経営が成り立ちませんから、そんな補償はありえないと思いますが。

要するに、供給者と媒介者と使用者という3者の関係があって、媒介者のみがゼロリスクを求めて都合のよい要求をしているという構図ではないでしょうか。

航空会社の例でも、機体のリスクは機体の買い手の航空会社も負うわけで、すべて機体メーカーが負ってくれるわけではありませんね。メーカーが負ってくれるなら、航空会社は安全な機体を調達する必要はなくなり、結局、乗客のリスクが増えるわけです。もっとも、そのリスクを負える機体メーカーは存在しませんから、絵空事ですが。

投稿: zorori | 2010/06/08 6:51:17

港区が自分自身の仕事を否定しているようで,なんだか奇妙に感じます。
オーディションで監督が選んだ俳優がとんだ大根で興行は大失敗。何らかのペナルティがその俳優にあるのは、まあ当然です。
しかし,「おまえを選んだのは俺の間違いだったけど,代わりの俳優を雇う費用はおまえが負担しろ」とその俳優に要求しているようなものではないかと。こんな要求が通るのなら,そもそも,元のオーディションなんかしなくて,適当に俳優を選んでもよいと言うことになります。

調達行為は,相手方を選定する段階の契約前行為と,相手方が決定したあとの契約行為があります。
契約前行為で相手を選ぶのは発注者の仕事であり,その行為の責任は当然,発注者にあります。
契約で約束した安全な製品を提供出来なかったことによる直接的な損害賠償は受注者が行わなければなりませんが,別の相手に再発注するというのは発注者の判断であり責任だと思います。

ただ、個人売買の場合はお試し頂いて気に入らなければ返金しますという商売もありますね。これは,商品選定の誤りはキャンセルできるので,慎重に検討しないでも,我が社の製品をとりあえず使って下さいという戦略です。逆に言うと,通常の売買ではそんなことはできないということを表しています。
個人消費の商品選びは仕事ではないので,自分でしなくてもよいですけど、港区の調達部門の場合はそうはいかないのじゃないかと。

投稿: zorori | 2010/06/08 21:36:00

議論が濃くなってきて嬉しいです。

普通の企業にとって、仕入れて販売する場合と、商品を紹介あるいは仲介する場合は、手続段階から別物ですよね。

そもそも、紹介あるいは仲介する場合には、価格交渉がない。

代表的な紹介あるいは仲介なのは、再販商品と、不動産取引でしょう。
書籍のほとんどは再販商品なので、メーカーである出版社以後の取次と書店は、品物(書籍)をおいているだけであって、売れても売れなくても文句を言わずに、出版社に戻しておしまい。ですね。

不動産取引にも色々ありますが、これは基本的に同じものが二つはないから、商品としてどれを選ぶということができず、一対一の相対取引だから仲介にせざるを得ない、ということのようです。


再販商品では、仕入れがないのですから、書店は書籍を買わないわけです。
港区はエレベーターを購入しているのですから、明らかにエレベーターを仕入れたと言えますね。

では、仕入れた品物について、一方的に「使えないから、他社製品に取り替えた」という主張は可能なのだろうか?

これって、普通は独占禁止法の地位の優越に引っかかりますよね。
要するに「一方的に宣言できない」と決まっているわけです。
仕入れた側には、「仕入れたという責任がある」

そうなると、間違えなく「元もと港区には、エレベーターの取り替え費用全額を請求する権利は無い」という、かなり激しい論争になりそうなことになります。

その上で、エレベーターを取り替える必然性はメーカー側の責任と言えるのか?というところに入っていきます。

さらに、事故原因の責任がどの程度メーカーの負うべきものか?となるでしょうから、この三段階を掛け算することになって。

 1 港区とメーカーの責任分担。半々
 2 交換の必然性。港区9、メーカー1
 3 事故原因の責任、メーカー1/10

=0.5×0.1×0.1
=0.005×14億円
=700万円

こんなところではないかなあ?

投稿: 酔うぞ | 2010/06/09 10:02:35

私は、酔うぞさんの算定なさった700万円も、港区は、請求できないと思いますよ。

損害賠償範囲の根拠条文は、民法第四百十六条になります。
> 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
いわゆる「相当因果関係理論」なのですが、この「通常生ずべき損害」は、広く解釈しても、予見可能な範囲とされているはずです。エレベータメーカは、ブレーキが故障したら、最悪の場合、人が死ぬことくらいは、予見できて当然と考えられますから、亡くなった高校生のご遺族の訴えは、正当だといえます。(製品に欠陥があったか否かとは、別の問題です。)
ですから、物を設計する者は、そうならないように、手間隙掛けて、リスクアセスメントを実施するわけです。
ところが、ブレーキが故障したら他社のエレベータに取り替えられるというのは、予見不可能だと思います。こんなことまで予見可能だと言われたら、それこそ、隕石が落ちてきた場合に備えて、屋根に装甲板を張り巡らせるような事態になりかねません。
メーカというのは、神様ではありませんから、JIS B9702「機械類の安全性-リスクアセスメントの原則」あたりに則って、まじめに設計していたら、そこから外れる範囲は、免責されるべきだと感じています。

投稿: mimon | 2010/06/09 21:31:36

仕入れの例は分かりやすいですね。

商店が商品を仕入れた後で,欠陥品だと判明した場合,その修理(交換)は当然要求出来ます。
修理の結果,欠陥品ではなく正常品となります。
しかし,そのメーカーの信用は落ちてしまったので,売れ行きが落ちます。
そこで,他のメーカーの商品に交換する費用を損害賠償請求できるか?

仕入れ契約での債務不履行は,修理した時点で無くりますが,信用は回復されません,しかし,それは契約上の債務とはとても思えません。次の例では,信用と債務不履行が最初から無関係です。

商店が商品を仕入れた後で,メーカーがその商品とは直接関係無い不祥事を起こした。
その結果,メーカーのイメージはダウンし,商品が売れなくなった。
損害賠償できるか。

もっと,馬鹿馬鹿しい例では,株を買った後で,その企業が経営不振に陥り株価が下落した。
株価が下落したのはその企業に原因があるという理由で,損害賠償できるか。

仕入れ契約で取り決められているのは,商品の品質であり,エレベータ設置工事契約で取り決められているのは,エレベーターの品質です。これに欠陥があれば,仕入れ先や請負者は賠償しなければならないのは当然です。
しかし,仕入れた商品が売れるのか,建設した施設が住民に気に入って貰えるかは,自分で負うしかないビジネスのリスクなのですよね。このような信用の維持が売り手の契約上の債務とは考えにくいですし,さりとて信用を維持出来なかったことが不法行為とも考えにくいですね。

因果関係があるからといって何でも賠償責任が有るわけでは無いということかと。

投稿: zorori | 2010/06/09 22:04:25

>自分で負うしかないビジネスのリスクなのですよね。

普通に考えると全くこの通りなのですが、港区が「行政だから、ビジネスではない」というところから出発したのではないのか?と、わたしは疑っているのです。

もう一つ、こっちの方がありそうなのですが、シンドラーエレベーター社が、最初から交渉に全く応じなかったから、提訴した。

その場合でも「エレベーターの交換をやむなくさせられた」という主張は有り得ないだろうと思いますが・・・。

フタを開けるとどういう事になるのでしょうかね?


わたしとしては、
 1 事故に直結しやすい、設計であった。
 2 ゆえに、点検(ランニング)コストは高くて当然。
 3 にもかかわらず、港区は積極的にメンテナンス会社を替えて、
   点検費用の削減を企図した。
 4 これらが総合して、事故が起きた。

だと思っています。
つまり、事故の責任の半分は港区にあり、残りの半分が、メンテナンス会社とメーカーにある、といったイメージです。

その上で、港区がエレベーターを取り替えたのは、全くの勝手であって、その理由は明らかに「将来の問題の回避」ですから、その責が、既存の設備のメーカーやメンテナンス会社には全く関係がない、というのが論理的な帰結であると思っています。

ただ、実際にここまでスッパリと割り切った、ことにできるのか?となると、日本のことですから、「どこか落とし所を探る」となるのでしょうね。

投稿: 酔うぞ | 2010/06/10 10:34:19

「将来の問題の回避」が理由だとすると,まるでお話にならないのではないでしょうか。

シンドラー以外のエレベーターに交換する費用を要求するためには、シンドラー以外のエレベーターでなくてはならない理由が必要になります。例えば、シンドラーのエレベータはすべて危険であるというような理由です。しかし現在でも、シンドラーエレベーターは合法的に営業し販売や工事をしていますし、過去に設置されたエレベーターも稼働しています。従って、総て危険という理由はあり得ません。総て危険ならば港区だけでなく、日本全国のシンドラーエレベーターは交換しなければならなくなります。

とはいえ、死亡事故を起こした当該施設に関しては、利用者が気持ち悪いという心情をもつのは当然で、そのような精神的苦痛に対して慰謝料的な要求は有りうると思います。それは、その施設だけの特別な事情となります。
この場合、他のメーカーへの交換費用は全く関係ないわけで、そんな額が認められるとは考えられませんし、かりに安い額だとしても、自社製品総てが危険であると誤解されるようなことを認めること無いでしょう。

以上のような住民感情ならまだしも理解できないことも有りませんが、将来のメンテナンス費用を安くしたいなどというのは、シンドラーとも、今回の事故とも全く関係ない港区の勝手な事情であり、悪のりもいいところです。

整理すると、

1.イニシャルコストの安い正常なエレベーターを設置して,それ相応の高いメンテナンスコストを支払う。
2.イニシャルコストの高い正常なエレベーターを設置して,それ相応の安いメンテナンスコストを支払う。

このどちらも、安全であり、どちらを選択するかは発注者が決めることであり、港区は1.を選んだわけです。

もし、1.の場合、正常ではなく、欠陥が有れば、メーカーは正常な製品に修理しなければならないのは当然ですが、2.のエレベーターへの交換費用を負担する理由など有りません。
1.のメーカーが修理相当費用を支払い、発注者は修理せずに、追加費用を出して2.の製品へ交換するのは勝手だと思いますけどね。

投稿: zorori | 2010/06/12 14:48:43

考えてみると、港区のやっていることは、シンドラーエレベーターをそのまま使い続けるよりも、他社製品に取り替えた方が安全である、というのが合理的な理由になりますが、こんな事は証明不可能であって、そうなると「安全になるだろう」という気分の問題としか言いようがないでしょう。

そしてその「気分の問題」が14億円だというのだから、安全祈願祭をやってそのお布施などが14億円だから、それを払えと言っているのとどこが違うのだろうか?

そもそも、他社製品に交換することの意味が何なのか?というところが明らかではないから、掛かった費用の合理性なんてのは評価のしようがないですよね。

投稿: 酔うぞ | 2010/06/12 21:09:45

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