|
統合化制御装置と搭載ソフトウェア ピギーバック衛星であるINDEXは、打ち上げロケットの性能，主衛星の規模によって、大きさ重量ともに制限が生じます。これまでのピギーバック衛星では、この大きさと重量の制約のために、大型衛星のような高精度な三軸姿勢制御を必要とする高度なミッションを行うことができませんでした。しかしINDEXでは、これまでの人工衛星にない統合化システムを用いることで、制御系機器の重量削減と省スペース化を実現し、三軸姿勢制御に必要なセンサ，アクチュエータの搭載を可能としています。また統合化に耐えうるような高い計算能力を有しており、多くの機器の制御が可能です。これによって、小型ながら大型衛星と同じ方式の姿勢制御を実現し、高度な科学ミッションを遂行することができます。 統合化制御装置
INDEXは観測ミッション以外の信号処理は全て統合化バス内で行い、外部にはセンサ，アクチュエータ，送受信機がつく程度となります。システムの簡素化を図る為に、衛星内の機器接続はシステムデータバスを使用せず、SH-3プロセッサの外部アドレス空間内で直接管理され、プロセッサのコントロールバス，アドレスバス，データバスと外部接続されます。機器とSH-3の外部アドレス空間を接続管理する機構は、OBC上のFPGAが行います。 オンボードコンピュータ 宇宙では放射線が強いため、SEU（Single Event Upset）と呼ばれる一時的なコンピュータの誤動作が生じることがあります。そこで人工衛星の制御に用いるCPUやメモリといった集積回路は、放射線の影響を小さくするためにプロセスルールの太いものが用いられ、結果としてコンピュータの計算能力は地上のものに比べて非常に低速です。10年以上前の地上民生部品が今なお使われているのはこのためです。 しかし惑星ミッションを初め高度な自律性を必要とするミッションでは、高い計算能力が必須です。宇宙研ではこういった要求に対処すべく、STRAIGHT（STudy on Reduction of Advanced Instrument weiGHT）計画によって高速RISC CPU SH-3 （SH7708，60MHｚ，60MIPS）の三重多数決方式を採用したOBCを開発しました。このOBCは計算結果がCPU外部に出力される際に比較多数決をとることで、放射線による1つのCPUの異常を検出し、約2秒で誤った1CPUのデータを全て正常なデータに置き換えることが可能です。同時に2つ以上のCPUに対しSEUが発生する事は、確率的に無視できます。このフォルトトレラントなシステムによって、放射線対策のとれていない高性能な民生品CPUを使用することができます。INDEXではこのOBCを搭載します。 計算機の中枢であるCPU，DRAM，ユーザROMはCELL A，B，Cの三重構成となっています。CPUとDRAM，ユーザROMの間には、FPGA（Field Programmable Gate Array）を使用し制御機能を備えます。共通部にはVoterがあり、3つのCELLが外部バスへアクセスする際の内容を比較し、常に同じ計算結果であることを監視します。3つのCELLにおいて不一致が発生した際に再構成処理を実施します。Voterが不一致を検出すると、DMAC（Direct Memory Access Controller）を使用して、正常なCELLのDRAM内容を異常のあったCELLのDRAMにコピーし、再構成処理が完了します。再構成にはおよそ2秒を要します。 この三重多数決系は、単独では放射線耐性のとれていないCPUを宇宙で使用することを可能としますが、幾つかの制約が生じます。 ・バス幅の制約 ・キャッシュメモリの使用方法の制約 ・DRAM使用の制約 ・CPU内部時計の制約 搭載ソフトウェア 従来の衛星搭載ソフトウェアの多くは、アセンブラ等の機械語で書かれていましたが、INDEXの搭載ソフトウェアは開発効率向上のために、高級言語であるC言語を使用します。 OBCに実装されるシステムROM，ユーザROMの容量はそれぞれ128KBです。この容量制約から、リアルタイムOSの採用は見送られました。そのため開発する搭載ソフトウェアは、タスクスケジューリング機構を備える必要があります。一般的にはCPUの内部時計を用いてタスクスケジューリングを実現しますが、INDEXのOBCは3つのCPUの内部時計を同期させることが困難なため、このCPU内部時計が使用できません。そこでIOPからOBCへ割込信号を入力することで、タスクスケジューリングを実現します。 IRL7（Interrupt Request Level 7）では、衛星が姿勢異常状態に陥ったときに安全なモードに入るセーフホールド処理（S/H：Safe Hold）や、バス電圧低下時に対する処理（UVC：Under Voltage Control）を、IRL6では地上からのコマンドデータ受信処理をします。IRL4では姿勢制御の中でも特に時間的に高精度な制御が要求される、ホイールと磁気トルカの制御，FOGのデータ取り込み，カルマンフィルタの更新が行われます。IRL3ではコマンドの処理，テレメトリの送信，温度等の衛星状態の管理（HK：House Keeping），理学観測，姿勢制御系の処理が行われます。IRL3で行われる姿勢制御系の処理は、SSAS（Spin Sun-Aspect Sensor：スピン型サンセンサ），NSAS（Non-Spin Sun-Aspect Sensor：ノンスピン型サンセンサ），GAS（地磁気センサ：Geomagnetic Aspect Sensor），STT（スタートラッカ：Star Tracker）などのセンサデータの収集と制御計算です。IRL2では、スタートラッカ撮像が行われます。なおIRL4，3，2は各々32，8，1Hzで衛星時刻に同期して発生され、これによって各処理のタイミングが決められています。また内部のデータ受け渡しは、IRL3（8Hz）を中心に行います。したがって、INDEX搭載ソフトウェアによる処理の大部分は125ms間隔で行われます。 先に述べましたように、搭載ソフトウェアの中核処理は8Hz周期で行われます。8Hzタスクは単純に計算すれば125ms以内に処理を終了する必要がありますが、実際には他の割込レベルタスクと、バックグラウンドタスクにも処理時間が必要ですから、125msの内、40ms程度の時間で処理を終えることを目標としています。 |
|
| |
|
| |
|