掲載2010年6月11日
訳者メモ
意図的に事故を発生させたという前提を置くと、実態以上に災害の規模を大きくPRするはずではと思うが、実際には反対に災害の規模を隠匿しているのは何故だろうか?
もしかして本当に不測の事態だったのだろうか? 例えば、ゴールドマンサックスが2010年第一四半期に468万株(2億6千万ドル相当)のBP株式を売り抜けていたという情報もあるが、それはたまたまかもしれない。それよりも、安全対策を十分にしていなかったのは、いつでも今回のような事故を起こせるように下準備をしていたとも考えられるし、何より決定的な証拠は、記事中にあるように、事故後、オバマが抜本的な対策を取らず(対策をしているふりをするだけで)、わざと災害が拡大するのを放置していることである。
時間差攻撃でパニックにするのだろうか? などと、どんどん想像が複雑化していく。
もしかして、あまり深く考えず、「そのままじゃん」というところに答があるのかもしれない。つまり目的は、大西洋を腐らせ、米国と欧州を人間が住めないようにすること。そう考えると、現時点の情報では全てつじつまが合う。
メキシコ湾の石油流出は「何年も」続く
Gulf Oil Spill ‘Could Go Years’ If Not Dealt With
オバマ政権とBP社(British Petroleum)上層部は、世界最悪の石油災害を止めるためではなく、生態系への破滅的な影響を隠すのに必死である。知見の豊富な研究者によると、BPの掘削は石油流動経路の1つに命中しており、何らかの抜本的な手段(現在行っているものとは遥かに次元の違う手段)がとられない限り、漏出は長期間続く可能性がある。
Vladimir Kutcherov教授(スウェーデンの王立工科大学:Royal Institute of Technology、ロシアの石油ガス国立大学)は、最近の考察で、米国のメキシコ湾岸に拡大している石油流出は、「何年も延々と続く可能性がある」と予測している。[1]
Kutcherovは石油の非生物・深層起源理論の専門家であるが、「BPが穴をあけた部分は、我々が「流動(移動)経路」と呼んでいるもので、地球の深層部で生成された炭化水素が地殻へと移動する道筋(深い断層)である。そこにはサウジアラビアのガワール油田のように岩の中に炭化水素が蓄積されている」と述べている。[2] 世界で最も産出量の豊富なガワール油田は、過去70年近く、毎日何百万バレルも産出しており、尽きる気配もない。石油非生物起源論によると、世界中の巨大な石油・ガス貯蔵地点と同様に、ガワール油田も「流動経路」に位置しており、石油の豊富なメキシコ湾も同じである。
2010年1月のハイチ震災の時にも書いた([3]アメリカ世界覇権を揺るがしかねない運命のハイチ)が、ハイチには、近隣のキューバと同様に、巨大な炭化水素資源が存在する可能性が確認されている。(少なくとも今回四月のディープホライズンの事故までは)メキシコ湾全域は地球上で最も石油・ガス資源を豊富に抽出可能な地域だとKutcherovは推定している。
Kutcherovは、「私見では、BPの首脳部は、油井から噴出する石油の規模にパニックに陥ったように思える」とも言っている。「現時点で非常に不可解なのは、どうして彼らは一つの方法を試しては失敗し、また次の方法をして失敗、また次の方法を試すということを時間をかけて繰り返しているのかだ。災害の規模を考えると、考えうるあらゆる手段を(たとえ10の方法であったとしても)一気に同時実行して望みをかけるべきだ。さもなくば、すでに表面に出ている規模から想定しても、この油田は何年も噴出を続ける可能性がある」[4]
また、「漏出の規模がどれぐらいかを推測することは困難だ。客観的な情報は無い」と強調している。だが、最近BPがメキシコ湾で「大」発見したタイバー油田(深さ約6マイル)の情報を考慮に入れると、日量10万バレル以上のスピードで石油が流出しているのではないかと言っているカリフォルニア大学海洋科学研究所のIra Leiferの見解にKutcherov教授も同意している。[5]
石油会社は、採算性がとれる範囲での石油採取はピークに達している(達しつつある)と主張しているが、明らかにこの規模の石油噴出は、その「石油ピーク」神話の信用を崩すことにもなる。ここ数年、この神話は、元石油業者でブッシュの副大統領だったディック・チェイニーと親しい人々が宣伝してきた。大手石油会社は、この神話を利用し、ありもしない石油枯渇の危機を煽って、不当に高い石油価格を設定できている。
オバマとBPは隠そうとしている
ワシントンの調査ジャーナリストのウェイン・マドセン(Wayne Madsen)によると、「オバマのホワイトハウスとBPは、この『激甚災害』とも言うべき火山噴火並みの規模の災害を隠蔽し、BPの損害賠償責任を最小限にするために協力し合っている」という。[6] マドセンは、米国陸軍工兵隊、FEMA、フロリダ環境保護省の情報源を引用して説明している。
オバマとホワイトハウスのスタッフ、サラザー内務長官は、石油災害による損害賠償請求の上限を7500万ドルから100億ドルに増額する法律を作るようBPのCEO トニー・ヘイウォード(Tony Hayward)と協議している。だが、マドセンが引用している推定によると、この災害の損害は、最低でも1兆ドルである。この推定は、速やかに対策しなければ「米国の沿海部全域が破滅するだろう」というKutcherovの悲観的な見通しを裏付けることにもなる。
マドセンの報告によると、漏洩の一部だけ汚染されているというBPの発表は、「パニックを避けるための完全にPR的な偽情報であり、FEMAと工兵隊の情報筋によれば、オバマ政権の大規模な行動が求められている」そうである。[7]
ホワイトハウスは、石油災害に関する「不利な情報」を発表することを拒んでいる。沿岸警備隊と工兵隊の専門家は、石油の海中間欠泉が90日以内に止められないならば、メキシコ湾、北大西洋、更に他の海域の海洋生態系に取り返しのつかない損害がもたらされると見ている。ある工兵隊の専門家によると、メキシコ湾の海底の裂け目をセメントで固めるには、短くても2年はかかると言っている。[8]
石油災害の規模が歴然とした段階でようやくオバマは、ナポリターノ国土安全保障長官に「国家の安全保障に関わる問題」だと宣言するよう命令した。
沿岸警備隊もFEMAも国土安全保障省の管轄であるが、マドセンの報告によると、ナポリターノ長官が国家安全保障宣言をした本当の理由は、メキシコ湾と大西洋の沿岸へと拡大している災害のすさまじさをマスコミに報道させないようにすることだったという。
また、引用されている連邦政府・州政府の情報源によると、オバマ政権は、石油の漏洩規模を隠匿するためにBPと共謀したという。石油掘削装置の爆発・沈没後、毎日42,000ガロンが海底の裂け目から噴出していると政府は発表している。5日後に、連邦政府は毎日21万ガロンの漏洩だと数字を増やした。だが、海底から漏れる石油をモニターしている潜水艇は、「火山噴火のような」と表現するほどの映像を見ているのである。
陸軍工兵隊がNASAのメキシコ湾の油膜映像(報道されているものよりも広範囲である)を入手しようとしたとき、当初、閲覧を拒否されたそうである。たまたまナショナル・ジオグラフィック誌が、災害の規模のわかる衛星写真の入手に成功し、ウェブサイトに掲載した。オバマ政権が発表を見合わせているとされる衛星写真には、一層警戒すべきスピードで石油を噴出している大きな裂け目の下には、エベレスト山に匹敵する規模の空洞があることが示されている。この情報は、マドセンの情報源によれば、ほとんど国家安全保障レベルの機密扱いにされ、一般民衆に見せないようにしているという。
工兵隊とFEMAは、オバマのホワイトハウスと沿岸警備隊が災害発生後の迅速な対策を支援しないことを酷評していると伝えられている。
今になってようやく沿岸警備隊は災害の規模を理解し、被害海域に約70隻の船を派遣している。ブッシュ・チェイニー政権が緩めた規制のため、内務省のMMS(鉱物管理部)は、ただの「印鑑押し」になり、今回のような災害を防げたかもしれない安全対策に関しても、石油会社の望み通りに承認してきた。マドセンは、チェイニーの会社だったハリバートンと内務省MMSに「犯罪的な癒着」があると述べており、同じ遮断バルブを使っている他の3万個の沖合石油掘削装置でも同様の事故が発生する可能性があると述べている。[9]
エコ団体の沈黙は金なり?
我々は史上最悪の生態系破壊に直面していることが今となっては明らかである。石油プラットフォームが爆発した場所は、メキシコ湾流の起点となる海流の環の内側にほとんど入ったところである。これは生態系と気候に甚大な影響を及ぼす。
地図をざっと見ると、メキシコ湾流に乗った石油は、メキシコ湾の浜辺を覆うだけでなく、ノースカロライナを抜けて大西洋岸を北上し、北海やアイスランドにも到達するだろう。浜辺や海洋生物・水の損害もさることながら、メキシコ湾流には、非常に変わった化学的性質、構成(海生生物)、密度、温度がある。石油や分散剤、そしてそれらが生成する有害化合物が、メキシコ湾流の性質を変えてしまうとどうなるのか? メキシコ湾流の進路の変化など様々な変化の可能性があるだろう。そして、小さな変化であっても大きな影響がある可能性も否定できない。イギリスを含むヨーロッパは、メキシコ湾流が暖めているおかげで、氷の荒地にならずにすんでいる。
海流に乗って欧州に運ばれる可能性がある。
それにもかかわらず、環境保護団体はしーんと沈黙を保っている。本来ならば、このようなときにBP、米国政府などに断固とした措置を要求する防護壁の役割を果たすはずの団体である。
グリーンピース、ネイチャー・コンサーバンシー(Nature Conservancy)、シエラ・クラブ(Sierra Club)など主だったグリーン団体・エコ団体の沈黙は、石油業界(特にBP)につながるマネーに絡んでいる。BPは「脱石油」という新イメージを打ち出しているが、このようにBPなどの石油会社は「環境にやさしい」外面を保つために、主だった環境団体に大々的に資金援助している。
「世界で最も有力な環境保護団体」[10]ということになっているネイチャー・コンサーバンシーは、近年、BPから1千万ドル以上を受領し、BPに国際リーダー委員会(International Leadership Council)の席を与えて報いている。[11]
最近まで、ネイチャー・コンサーバンシーなど環境保護団体は、BPと結託し、気候変動問題で議会に圧力をかけてきた。BP開発社(BP Exploration)の従業員が、アラスカでネイチャー・コンサーバンシーの理事(無報酬)をしている。さらにワシントン・ポストの最近の報道によると、別の環境団体のコンサベーション・インターナショナルは、BPから寄付金200万ドルを受け取っており、石油採掘法の検証プロジェクトなど数々のプロジェクトで同社に協力している。2000年から2006年まで、コンサベーション・インターナショナルの理事会には、ジョン・ブラウン(当時のBPのCEO)がいた。
また、これも有力なエコ団体であるが、環境防衛基金(The Environmental Defense Fund)は、BP、シェルなど大手会社と共に気候変動アクションのパートナー関係を構築し、「市場に基づいたメカニズム」で温室効果ガスの排出削減を推進している。
BPから寄付をもらったり、共同事業をしている非営利の環境団体には、ネイチャー・コンサーバンシー、コンサベーション・インターナショナル、環境防衛基金、シエラ・クラブ、オードゥボン(Audubon)などがある。メキシコ湾の災害に断固とした対策を求める声が大きくならない理由はここにあるのかもしれない。[12]
いずれにしても、こうした組織が、今回の大災害を解決する立場にはない。重要なのは、今回の危機を解決するために緊急に必要とされている科学的な技術・能力・資源を保有しているのは、米国内外を問わず、誰かということである。これまでオバマのホワイトハウスやBPが取ってきた行動を見ると、極めて有力な一部の人々が、この大災害の持続を望んでいるという結論に辿り着かざるをえない。それを見極める上で、これから数週間は重要であろう。
(翻訳:為清勝彦 Japanese translation by Katsuhiko Tamekiyo)
脚注
1 Vladimir Kutcherov, telephone discussion with the author, June 9, 2010.
2 Ibid.
3 F. William Engdahl, The Fateful Geological Prize Called Haiti, Global Research.ca, January 30, 2010, accessed in http://www.globalresearch.ca/
4 Vladimir Kutcherov, op. cit.
5 Ira Leifer, Scientist: BP Well Could Be Leaking 100,000 Barrels of Oil a Day, June 9, 2010, accessed in http://www.democracynow.org/2010/6/9/scientist_bp_well_could_be_leaking
6 Wayne Madsen, The Coverup: BPs Crude Politics and the Looming Environmental Mega Disaster, May 6, 2010, accessed in http://oilprice.com/Environment/...
7-9 Ibid.
10 Tim Findley, Natures’ Landlord, Range Magazine, Spring 2003.
11-12 Joe Stephens, Nature Conservancy faces potential backlash from ties with BP, Washington Post, May 24, 2010, accessed in http://www.washingtonpost.com/...