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川本幸生さん '10/5/13

 無死二、三塁のピンチで迎えた4番打者。「カーン」。火の出るようなライナーが投手の脇を抜ける。「やられた」。誰もがそう思った瞬間、飛びついた二塁手のグラブに打球は収まった▲広島商が甲子園の頂をつかんだ1973年夏の決勝戦だ。超が付くファインプレーの主、川本幸生さんがおととい亡くなった。高校時代の88試合で失策はわずか1個。打球の飛んでくるコースを読む眼力は並大抵ではなかった▲二塁手は内野の要といわれる。捕手の配球サインや打者の肩の開き具合まで計算のうち。それをひのき舞台でも淡々とこなした。「長所は冷静なこと、短所は冷静すぎること」。そんな自分評も、いかにもこの人らしい▲「守って勝つ」広商野球の申し子だった。28歳の若さで監督を任される。3年目の88年夏には見事、全国制覇を果たした。ところが翌年夏の県予選で敗れると、あっさり身を引いてしまう▲予選負けした日、3年生部員の一人が苦労を掛けた両親に正座で「ありがとうございました」と頭を下げたという。その話を聞き「悔いなくピリオドを打てた」と後に書いている。緻密(ちみつ)さの陰には、思いやりと感謝の気持ちを忘れてはならないとの思いもあったのだろう。スタンドを沸かせたあの采配(さいはい)は、もう見られない。




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