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イノシシ食べちゃえ 農作物の大敵増加中 味も好評…ブランド化に期待
増え続ける野生のイノシシによる農作物の被害が近年各地で目立つなか、千葉県では捕獲したイノシシ肉を食材として活用する動きが進んでいる。販売先の東京都内の高級レストランで野生獣の肉料理「ジビエ」の定番メニューとして人気を博しているほか、船橋市の大手食品メーカーがイノシシ肉を利用したボタン鍋用のタレを開発するなど「イノシシビジネス」の可能性は大きく膨らんでいる。(佐藤修)
≪年間被害1億円超す≫
千葉では平成13年ごろから、房総半島中央部の中山間地域を中心に野生のイノシシが急増。捕獲数も12年度の437頭から14年度は1700頭を超え、18年度は6955頭に上った。稲やトウモロコシなど農作物の被害も増加。被害額は15年度に1億円を超え、18年度は約1億6500万円に上る。
県は9月に野生獣対策本部を発足させるなど対策に躍起だが、「いっそのこと食材にしてみてはどうだろう」という“逆転の発想”で、イノシシビジネスに取り組んだのが大多喜町だ。
有害獣食肉処理施設として「都市農村交流施設」を昨年6月から稼働。18年度は県内で捕獲されたイノシシ68頭を処理し、飲食店などに販売した。東京・青山のイタリアンレストラン「リヴァ・デリ・エトゥルスキ」や、東京の新名所、東京ミッドタウン内の「ナプレ」など複数のレストランにも食材として卸している。
レストラン側の評判も上々だ。エトゥルスキの稲葉一幸マネジャーは「千葉産イノシシ肉は鮮度が違う。お客さまにも癖がなくておいしいと好評です」と味に太鼓判を押し、ナプレのスタッフ、中林一晃さん(29)も「雑味や臭味がない。赤ワインで煮込んだラグーソースのパスタは大好評で、ジビエに親しんでいる外国人からの注文も多い」と絶賛。大多喜町農林課の森俊郎課長は「ジビエとして高級レストランで歓迎され驚いている。『房総イノシシ肉』などの名でブランド化できれば」と期待を膨らませる。
≪安定した供給が課題≫
千葉産イノシシ肉の評判を聞きつけた船橋市の大手食品メーカー「石井食品」はボタン鍋用のタレ「みそ鍋のもと」を開発、試作段階までこぎ着けた。
「県内で醸造されたみそにサンショウを加えるなどし、肉の味を最大限引き出すように力を注いだ」と、開発担当でフードエンジニアリング部の阿部貴一さん(39)。石井健太郎社長(67)によると、堂本暁子知事からイノシシ被害の相談を受けたことも開発のきっかけの一つで、早急に売り出す方針だという。
また、捕鯨基地の町で知られる南房総市和田町では、「山鯨」と呼ばれるイノシシの肉を家庭料理の食材にと提唱している。カレーライスや角煮、昆布巻きなどを試作し、10月には調理法を市民に知ってもらおうと試食会も開催。市農林水産部の鈴木弘子主査は「以前は埋設などで処分したイノシシを地元の食材として定着させ、ゆくゆくは観光資源にできたら」と話す。
課題は、野生の千葉産イノシシをどう安定供給するかだ。19年度は捕獲数が前年度の半分から4分の1程度に減った地域もあり、大多喜町の都市農村交流施設の食肉処理数は9月までで42頭。「前年の捕獲数が多く、一時的に減ったのかもしれない」(森課長)とはいうが、自然相手のビジネスは思惑通りにいかない。畜産などで安定供給ができれば、千葉のブランド肉として育っていきそうだ。