きょうの社説 2010年6月13日

◎新生児医療の強化 退院後のケア体制も重要
 石川、富山の県立中央病院でそれぞれ新生児集中治療室(NICU)の病床を増設する 計画が進められている。金沢医科大病院と富大附属病院もNICU病床の新設と増床を予定しており、両県の高度な新生児医療体制が強化されることになる。NICUの増床は社会的な要請にこたえるものであり歓迎されるが、これに並行して母子が退院した後の在宅医療やケア体制の強化にも努めてもらいたい。

 出生率が低下し、少子化が進行するなかで、出生体重が1千グラム未満の超低出生体重 児などハイリスク新生児といわれる赤ちゃんの誕生は逆に増えている。厚生労働省研究班の2007年度報告では、2500グラム未満の低出生体重児の出生率は1994年で7・1%だったが、05年には9・5%に高まっており、全国のNICUは満床状態が続いている。

 ハイリスク新生児の医療体制を強化するうえでの課題はまずスタッフであり、石川、富 山県とも産科・小児科医や看護師らの確保に一段と努力する必要があるが、満床状態の原因が病床不足だけでないことにも留意したい。要因の一つは、1年以上の長期入院児が多いことであり、その背景の課題として、訪問診療や訪問看護など在宅医療体制の不十分さが指摘されているのである。

 退院後の重症児・未熟児の療養支援だけでなく、育児に不安を覚える母親の精神的サポ ートも欠かせない。集中治療室での長期入院は、母子関係の形成に悪影響を与え、育児放棄や虐待につながる危険性もあるとされるだけに、臨床心理士や医療ソーシャルワーカーなどの確保も大事である。

 石川、富山の各県立病院は地域の新生児医療の中核施設(総合周産期母子医療センター )であり、出産リスクの高い母子の救急救命医療体制の充実が今後とも求められる。同時に、地域の医療機関や保健・福祉機関などを加えた在宅療養支援のネットワーク整備も着実に進めてもらいたい。

 在宅療養の重症児を一時的に受け入れ、母親らを援助する医療施設が全国的に不足して いることも大きな課題である。

◎口蹄疫拡大 対策をより迅速、徹底的に
 宮崎県で発生した口蹄疫が全県規模に拡大し、極めて深刻な状況になっている。すでに 宮崎県から子牛の供給を受ける各地で影響が出ており、県外に感染が広がれば、日本の畜産業は致命的な打撃を被る。菅直人首相が現地を訪れ、「国家的な危機」との認識を示したのは当然である。被害の規模、他県への拡大の恐れを考えれば、政府の責任で封じ込めに全力を挙げる必要がある。

 口蹄疫対策では、今国会で特別措置法が成立し、国による強制殺処分が可能になり、家 畜のワクチン接種もすでに実施された。新規の感染例が減少し、家畜の移動制限を解除された地域も出るなど沈静化の兆しが見え始めていた。専門家の間では、そこに油断が生じたとの指摘も出ている。

 今回はウイルスの感染力が強く、宮崎県で封じ込めに成功した2000年の状況とはま ったく異なる。これまでの防御網にほころびが生じた以上、国と宮崎県は体制を立て直す必要がある。対策は消毒の徹底や殺処分、ワクチン接種など出そろっている。重要なのは、それらの対策をいかに迅速、徹底的に実施できるかである。

 口蹄疫は、牛、豚の肉の生産高で全国屈指の都城市で新たに確認され、宮崎、日向市で も見つかった。鹿児島県では県境の道路を封鎖する措置も始まった。生活に不便が生じるとしても、拡大阻止には住民の協力は欠かせない。

 都城市のケースでは、遺伝子検査の結果を待たず、写真判定で農場の全頭処分に踏み切 った。口蹄疫対策は時間との闘いであり、スピード感が求められている。未感染の家畜は生かしたいというのが農家の切実な願いだろうが、防疫を第一に考えれば、予防的措置の決断の見極めは一層重要になる。判断に迷った揚げ句、後手に回り、最悪の事態を招くことだけは何としても避けたい。

 口蹄疫の勢いはすでに現地の対応力を上回っているように見える。殺処分や埋却処理が 遅れれば、限られた地域で感染をおさえることは困難になる。獣医師や埋却の人員確保など、政府は被害拡大阻止の体制を早急に整えてほしい。