菅直人首相(63)に寝首をかかれる形で、民主党の表舞台から排除された小沢一郎前幹事長(68)。その小沢氏の主導で、7月11日予定の参院選に初出馬を決めたタレント候補の陣営が戦々恐々としている。突然、ハシゴを外されたうえ、反小沢カラーが鮮明な新執行部では“特別待遇”は望み薄。どの程度の選挙支援を得られるかも不透明で、早くも“菅派”に変身する候補者も現れている。
民主党から出馬するタレント候補は、芸能界からは岡部まり(50、大阪選挙区)、落語家の桂きん枝(59、比例代表)、歌手の岡崎友紀(56、同)、庄野真代(55、同)の4氏。スポーツ界からは五輪柔道金メダリストの谷亮子(34、比例代表)、体操銀メダリストの池谷幸雄(39、同)、競輪銀メダリストの長塚智広(31、茨城選挙区)の3氏で、いずれも幹事長時代の小沢氏から全面支援を取り付けて出馬を決断しただけに胸中は複雑だ。ある関係者はこう危機感をあらわにする。
「たとえば岡部氏の大阪選挙区では自民、公明、共産、社民各党に加え、みんなの党やたちあがれ日本も候補擁立を検討しており、無党派層争奪戦の激化は必至です。そんな状況で、カネの問題で幹事長を辞任に追い込まれた小沢さんの強力なバックアップは、いくら知名度があるとはいえイメージ戦略が重要なタレント候補にとってはいまや重荷。ただでさえ今年はタレント候補に対する世間の風当たりも強く、小沢さんとの立候補表明会見は裏目だった」
比例候補も必死だ。参院比例区は「非拘束名簿方式」で、個人得票の順位がそのまま党内の議席獲得順位となる。
だが、小沢氏との幹事長業務引き継ぎをわずか5分で終わらせた「反小沢七奉行」の1人である枝野幸雄幹事長(46)は、「選挙区での協力関係から比例は連合系候補の当選が最優先で、タレント候補はあまり眼中にない」(永田町関係者)とみられているのだ。
それだけに、政治アナリストの伊藤惇夫氏は、「比例のタレント候補の中でも、最も危機感が強いのは『小沢先生の応援は地球を覆うほどの愛』と豪語してしまった谷亮子」と指摘する。
「小沢氏の期待が最も高かった比例候補は間違いなく谷ですが、もともと政治家とトップアスリートの両立など実現不可能で、谷の擁立がタレント候補のイメージを悪化させた部分は大きい。現執行部もそのことは重くとらえており、特別待遇どころか立候補取りやめを打診したり、谷自身が辞退する選択肢が浮上しても不思議でない。他の候補も似たようなもので、小沢氏に乗せられてタレント候補になったことは、本人にとってもプラスにならないでしょう」
ただ、そんな逆風下でも、選挙のプロとして小沢氏が推す新人候補に張り付き指導する「小沢秘書軍団」の派遣は続く。
「参院選は選挙区が広く組織票だけでは戦えないうえ、今回は与党だけに守りの選挙になってしまい、苦しい部分がある。無党派層の取り込みが必要で、その意味でタレント候補の存在は重要と考えている小沢氏は、幹事長辞任後も、各候補の下に有能な秘書を引き続き派遣しています。選挙が迫れば、さらなる浮動票取り込みを狙って『小沢ガールズ』も投入されることでしょう」(伊藤氏)
ただ、当のタレント候補たちは、早くも「菅代表は鳩山前総理と共に民主党を結党し、政権交代を実現すべく党の礎を築いた功労者」(岡部)「僕も新しいイメージに貢献できるように努力していきたい」(池谷)などと、菅執行部をヨイショして小沢離れを見せ始めている。
桂きん枝氏に至っては「菅新首相こそ“切り札”」として、谷の夫でプロ野球巨人の佳知選手を引き合いに、「9回ウラ、代打谷ぐらい。まだこんなバッターがおったんかいという感じ」とまで持ち上げた。
だが、民主党幹部の1人は「正直、小沢さんの息がかかった有名人だけに、出過ぎた支援はできない」とにべもない。
激戦の大阪選挙区に挑む岡部まり事務所は「小沢さんが幹事長を降りられても、何も変化はありません。やるべきことをやるだけというスタンスです」(広報担当)とコメント。一方、比例の谷亮子事務所は「まだ活動をスタートしたばかりで選対責任者も決まっておらず、現時点で特にお話しできることはありません」(事務所スタッフ)としている。
鳴り物入りでヘッドハントされたものの、突然上司の庇護を失ったサラリーマンにも似た悲哀が、各陣営に漂っている。