日本振興銀行(東京都千代田区)を巡る検査妨害事件で、同行が金融庁から違法性を指摘された債権買い取り業務を始めたのは、04年の開業以来の赤字から脱却するためだったことが同行関係者の話で分かった。その結果、09年度の貸出残高は開業時に比べ約35倍に急増した。警視庁捜査2課は、同行が貸出残高の実績を上げるために債権買い取りを急拡大させたことが事件の背景にあるとみて捜査している。【酒井祥宏、川崎桂吾】
同行は04年4月、中小企業向け融資の専門銀行として開業した。初年度の貸出残高は目標の100億円を超えたが、知名度の低さや営業力不足などから新規の顧客開拓は苦戦を強いられた。
同行関係者らによると、経営難の打開策として採用したのが多額のコストをかけずに貸出残高を増やせる貸金業者からの債権買い取りだった。
グレーゾーン金利の撤廃で業績が悪化した業者と貸出残高を増やしたい同行の思惑が一致したことで、貸出残高は04年度の約119億円から09年度には約4219億円に急増。この中には、商工ローン大手「SFCG」が破綻(はたん)した09年2月までに同社から買い取った債権約1250億円も含まれていたという。その結果、08年3月期決算で初めて経常黒字を達成した。
同行は、SFCGなどから手数料を受け取って債権を買い取り、一定期間後に買い戻させる契約を結んでいた。金融庁は今年5月27日、この手数料が事実上の金利に当たると判断。出資法が定める上限金利(29.2%)を上回る45.7%を受け取る違法な融資だったとして、同行に一部業務停止命令を出した。
捜査関係者によると、同行は09年6月~今年3月に金融庁の立ち入り検査を受けた際、SFCGなどの貸金業者との取引内容を記した数百本の電子メールを削除した銀行法違反(検査忌避)の疑いが持たれている。
検査妨害事件に関し、警視庁捜査2課が木村剛前会長(48)や元役員数人を任意で事情聴取していたことが分かった。捜査関係者によると、木村前会長はあいまいな供述をしたという。
捜査2課は12日午前も振興銀行本店を家宅捜索しており、今後押収した資料を分析して木村前会長の関与の有無を捜査するとともに、同行の経営実態解明を目指す。
毎日新聞 2010年6月12日 15時00分