ローマ歌劇場=同劇場提供
ミラノ・スカラ座=スカラ座提供
ミラノ・スカラ座=スカラ座提供
【ローマ=南島信也】財政危機に陥ったギリシャの二の舞いを避けようとイタリアの打ち出した財政緊縮策が「オペラの本場」の足元を揺るがしている。芸術・文化関連予算も3割カット。運営費の半分を国の補助金に頼ってきたローマ歌劇場やミラノ・スカラ座などの名門オペラハウスは危機感を募らせている。
「まだ続くのか」「恥を知れ」。スカラ座であったワーグナーの楽劇公演の最終日だった5月29日夜。開幕前、団員が補助金削減への抗議声明を長々と読み上げたが、聴衆からは不満の声が上がった。
イタリアの2010年歳出は約5400億ユーロ(約60兆円)。緊縮策は、これを今後2年間で240億ユーロ(約2兆6400億円)削り、09年に国内総生産(GDP)比で5.3%だった財政赤字を、12年には3%未満に抑えることを目指す。全体では4.4%の歳出削減だが、削減幅が大きいのがオペラや映画、音楽、バレエなど芸術関連の予算「FUS」。今年の4億1400万ユーロ(約455億円)から、来年は2億9千万ユーロ(約319億円)へと3割の削減だ。
元々5月25日に閣議承認された案では、FUSは5割削減されるはずだった。だが青年時代にナポリの小劇場で俳優として舞台に立った経験があり、芸術に理解が深いナポリターノ大統領が署名を拒否し、3割削減で落ち着いた。
オペラの本場イタリアには全土で47の歌劇場がある。中でも「オペラの殿堂」と称されるミラノ・スカラ座や、ローマ歌劇場など13の大劇場への公的支援は手厚く、運営費のほぼ半分は国庫からの補助金だ。かつては貴族や教会の援助で成り立っていたイタリア・オペラだが、現代になって、貴族の代わりに政府が補助金を出すことで、世界のオペラ界をリードしてきた。