ハグッ、モグモグ……ゴクッ
たまごサンドの最後の一切れを頬張り、よく噛んで飲み込む。
僕が通う「私立聖祥大付属小学校」は給食がない。
各々が持参した弁当などを仲の良い友達などと思い思いの場所で食べるのだが、僕は一人、人気の無い中庭で昼食(ハムサンド&たまごサンド)を摂っていた。
昼食を終えると、途端に手持無沙汰になる。昼休みの時間はまだまだあるが、何もすることが無い。
思えば、生まれてこの方一度も友達ができた試しが無い。
主な原因は二つある。
まず一つは僕が人見知りするからだ。
クラスメイトに話しかけられたとしても委縮してしまい、素っ気ない返事しかできない。「はい」とか「うん」など、たった一言で返すのが精々である。何か聞かれれば答えるが、それ以上会話が広がることはなかった。自分から話しかけるなどもってのほかだ。
そしてもう一つ、これは誰にも明かせない僕の秘密。自分が生まれながらにして前世(?)の記憶を持ち合わせていたということだ。
それがどうしてなのかは解らない。誰もが眠りに落ちる瞬間を覚えていないように、気づいたらそうなっていたとしか言いようがない。
記憶の中の自分は平凡な大学生であり、トラックに撥ねられた覚えも神様(笑)に会った覚えも無い。
転生ktkr!などと浮かれていたのも最初だけ。
赤ん坊の体で一週間も過ごせばすっかり冷めてしまった。
そして、精神的に二十歳を超えているを超えている自分と年齢ひと桁の幼児では話が合うはずも無い。
話が変わるが、僕が住んでいる街「海鳴市」、僕が通っている「聖祥大付属小学校」、僕はこれらの名前をよく知っている。
もちろん、生まれ育った土地だから、という意味ではない。
前世において大好きだったアニメ作品の舞台である。
映画は五回観に行って五回とも泣いた。残念ながらリピート特典のフィルムコレクションはユーノ(人間体)だったがね。
要するに僕がいるこの世界は、熱血魔法バトルアニメ『魔法少女リリカルなのは』の世界ではないだろうか、ということだ。
『とらいあんぐるハート』の可能性もあったが、同じクラスのアリサがローウェル姓ではなくバニングス姓であることから判断した。
ちなみに月村すずかと高町なのはも同じクラスだが、一度たりとも言葉を交わしていない。
決して嫌いなわけではない。むしろアニメで観た限りではあるが好感が持てる人物達である。
では何が問題なのかと言えば、三者三様に近寄りがたいのだ。
アリサはやたらと偉ぶっていて、自分以外の生徒を見下している。さながら女ジ
ャイアンかセカンドチルドレンといったところか。
すずかはいつも分厚い本を読んでばかりいて自分の世界に閉じこもっている。本人にその気はないのかもしれないが、常に壁を作っているようなものだ。
そして将来の魔王、なのは。彼女には極度のシスコン兄貴がいるらしい。
生憎とらいあんぐるハートは名前しか知らないので詳細は不明だが、多くの二次創作物ではそのように描かれていた。
その真偽は定かではないが、命の危険を冒してまでお近づきになりたいとは思わない。
それらの要因がなかったとしても、僕はヘタレでチキンのあがり症なのだ。自分から話しかけるなどもってのほか。相手が女子ともなればなおさらである。
「そんなこんなで、誰とも話さず遊ばず関わらず、ボーっとしている間に独りぼっちになっていたというわけです」
モノローグを口にしてみたが、虚しさが募るばかりであった。
まあ、今に始まったことではない。前世の学校でも今と同じように一人だった。
ただそれだけのこと。寂しくないと言えば嘘になるが、耐えられないわけでもない。
そういえば、前世の自分はどうなったのだろう?
決してニートでも引きこもりでもなかったが、基本PC前が定位置で学校か買い物に行くほかに外出することはほとんど無かった。
無論サークルやアルバイトにも所属していなかった。
一日の大半を占めていたのは二次創作小説の更新チェック、動画鑑賞、素人知識の筋トレなどだ。
あと姿見の前に立って毎日ポーズをとる練習してたね。主にライダーとウルトラ。
向いのアパートの住人に見られた時は恥ずかしかったなあ……
その場から逃げだしたくなって反射的に右腰を叩いたけど、そこにあったのはスラップスイッチじゃなくてマキシマムスロットだったっけ。
しかし、どれだけ記憶を探っても自分が転生した原因はわからない。
あるいは忘れているだけか。
もしも死んだのであれば、下宿していた部屋はどうなったのだろうか?
漫画、ライトノベル、DVDの数々、DX変身ベルトにMTG、この辺りは見られても構わない。問題はPCと押し入れの奥、それに無断で天井をぶち抜いて作った収納スペース……
あ、やめやめ。
こんなこといくら考えたところで無駄なのだから。
もう懐かしいあの頃に戻ることはできないのだから。
今目の前の現実について考える方がよっぽど建設的だ。
さしあたっての問題は…特にないなあ。小学生だし。
強いて言えばやはり
「友達が欲しい、かな」
戯れにバルカン300を作ったのは一生の秘密だ。
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つらつらと益体もないことを考えつつ、歯磨きを済ませて中庭に戻った。
するとそこには、さっきまでは無かった人影が三つ。
一人は意志の強そうな瞳と眩い金髪の少女。赤く染まった頬を手で押さえ、ひどく驚いた様子で固まっている。
その対面には、色素の薄い茶色っぽい髪を頭の両脇で結った特徴的な髪形の少女。
赤い手のひらとそれを振りぬいたと思われる姿勢から、金髪の少女に平手を放ってであろうことが見て取れる。
最後に、緩やかなウェーブの紫がかった黒髪の少女。目に涙を浮かべて二人の傍らでオロオロしている。
間違いない。アリサ、なのは、すずかの三人だ。
その時なのはが口を開き、僕にとっては懐かしい台詞を言い放った。
「痛い?でも大切なものをとられちゃった人の心はもっともっと痛いんだよ」
処女作になります。
かねてより自分もSSを書いてみたい、投稿してみたいとは思っていたのですが、作文の類が苦手で踏み切ることができないでいました。
一応、数人の友人に読んでいただいて、最低限読めるものにはなったかと思い、今回投稿することにしました。
字数が少ないのが気になりますが、気が向いたときにでも眺めていってください。