孤軍奮闘するAさんに思わぬ援軍が現れた。地元の自治会である。地域として防疫に取り組もうと立ちあがったのである。町とも協議し、道路への消石灰の散布を自治会で行うことにした。万が一を考え、畜産農家以外の住民6人が作業にあたった。町から提供された消石灰は20キロ入りが30袋。全体で700メ―トルに及んだ。
消毒作業は5月11日と20日、それに24日の3回にわたったが、辛い結末を迎えた。地域内の全頭殺処分が決まり、Aさんの牛にもワクチンが接種された。地域の仲間が防疫作業に奮闘していた24日午後のことだ。
隣接する自治会も同様の防疫活動に取り組むことになった。こうした地域あげての活動が奏功したのか、2つの地区には合計で1000頭余りの牛と豚が飼育されていたが、感染事例はひとつもない。
Aさんが口蹄疫への危機感を募らせたのには、もう一つ理由があった。畜産関係者からある重大な話を聞かされたからだ。感染発覚直後に事態を憂慮した関係者が「(感染牛が出た)農場の1キロ以内を全頭(殺)処分しないと大変なことになる」と、進言したという。ところが、県側は「大丈夫だ」と軽く一蹴し、全く相手にしなかったというのだ。この話を耳にしたAさんは、10年前の早期終息が県の危機意識を鈍らせていると感じたのである。
2000年に宮崎県と北海道で口蹄疫が発生した。日本では92年ぶりのことで、感染源として輸入飼料(わら)が疑われたが、確定されなかった。この時は、4ヵ所で感染が見つかり、全体で740頭の牛が殺処分された(宮崎県内では35頭)。口蹄疫問題は3ヵ月で終息した。
畜産業の経営形態の変化が
感染拡大の要因のひとつ
これに対し、今回の感染の拡大ぶりはケタ違いとなっている。このため、ウイルスの感染力の違いが、被害規模の相違につながっているとの見方が出ている。つまり、今回のウイルスが10年前のものと比較にならないほど強い感染力をもつという見方である。だが、こうした見方は事実誤認のようだ。
「ウイルスは同じO型で、伝染力や毒性は基本的に同じです」
こう語るのは、宮崎市内で動物病院を経営する舛田利弘獣医師だ。10年前の口蹄疫問題で発見と終息に貢献し、国から表彰されたベテラン獣医師である。