相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記
【第4回】 2010年6月9日
著者・コラム紹介バックナンバー
相川俊英

危機感欠如がもたらした口蹄疫の爆発的拡大
行政は後手に回った防疫活動の虚しさを知れ

previous page
3
nextpage

 孤軍奮闘するAさんに思わぬ援軍が現れた。地元の自治会である。地域として防疫に取り組もうと立ちあがったのである。町とも協議し、道路への消石灰の散布を自治会で行うことにした。万が一を考え、畜産農家以外の住民6人が作業にあたった。町から提供された消石灰は20キロ入りが30袋。全体で700メ―トルに及んだ。

 消毒作業は5月11日と20日、それに24日の3回にわたったが、辛い結末を迎えた。地域内の全頭殺処分が決まり、Aさんの牛にもワクチンが接種された。地域の仲間が防疫作業に奮闘していた24日午後のことだ。

 隣接する自治会も同様の防疫活動に取り組むことになった。こうした地域あげての活動が奏功したのか、2つの地区には合計で1000頭余りの牛と豚が飼育されていたが、感染事例はひとつもない。

 Aさんが口蹄疫への危機感を募らせたのには、もう一つ理由があった。畜産関係者からある重大な話を聞かされたからだ。感染発覚直後に事態を憂慮した関係者が「(感染牛が出た)農場の1キロ以内を全頭(殺)処分しないと大変なことになる」と、進言したという。ところが、県側は「大丈夫だ」と軽く一蹴し、全く相手にしなかったというのだ。この話を耳にしたAさんは、10年前の早期終息が県の危機意識を鈍らせていると感じたのである。

 2000年に宮崎県と北海道で口蹄疫が発生した。日本では92年ぶりのことで、感染源として輸入飼料(わら)が疑われたが、確定されなかった。この時は、4ヵ所で感染が見つかり、全体で740頭の牛が殺処分された(宮崎県内では35頭)。口蹄疫問題は3ヵ月で終息した。

畜産業の経営形態の変化が
感染拡大の要因のひとつ

 これに対し、今回の感染の拡大ぶりはケタ違いとなっている。このため、ウイルスの感染力の違いが、被害規模の相違につながっているとの見方が出ている。つまり、今回のウイルスが10年前のものと比較にならないほど強い感染力をもつという見方である。だが、こうした見方は事実誤認のようだ。

 「ウイルスは同じO型で、伝染力や毒性は基本的に同じです」

 こう語るのは、宮崎市内で動物病院を経営する舛田利弘獣医師だ。10年前の口蹄疫問題で発見と終息に貢献し、国から表彰されたベテラン獣医師である。

previous page
3
nextpage
上枠
下枠
underline
昨日のランキング
直近1時間のランキング
この娘に会える電子書籍。


iPhoneであの話題作を!
体重も出費もWダイエット!
女子の「夏までにやせる!冬までに貯める!」を大応援!OLのダイエット実践ブログも公開中。Wanna!

話題の記事

週刊ダイヤモンド

詳しくはこちら

特大号・特別定価号を含め、1年間(50冊)市価概算34,500円が、定期購読サービスをご利用いただくと25,000円(送料込み)。9,500円、約13冊分お得です。さらに3年購読なら最大49%OFF。

ハーバード・ビジネス・レビュー

詳しくはこちら

1冊2,000円が、通常3年購読で1,333円(送料込み)。割引率約33%、およそ12冊分もお得です。
特集によっては、品切れも発生します。定期購読なら買い逃しがありません。

ZAi

詳しくはこちら

年間12冊を定期購読すると、市販価格8,400円が7,150円(税・送料込み)でお得です。お近くに書店がない場合、または売り切れ等による買い逃しがなく、発売日にお手元へ送料無料でお届けします。
※別冊・臨時増刊号は含みません。

Diamond money!

詳しくはこちら

3月・6月・9月・12月の1日発売(季刊)。1年購読(4冊)すると、市販価格 3,920円→3,200円(税・送料込)で、20%の割引!
※別冊・臨時増刊号は含みません。

Keyword
Information

相川俊英

1956年群馬県生まれ。放送記者を経て、1992年にフリージャーナリストに。地方自治体の取材で全国を歩き回る。97年から「週刊ダイヤモンド」委嘱記者となり、99年からテレビの報道番組「サンデープロジェクト」の特集担当レポーター。主な著書に「長野オリンピック騒動記」など。


相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記

国政の混乱が極まるなか、事態打開の切り札として期待される「地方分権」。だが、肝心の地方自治の最前線は、ボイコット市長や勘違い知事の暴走、貴族化する議員など、お寒いエピソードのオンパレードだ。これでは地方発日本再生も夢のまた夢。ベテラン・ジャーナリストが警鐘を鳴らす!

「相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記」

⇒バックナンバー一覧