舛田獣医師によると、口蹄疫ウイルスは豚の体内に入ると急激に変異、増殖し、牛の100倍から2000倍のウイルスを出すという。このため、豚がウイルスに感染する前に口蹄疫を抑えることが、最重要ポイントだと指摘する。10年前は感染を牛だけでとどめられたことが、早期終息につながったと振り返る。また、口蹄疫はウイルスの変異が多いため、症状のパターンも多く、見極めるのが難しいという。ではなぜ、10年前は豚に拡大しなかったのに、今回は拡大してしまったのか。
ひとつに畜産農業の形態の変化があげられる。前回は家族2人で牛を肥育する宮崎市内の農家から感染が出た。牛の数も少なく、人の出入りもほとんどなかった。それだけウイルスを外に持ち出すリスクも小さかった。
ところが、今回は大量飼育する企業的経営の農場が、口蹄疫感染の舞台となった。従業員や関連業者など、農場に出入りする人や車両の数も多く、それだけウイルスを拡散させる危険性が膨らむ。また、家畜伝染病予防法では、殺処分した牛や豚などを自己責任で埋却処分することになっている。埋める土地の確保などに手間取り、殺処分が滞るケースも多い。特に豚舎だけで営む養豚業者に起りがちだ。ウイルスを増殖させる豚の処分が遅れ、感染が拡大するという悪循環である。
豚への感染第1号は
なんと県の畜産試験場
今回の口蹄疫の感染拡大は、牛から豚にまで広がってしまったことが、要因のひとつといえる。では、豚の感染第1号はどこか。どういうわけかあまり報道されていないが、宮崎県の畜産試験場川南支場(川南町)が豚の感染第1号だった。ここは法律上、家畜の伝染病対策の責任者となる県の施設である。
4月27日に感染の疑いのある豚が畜産試験場で見つかり、486頭の全豚が殺処分、敷地内に埋却された。民間の畜産関係者は「なぜ県の施設から感染が出たのか、不思議でならない。完璧な防疫態勢を敷いているはずなのに」と、一様に首を傾げる。本来ならば、防疫の手本となるべき存在だからだ。これではまるで警察署が泥棒に入られたようなものだ。
口蹄疫の潜伏期間は7日から10日ほどといわれている。口蹄疫の発生が正式に判明したのは4月20日だが、県はそれ以前に様子のおかしい牛の立ち入り検査を行っていた。都農町の農場から口がただれた牛がいるとの連絡を受け、家畜保健衛生所職員が農場内を立ち入れ検査していた。4月9日のことだ。こうした情報が畜産関係者に共有化されていなかったようだ。